第7話 夏はブラ紐 ブラウスから透けたるはさらなり
夏休み6日目。7月27日 火曜日。
恵はお昼頃に倫也の家に来た。倫也も昼過ぎまで寝ないでなんとか恵が来る頃には顔を洗い身支度を整えていた。
恵は倫也の部屋のドアを開けて、顔だけ覗き込む。
倫也が起きていて「おはよう」と挨拶すると、「おはようって時間ではないと思うけど・・・」小言を言った。
恵はベージュのストールをたたんでバッグの上に置いた。夏らしい薄手の白いブラウスと下には黒いタイトスカートをはいている。ちょっとOL風に見える。前髪も目立たない黒いピンでとめた。後ろは結っていない。
「今日はお昼はピラフの予定だけどいいかな?」
「うん」
恵はすぐに部屋からでてキッチンに向かう。エプロンをして冷凍ピラフを炒める。少し野菜もきってスープにする。メニューも予定が立てられていて、冷蔵庫の食材を無駄なく使っていく。
倫也がのんびりと降りてきて、「何か手伝える?」と聞いた。
「ううん。今日は大丈夫。あっ、麦茶でもいれておいてくれる?」
恵がフライパンでピラフをあおりながら言った。
倫也がグラスを2つ出して、氷を入れて麦茶をいれる。1つの容器が空になったので、軽く洗い、麦茶パックと水を入れて冷蔵庫に冷やす。2本目の容器はテーブルの上に置いておく。
時間が余ったので恵の作業している後ろ姿を眺める。髪がよく揺れている。今日のエプロンはデニム生地のもので、恵の来ている服とはあまりマッチしない。
倫也は恵の背中を見た。
薄い白いブラウスの生地から・・・恵のブラ紐の色がはっきりとわかる。
(・・・黒だとぉぉぉぉぉぉ!?)
ふぅ、危なかった。声に出すとこだった。自制心を働かせる。
「倫也くん、スープできたからよそってくれる?」
倫也が1人で勝手に動転していた。
「ああ、うん」
倫也がスープカップを出して準備をした。恵が炒めおわったピラフを皿に盛り付ける。
2人はそれらをテーブルに運び並べる。スプーンを置く。
※※※
恵はデニムのエプロンを脱ぐとイスの背もたれにかけてから座った。倫也も向かい側に座る。エアコンはまだ利いてなくて部屋はまだ涼しくない。
恵は、「ふぅ・・・」と息を吐き出して、ブラウスの第二ボタンも外した。それから胸元をもってブラウスを揺らし、空気を中に取り入れる。倫也はその様子を怪しいぐらい凝視してしまった。
「暑いね」
と恵が声かえて、やっと倫也が正気に戻る。「そうだな」と相槌をうつ。
「あのね、倫也くん・・・」
「ん?」
「見すぎ」
倫也が立ち上がる。両手をテーブルの上に置く。恵を少し見下ろすような角度になる。胸元がはっきり見える。
「それ・・・しょうがないよねぇ!?」
こうなったら自己弁護するしかない。
「あっ、とりあえず、ご飯食べながらでいい?冷めちゃうし」
「あっ・・・うん」
倫也が座る。目の前に恵がいる。けっこう鉄仮面モードの恵。
「いただきます」と倫也が恵の方を見ながら言う。
恵は少し微笑んでうなずく、それから「いただきます」と言う。
恵がスプーンで一口すくいあげ、倫也に口元に差し出す。
倫也が口をあけて近づくと、スプーンをひっこめた。
「ん?」
「だってぇ・・・恥ずかしいもん」
恵がちょっと横を見て俯く。それから自分でピラフを口にふくんだ。
倫也はピラフを食べ始める。とりあえず口にたくさん放り込む。照れ隠しもある。
「それふぁおまぁふぇがふぁるひ」
「食べ終わってからでいいよ?」
倫也が口を動かし、麦茶で流し込む。
「それはお前が悪い」
「何が?」
倫也が恵の方を見る。目元でなく、目線が下になってしまう。少し開いた胸元からは直接ブラは見えないが、白いブラウスからはっきりと黒いブラジャーの形が見える。
「あの・・・恵・・・」
「なに?」
恵はフラットな顔でピラフを食べ、スープを飲む。
「おまえ、その恰好で来たの?」
「へん?」
「変じゃないけど・・・」
「変じゃないけど?」
恵がききかえす。もちろんわざとだ。こんな薄手の生地のままインナーも着ないで外など歩けるわけがない。そのために大きめのストールを持ってきて、上半身をくるむように羽織ってきた。
倫也は言葉につまる。スープを飲む。
「あつっ!」
「ほらほら、落ち着いて」
倫也がスープをフーフーした。
恵はすました顔でピラフを食べている。
「落ち着けるかっ!」
倫也が少し強い口調でいう。いつも涼しげな恵であるが、汗がしっとりと浮かんでいる。
「どうしたの?」
「あのな・・・恵。いいか、メインヒロインっていうのはさ、そういうんじゃないんだよ」
「何が?」
「もっと、こう・・・清純にだな・・・」
清純とかきょうびきかない。清純って言葉に不純を覚える。
「清純って、今時アイドルでも使わないんじゃないの?」
「そうでなくってだな・・・」
「で、何がそんなにおかしいの?言ってくれないとわからないなー」
すっとぼけた声で言う。笑いをこらえるのが大変なので、ピラフを食べて誤魔化す。
倫也は口にたくさんピラフをいれて、もぐもぐと食べる。
「くぅろふぁまふぃいでしょぉ!?」
「だから、食べ終わってからでいいってば」
恵がスープを飲む。倫也もスープを飲む。
「黒はまずいんじゃないでしょうか・・・」
「なんで敬語なの?」
「なぁ・・・恵。俺らは健全な高校生だよな」
「さっきから倫也くんは何を話しているの?」
「・・・」
どうも恵はあくまでもシラを切るらしい。倫也にブラ紐発言でもさせたいのだろうか。
「わかった。恵。おまえがそのつもりなら・・・俺は賢者に転職するよ」
「そう」
倫也が残りのピラフを口に書き込む。そしてスープも飲み終わる。
「もう少し味わってほしいのだけど・・・冷凍ピラフとはいえ・・・」
「ごふぃそうさふぁ!」
「食べ終わってからでいいってばぁ」
倫也がトイレに行く。
恵はため息を一つついてから、「男の子も大変だなぁ・・・」とのんきな感想を述べ、まだピラフは食べかけであったが、急いで倫也の部屋へと向かった。
※※※
時間も立ち、リビングもエアコンがきいてだいぶ涼しくなっていた。
倫也がすっきりしてトイレからでて、洗面所で手を綺麗に洗ってリビングに戻ってきた。
恵はまだ落ち着いてピラフを食べている。
倫也が余裕をもって、恵の前に座る。いつもは一緒に食べ終わるようにペースを調整する。倫也は恵に
「何か果物でも切るか?」
と気遣う。みよ、この大人の余裕を、と自画自賛する。
「スイカが冷蔵に冷えているよ」
最後の一口を食べてから恵が言った。それからスープを飲み干す。
倫也が恵と自分の皿とカップを重ねて、流し台に運ぶ。恵は座ったままだ。倫也はトイレに行っている間に恵が部屋に行ったことにまだ気が付いていない。
倫也が冷蔵庫からカットされたスイカをだし、さらにカットして皿に並べる。それをもって恵の前に皿を置く。
「どうぞ」
どうだ、このさりげなさと優しさ。さすが賢者は違う。
恵はちょっと倫也を見上げる。そして軽く会釈する。
(・・・あれ)
倫也は気が付いた。さっきと何かが違う。
倫也は自分のイスにもどって座る。スイカを一切れ手にもつ。
恵は小さく口を開けて、スイカの先端を軽くかじって口に含む。
そんな様子を倫也は見ている。そして気が付く。
(ああ、なるほど。第二ボタンを留めたのか)
倫也もスイカを齧る。恵の方をみる。スイカを食べているだけでも可愛い。
しかも無表情。もう少しおいしそうに食べたりできないのだろうか?
「うまい?」
「うん」
恵がうなずく。
倫也が恵を見る、それから目線を落とす。そしてさらに気が付いた。
「ピンクに変えたのか・・・」
「何が?」
恵がフラットに答える。が、頬が少し火照る。
「まぁ、その方が・・・メインヒロインらしいよな」
「よくわからないけど、倫也くんの中ではそうなんだ?」
「うん」
「でも、そんなにじっと見ないで欲しいのだけど・・・」
倫也は思わずじっと見ていた。あわよくばカップのふちのレース模様ぐらいまで透けてみえるのではないかと思っていた。我に返る。
「なぁ、恵」
「なに?」
倫也が立ち上がって恵の後ろに立った。それから人差し指をすぅーと恵の背中に上から下に這わせる。
「ひゃんっ!」
と、恵が変な声を出す。倫也が後ろのブラ紐のところで指を止めた。
「・・・あの、倫也くん?」
倫也が指の先でブラウスの上からブラのホックを弾いた。・・・しかし、はずれはしなかった。
「・・・あのぉぉぉぉ。倫也くーーん?」恵が困惑する。
「恵」
「はい」
「あとで上に何か羽織るか、シャツ替えてくれる?」
「・・・うん」
恵が顔と耳を真っ赤にして頷く。お互いの顔は見えない。
「こういう役は・・・霞ヶ丘先輩がやったほうがいいんじゃないかなぁ・・・」
「恵がやるから、いいんじゃないか!」と強く言った。
「そんな力説されても・・・わたし、困るんだけど・・・ほんとにこんなシナリオでいいの?」
恵は顔を赤くしたまま、キッチンに戻って洗い物を始めた。
(了)