倫也&恵の夫婦漫才よりも +出海ちゃんでトリオがいいんだな
8月19日 木曜日 夏休み29日目。
お昼を少し過ぎた頃、恵は買い物をついでにしてから倫也の家にやってきた。今日は白いワンピースにピンクのサマーカーディガンのメインヒロイン風衣装で、手には買ってきた特売の卵がはいったエコバッグを持っている。
倫也はリビングのソファーで紙にメモをしながらゲーム制作を進めていた。呼び鈴がなったので、玄関まで恵を迎えいにく。
「おはよ。倫也くん」
「おはよう。恵」
倫也は恵からエコバッグを受け取って、冷蔵庫へしまいにいく。
恵は洗面所で手を洗って、倫也の隣に座った。
「どう、今日のお題は決まった?」
「それが・・・なかなか」
「もう、ネタ切れになってからずいぶんたつもんね」
「そうなんだよ・・・一応プロットだけでも書いてみたけど・・・」
「見ていいかな?」
「もちろん」
恵に手書きのレポート用紙を手にする。
倫也はキッチンでグラスに氷とアイスティーをいれ、少量のガムシロップを加えてかきまぜ、スライスしたレモンを一枚飾った。
「暑い中、お疲れ」
「うん。あっ、ありがと」
恵がすぐにアイスティーを口にする。
「で・・・どうだろうか?」
「さすがに・・・ネタ切れって感じがやばいんじゃないかな?」
「やっぱだめかぁ・・・」
倫也がソファーに寄りかかる。今日は何をして恵といちゃつこうか。毎日何回もキスをしているものの、肉体的、性的な表現は限度がある。いい感じのものは自制心が危うい・・・例えば夜に映画を見たり、夜に部屋でゲームしたり、なんなら夜のシナリオってだけで危険な香りがする。
「・・・で、これ・・・やるの?」
「いや・・・とりあえず恵に相談してからと思って・・・」
「だって『バカップルを演じるバカップル』なんだよね?」
「うん。こう・・・いちゃいちゃしているカップルがしてそうな会話を・・・」
「それがこれなの?」
「うん。だから、あとは恵と相談して・・・」
「まぁ、やってみないとわからないよね」
「やるの?」
「だって・・・ネタ・・・ないんでしょう?」
恵がアイスティーを飲む。倫也もアイスティーを飲んでいる。別にネタがないわけではない・・・健全な高校生のネタがないだけだ。
※※※
「・・・と・・・ともりん」
「なんだい?めぐみん」
「ぷっー」
恵が手の平で倫也を制止してから、俯いて笑っている。
「あははっ、倫也くんこれ・・・」
「ともりんって呼んで。めぐみんたらぁー」
「なんで、おねぇしゃべりなの?」
「あら・・・そうね・・・タイム」
倫也が首をひねって考えている。おねぇの必要性はない。
「もう一回頼むよ。めぐりん」
「わかった。ともりん」
恵がコホンと咳をして、やり直す。
「ともりーん」
「なんだい?めぐみん」
「お昼ごはんなんだけどーぉ」
「もうそんな時間!めぐみんといると時間が過ぎるのが早いなぁー」
「何か食べたいもの、あるぅ?」
「俺が食べたいのは・・・き・み・だ・け」
「もう、ともりんたらぁー。じゃあ、わたしは・・・し・ろ・み・だ・け」
「そういう意味じゃないないよーめぐみん」
「うふふっ」
「きゃははっ」
・・・審議中
「台本だからね?」
恵が努めてフラットなトーンで言った。
「ああ、わかってる」
倫也も必要以上に真顔で答える。
「ど・・・どうしようか・・・倫也くん」
「どうしたんだい?めぐみん」
「ぷっー。やめてよ・・・ともりん」
「あははっ、でも、めぐみんも楽しそうに見えるんですけど!?」
「・・・そうなんだよねぇ・・・」
意外といけるかもっと恵が思いはじめた。いやいや、そんなバカな。
「もう・・・とりあえずお昼ごはん作るから」
「わかった。で、何を作るんだい?」
「何か食べたいものある?」
「俺は、めぐみんと同じものがいいな」
「わたしも、ともりんと同じものって思ってたのにー」
「一緒だね。めぐみん♪」
「そうだね。ともりん♪」
「きゃはは」
「うふふ」
2人が真顔で見つめ合って、同時に首を傾げた。なかなか難しい。
何事も一日で習得はできず、試行錯誤が必要だ。
※※※
テーブルに向かいあって、そうめんを食べている。
「めぐみん。どうする?ボツにする?」
「今どれくらい?ともりん」
「半分を過ぎたぐらいだな」
恵がそうめんを麺つゆに少しつけて、音をできるだけ立てないように食べている。
倫也は麺つゆにどっぷり付けたまま、しゃべっている。
「相変わらずオチは用意していないんだよね?」
「うん」
「だよねー・・・」
「出海ちゃんに頼ろうかと・・・」
「このお題で?」
「意外と2人でもいけそう・・・?」
「どうかなぁ・・・でも、バカップルって確かに人前でやるからバカップルなだけで、2人でやっている分にはただのアツアツのカップルだよね」
「だなっ!」
いや・・・ただのバカだろ。と言うツッコミ役が必要。
なので・・・出海ちゃんを呼びたい。
※※※
昼食が終わって、2人は倫也の部屋に行く。倫也はさっそくコンセプトと先ほどの台本を出海にメールで送り、返信を待つ。すぐに電話がきた。
『あの・・・倫也先輩?』
「出海ちゃん。こんにちはー」
『こんにちはー、じゃないですよ?なんですかこれ?正気ですか?』
「どうかな?」
『丁重におとといきやがれっ!って感じでお断りします』
「そっか・・・じゃあ、ボツだな」
『勝手にしてください。だいたい・・・』
恵が倫也のスマホを取り上げた。
「もしもし、出海ちゃん?」
『あっ、恵先輩』
「あのさー、ごねるみたいなサイドストーリーはいらないから、すぐに来てくれる?」
『だから、お断りすますって!』
「断れないから」
恵がスマホを切った。やるといったらやる。
ゲーム制作のシナリオのために、個人の感情など関係ない。
※※※
3時過ぎ。出海が倫也の部屋にいる。不機嫌な顔をしている。
「あの・・・倫也先輩・・・」
「出海ちゃん。あとでケーキ買いにいこう?」
「食べ物で釣らないでください。ケーキは買いにいきますが」
倫也が出海をなだめる。
恵はクッションの上に正座している。
「で、出海ちゃん、台本読んだ?」
「はい・・・」
「いろんな役どころがあるけれど、これも大事な役だから」
「あの・・・別に2人でいちゃついていればいいじゃないですか?」
「こないだも言ったけど、シナリオのためだから。ねっ?ともりん」
「・・・そうだな。めぐみん」
「同意していないのに、勝手にはじめないでくださいっ!!」
「そう・・・それだよ!出海ちゃん。さすが出海ちゃん」
「うんうん。いい感じだね出海ちゃん」
「そうですかー・・・てへへ・・・って、おだてても無駄ですから!」
「ノリツッコミまで!」
「これは手ごわいよ、ともりん」
「そうだね。めぐみん」
出海はため息をつく。無駄な抵抗はやめよう。
ああ、確か美智留先輩は座禅を組んで悟りを開いていたなぁっと思い出す。
・・・とっとと終わらそう。
「じゃあ、始めてください」
出海がしぶしぶ言った。ケーキを2個は買ってもらおう。
倫也と恵が並んで座る。2人の間にはノートPCが一台。
出海はデスクのイスに座って2人を見下ろしている。
「ねぇねぇともりん・・・」
「ん?どうした、めぐみん?」
(なんか寸劇がはじまったぁ~)
「ここ・・・わかんないだけどぉー」
恵が甘えた声できく。
「どれどれ?・・・よく見えないなぁ・・・」
倫也がノートPC画面に近寄っていく。
「そこじゃないよぉー」
「えっ?どこ?めぐみん」
「ここっ」
恵が自分の胸の間を指で示す。
(なんぞ?)出海はさっぱりわからない。
「わたしの気持ちがわからないの」
なんだかよくわからないけど、とりあえずしおらしい演技をする恵。
「それは・・・自分の心に耳を傾けてきいてごらん?」
倫也もよくわからないがもっともらしいことを言う。
「でも・・・ともりん。自分の耳はくっつけられないわ」
恵の顔が赤い。
「そ・・・それじゃ・・・しょうがないな・・・」
倫也が恵の胸に右耳を近づけていく・・・
(まさか・・・)
そこで、倫也は固まってしまう。胸がもう少しで当たりそうだ。
「はやくぅ・・・ともりん」
「ほんとに・・・いいのか・・・恵」
「シナリオのためだもんね?」
恵が倫也の頭を抱えて、ギューと抱きしめる。
倫也は恵の柔らかい胸の中に顔がうずまってしまう。
「うわぁ!?」
思わず、出海が声をあげる。こないだといい、今回といい、何を見せつけられているのだ。露出狂のカップルなんだろうか?
ドキドキドキドキ・・・
恵は鼓動が高鳴る。もうどうしよもなく恥ずかしい。やっていることも、シナリオの内容も。
倫也はよくわらかんが、幸せだった。もうどーにでもなぁーれ。
「恵っ・・・」
「めぐみんでしょ」
「めぐみんっ・・・何も聴こえない」
恵が倫也を抱えている手をはなした。倫也が元の位置に戻る。
「あっ、いけね。耳栓してたわ」
「もう・・・せめて伏線ぐらい置いてよ」
そして、倫也と恵が出海の方をいっせいに見て、おおきくうなずく。
(どうやら寸劇が終わったらしい・・・いったい、わたしにどうしろというのだ)
「あの恵先輩・・・質問いいですか?」
「なぁに?出海ちゃん」
恵がうながす。
「なんで、こんなシナリオにしようとしたのか・・・恵先輩の動機(動悸)がわかりません」
おあとがよろしいようで・・・
※※※
「・・・倫也くん。ボツにしようか」
「・・・そうだな」
「ボツでもいいですけど、とりあえずホールケーキ買ってもらえます?」
(了)
ボツどころから作者的にはお気に入りになっていたりして