【短編集】 恵といちゃいちゃ過ごす夏休み   作:きりぼー

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なるほどなぁ


抱かれたい恵

 

 

 

8月21日 土曜日 夏休み31日目。快晴。

 

 

 

恵は朝から緊張していた。

 

自分で発案したイベントである。失敗はしたくない。『恵といちゃいちゃして過ごす夏休み』の題名に相応しい一日にするつもりだ。今日のサブタイトルもストレートで気にいっている。

 

下着の姿のまま立ち鏡の前に立ってポーズをとっている。体をひねりチェックをする。でるとこはでて、ひっこむところはひっこんでいる。

何しろ家の中でダラダラしている時間が長い。倫也が気を使って甘いお菓子をなんだかんだと用意しているのでついつい口にしてしまう・・・要するに油断すると太ってしまうのだ。

だから、家にいる間は有酸素運動をして、食事も極めて節制している。倫也の前ではダイエットをしているそぶりは見せない。料理はおいしく食べる。でも、見えないところでは一生懸命努力をしている。メインヒロインに相応しくなれるように・・・

 

白のシンプルな下着が恵のバストとヒップを可愛く清楚なものに印象づける。これが黒いレースだとかなり淫靡な雰囲気になり、濃いメイクをしたくなる。それも隠しきれない自分の一面ではあるが、あくまでも倫也の理想とするメインヒロイン像を大事にしたい。

 

服が悩ましい。こんな日はメインヒロイン衣装が一番楽である。しかし、ついつい着てしまい、今日は何か別なものを着ないといけない。部屋中に今まで着た服を並べる。最初から一週間のローテーションにしておけばよかったと後悔する。今更遅い。

 クローゼットを開け、ロングのワンピースを取り出す。モスグリーンのワンピースは前にボタンが付いていて、白い大きな襟がついている。どこかノスタルジックで恵はあまり気に入っていない。ハウス食品のアニメシリーズに出てきそうな感じがする。鏡の前で合わせてみるがしっくりこない。しかし、これにしようと決めた。たぶん、今日は納得のいく服が選べない。

 シナリオ時にはシャワーを浴びて着替えている。これは仮の姿にほかならず、清楚でおとなしい加藤恵のイメージを失わなければそれでいいのだ。

 

 そして、覚悟を決める。今日・・・倫也と結ばれたらそれはそれで仕方ない。なんならR18シナリオに行くことも選択の1つだと思っている。

 

 

 

※※※

 

 

 

 倫也はデスクの鍵のついた小さな引き出しを開ける。中には3つのものが入っている。サイフ、小さな箱、そして封筒。

鍵のかかった場所に保管しているのには理由がある。サイフはフェイクであり、隠したいのがこの封筒である。これは恵に見つかってはいけない。エロマンガや秘密のDVDや英梨々と写っている幼い頃の写真が見つかってしまってもしょうがないが、隠しておきたいものもある。

 そして今日大事なのは、この小さな箱である。セロファンの包装はすでに破いてあった。倫也はその箱を空けて、一応中身を確認する。大丈夫。ちゃんと入っている。これがないと状況によっては面倒になる。

 

 隣の部屋の箪笥の前に座り、一番下段の恵の引き出しを開ける。中にはピンクのネグリジェと黒の上下と淡いブルーの上下のルームウェアがはいっている。それと2種類の下着。倫也は下着を手にとって広げたい衝動を抑える。自制心を失うと変態へ一直線である。使用して洗濯したものが一組と、未使用の新品が一組ある。おそらく今日はこの未使用の方を身に着けると思う。話がそれた。

 

「どうしたもんだか・・・」

 

倫也はピンクのネグリジェを取り出した。恵が買ったものなのに、英梨々が最初に身につけた。倫也が手にもって広げると、英梨々の・・・あの遠慮がちだが美しい胸の形を思い出してしまう。白い肌に咲く、小さな淡いピンク色の・・・

倫也は首をふる。忘れないと。

 

とにかく、昨日の駅で恵があらかじめ警告をしてきた。洗濯したところでバレる。バレたらすったもんだがある。それを端折りたいので、予め処理をしておかないといけない。高級品ではないがたった一度使っただけである。英梨々に贈ることも考えたがサイズが合わない。その内、胸の隙間に気が付くだろう。

となると・・・美智留か。サイズが今度は小さい可能性があるのだろうか。フリーサイズにみえる。カップ付きのネグリジェの仕組みとか詳しくは倫也にはわからなかった。

 

その時、チャイムがなった。恵が来るには早い時間だった。

 

※※※

 

「やっほー。トモ」

「美智留か・・・」

 

倫也が玄関のとびらを開けて残念そうな顔をした。

 

「トモ、いくらなんでもひどいんじゃないの?これでも一応サブヒロインらしいよ?」

「らしいのかよ。自分で曖昧ならもういいだろ・・・」

「まっ、上がらせてもらうよ」

 

美智留がミュールを脱いであがってきた。

 

手を洗い、キッチンでグラスにダイエットペプシをいれる。

それからソファーに深々と腰をかけた。

 

「で、何の用だ?」

「その言い方・・・用がないと来ちゃいけないわけー?」

「いや、そうじゃないけど・・・たぶん、美智留がいると恵が機嫌悪くなるぞ?」

「そんなの関係ないしー」

「見張りか?」

「そだよー」

 

倫也はため息をつく。確かに見張りが必要かもしれないが、人前でできるイベントとできないイベントがある。出海の前でキスしたり、胸に抱かれたりしたが・・・もっと、直接的な表現になる。

 

「そうだ美智留。ちょっと相談したいことがあるのだけど」

 

倫也がネグリジェのいきさつを話した。もちろん、英梨々の胸が見えたことなどは話さない。

 

「あんたもよーやるわ」

 

美智留があきれている。

倫也は2階からピンクのネグリジェを持ってきて、広げる。

 

美智留はタグを見て、着られるかどうか確認する。たぶん大丈夫だ。

 

「でもさー。これ、あたしには可愛すぎない?」

「イメージとは違うけどな。でも、いつも短パンとTシャツってわけにもいかないだろ?こういうのが必要な時が・・・」

「ないない」

 

美智留が手をふって笑っている。

 

「と・・・とにかくさ、もらってくれないか?ほぼ新品だし、捨てるには忍びない」

「そんなの加藤ちゃんが着ればいいじゃん。わがままだよ。許すなら知らないふりするのが愛なんじゃないの?」

「別に浮気はしてないからね!?」

「トモ、何もエッチをすることだけが浮気じゃないと思うよ?」

「・・・」

「もっというなら、風俗なら許せる人もいるから肉体的な浮気は軽いのかもよ?」

「俺、高校生だからね!?風俗とかいかないから」

「例えばだよ。例えば。トモと澤村ちゃんの関係は前作のこともあって特別なんだからさ。そりゃー加藤ちゃんだって不安だろうし、嫌なのはわかるよ」

「だから、証拠を・・・」

「捨てれば?」

「だよな・・・」

「あたしにも失礼だし」

「だよな・・・」

「あたしに着せて、見たいとかそういうのでもないんでしょ?」

「考えもしなかった・・・」

「ほんと、失礼なやつ」

「・・・はははっ・・・ごめん。美智留だけが頼りなんだ」

「とりあえず、袋にでもしまっておきなよ。Icy-tailのメンバーの肴にでもするから」

「恥がひろがっていく!?」

「自業自得じゃないの?」

「いやいや、そこの詳細は秘密にしておいてよ」

「うーん。まっ、わかったよ。トモ」

「おぅ・・・」

 

溜め息をまた一つ大きくついた。

 

 

 

※※※

 

 

 

12時を少し回った頃、恵がやってきた。

手にはショップの袋をもっていて、中身は今日のパジャマだ。

 

それから3人で昼食を一緒にとった。

 

「美智留さん、泊まっていくの?」

「そのつもりだけど・・・だって、このタイトルであんたらの自制心とか期待できないでしょ?」

「じゃあ、イベント内容変えるから。ね?倫也くん」

 

恵の目からハイライトが消えた。声のトーンも抑揚がなくなる。

ものすごく機嫌が悪くなる前兆なのが倫也にはわかる。

 

「なぁ・・・美智留。高校最後の夏休みなんだ・・・」

「でー?」

「今までだって、ちゃんと節度をもって過ごしてきた。一線を越えていないどころか、性的な接触なんてなかったんだぞ?」

「一線がなんなのかわかんないけどー。キスしてたよね?」

「・・・」

「それで信用っていってもなー」

「わかった。じゃあ、奥の手を出すから」

「ほう?」

 

倫也が自分のケータイを操作し始める。

LINEをうっている。これで、解決するはずだ。何しろ仕様しているカードが切り札の一つだ。

 

しばらくたって、美智留のケータイが鳴った。

美智留が画面を見つめると、目が少し泳いでいる。

 

「どうした?美智留?」

「いや・・・なんでもない。ちょっと席はずすわ」

「ああ。うん?」

 

美智留がケータイをもって、2Fへと上がっていった。

 

「何したの?倫也くん」

「伊織に連絡しただけだよ」

「波島君?それがどうしたの?」

「伊織はicy-tailのマネージャーをやっているだろ、何かと接する機会が多いんだよ。ライブの日程や演出の相談とか、グッズとか、ネット活動とか・・・」

「でも、リーダーってランコさんでしょ?」

「そうなんだけどな・・・実在性に怪しいんだってさ」

「何それ・・・」

「美智留が言うには、icy-tailのメンバーがいることは示唆されているものの、この同人ででてきてないからな」

「変なこといってる」

「うん。だから、icy-tailのメンバーで合っているといっても、つまるところは・・・」

「2人で合っているのと変わらないってわけ?」

「そういう理屈らしい・・・」

「よくわかんないけど、最近、2人は仲がいいわけだね?」

「たぶん。サイドストーリーはやらないって伊織がいっているから詳細はわからん」

「でも、それってサブヒロインとしていいの?」

「ダメだろうな」

「全国の美智留ファンが怒るんじゃ」

「レアだな」

「まっ、いっか」

 

美智留がドタドタと降りてきた。手には先ほど倫也が用意した袋を持っている。中にはピンクのネグリジェが入っている。

 

「トモ、ちょっと急用ができたから帰る!」

「あーわかったよ。じゃーな」

「加藤ちゃんもまたねー」

「はーい。お疲れさま」

 

美智留が玄関へ走っていった。慌ただしい。

 

「あれで、隠しているつもりなのかな・・・」

「ほんとな。気を付けた方がいいぞ。自他ともに」

「・・・うん」

 

恵が下を向く。一応ただのサークルメンバーであって、恋人ではない。正妻ではあるが。

 

 

 

※※※

 

 

 

昼食はざるそば。夏はシンプルなのがおいしい。ミニサラダも作る。鍋にお湯を沸かしている間に、夕食のカボチャを切っておく。

倫也はキッチンに立つ恵を手伝おうとするか、かえって邪魔になるときがある。テーブルにソバ猪口と箸を置き、麺つゆを規定の分量で割っておく。

 

倫也は恵に呼ばれて、茹で上がったソバをザルに流しいれる。少し重いし熱いので倫也が担当している。そのあと流水で麺を軽く洗いながら冷まし、最後に氷水でしめる。

 

2人が向かいあってテーブルに座り。

 

「いただきます」と倫也言う。

「いただきます」と恵も言った。

 

「夏だなぁ・・・」

「ほんと」

 

しみじみとソバをすする。倫也は麺つゆをべったりと付ける。

 

「夜のおかずなんだけど」

「うん?」

「うなぎ買ってきたから」

「おお・・・また奮発したもんだな」

「特売だったし・・・まぁ中国産なんだけど・・・」

「いいんじゃない?うな丼にでもするの?」

「どうしようかなっと思って。ひつまぶしにしようかなっとか」

「任せるよ」

「うん」

 

あとは、インスタントのお吸い物とカボチャの煮物。

 

「出海ちゃんはこないの?」

「さっき伊織に頼んだからこないだろうな」

「じゃあ、邪魔は入らないんだね?」

「うん」

「英梨々とか・・・霞ヶ丘先輩とか」

「邪魔はしてこない」

「ふーん・・・」

「心配?」

「ううん。メインヒロインの邪魔しないことを徹底しているんだなと思って」

「そうだな。ややこしくなっちゃうからな。『転』がいらないんだろ?」

「・・・うん」

 

恵は麺つゆをちょんちょんとつけて、音を立てずにソバを食べている。

 

 

 

※※※

 

 

 

倫也の部屋で2人はゲーム制作をしながら過ごした。倫也は相変わらずメインシナリオルートがなかなか書けない。恵はスクリプトを打ちこんだり、出海の描いた絵を訂正したり、美智留の音楽がどの場面に合うかを考えたりと忙しい。伊織の立ててくれた進行表がわかりやすく、難しいところは詳細まで説明してある。現在のところ非常に順調である。何も作業を手伝わないくせに、伊織がいると仕事が非常にスムーズになる。なんだか恵にはそれが面白くない。

 

「外、暑いかな?」

 

恵が倫也に問いかける。午後3時。そろそろおやつの時間だ。和菓子が食べたい。

 

「窓、開けてみたら?」

 

恵が立って、ベッド上を膝であるいて、窓を開ける。むわぁ~という空気が入ってくる。

 

「・・・うん。暑い」

「どうかしたのか?」

「和菓子が食べたいなぁっと思って」

「和菓子?」

「わらび餅とか」

「コンビニのでもいい?」

「・・・うん」

「俺、買ってくるよ」

「・・・うん。お願い」

「他には?」

「大丈夫」

 

倫也は鍵でデスクの引き出しを開けて財布を取り出す。

 

「そこに何がはいっているの?」

「秘密」

「隠し事はしないって約束しなかったっけ?」

「極めてプライベートなことだからね?仕事とは違うし」

「ふーん」

「恵だって、部屋で秘密の場所があるだろ?」

「わたしはやましい事ないもん。そんな場所ないよ」

「例えば、タンスの中を開けられて下着を一枚一枚チェックされたら嫌だろ?」

「それ、発想が変態じゃん」

「つまり・・・そういうことだ」

「そこに、盗んだパンツが隠してあるわけね」

「ちがうから!」

 

恵が笑っている。倫也はため息をついてから部屋をでて買い物に行った。

 

 

 

※※※

 

 

 

夕食を終え、2人はリビングのソファーに腰を掛けて、紅茶を飲んでいる。

 

「なぁ・・・恵」

「どうしたの?」

「うなぎ喰う描写がないと思ったら、5000文字超えているんですけど」

「それは、いささか冗長だよね」

「だな・・・そろそろ・・・」

「するの・・・?」

「しないわけにはいかないだろ・・・」

「もう・・・しょうがないなぁ」

 

恵が立ち上がって2階に上がっていく。

箪笥の中から、替えの下着を取り出し、今日買ってきたパジャマと一緒に持ってバスルームに向かった。

 

倫也がぼんやりとした時間を過ごしていると、ケータイが鳴った。霞ヶ丘詩羽である。

 

『あら倫理君。こんばんは。電話にでるとは思わなかったわ』

「こんばんは。詩羽先輩・・・。どうしたんです?」

『そんなの自分の胸に聞いてみなさいよ?』

「いや、別にやましい事なんてないですよ?」

『まぁいいわ。この物語はR指定をつけないのよね?』

「ええ、もちろん。原作アニメのように爽やかな高校生ラブコメですから」

『原作に爽やか要素があったかはおいといて・・・それならいいのだけど、気を付けないさいよ』

「はい。任せておいてください」

『R指定つけるなら短編で手探りしてからにしなさいよ』

「つけませんから!」

『そう、ならいいけど・・・あんまり澤村さんのことを泣かせないようにして欲しいのだけど』

「・・・」

『じゃ、警告は以上よ』

 

詩羽との通信が切れた。

 

 

 

※※※

 

 

 

 恵はシャワーを浴び終わり、バスタオルで体と頭をふく。真新しい下着を身に着ける。生地のデザインはシンプルだがフリルが付いている。色はピンク。

フェミニンで愛らしい下着は恵のイメージにピッタリだ。

それから白い薄い生地の服をかぶる。ワンピースタイプのもので、いわゆるネグリジェに分類される。膝上ぐらいの短いスカートで全体的にゆったりとしている。カップ付きでないので、肩紐とブラ紐が見えてしまう。肩紐なしのチューブタイプのブラにすべきだったかと鏡の前で思ったが、もうどうしようもない。

バスタオルを頭に巻き付け、ドライヤーを手にもった。

 

「倫也くーん。出るよー」

「あいよー」

「目。つぶっててくれる?」

「ん?」

「つぶった?」

「うん」

 

恵はバスルームからで階段を上がっていく途中で、

 

「いいよー。上で待ってるから」

 

倫也は恵が上がっていく足をきく、目を開けてバスルームに向かった。

 

洗濯機の中に洗濯物が入っている。恵の下着はネットに入れられた後、自分のワンピースで隠されている。この辺は本当に細かい。

こういう時は、わかりやすく一番上に下着を置いておくべきじゃないかと倫也は考えるが、別にエロ同人ではないので、しょうがない。

 

歯を磨き、シャワーを浴びる。

 

 

 

※※※

 

 

 

倫也が部屋に入ると豆球が1つついているだけで薄暗かった。カーテンは閉められて外からの光はほとんどはいってこない。

蛍光で光っている時計の針を確認すると、午後10時を回っていた。

 

恵は部屋の床に足を伸ばして座って、壁にもたれかかっている。じっと動かないでいるので、倫也はそこにマネキンが置いてあるようだと思った。

 

「恵?」

「あっ、倫也くん」

 

恵が顔を上げて、倫也の方をじっと見ている。

 

「えっと・・・大丈夫?」

「うん?別に平気だよ。ちょっと緊張しただけ」

「このまま暗い方がいい?」

「うん」

 

倫也はどこに座ればいいのかと考えたが、床のクッションに座った。

 

恵が考えたいちゃいちゃするイベントは、演出上で出海と意見を交換している時に発見した。それは・・・

 

 恋人同士の抱き方で相手の心理がわかるというものだ。

 

「さて・・・と」

 

恵が立ち上がった。小さな光源の下で、新しい白いネグリジェが光っている。光沢のある生地なのだろう。

 

「ごめんね。本当は明るくてもいいのだけど・・・この服・・・透けて見えるみたい」

「ちょっと・・・どういうこと?」

「どうもこうもないよ。中の下着の色が浮き出てしまうの」

「あー・・・」

「見る?」

「無理しなくていいよ」

 

倫也は優しく言う。なるほど。それで少し弱々しいのか。明るく元気にというわけにもいかないのはわかる。

 

「じゃあ、最初に・・・もっとポピュラーな恋人同士の抱き方を・・・」

 

恵が倫也の前にまっすぐ立った。顔を見つめ合う。どちらの顔も緊張して紅潮している。

 

「もう・・・どの辺が冴えカノなのか・・・」

「それは言うな・・・」

「腰のあたりに手を回してくれる?」

 

倫也が恵の後ろに手を回して、抱き寄せる。近い。

石鹸なのかシャンプーなのか恵自身の香りなのか、くらくらするぐらいい香りが鼻孔をくすぐる。

 

恵は小さくうなずいて、腕を上げて、倫也の首の後ろで手を組んだ。

洋画なんかである抱き方で、日本の女性だともっと少し謙虚な演出を好む。

 

それから、恵は目を閉じる。そして、時間をゆっくりと数える。

倫也の息づかいが聴こえる。

倫也も目を閉じて、恵にキスをする。唇がやわらかい。

 

今日、最初のキス。

 

恵が腕を放すと倫也も腕をほどいた。

恵は目を閉じたまま固まっている。

 

「恵?」

「ん・・・」

 

恵が目を開ける。倫也をじぃーと見ている。

 

「なんだっけ?倫也くん」

「何が?」

「えっと、この心理・・・」

「ああ・・・なんだろうな。お互いに好きです。みたいな感じじゃないの?」

「そのまんまなんだよね」

「心理テストでもなんでもねぇーよな」

「・・・うん」

 

嫌いな人とはできない。自分だけ好きでもできない。

 

電灯の真下なので、豆球でもそれなりに明るい。倫也は上から恵のブラ紐とネグリジェの間から見える胸の谷間とピンク色のカップを確認する。

 

凝視する。

 

「あの・・・倫也くん。見すぎ」

「しょうがないよねぇ!?」

「そのために暗くしているんだから・・・あんまりHな方向にもっていかないで」

「・・・無茶いうなよぉ・・・」

 

倫也は約束できない。

愛情表現とエロは別なものでなく、どこまで重なっている。

ギリシア神話の頃からエロスは愛の神だ。

 

「次は倫也くんの番ね。どんな抱き方が好き?」

「その聞き方も・・・困るな・・・」

「・・・」

「・・・」

 

2人で目線を横にそらして赤くなる。

 

「なかなか・・・ハードル高いね」

「直球すぎじゃないか?」

「もう・・・後にはひけないから」

「そうなの?」

「そう・・・なの」

 

恵がベッドに上がって、膝で中央まで歩く。そこでペタンと足を崩して座った。女の子座り。

倫也もベッドに上がって、恵の後ろから抱きしめる。

まだ、髪が少し濡れているように見えた。

 

「この抱き方・・・好きだよね・・・」

「いつも、後ろ姿を見ているからかな?」

「いつ?」

「デスクに座っている時さ、恵は下でノートPCいじっているだろ?」

「うん」

「その時に思うんだよ・・・」

「その時に、そんなこと思っているの!?」

「いつもじゃないからね!?」

「どーだか・・・」

 

恵は倫也にもたれかかってじっとしている。

うん、悪くない。そう思っている。愛されている感じがする。それになんだか少しほっとする。

 

「この心理は?」

 

倫也が恵の耳元で囁く。

 

「近いよ・・・もうぅ・・・」

 

恵が倫也のいる方に振り返る。そして倫也にキスをする。

 

今日、二回目のキス。

それから、すぐに顔を離して、もう一度キス。

 

「えっとね・・・」

「ちょっと待って・・・恵」

「ん?どうしたの?」

「・・・今、お前からキスしたよねぇ!?」

「そんなこと・・・」

 

そうかもしれない。目を閉じて待ってなかった。

 

「ダメなの?」

「いや・・・嬉しくて」

「ならいいよね?」

「そうだな・・・」

 

倫也のほうが緊張している。

優しく抱えている腕を上の方へあげて、恵の胸に・・・

 

「いててててっ」

 

恵がつねる。

 

「だから、そういう方向はダメなんだってば」

「・・・ご無体な」

「・・・R指定ついてないしぃ・・・」

 

恵だって我慢している。

 

「で、この心理は?」

「独占欲」

「・・・うわぁ・・・俺・・・そう・・・」

「倫也くん、独占欲強いよね。従姉妹とでかけるのダメっていってたし」

「メインヒロインがそうあるべきって話でしょ!?」

「じゃあ、行っていいの?」

「だめ」

「・・・認めたら?」

「何を・・・」

「知―らないっ」

 

恵が少し笑っている。『お前は俺のだ』なんて言われたら、ときめくよりも笑ってしまう。人にはあったキャラや言い回しがある。

 

「なぁ・・・恵」

「なに?倫也くん」

 

2人はもう離れて座っている。

 

「お前は・・・誰のものにもならないで欲しい・・・」

「ん~。それって、nobody can be get my love みたいなこと?」

「なんで英語?」

「いや、言い回しが・・・英語っぽいなって」

「そう?」

「もう少しストレートな方がいいと思うけど」

「例えば?」

 

恵は上を向いて考える。あーなるほど。

 

 

 

「ともやくんは・・・わたしの・・・だよっ・・・」

絞り出すような声でつぶやく。

 

 

 

「あっー、もう恵!可愛いな!」

 

倫也が悶えてベッド上でゴロゴロしている。ついに緊張が切れたようだ。

恵は恥ずかしいなぁっと思いながらそれを見ていた。

 

 

 

※※※

 

 

 

「気をとりなおして・・・最後ね」

「ああ、うん・・・」

 

恵がベッドに腰かけている。足を前でぴったりと閉じ、手を膝の上に置いている。

 

倫也は近くで立っている。

 

「はい」

 

恵が手を広げ、倫也を受け入れようとする。」

 

「えっと、恵・・・?」

「何?」

「これ、どうやって抱っこするの?」

「どうして?」

「近寄れない、恵の足があるから、横からだっけ?」

「正面からだよ?」

「だって、足が・・・」

「ああ・・・なるほど・・・だからか・・・」

「だから?」

 

恵が足を開いていて行く。スカートの裾が太ももでめくれてしまう。開きすぎはできない。倫也は恵の足をじっとみていた。露わになっていく太ももと、その付け根に見えそうになって・・・恵の下着が・・・

 

「これで・・・いいかな・・・」

 

恵の声がちょっと震えている。

 

倫也は無言で一歩近づき、そして恵をそっと抱きしめる。

 

「上はさっきの恋人抱っこと同じなんだよね」

「だな」

 

倫也はバランスを取るのが大変だった。ベッドが少し低い。イスかテーブルの上ぐらいならちょうどいいかもしれない。不自然に前かがみになっているので、倒れてしまいそうだった。

 

恵が倫也の首の後ろに腕を回して抱きよせる。倫也はさらにバランスをとるのが難しい。ロマンチックな気分というよりは何か組み体操をしているようだった。

 

そんなことを気が付きもしない恵が、そっと目を閉じた。

 

倫也は腕をほどいて、手をベッドに置いて自分の体重を支えた。

そして、恵にキスをする。

 

今日、何度目かのキス。

 

恵が倫也を抱きしめまま後ろに倒れる。倫也も支えきれずに、恵に覆いかぶさるようになった。恵の胸が倫也に当たった。

 

「大丈夫か?恵」

「うん。平気」

 

倫也は腕を伸ばして、接触しないようとしたら、恵は強く抱き寄せて離さない。

目を閉じている。

 

「ちょっとまって・・・恵。体勢が厳しい・・・」

 

恵は目を開けて、倫也を解放する。

 

「もう・・・いいとこだったのに」

 

倫也が立ち上がって少し離れると、恵はベッドに寝そべったまま、だらしなく開いてしまった足を閉じた。

 

倫也は恵の隣に左に座ってから、同じように仰向けになった。

 

「ふぅ・・・」

 

倫也が溜め息をつく。

 

「思ったようにできないもんだね」

 

恵が反省している。もう少しロマンチックになるかと思っていた。

 

「で、この抱き方の心理は?」

 

恵は天井の豆電球のぼんやりとした明かりを見つめている。

 

 

 

「欲求不満」

 

 

 

それから恥ずかしそうにして、倫也の反対側の方を向いた。

 

「な・・・なるほど・・・だからか・・・」

 

そう・・・だから足を開くのだ。足を開かないとこの抱き方はできない。

 

「め・・・恵ぃ」

「どうしたの?」

「もう終わりでいいか?」

「うん・・・今のがオチだから」

 

倫也が体を横にして恵の方を向く。右手でそっと恵の髪をなでた。

それから覆いかぶさるように恵の顔に近づけて、その横を向いた頬にキスをした。

 

「お・・・俺、もう・・・」

「我慢できない?」

「・・・うん」

「・・・わたしも!」

 

恵が倫也の方に体をひねって、キスをした。

 

「でも、その前に・・・」

「シナリオを終わらせないとな」

「R指定ないし、し・・・仕方ないよね」

 

 

 

(了)

 

 

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