アークナイツRTA参考資料「W姉貴のしっとり確率」ついでに「最強の伝説」トロフィーRTAの中途報告 作:W姉貴に負けたい人
「……んぐっ、んぐっ……」
「よく食べるね、君」
「……ここ丸3日、何も飲まず食わずでな……すまん。金もなくて」
「いいよ別に。ここ、安いし」
なんの気まぐれか。
腹を空かして倒れていたブラッドブルードを拾った。テキトーな顔馴染みの店に連れて行き、面倒を見ていたが、飯屋に行った途端にこれだ。
「詫びと言えば……肉体労働か用心棒くらいしかできんが」
「用心棒はいいよ。私強いから」
「だろうな。しかし、何かしなければオレの気がすまない」
「いいって。私は気にしてない。君も変な女に助けられたくらいの感覚でいいさ」
「……」
ジッと、目の前のサルカズはモスティマを見つめてきた。それは観察するような、まるで獣のような──
「……オマエ、感情と心を切り離してるな」
「そうだね。それで?」
「感動した。その極意、是非お教え願いたい」
「嫌だよ。私はね、感じる心までは捨ててないよ」
「そんなものは捨てられる。捨てようと思えば」
これは危険だと。モスティマの心が警鐘を鳴らす。この男はいずれ、怪物に成り果てるとモスティマが見てきたものが語る。いやもう既に怪物になりかかっている。ひたすらに前へ前へと、振り向くことなく疾走している時点で。
そしてこの男の発する独特な感覚──へばりつくような湿度を纏った狂気であり、吐き気を漂わせる程の強烈な憧憬……それ即ち、病的なまでの純粋。
丸3日、飲まず食わず。そもそれがどういうことなのか、という点にある。飲まず食わずは普通あり得ないのだ。このテラの大地で、飲まず食わずという状況は1日くらいはあっても、3日も続くということは基本的に無い。その頃には力尽くで奪い取るからだ。ならばこの男は、それをしなかったということ。なんの為に?
(……傷だらけで、血塗れだった。つまり……)
殲滅したのだろう。敵対する者全てを。文字通り。
そんな存在はこの世に生きているだけで、滅ぶ。終わってしまう。必要以上の殺しをするものは、いつか必ず終末を迎える。それが理だ。
「何故捨てない?」
「不要だとしても、心が無くなったら自分自身すら見失うでしょ?」
「あり得ない。定めてそうあれば、己が何者かは明白だ」
無茶苦茶な話……という理屈として成り立ってない理屈だ。完全に子供が意地を張っているようなもの。決めれば大丈夫、などというものは一種の自己放棄そのものだ。決めて貫いて貫いて貫いて……その果てには何が残る? 何も残らない。確かに量産型を超えた存在になれるかもしれないが、幻想の果てに辿り着いたならば、あとは現実に殺されるだけ。幻想を現実に持ち込んでも、結局は矛盾と脆弱性が露わになる。
目の前の男は、それをわかっていない。モスティマは確かに感じる心こそ止めてはいないものの、感情は不要だとしている。しかし、だからと言って己の中の善悪や揺れ動く心すら調律した究極の観測者となる気も無いし、自分の中の特別や腐れ縁の一つや二つはある。
まあ、つまりだ。
(これ、見捨てたら気分悪いな)
道に迷える子羊がいるならば、少しくらいは手を焼かないと、それはそれで気分が悪い。いやそう感じても知らんと割り切れる。しかしだ、こんな自分に本気で憧れ本気で敬意を持った目の前の存在が、こんな単純な事にも気付かずにいずれ何処かで怪物として野垂れ死ぬしかない……というのは。
端的に言って、不快だった。不要だと判断した感情が、微かに溢れている。
(どうしたものかな)
会ったばかりの他人にここまで気を回すことになるなんて、とも思う。だがこれで見捨ててしまえば、それこそ自分は同族殺しの堕天使以下の畜生だ。
「うーん、そうだなぁ。詫びを入れたいっていうなら、少しの期間私の仕事に付き合ってよ」
「何処へ何をしに行くんだ」
「イェラグで荷物を受け取ってから、カズデルの近くに滞在しているトランスポーターに会いに行くんだ。少し長いけどいいよね」
「ここは龍門だぞ。随分な強行軍だな」
「そういう君はカズデルから此処へ来たみたいだけど」
「仕方ない。獲物に逃げ込まれた。迷惑にならない方法でブチ殺したから問題あるまい」
「そうは言うけどねぇ……ほら、今日の新聞」
「炎国の文字は読めん」
「じゃあ見出しだけ。『中心街路地裏で血の痕跡を発見』だって」
「知らん」
「何のために?」
「敵だからだ。殲滅したまで」
龍門のスラム付近に少し用事があったモスティマは、その帰りにこのサルカズと出会うことになった。感染者も含めて色々な人種のいるスラムだが、このサルカズは絶対にこの場所にはいないと言い切れる程には異質。そして彼の起こした凶行はもはや生命としては異質極まりない。丸3日、飲まず食わずで敵対者を文字通り皆殺しにするなど異常者以外の何と言えばいいのか。
「部外者が部外者を掃除しただけ。詫びも残した。あとは後を濁さずに立ち去れば穏便というもの」
「その為に密入国、挙げ句の果てに見つかりづらい路地裏とは言え、痕跡を残してしまうってのは問題だと思うけどね」
「それでも、何食わぬ顔でスラムに住み着き、我が物顔で龍門に居座り続けるよりかは幾分もマシだろう。あらゆる場所にはあらゆる場所の秩序というものがある。秩序に属するならば正しく理解し正当に属さねば、排他されるが道理。それに、ヤツらは中々面白いところと繋がっててな。此処の統治機関がそれを知れば、プラスマイナスゼロというヤツだ」
──このサルカズは一体何を言っているんだ? モスティマは困惑した。秩序を理解して、それを乱してしまったことへの詫びも置いていく。そして自分はさっさと去り、適当なでっち上げをしやすい状況にする。義賊でもなく、自分の欲求を満たす為に殺人に及んだわけだが、それが原因でややこしいことになったら、それはそれで詫びを入れて、面倒事のタネはスタコラサッサ……
変なところで常識がある。怪物に成りかけているというのにだ。人と獣の狭間を揺れ動くとしか言えない。なんだこれ。
「オレも火種になるつもりはない。行くならさっさと連れてけ。スラムの統治者に迷惑を既にかけてるんだ。帰るという意思表示をして、帰ろうとしてぶっ倒れて助けられただけの今でも、結構危うい」
「よく気付いたね」
モスティマは自分を囲む視線に気付いていたが、当のサルカズも気付いていたようだ。本人も流石に飯を食っているのは大目に見てくれと内心思いながら、そこを理解できないほど愚か者じゃないと告げていく。
「こうした裏路地には裏路地の流儀と秩序がある。それは多くの人間の尽力によって維持されているというものだ。そしてそこへの尊敬を忘れた時、真の無法者になる。オレは確かに愚か者なのだろうさ。しかし、だからと言って無闇矢鱈に秩序を乱すのは主義に反するし、無益な殺生も好まん。今回はオレとしても不本意だったし、望まぬ結果だった。だから出来る限り迷惑にならない方法と詫びを調べるのに1日使い、もう1日使って計画を練り、1日かけて一人残らず殲滅したんだ。持ちつ持たれつの場を乱すならば、相応の礼節を重んじて対価を払う当然だろう」
そんなことを言いながら、同族を数百は殺したのがこの男なのだが。有益ならば殺戮を行うが、無益ならばしない。その在り方、まさしく書に記される獣の如く。
「それわかってるなら、そういうのやめなよ。行き着く先は獣だよ」
「目指すのは最強の二文字。獣などとは違う。オレは無敵の超越者になる」
「バカだねぇ」
「バカで結構」
サルカズ……悪名高いブラッドブルードにしては比較的礼儀正しい作法で食事を終えたその男は
「で、支払いを頼む。本当に申し訳ないが」
「うん。わかった。でも君、ブラッドブルードだろ? 血じゃなくていいのかい?」
「オレの飲む血は、ただ一人だ。ソイツ以外は喉も乾かん」
きっぱりと言い切った男を見て、これまた拗らせてそうだなぁ……と、モスティマは面倒くさい奴を拾ったことに、一抹の面倒を覚えて、すぐに切って捨てた。
それからしばらく共に旅をして、イェラグで荷物を受け取り、カズデルへ戻る道すがら。モスティマと──は休息や補給も兼ねてシエスタに寄った。
そして……──は、滞在中のホテルで息を切らしていた。
「──、大丈夫かい」
「キッツい……気分、悪い……」
本気で気分悪そうにしている──だが、モスティマもこんな彼を見るのは初めてだ。戦場では楽しげに身を投じ、節度を必要とされる場へ行けば節度ある行動を心がけるこの男が、こんなにもボロボロになっているとは。
「……なあ、ここ、さっさと出たいんだが」
「用意してもらう物がまだないからダメだよ」
「水くれ」
「はい」
ぐびぐびと水を飲み干す──を見て、この男も自分がいてはいけない場所にいるのは苦痛らしいとぼんやりとした感想が浮かんだ。
「……すまん、モスティマ」
「やっぱり自分がいるべき場所ではないところは苦手?」
「ああ。正直、落ち着かない。オレとは無縁の世界だ。必要に駆られなければ二度と来たくないな」
「でもそうやって苦しいと感じる心こそが、大切なんだよ。いくら不要と思ってもね、捨てきれないし無視できない。君が最強の信奉者であることを選んだ心を捨てたら、それは過去の無い怪物さ」
「……」
男は悩む。過去という言葉に何か引っかかりでもあるのか、らしくない……それこそ普段とは全く違う、モスティマが長年見続けてきた人々と同じような表情をしていた。
「そんな顔もできるんだね」
隣に座り込み、物は試しと笑いかけてみる。──は、自分の表情に気づいたのかバツが悪そうに何やらモゴモゴと言葉にならない音を発した後、忘れろと普段通りの仏頂面へ戻った……いや、無理矢理に戻した。感情や心に蓋をしたという表現の方が正しい。
そういうのが間違いなのだと、モスティマは何度も指摘してきたが、この期に及んでまだ無理に無理を成し遂げてしまう愚かさに、どうやったら変わってくれるものかと諦観にも似た気持ちを抱く。
「嗚呼、苦痛よ。お前は決して私から離れなかった故。私は遂にお前を尊敬するに至った」
「……オレはようやくオマエの事を理解できた。オマエは存在するだけで美しいということを」
「──驚いた、知ってるんだ」
「昔くすねた詩集に乗っててな。記憶の片隅に置いていた」
──が知名度の低い詩を知っていたことに驚いたが、それ以上に全文を覚えているであろうことに驚いていた。こんな、文学とは程遠い男がそういうことを知っているなどと……とは思ったが、冷静に考えれば色々と教養は殺戮者にしてはかなりあったし、もしかしたら学者や政治屋などが似合っているのかもしれない。
だからだろうか。
「ラテラーノではね、10の悟りというものがあるんだ」
「悟りと来たか」
「まあ、悟りなんて言っても大層なものじゃないよ。こういう心がけとこういうものを持てば、より良い自分になれるっていう指標みたいなものさ」
「どんなものだ」
「まずは『真っ直ぐに立てる意志』を持つことから始まる。外を向く為に『分別することの出来る理性』を備え、『より良い存在になれるという希望』を夢に、『人生を連ねていくという勇気』を抱く。そして視点を内に向けて、『存在意義に対する期待』、『守り抜く勇気』、『快く信じて任せられる相手』が在るかを確かめる。それらを見出した時、『鎖を断ち切り、恐怖に向き合う目』と『過去を受け入れ、未来を創造する目』を自然と手に入れ、最後には『考える私』に出会う……だったかな」
なんてことのない、ごくごく普通の心がけのようなものだ。だがそれができないのも事実。モスティマ自身、これら全てを兼ね揃えて考える私に出会っても、過ちを犯してしまうことは当然あるだろうと思っている。だが一度でもそれらを持ち、一度でも悟りに辿り着くことが大切なのだとラテラーノでは説かれる。
何度でも間違えていい。過ちを悔いていい。だがたった一度でも掴んだ正解は誇るのだという、実に宗教的な話だ。信心を試されるというのはこういうことを言うのかもしれない。
「ふふ、不思議だよね。他人との関わりを通して初めて考える自分が見えるって」
「自分を映す鏡、それが他人だということだろう」
「そうかもね」
「……少し寝る。30分もしたら、起こしてくれ」
着いたばかりだというのに睡眠。結構ガタが来てるのかもしれないと思いながら、鍵を閉めて外に出て行き──古馴染みと出会う。
「今日はなんて呼べばいいのかな?」
「元凄腕傭兵の売れないコック」
「あいっ変わらずヘンテコなコードネーム付けられるよね、君ってば」
「あいつら本当に頭沸いてんじゃないかしら」
例によってまた奇妙なコードネームを与えられた同僚を笑いつつ、さてと真面目な話をする。しかし真面目な話と言ってもすぐに終わり、あとはくだらない雑談になるのが常だが──
「あなた、何を拾ったの?」
「んー、私のなり損ない」
「違うわよ。あれは人のなり損ない」
「知ってるよ」
だったら何故、と視線で問いかける同僚へ、モスティマは凛として答える。
「いやさ、人間って不思議なもので──ああまであなたがカッコいいと思ったって態度や言葉、そして行動で示されたら、案外可愛げを見出しちゃうものなんだよね」
「……え? それだけ? それだけでお気に入りの詩の一節を引用してあげて、あの形だけの悟りの話をしたの?」
「それだけ。まああとは、私になりたいと思っていても、どうやら彼には大切な苦痛があるみたいだ。その苦痛にちゃんと返してあげないと。拾った小動物の飼い主が明確なら、返してあげるのが道理でしょ」
そんな言葉に納得したように監視者は頷きかけて──否とする。
「違うわ。あなたは彼を殺してあげたいんじゃない?」
ラテラーノにおいても、時として殺人とは慈悲とされる場合もある。死ぬしかなくなってしまい、しかし死ぬことができない時、愛を持ってその命に幕を閉じる──監視者はモスティマと共に様々なモノを見てきたが、こうしたモノも見てきた。今のモスティマは、そうした表情をしていると指摘する。
彼女の指摘に、堕天使は唖然として──ああ、と。
「……確かにそうかもしれないね。彼はきっと、自分の運命を求めている。それはラブロマンスにも似た一途な想いなんだろう。でも、そうしてしまうと死ぬことができない。運命の中で生き続けることになる。だから──」
この手で殺して、その全てに幕を引いてあげたいのかもしれないと、ぐちゃぐちゃな思いがほんの少しだけ漏れた。
ある意味で新しくできた友人とも言える、その男への友情の示し方が──そんなものくらいしかない。
「この友情を煮詰めておくさ。そうすれば必ず……君を殺す理由になるのだから」
「──あなた」
「ふふふっ、道は示したよ──。後は君次第。どうなろうとも、私と君は友達だからね。
その日モスティマは。
初めて友を殺すことに、微かな喜びを感じた。
──くん
当時はGではなかった。
カズデルで取り零した標的を追って龍門のスラムへ侵入。2日で計画を立て、1日で標的含めて皆殺しにした。この為に不眠不休で行動した結果、スラムからさっさと出て行くことができずに気絶。モスティマ姉貴に拾われ、しばらく行動を共にする。
本来ならスラムの秩序を乱したとして始末される筈だったが、殺した対象がスラムの癌と繋がっていたこと、その証拠を白日の下へ晒せるようにしていたことなどが理由である程度見逃される。
モスティマ姉貴
どう考えても龍門のスラムにそぐわない──くんを見かけ、なんとなく拾ったらそれが怪物になることを望む存在だったので、入れ込むつもりも無いけど少しくらい手助けしてやろうかと思ったら、自分に感動した──くんとの旅路の中で友達にランクアップしていた。
色々と教える中でその愚かしさと対面し続け、監視者姉貴により友情故に殺してあげたいのではという指摘を受けて、怪物と化したら殺してあげようと友情を煮詰めていた
監視者姉貴
なんかモスティマ姉貴が拾った小僧が異質極まりなかったので忠告も兼ねて色々モスティマ姉貴に言っていたが、もしかして殺してあげたいのでは? という致命的な点を指摘した張本人
走者
実は気絶はガバではない。殺されないラインギリギリを攻めたりなど、RTAらしいことをしていた