健全な高校生が何やら意味不明な会話をするかもしれないが、必要以上に詮索をいれないように。
8月22日 日曜日 夏休み32日目。
もうすぐお昼になろうかという時刻まで、倫也も恵も寝ていた。
なぜ、そんな遅くまで寝ていたかというと、夜更かしをしていたからだ。
ではなぜ夜更かしをしたのか?
ひさびさのオセロで盛り上がっていたからだ。
その回数、実に4回戦。
倫也は全勢力をもって(全精力じゃないから)、3回戦を戦いぬいたが、恵がどうにも引き際を間違えて、しばらくの休息のあと4回戦目に突入し、かくして倫也も恵も燃え尽きて、そのまま眠った。
「ねぇ・・・倫也くん・・・おはよぉ」
「おはよう。恵」
恵がベッドの上であくびをしながら、起き上がった。
倫也は慌てて飛び上がって床に布団をしき、そこに寝転んだ。
あくまでも寝ている場所は別々。なにしろ健全な高校生だから。
「大変だね。R指定つけたほうが早いんじゃないの?」
「その話はよそう・・・ところで恵。もう昼前だぞ」
「うん。この散乱した部屋を少し片づけてから行くから、倫也くんは先に洗面所いって支度して」
「わかった」
倫也が起き上がって、布団をたたんでしまい、部屋を出ていった。
恵は起き上がると、ベッドの下に散乱した下着を足でつまんで広い、ブランケットの中で身につけた。それから、白のネグリジェをかぶりながら着た。
カーテンを開けると、外はとても明るい。蝉はまだ鳴いているが、ずいぶんと数は少なくなった。
恵は立ち上がってベッドのシーツをはがして丸める。ブランケットもついでに洗濯してしまおうと思い、たたんでから2つを重ねて部屋の隅に置いた。
ビニール袋を出して、ゴミ箱のゴミを捨てる。
その中にはティッシュでくるまれた、使用済みの水風船が4枚あった。これをはやく処分してしまいたいのだ。
恵は腰のあたりを抑えて体をひねる。下腹部にまだ少しジンジンとした違和感が残っている。
「張り切りすぎたかな・・・」
・・・つい、ひさびさのオセロに盛り上がってしまった。
ふと、倫也のデスクを見ると・・・いつも鍵のかかっている引き出しが少し開いている。それからデスクの上にはその中に入っていた小さな箱が空き箱になって、置いてあった。
「もう・・・」
恵はその空き箱を手に取る。後ろの表示を読む。
スタンダード、0.02㎜、5個入り・・・のキャラメルである。
0.02㎜はキャラメルを包装している紙の厚みである。
「・・・んっ・・・?」
昨晩の記憶をたどる。何か勘違いしているかもしれない。
オセロは4回戦かと思ったが、5回戦だったか・・・いや、そんなはずはない。
つかった・・・じゃない、倫也が食べたキャラメルの数も4つのはずだ。
早とちりはいけない。ゴミを捨てたビニール袋を開ける。さすがに使用済み水風船の数を数える気はしない。キャラメルを個別に封をしている小さなビニール袋の数を数えれば十分。・・・4枚だ。
恵の目からハイライトが消える。
残りの1つのキャラメルはどこへ行った?
恵が洗濯物とゴミ袋を持って下へと降りていく。
※※※
倫也はコーヒーを豆から淹れて、トマトとレタスとキュウリをまな板の上に出した。あとは恵が切ってサラダでも作ってくれるだろう。そしてパンを焼けば十分だ。冷蔵庫にハムもある。
恵が降りてきて、洗濯物を洗濯機に放り込んだ。それから洗剤をいれて回す。ゴミ袋はキッチンにある大きなゴミ箱に捨てた。
「恵っ!」
「・・・何?」
目にハイライトがない、あきらかに機嫌が悪い。倫也には心当たりがまったくない。上機嫌でいてくれとは言わないが、せめて気だるそうにしていてほしい・・・。
「その・・・かっこう・・・」
恵の着ている白いネグリジェは、光沢のある生地だが少し薄く、恵の愛らしいフリルの付いたピンク色の下着が透けて見える。
恵が目線を自分の体に落とす。すっかり忘れていた。昨日着ていた服は昨晩から乾している。もう乾いただろうか?それともブルーか黒のルームウェアに着替える?もういまさらだろう。このままでいい。今はそれどころではない。
はっきりしないと前に進めない。
倫也はどきどきしていた。明るい光の下で見る恵は髪が乱れているとはいえ、可愛い。なによりもその姿はいつも恵らしくなく、はっきりいってエロい。いや、どエロイ。
つい、ふらふら~と恵に吸い寄せられるように倫也が近づくと、恵は、
ガッ
と、倫也の顔をアイアンクローで止める。
「ちょ・・・恵?」
「朝から、元気だね、倫也くん・・・」
「朝だから元気なんだよ・・・恵」
「・・・」
「・・・あの・・・何か怒っている?」
「・・・勘違いかもしれないけど・・・はっきりしないことには、許すわけにはいかないかもしれない」
「・・・」
恵が手を放す。
「とりあえず・・・飯食おうぜ?」
「・・・うん」
※※※
倫也も恵も2杯目のコーヒーをソファー前の低いテーブルに置き、はす向かいに座った。
恵のネグリジェは袖がないチューブタイプのものなので、横からみると恵のピンクの下着がはっきりと見えるし、脇から胸のふくらみへのラインなどは、カップに収まりきらない横乳で少し膨らんでいて、非常にエロい。
あれ、誘っているのか?倫也が思案する。いや、まさかな。今は真昼間だし、これだけ明るいのにそれはないだろう。何よりも昨晩は・・・というよりは今朝・・・未明?にかけてオセロを4回戦もしている。
「で、恵は何を怒っているんだ?」
倫也がストレートに聞いた。はやく解決してしまいたい。
「キャラメルのことなんだけど」
「キャラメル?」
「うん。デスクの上にキャラメルの箱が置きっぱなしだったんだよね」
「ああ・・・悪い、捨てて置けばよかったな・・・?」
それがそんなに怒ることか?倫也は首をかしげる。
「あのキャラメルの箱に、5個入りって書いてあったんだけど」
「それで?」
「き・・・きのうは・・・4個食べたよね・・・?」
恵が頬を赤らめて、上目遣いで聞いてきた。可愛い。なのにエロい。どうしよう。
「そうだな・・・オセロは4回戦したよな?」
「・・・だよね」
「それがどうかしたか?」
「1個足らないんだけど」
恵がフラットなトーンで言った。顔は緊張しているのか照れているのか、赤い。
「なんだ、そういうことか・・・それがどうかしたのか?」
「だって、あのキャラメルはマンションの方ではみかけなかったし、この物語が始まってから用意したものだよね?」
「うん。まぁそうだな」
「残りの1個はどこにあるの?」
「ふむ」
倫也が納得いった。キャラメルが1個足らなくて、あらぬ疑いを受けているらしい。だが、どんな誤解を受けているのかわからない。
「で、恵はその1個はどうしたと思っているんだ?」
恵が考え込む。ちょっと勇気がいる。場合によってはこんな暢気な物語を綴っている場合ではない。英梨々と・・・全面戦争だ。
「英梨々。泊まったよね?」
「泊まったな」
「倫也くん、その時、キャラメル食べたんじゃないの?」
なるほど。恵らしい嫉妬深さだ。ここで目をキラキラさせて、ついに嫉妬深い女も習得したか!などと喜んだら、面倒くさい女の時のように怒って、混沌とする。ここは黙ってうなずく。
「安心しろ」
「そういわれても・・・」
「英梨々の時はキャラメルを食べないからな!」
「・・・ト・・・モ・・・ヤ・・・クン?」
※※※
小休止
※※※
小休止
※※※
連載中止危機
※※※
土下座
※※※
小休止
※※※
夕方。
「あのさー、言っていい冗談と悪い冗談があると思うんだよ。倫也くんみたいな人にはわからないかもしれないけど」
倫也がフローリングの上で土下座している。恵はソファーの上で正座している。
「あの・・・恵、もう足の感覚がないんだけど」
「で?」
「・・・いえ」
キャラメルを食べる必要性が生じないからキャラメルを食べないといっただけなのに、さらなる誤解を招いたようだ。怖い。発言には気を付けよう。
「ねぇ倫也くん。白状したら楽に逝かせてあげるから」
「許すつもりねぇな!?」
「キャラメル。どうしたの?」
「あのな・・・恵。疑う以上は根拠を示さないと。それにもし俺がちゃんと立証できたらどうするんだ?」
「その時は・・・好きにしていいよ・・・」
恵がそっぽを向きながら顔を紅潮させた。もうさっきから倫也の目線が気になっている。自分が不埒な恰好をしている自覚があった。
「よし。では・・・弁明させてもらうがな・・・その前に足・・・崩していい?」
「もう・・・しょうがないなぁ」
倫也が足を崩して、感覚のなくなった足をさする。
恵も足をソファーの前におろした。倫也の目線が低いため、足の間から恵の下着がみえそうで、絶対に見えない。不思議だ。
「あのさ・・・真面目にやってくれる?」
「内容的に真面目じゃないよね!?」
「そういうこという?」
「キャラメルとオセロの話だよねぇ!?」
「そうだけど・・・」
そう、キャラメルとオセロの話だ。いいね?
「いいか恵。花火大会用に俺はキャラメルを買った」
「あの熊谷の?」
「そうだ」
「どうして?」
「どうして?だと、いいか恵、花火大会はロマンだ。男にとっては男になるかならないかの大事なイベントだ。わかるか?」
「男が男になるの?」
「そうだよ。オセロするかもしれないだろ?その時にキャラメルを持っていると持っていないのでは全然ちがうんだよ。わかるか?」
「・・・あー、なんとなく・・・準備しておくってことね?」
「・・・そういうことだ」
「それで?」
「俺は、あの日、財布の中に1つだけキャラメルをいれて、イベントに挑んだんだよ。それが男の嗜みだからな」
「あははははははっ」
恵は緊張が切れたのか、腹を抱えて笑い始めた。
「もう、やめてよ・・・倫也くん。キャラメルもってたんだ?」
「そんなに笑うなよ!全国の少年はな・・・花火大会に夢見て、財布にこっそりキャラメルを1個いれて、大人になったような気分になるんだよ」
「へぇ・・・」
恵がまだ笑っている。
「じゃあ、そういうわけで解決したことだし、ここでシナリオ終わるか」
「まって。倫也くん、なんでそんなにあせって終わらそうとする・・・かな?かな?」
「2回言うのはやめて!怖いから」
「じゃあ、財布の中にあるんだよね?」
「・・・ある・・・たぶん(ぼそっ)」
倫也が目を泳がせる。
「じゃ、確認にいこうか」
「・・・おう」
恵が立ち上がる。倫也は立ち上がろうとしたが足がまだビリビリと痺れていた。
※※※
倫也の部屋の扉の前に、倫也と恵が立っている。
「はじめるよ?」
「なぁ・・・恵・・・」
「何?」
「あまり追求なんてしない方が・・・」
恵がハイライトの消えた目で倫也をじぃーと見ている。
「潔白なんだよね?」
「当然だろ?」
「なら、問題ないよね?」
「・・・たぶん」
「たぶん?」
ふたりが部屋に入り、デスクの前に並ぶ。
恵が引き出しをそっと開ける。中には封筒と財布が入っている。
「・・・この封筒はなに?」
「これは今回関係ないから、気にするな」
「・・・うん」
倫也が財布を取り出した。それから、中身を確認する。
小銭入れのところに確かに入っていた。
「ほら、見てみろ恵・・・」
恵が財布を受け取り、倫也が広げた小銭入れのところを見ると、べったりと溶けたキャラメルが広がっていた。
「溶けてるね・・・」
「夏だしな・・・」
「問題あったね・・・」
「新しいサイフ買っていい?」
「おこづかいでどうぞ」
「・・・これで、俺の潔白は証明されたな?」
「うん・・・本当にキャラメルがはいっているんだね」
「だって、そういう話だろ?」
「・・・そうだけど。で、これがオチなの?」
「はぁー?恵、なにいってんだよ」
「なに?」
倫也が後ろから恵に抱き着く。
「きゃっ、何?倫也くん・・・落ち着いて」
「恵、約束忘れたか?」
「約束?」
「好きにしていいっていったよな?」
「あーあれね・・・そんなこともいったような」
「言ったから!」
「で、どうするの?」
恵が抱きしめている倫也の腕をぎゅっとつかんだ。
「どうするもこうするも、決まってんだろ?」
「知らないよ・・・」
「オセロだよ。オ、セ、ロ」
「・・・もう、またオセロするの・・・」
「ああ、今度はキャラメルなしでな!」
「・・・」
「・・・」
「カーテンぐらい閉めてよね・・・」
「いいのか?」
「いいも悪いも・・・するんでしょ?・・・オセロ」
「ああ・・・うん」
OKされるとは思わなかった。キャラメルはもうないのだ。
「ちゃんと、責任とってよね」
この後、2人でオセロをした。キャラメルなしで。
(了)
生キャラメルって語感だけでドキドキしたいた頃に戻りたい。