8月28日 土曜日 夏休み38日目。
部屋は薄暗い。
今日も一日が終わった。一緒に起きて、一緒にご飯を食べて、一緒にゲームを作って、一緒にまったりとアニメを見て、そして夜になった。
ピロートークのお題に応えるべく、倫也と恵は同じベッドで横になっている。
「ねぇ倫也くん・・・これR指定ついているんだっけ?」
「いや・・・?ピロートークするだけだからな」
「ピロートークって何?」
「枕について話題にすることだな」
「・・・そう」
恵が窓辺で、倫也の左側に寝ている。
2人ともぎこちなく仰向けになって天井をみている。
「で、恵は枕の中身は何がすき?」
「ん~。夏はそばがらかな」
「いいよな。そばがら」
「うん。綿だと熱がこもって暑いし、プラスチック素材は堅くて好きじゃないなぁ」
「だよな。低反発枕も最初はいいんだけどな」
「あー、あれもけっこうすぐダメになるし、暑いよね」
「だな」
「・・・」
「・・・」
恵がアクビを一つした。右手で倫也の左手を握る。
「で、枕の話の本題って・・・もしかして会社経営が傾いているとか?」
「どういうこと?恵」
「えっ、だって枕営業させるんじゃないの?」
「誰に!?」
「それは・・・ちょっと」
「・・・」
「・・・」
恵が倫也の手を放して、ギューとつねった。
「いてててっ、何?」
「んっ、だって、つまらない話をしているからぁ」
「それ、俺だけのせいじゃないよねぇ!?」
「わたしのせいだっていいたいの?」
「・・・そうじゃないけど」
恵が再び倫也の指と指を絡める。
「でも、枕トークって言われてもさー」
「我が家にもyes/no枕を導入するとかどうだろう?」
「イエスノーマクラって何?」
「イエスの時はイエス。ノーの時はノーってわかる枕だよ」
「何が?」
「・・・」
「どうしたの?導入したいんだよね?イエスノー枕」
「提案だけな」
「うん。で、何なのか詳しく説明してもらわないと、わかんないよ」
恵が倫也の指をつまんでいる。
「だからさ・・・OKの時はイエスだよ」
「えっと・・・ごめん。何言っているかわかんない」
「・・・ダメならいいよ」
「別にダメなんていってない」
ちょっと語気を強めた。
倫也が恵の方に顔を向ける。恵は天井を見つめてまま、頬を染めていた。
「夜のオセロについてなんだけど・・・」
「あのね、倫也くん。わたし達は高校生なんだからね?一応、健全な生活をずっと続けてきて、ここまでがんばってきたんだからさー。突然、夫婦みたいなこといわれても困るんだけどっ」
「・・・ごめん」
恵が上半身を起きあげた。ブランケットを抑えて前は隠している。
倫也から見ると、恵の美しいうなじや、肩甲骨のくぼみや、細いウエストが見える。
恵は何も身に着けていなかった。
「ちょっと、恵。危ない」
倫也が慌てて、恵の腰に手を当てて、再び寝転がせた。
恵は窓辺に体を向けた。倫也が後ろから少し抱くような形になる。
「それにね。Yes/no枕なんてあったら、いつだって、no・・・だよっ」
恵がそっと応えた。澄んだ声が少し震えて寂しい感じがする。
「なんで・・・」
恵は何も答えない。Yesなんて・・・はしたないマネをできるわけがない。
外からはコオロギの鳴いている音が聴こえた。もう夏も終わりだ。
※※※
「話題変えようか・・・」
「ううん。続けて」
倫也は右腕を恵の細いウエストあたりから前に回している。恵はその右手を右手で重ねている。
倫也が指でへそのあたりをそっと撫でようとするのを、ぎゅっと掴んでやめさせた。
「倫也くん。わたしがNOだったら、誘わないの?」
「ん・・・」
「NOだけど、誘って欲しい時はどうしたらいいの?」
「そしたらYESなんじゃないの・・・」
「それは違うよ・・・だって、YES枕にして、倫也くんが疲れていたらどうするの?」
「がんばる」
「でも、したくないんでしょ?」
「ん・・・そんな時、あるのかな・・・」
「あると思うよ・・・必ず少しずつ年を重ねるわけだし・・・」
「うーん」
倫也が右手を上の方へ少しずつ上げようとすると、恵がその手をつねった。
「やっぱり、そういうのはお互いの気持ちが大事なんじゃないかな」
「だから、それを伝えるために枕を使うんじゃないの・・・」
「気持ちってそんなにはっきりしているかな?最初はYESでもいいかなぁって思っても、だんだん嫌になる時もあるだろうし」
「あるの?」
「・・・今のところないけど、あるかもしれないでしょ?」
「・・・ふむ」
「それに、ぜんぜんそんな気分でなくても、少し話していたら変わるかもしれないし」
「なるほど」
上がダメなら下へと腕を動かそうとしたら、恵が右手をがっちりと抑えつけた。
「・・・」
「・・・」
「シナリオに書けないようなことしないでくれる?」
「恵の髪・・・いい香りがする」
倫也が鼻を恵の頭にくっつけた。
「もう・・・誤魔化さないでよ」
「じゃあ、いつもYESなんだと思って誘えばいいんだな?」
「あのさー、人の話聞いてた?」
恵が倫也の右手を話して、体から離した。
倫也は仰向けに体勢を替えた。
「いつでも、NOなんだけど」
「じゃあ、誘わない方がいいってことだよな?」
「そんなこと言ってない」
「わかんねぇーよ」
「そんなんだから、倫也くんは倫也くんなんだよ」
「えーっ」
恵が体の向きを倫也の方へかえた。
倫也の左腕のあたりに、何かおそろしく柔らかいものが当たった。
「で、続きは?」恵が話の続きを催促した。
「えっと・・・」
倫也が戸惑う。「何の話だっけ?」
「ピロートーク」
と、恵が呟いたあとに、小さくアクビをした。
「恵、眠いの?」
「・・・うん」
倫也が時計を見ると、12時近くになっていた。朝はちゃんと起きているので眠くなるのもわかる。
「無理するなよ・・・寝るか」
「ううん。だからね・・・何か話をして」
「話かぁ・・・」
「うん」
恵がかぼそい声で答える。少し微睡んでいるようかのようだ。
「明日のことだけどな」
「うん」
「劇場版の予習ってことでいいんだよな?」
「うん」
「それってさ、予定していたこの物語のエンディングだよな」
「うん」
「じゃあ、最終日はどうするんだ・・・?」
「知らない」
「そっか・・・」
「・・・うん」
恵の小さな呼吸の音が聴こえる。
「初日も作り直すんだよな?」
「うん」
「どんな感じにするの?」
「うん」
「・・・そっか」
「うん」
「もう、寝なさい」
「ううん」
倫也が恵の方を見ると、恵は目を開けて倫也のことをじぃーとみていた。
倫也も体の向きを恵の方へ向ける。それからおでこをくっつけた。
車が通る音がした。エアコンは静かに動いている。他は静寂に包まれている。
※※※
「恵のこと。好きだよ」
「うん」
倫也が恵のおでこにキスをした。
「恵のこと。大好きだよ」
「うん」
恵が鼻先を倫也の鼻先にくっつける。
「恵に会えてよかった」
「うん」
それから、倫也のほっぺにキスを軽くした。
「恵とこの物語を過ごせて楽しかった」
「うん」
それから唇を重ねる。柔らかい唇が少しくっついて離れた。
「俺・・・夏休み終わって欲しくない」
「・・・うん」
夏休みがもうすぐ終わる。
時間は巻き戻らない。
この夏を覚えていて、もう一度繰り返すなら・・・もっと上手に夏休みを過ごせるのに。
「倫也くん・・・」
恵の目が潤んでいる。
「枕カバー外してみて」
倫也が頭を上げて枕を手に持った。
両手で上にあげて枕カバーをはずすと、中から、YES/YES枕がでてきた。
「恵っ!?」
「えへへ」
「いいの?」
「うん・・・それにしてもさ、ピロートークしてわかったことあるんだけど」
「どうした?」
恵の顔が真っ赤になる。でも薄暗いのではっきりとはわからない。そこがまたカワイイ。
「ピロートークって、終わったあとにするものじゃないの?」
順序が逆になった。
作品のカテゴリー上、しょうがない。
(了)