「まぁな」
「別に褒めてないです」
8月3日 火曜日 夏休み13日目。
「ねぇ、倫也くん…ほんとにこのサブタイトルでシナリオ作るの?」
「問題あるか?」
「そんな開き直られてもさー」
「しょうがないよねぇ!?シナリオのためだから!」
「なんでもシナリオのせいにすればいいってもんでもないと思うけど」
「何かいいアイデアある?」
「ない」
「だよね、だよね。だったら、いちゃいちゃするしかないじゃん」
「そんな風にさ、まるでお金のないカップルみたいに夏休みを過ごすべきじゃないと思うんだけどな」
「そう?」
「やっぱりさ、部屋の中だけで40日間も過ごすっていうのは無理があるんじゃないかな?」
「今何日目だっけ?」
「13日目」
「まだ、半分も過ぎてないんだな・・・」
「だからさー、少しは外に出て何かした方がいいと思うんだけど」
「中華食べたり、ラーメン食べたりしたよね?」
「それって、リビングで食べても同じだからね?」
「じゃあ、恵はこうやって家の中で過ごすの嫌なの?」
「そんなことはいってないよー」
「で、どうする?」
「わかんない」
「だからさ、視聴覚室でメインヒロインルートに入った主人公達は、それから2人の中を縮めるべく、いちゃいちゃするんだよな?」
「それは倫也くんの勝手な妄想でしょ?」
「だったら恵はどうしたい?」
「そんなのずるい」
「じゃあ、いちゃいちゃするのやめる?」
「どうしてそうなるかなー」
「普通のカップルってどうやってすごしているんだろ?」
「家で?」
「家で」
「それはテレビみたり、ゲームしたり、マンガ読んだりしているんじゃないの?」
「退廃的だな」
「というか、普通にわたしたちは受験生だよ?倫也くん」
「あーあー。聞こえない聞こえない」
「別に現実逃避してもいいけど、シナリオも書けなくて、受験勉強をしていない倫也くんは、けっこうヤバイ状況なんだよ?自覚してる?」
「おまえ、いやに厳しいね?」
「だってぇ・・・」
「だって何?」
「これからいちゃいちゃするんでしょ?」
「するの?」
恵は顔をほのかに赤く染め、こくりと小さくうなずいた。
※※※
午後である。倫也はあいからずメインシナリオを書けずにいた。恵はサブヒロインのスクリプトを組んだり、受験勉強をしたり、ときどきはベッドの上でラノベを読んだりして過ごしていた。
突然、倫也にいちゃいちゃすると言われて戸惑ったものの、シナリオのためなら仕方ないなぁーと少し諦め気味である。このまま夏休みを進むとコスプレしたり(未遂)、少しエッチだったり(すでにあるな)、なんなら部屋の中で水着を着かねない・・・(その後、めちゃくちゃ・・・自粛)
とにかく、あまりエスカレートさせず、自制心をもってサークルメンバーとしての距離を保ちたいと思っている・・・
※※※
2人はテーブルの両端をもち、部屋の横にどかした。
向かいあって正面に座る。
恵は正座から両足を崩してペタンと幼児のように座った。倫也はカチコチになって正座のまま膝に手を乗せている。
「あの・・・倫也くん、別に怒るわけじゃないんだけど・・・」
「ああっ、そうだな・・・」
「足・・・崩したら?」
倫也があぐらに組み直す。そして正面から恵を捉える。
恵は学校の夏服を着ていた。
「あれ・・・恵、どうして制服着ているんだ?」
「午前中に学校の無料夏期講習を受けてきたんだよ」
「そうか・・・」
「という口実で、昨日、倫也くんに服装の経費の事でもめたし、着る服がないからしょうがないよね、それに部屋着もあんなださい白の上下しかないし・・・」
「ごめん・・・」
「せめて、部屋着ぐらい可愛いのにして欲しいんだけど」
恵が少し頬を赤らめながら上目遣いで倫也をチラッとみた。
「そ・・・そうだな」
それは倫也も思っていた。恵からも指摘を受けたからには部屋着を用意しないといけない。
「それはともかく、で、これからどうするの?」
恵は倫也を見つめている。倫也はそんな恵を顔真っ赤にして見ていた。近すぎる。
「そ・・・それは、いちゃいちゃするに決まってんだろ!」
「で、どうするの?」
「だから、いちゃいちゃするに・・・」
「具体的には?」
恵が座ったまま前に進んだ。倫也に膝が接触した。
そして、下から倫也を覗き込むようにみて、
「どう・・・するのかなぁ?」
と、問いかけた。
「近い、近いから!」
「だって、これからいちゃいちゃするんでしょ?」
「するの?」
「するっていったの、倫也くんだよね?」
「・・・そうだな」
倫也は横を向いて目をそらした。
恵の香りがする。見慣れているはずの夏服もなんだかとても新鮮でカワイイ。
いざ、受け入れられても困る。
「ちょっと・・・何か飲物をもってくる」
倫也が立ち上がる。
「・・・うん」
恵はふぅーと息を大きくはいた。緊張する。
倫也は部屋を出て階段を降りる、いざとなるとやはり大変だ。
とりあえずトイレにいく。そこで迷う・・・
いったん・・・「落ち着けるべきだろうか?」
いや、だめだ。テンションが下がる。ここは賢者モードなんかではない、いちゃいちゃをしっかり作りたいと思う。
キッチンでグラスに氷をいれてコーラをそそぐ。そのグラスをもって2階へとあがっていった。
※※※
恵は床に足を延ばして座り、ベッドに背をもたれかけていた。
倫也がコーラを渡すと、軽く会釈して受け取る。仕草がいちいち可愛い。
それから両手でコップをもってコーラを飲む。その美しい口元がグラスにつくのを倫也はじっと眺める。
「もう、そんなに見つめないでよ・・・」
「ごめん」
「そこに、いつまで立っているの?」
「俺、どこに座ればいい?」
「そんなの・・・自分で判断してよ」
倫也がデスクのイスに腰かける。
「あの・・・倫也くん・・・」
「はい」
「バカなの?」
「いえ」
「帰るよ?」
倫也が立ち上がって、恵の横に座った。同じように足を伸ばして座ろうとしたが体が固いのでつらい、そこであぐらをかいて座り直す。背は同じようにベッドにもたれかかった。
「準備できた?」
「おう!」
「返事だけは一人前だね」
「おう・・・」
「グラス。テーブルにおいてくれる?」
倫也が恵のグラスを受け取る、自分のも部屋の壁にずらしたテーブルの上に置く。
改めて恵のそばに座り直した。
「いいよっ・・・」
恵がかすれるような声で囁く。
倫也が左にいる恵の手を握る。
2人とも前を向いている。お互いの顔は恥ずかしくてもう見ていられない。
「ここまでなんだよね」
「・・・そうだな」
2人は手をつないだことがある。指を絡めるのは劇場版までお預けだ。なかなかもどかしい。
「やっぱり、最初から安芸くん呼びの方がよかったかなぁ・・・」
「もどそうか?加藤」
「・・・いやだ」
「なぁ・・・俺、今少しわかったことがあるよ」
「なに?」
「倫理君って呼ばれる理由。これはすごい自制心だと思う」
「この状況で霞ヶ丘先輩のことを思い出させるかなぁ・・・」
恵が倫也の手をギューとつねる。
「・・・もう」
それから手を離した。
「ごめん」
少し静寂が続く。エアコンの音、窓の外の車が走る音、それから夏を演出する騒がしいほどの蝉の声。
「やっぱりね、いちゃいちゃっていってもね、これで精いっぱいだよ」
「なぁ恵、もう一度手をつないでいいか?」
「それは別にいいけど・・・」
倫也がまた恵の手を握る。それから人差し指だけ立てて、恵の人差し指に絡め、指の腹を押し当てた。
「うーん」
恵が上を見る。
「指を絡める練習?」
「・・・どうしていいか、わからん」
「そうだよねぇ・・・」
まったりした空気が流れる。
それから恵は倫也にもたれかかった。
頭を傾けて、倫也の肩にぴたりとくっつけてのせる。
恵の髪があたって、倫也はくすぐったい。でも、じっとしていた。
「でもまぁ・・・幸せかな」
フラットな顔ってどうするんだっけ。
(了)