8月23日 月曜日 夏休み33日目。
「さてっと・・・倫也くん。今日を作り直そうか」
「・・・リテイク?」
「当然だよ」
完成したはずの夏休みの原稿は、恵によってチェックされ、ものによってボツになる。
「あのね。倫也くん。いくらなんでもあれだけ人をオセロで弄んだ翌日にさぁー。わたしに英梨々ルートの伏線を張らせるかな?」
「そんな話だったっけ・・・」
「うん」
そう、走り抜けたはずの夏休みは恵によってチェックされ、ところどころに配置された英梨々ルートの伏線が消されている。
「という建前で、そんな器用なことができない作者をリカバーしてあげているんだけど」
「ばらさないであげてっ!?」
・・・
「で、今日はどうする?恵」
こんな風にボツを食らったら、予定なんてあるわけがない。
「ノープランだよ・・・」
恵も困っている。テンションだってあがらない。
※※※
今日の恵は露出が多い。ピンクのミニスカートをはいていて、恵が歩くたびにゆらゆらと揺れ、中の下着が見えそうである。適度に発育した太ももの白さが妙に艶めかしい。
上はフリルのついた白いシャツで、印象としてはピンクと白でメインヒロインということになるが、いつものように落ち着いた雰囲気はなくて、どこか小悪魔的である。
白いニーソなら完璧だが、素足だった。
「ねぇ・・・倫也くん・・・作り直したら、どうしてこんなに過激になっていくの?」
「しょうがないよね。そうじゃないとボツの後に立ち直ることなんてできないんだから」
「そういうもんかなぁ・・・」
「そういうもんでしょ」
恵はリビングのソファーに座ってアイスカフェオレをストローで一口飲んだ。それから足を組み替えた。はす向かいの倫也はどうしたって恵の足に目がいってしまう。
「そんなに見たいの・・・?」
「何が?」
「ふーん・・・」
認めるわけにはいかない。できるだけ目線を上げる。
「そうだ。恵。アニメヒロインは2種類に分けられるんだけど、知ってるか?」
「2種類?」
「そう。パンチラアニメと、パンチラを絶対みせないアニメだ」
「・・・」
「ちなみに冴えカノはパンチラが見えないアニメだ・・・たぶん」
「たぶん?」
「とにかく、恵はNGだったはずだ」
「へぇー。でも、画集だと見せているよね」
「それはお金を落としてくれた人に対するサービスだな」
「ふーん。そう?」
恵の声が冷めている。なんかこの話題・・・前もした気がする・・・
オタクアニメの話でも、やっぱり性的な話は軽くひく。
「たとえば、おっぱいアニメがあるとするだろ。必ず乳首には湯煙や謎の光がはいって見えなくなっている」
「あっそ・・・」
「さては恵・・・興味ねぇな?」
「当たり前だよ!」
恵がため息を1つついて、足を真っ直ぐに戻した。
閉じた太ももから、あと10cm程度スカートがめくれてくれれば・・・
「そういうアニメだと、円盤購入特典で解禁されてみることができる」
「円盤?」
「DVDやブルーレイのことだな。けっこう高価なものだからな、購入者にはそれなりのメリットがあるわけだ」
「ほんと・・・男の子ってバカだよねぇ・・・」
恵があきれている。
「そういうわけで、パンチラヒロインなのかどうかは、1つの分岐点なんだ」
「ふーん。例えば誰がいるの?」
「ワカメちゃん」
「・・・それ、オチ?」
恵はカフェオレを飲み終わったのでキッチンまで片付けにいった。
倫也は恵の後ろ姿を見つめる。段差があれば見えるだろう。
しかし、いつも恵は絶対に見せない。
「じゃ、休憩も終わったし、また上で作業に戻るね」
「ああ、うん」
倫也もカフェオレを飲み干してキッチンで軽く洗う。
それから急いで恵を追いかけた。
階段を上っている恵なら、さすがに・・・今日は見えるに違いない。
恵が一歩一歩ゆっくりと階段をあげっていく。
手を後ろにしてスカートを抑えている。
倫也が後ろから来ることを知っている。期待している・・・のほうが正しいかもしれない。
倫也が見上げると・・・やっぱり見えない。あと少しで見えそうだけど、見えない。
どうも、そういう属性のヒロインのようだ。しょうがない。
※※※
部屋で2人は作業をしていた。倫也は相変わらずメインヒロインルートを書けずいた。恵はノートPCで作業をコツコツと進める。
倫也はデスクから恵を見下ろす、恵はテーブルで作業をしていてクッションの上に座っていた。正座したり、足を崩したり、ときどき行儀悪く胡坐をかいたりしている。
倫也は試しに、本日のプロットで、
『テーブルに向かい合って座り、落とした消しゴムを拾おうとして、テーブルの下をのぞき込むと、うっかりパンチラをみてしまう』
という、イメージビデオかAVのようなシチュエーションを提案してみた。
恵はその紙を受け取ると、目のハイライトが消え、無言で破り捨てた。
倫也は諦めて、デスクに座ってぼんやりとプロットを考える。
とりあえず、題名は『恵がパンチラしない理由』にしておいた。
まったくもって欲求不満だろうか?
倫也が後ろの棚に飾ってある女の子のフィギュアを1つ手にとった。
それを眺める。
せっかくなので下から眺める。
立体である醍醐味はこのためだと言っても過言でないはずだ。パンチラ禁止アニメのヒロインもちゃんとパンツをはいている。これでパンツの色が塗られていなかったら手抜きがひどいとクレームものだろう。
恵はジト目で倫也のその変態的な行動を観察していた。
ツッコミをいれるべきか迷うがほうって置くことにする。
とはいえ、このサブタイトルで話を作るなら、恵なりの理由を考えないといけない・・・
理由なんて恥ずかしいからに決まっている。・・・喜んで見せる人もいるのだろうか?
「ねぇ倫也くん。こんな下ネタでもR指定をつけなくて平気なの?」
「R15のことか?」
「うん」
「基本的に少年ジャンプが基準になってそうだけど」
「少年ジャンプ?あのドラゴンボールの?」
「うん」
「パンチラあるの?」
「あるよ!ない少年誌なんて、もう少年誌じゃないよ・・・」
「それはどうかと思うけど・・・」
「昔、電影少女(ビデオガール)っていうマンガがあったのだけど、それなんて、AV借りてきてみたら、中から女の子が出てきて慰めるって話なんだぞ」
「うわぁ・・・」
「今、連載できるかどうかは怪しいけどな・・・」
「時代の流れもあるんだねぇ・・・」
「だな。だからパンチラの話題程度では大丈夫だ。じっくりたっぷりずっとパンチラの描写をし続ける作品ならしらんが・・」
「描写っていうか、それもう病気だよ」
「ふむ・・・」
倫也が恵をじっと見る。薄い生地の白いシャツなのにブラの色がわかりにくい、うっすらとみえるので、色はおそらくは白だ。いや、純白だな。
そして、恵は上下を絶対にそろえるタイプなので、下も白だな。いや、純白のパンティーだな。うん。
「あの・・・?怒るよ?」
「人の心を読まないで」倫也の顔が赤くなる。
「じゃあ、人の下着で妄想しないで?」
ごもっとも。
「だいたいね、倫也くん。恵のイデアを穢さない・・・みたいなことを『負け犬』の時にいってなかったっけ?オタクの妄想で性的な消費をするなって」
「覚えてないけど、それ別の作品だし・・・それに、キャラメルとオセロの話はOKでパンチラはNGっておかしくないか?」
「だって・・・あれはオセロをしただけだもん」
恵が顔を赤らめてモジモジする。
オセロをしていたことを思い出す。
オセロをするのはお風呂に入った後でないとやっぱり汗が気になってヤル気になれなかった。
「じゃあ、これもボツにするかぁ・・・」
倫也が残念そうに言った。パンチラを話題にしたら、ワンチャンあるかと甘い考えをもっていた。
「ううん。ボツにしなくてもいいよ・・・」
「え?・・・もしかして俺、消しゴム落とすの?」
「・・・そんなに見たいかなぁ・・・」
「・・・」
「見たいの?」
「・・・」
「変態だって認めちゃうの?」
「まって・・・恵、シナリオのためだから」
「・・・うん」
恵がため息をつく。
「じゃあ、恵はパンチラを見せない理由を教えてくれるの?」
「うん・・・」
「何?」
「突然のボツのせいで・・・ノープラン(ノーパン)だから」
恵は顔を真っ赤にして、両手で顔を抑えた。
倫也の反応もツッコミもないで、指の間からおそるおそる倫也を見ると・・・
キャラメルの箱を出して、オセロの準備をしていた。
(了)