今年のカレンダーだと木曜になります
8月4日 水曜日 夏休み14日目。
倫也はメインヒロインルートのシナリオを中々書き進められずにいた。恵はベッドの上で仰向けになりながら、足を4の字に組んでマンガ本を読んでいる。着ている服は倫也が用意していた男性用の白いルームウェアである。ズボンなのでスカートの時のような気をつかわなくてもすむ。
「恵。何読んでるの?」
「ペンギン・ハイウェイ」
「ペンギン?」
「知らない?」
「なんか聞いたような・・・」
「アニメ化もされているみたいだよ?」
午後の2時を回った頃である。外は夏らしい強い日差しで蝉の声もうるさい。中は空調がきいていて快適である。倫也は恵がリラックスして過ごしている分には構わない。
倫也は本日分のシナリオプロットができあがった。あとはこれを恵に見せるだけである。
サブタイトルは『いちゃいちゃするに決まってるだろ take2』である。
恵がマンガを読んでいる間、倫也はネットでレディース用の部屋着をみていた。
やっぱりピンクのネグリジェが可愛いくて恵にはぴったりだと思う。
しかし、日中を過ごすのには向いていない。
レディース用のゆるいワイドタイプのスラックスなんかがいいだろうか?
一見スカートに見えるが動きやすそうだ。色は・・・?
本人に聞くのが一番だろう。
倫也はイスを回して後ろをみる。恵が横になりながら、まだマンガを読みふけっている。
とりあえず、できたプロットを印刷する。たった一枚だ。起承転結だけ箇条書きになっているいい加減なもので、あとは恵がなんとかしてくれる。・・・はずだ。
「できたの?」
印刷機の音をきいて、恵がマンガを枕元に置いて起き上がる。
「今日の分のプロットだけな・・・」
「見せて」
なんだかんだ恵は倫也のメインシナリオが一番の楽しみである。
「これなんだけど・・・」
倫也が自信なさげにレポートを渡し、恵がそれをベッドにペタンと座ったまま受け取った。
それから目をとおす、熟読するほどの内容でもないし、文字数もない。
そして、深々とため息をついた。
「安芸くん・・・ちょっと、そこ座ってくれる?」
「・・・はい」
倫也がベッド横に正座して座る。恵はベッドの上で正座に組み直した。
「あのね、安芸くん」
「安芸くんに戻ってる・・・」
「心当たりある?」
「・・・はい」
「そんな二日続けてね、いちゃいちゃするってさー、わたし達は恋人同士じゃないんだよ?ただのサークル仲間として、安芸くんのゲーム作りに協力をしているの。もちろんシナリオの作成にわたしの意見を取り入れてくれるのは嬉しいし、わたしだって楽しみにしているよ・・・でも、これ・・・何?」
「だめかな・・・?」
「だめもなにも・・・これ、前回よりもエスカレートしているよね?」
「・・・そうだな」
「節度をもって過ごさないとさぁ・・・こんな部屋の中にいつもいるから悶々とするんじゃないかなぁ?」
「・・・」
「外に出た方がいいと思うけど」
「恵はいちゃいちゃしたくないの?」
「・・・あのね、わたしはメインヒロインとしてシナリオに協力しているだけであって、別にいちゃいちゃ・・・したくないわけでもないけれども、そういうわけにはいかないでしょ?」
「そうなの?」
「そうなの」
一応、健全な高校生なのだ。何しろ倫理君といわれるほど、鉄壁のモラルをもっている。
「恵、じゃあ、このプロットは破棄するから」
「ちょっとまって」
「どうした?」
「やらないなんていってないでしょ?」
「やるの?」
「・・・今日はやらないよ」
「えっと?」
「せめて・・・週末にしてよ」
「週末ならいいのか・・・?」
「よくないけど、仕方ないよ・・・シナリオのためだもんね?」
恵が顔を赤らめて倫也を見つめる。
「わかった・・・」
倫也が了承する。今日は水曜日だからあと3日だな、と指折り考える。
※※※
2人並んでノートPCをみている。
「こういうのがいいと思うんだけど・・・」
「うん。カワイイと思うよ。メインヒロインのイメージからもずれてないもんね?」
「そうなんだよ。なっ、なっ」
「そんなに喜ぶとこかな?」
「いや、いつもどんなかっこうで寝ているか知らないし・・・」
「知らないの?」倫也の方を見ていった。
「?」
恵がノートPCに目線を戻す。
「じゃあ、これから買いに行こうか」
恵が立ち上がる。
「えっ?ネット通販でいいよな?」
「え?」
恵の目からハイライトが消える。
ここで意見が食い違うとは思っていなかった。
「恵、もしかしてこれから買いにいこうとしてた?」
「うん」
「えっと・・・、それってダメなんじゃ?」
「なんで?」
「だって、この辺だと買い物行くとしたら池袋だよな?」
「うん」
「池袋に2人でいくために、恵の誕生日にやっと誘えるんだろ・・・」
「ああ、そういうこと・・・」
「なので、買い物にはいけないと思う」
「それはさぁ、倫也くんがわたしの誕生日に誘うところに壁があったんじゃないかなぁ・・・」
「ちょうど日曜なんだよな」
そこで、恵が目を大きく見開いて驚いた表情をした。
「大変だよ・・・倫也くん」
「どうした?」
「わたしの誕生日って決まっているよね?」
「たぶん」
「覚えてないの?」
「・・・wiki見てこようか・・・」
「いや、いいよ・・・」
「で、どうした?」
「このカレンダーって2021年のだよね」
「そうだな。リアルの投稿日に合わせた曜日だ」倫也自信ありげに言った。
「で、そのカレンダーだと、わたしの誕生日ってちゃんと日曜日になるの?」
「・・・」
「ほら・・・また、行き当たりばったりにするから、そうやって問題が・・・」
「気がつかないんじゃない?」
「そうかなー」
「それにさ、この物語は夏休み中だけだし・・・」
「そうだね」
恵が目をそらせる。
とりあえず、もうどうにもできないので、このまま進めることにする。
「倫也くん、買い物いく?」
「行くかぁ・・・」
「そんな嫌そうにしないで欲しいのだけど・・・」
「ああ、ごめん。ほら、こういう縛りの中で作る物語はさ、ルール破ると迷走しそうだなって・・・」
「負け犬シリーズみたいに?」
「そそ」
「大丈夫じゃないかな」
「なら、いくか!」
「・・・うん」
倫也が財布をポケットにいれる。
「倫也くん。着替えるからリビングで待っててくれる?」
「うん、恵は今日も制服なんだな」
「経費削減」
「根に持つね・・・てか、家の服もあるでしょう?」
「・・・うん」
倫也が部屋から出ていった。
※※※
恵が夏の制服に着替えて、リビングに降りてきた。カバンも持っている。
「じゃ、いこうか」
2人が玄関へ向かう。
「ねぇ、倫也くん。一度家に帰っていいかな?」
「いいけど、どうした?」
「せっかくのデートなのに、制服のままっていうのは・・・」
「・・・そうだな・・・」
「それとも・・・明日にしようかなぁ」
「その方がゆっくりできると思うけど」
「そうしようかな・・・」
恵が残念そうにリビングに戻る。
「なんだか騙された気がする」
恵がソファーに腰を下ろしてぼやいた。
「なんで?」
「だって、また、外にでられなかった」
「それがいいんだよ」
「そうかなぁー、それにオチがないよ?」
「それがいいんだよ」
「それはどうかと思うよ?」
恵が天井を見て考える。
このままじゃ終われない。芸人・・・じゃないメインヒロインのプライドもある。
「整ったよ。倫也くん!」恵がひらめいた。
「どうぞ」倫也が合いの手をいれる。
「『ペンギン・ハイウェイ』とかけまして、『わたし達のシナリオ作り』と解きます」
「その心は?」
「どちらも話に、高速(拘束)があるでしょう」
恵はちゃんとオチたと思って、満足そうに今日も笑っている。
(了)
オチをつくるために最初に読んでいたマンガを変えるのが恵クオリティー