| 登場人物 | |
|---|---|
| マチカネフクキタル | チームレグルスのお調子者。中・長距離担当。 ボケ担当になりたいがなかなか突き抜けられないツッコミ担当。 札幌に来るのが楽しみ過ぎて、本日寝不足。 |
| サイレンススズカ | チームレグルスのエース。マイル・中距離担当。 自分のことをツッコミ担当だと思い込んでいる大ボケ担当。 朝四時に起きて二キロ走ってから集合場所に向かった。 |
| タイキシャトル | チームレグルスのムードメーカー。短距離・マイル担当。 ツッコミもボケもほどほどにこなせるオールラウンダー。 がっつり寝坊し、危うく遅刻しかけた。 |
| エアグルーヴ | チームレグルスのリーダー。中距離専門。 押しも押されぬツッコミ担当。この人がいるとみんなボケだす。 実は不安でちょっと寝不足気味。 |
| トレーナー | チームレグルスのトレーナー。女性。元エアグルーヴ専属。 チームの保護者枠にして、小ボケ担当。 レースの調整やらなにやらで一睡もしていないが、元気。 |
雲ひとつない晴天。
一面の銀世界。
真っ白い雪で化粧したもみの木。
年の暮れ、それと新年の賑やかさが遠くから響いてくるような独特の雰囲気──。
「つ・き・ま・し・た────ッ!!!!」
制服の上にコートを着込んだ私は、両拳を天へと突き上げて高らかに叫びました。
同時に、頭上でカチリという音が。
見上げると、長針と短針、それと一二個の丸で表現されたなんともオシャレな時計。……いいですねいいですね! なんとも都会な感じです!
「フクキタル。あんまりはしゃがないの。下、雪だから。滑るよ」
普段とは違うロケーションにわなわなと湧き上がる心の高ぶりを感じていると、後ろから女性に声をかけられました。
振り返ると、真っ黒いスーツの上にベージュのコートを羽織った、二〇代中盤くらいの長身な女性がそこに佇んでいました。スーツと同じロングストレートの黒髪はポニーテールにまとめられていて、なんとも清潔的なオーラを漂わせていますが、おそらくトレセン学園の生徒にはこういう言い方をした方がイメージが伝わりやすいでしょう。
『エアグルーヴさんの親戚みたい』。
……ま、この言い方をすると当人達は凄く嫌がると思いますけどね。
さて、ここまで言えばなんとなく分かることでしょう。
彼女こそ、元・エアグルーヴさん専属トレーナーにして我々チーム・レグルスメンバーの面倒を見てくれているトレーナーさんなのです!!
「はぁい」
「そうだぞ、フクキタル。我々の今回の目的を忘れるな。いいか、我々はな……」
「まぁまぁ、エアグルーヴ。堅苦しいのはなしで行こう。私達が肩肘張ってたら、あの子も余計に緊張しちゃうでしょう?」
「…………む、まぁ……そうだな」
エアグルーヴさんのお小言が始まりかけたところで、トレーナーさんが間に入ってくれます。優しい!! トレーナーさんはいつもエアグルーヴさんのお小言を食らってきたので、こうして私達がお小言を受けそうになるといい塩梅に仲裁してくれます。そしてたまに標的になります。なむ……。
「でもまぁ、今回私達はチームメイトの応援に来てるわけだからね。そこのところは弁えるように。あまり羽目を外しすぎず、でも程々に楽しみましょう」
「……あの、トレーナーさん。早速ですけど、天気もいいし、景色も綺麗だから、ちょっと走ってきてもいいですか?」
「駅に着くなり雪の北海道を激走するのはどう考えても羽目を外しすぎなんだよ」
うずうずしながらコートに手をかけたスズカさんがしょぼんとする一幕があったりしつつ。
そう。
我々は今、チーム・レグルスの仲間の応援の為、北海道は札幌レース場──の最寄り駅、桑園駅までやってきていたのでした!!
トレーナーさんは出走する人の付き添いで数日前から現地入りしていて、今日の午後からのレースに合わせて私達も応援にやってきていたんです。
ちなみに、他のチームの人達はこうしてチーム全員で出走ウマ娘の応援に地方へ向かうことはあんまりしないらしいです。せいぜい、チームの主将とか、先輩とかが行くくらいで。
後輩たちはトレセン学園に残って練習するのが通例なのですが──チーム・レグルスはエアグルーヴさんとトレーナーさんの意向で、『イベントはチームメンバー全員で参加する!』という方針なのでした。まぁ、エアグルーヴさんは年中行事とかめちゃくちゃ大事にする人ですからね。
かくいう私も初詣とか、とっても大事にしますからね。境内でBBQなんて論外ですよ! いやホント!
「……? フクキタル? 急にこっち見てどうしたんデスカ?」
「…………いえ、べつに」
境内でBBQなんて論外ですよって思ってただけですよっ!!!!
「ところでトレーナーさん、この後はどうするのかしら……? 今は八時だけど、確かレースが始まるのはお昼の二時からだったわよね……?」
「ああ、うん。そこはやっぱり……ね。みんなもせっかく北海道に来たんだし、楽しい旅行の思い出を作りたいかなって思って」
トレーナーさんはそう言って、笑いながら頬を掻きます。
「まったくお前というヤツは……。遊びに来ているわけではないと言っているのに。…………まぁ、良い。長旅でだいぶ疲れも溜まっているだろう。レースまでの間くらい、羽を伸ばす時間があってもいいか」
「ヤッター! エアグルーヴ、話が分かりマスネー! じゃあ早速、ファームに行きましょう!」
「何故そうなるっ!?」
自由時間となった瞬間、速攻で牧場に行きたがるタイキさんに、エアグルーヴさんは神速のツッコミを入れます。
まぁ、タイキさんって牧場巡りが趣味ですからねぇ。確か、ご実家が牧場を経営されていたんでしたっけ。だから休日には牧場に行きたくなるとかで、私やスズカさんも一緒に付き合ったことがあります。
「オゥ……? ホワイ? ファームはダメなんデスカー?」
「決まっているだろう……! 此処から最寄りの牧場まで、どれくらいかかると思っている! というか、牧場見学には予約とかも必要だろう!? 今からできるわけがなかろう!」
「んーと、桑園駅からだと、三駅行ったところからちょっと歩けば牧場があるね。だいたい三〇分ってところかな。あ、外観までなら見学自由だって」
「ううむ、意外と近いな。そして調べるのも早い。…………じゃないっ!! ここ、個人経営の牧場みたいだが大丈夫なのか? ……いやそれにしても、本当に意外と近くにあるものなんだな牧場……。こんな市街地だというのに、三〇分で行けるのか……」
「エアグルーヴさんエアグルーヴさん。私の占いでも今日は北西が吉と出てます。意外とありですよ、牧場」
「フクキタルは黙っていろ」
「ひどいっ!?」
トレーナーさんへのツッコミに比べて私の扱いが雑すぎませんかっ!?
……まぁ、このままだと牧場しか案がなくなってしまいそうなので、ここは私も提案しますか。
せっかくの北海道旅行(応援のついでですけど)、やっぱり私も楽しみたいですからね!
「じゃあじゃあ、こういうのはどうです? 神社へ行って、今日のレースの必勝祈願! これなら我々の本分も達成できるというものです!」
「……ふむ。神頼みというのは少し思うところがあるものの、仲間を想う気持ちは重要だ。それもいいな……」
あ! エアグルーヴさんの好感触! これはいけそうな予感!
「それで、どこの神社に行くかはもう目星がついているんだろう? お前のことだものな」
「ふふん! もちろんです! やはり札幌に来たのですから、向かうとすれば選択肢は一つ、北海道神宮です! 何せこの北海道神宮は四柱もの神様をお祀りされているのです! 四柱ですよ、四柱! 通常の四倍! クワトラブル・ゴッドですよ!!」
「オゥ!? クワトラブル!? スリー・ゴッデスよりも一人多いデース!!」
「のんのん、タイキさん、駄目ですよ! 神様は一人二人ではなく、一柱二柱と数えるのです」
「ピラー? ニホンではゴッドでハウスを建てるんデスカー……?」
「やめろ!! お前達が喋っていると永遠に話題が脱線し続ける!!」
程よきところで、エアグルーヴさんが待ったをかけました。
しかし失敬ですね。我々はこれでちゃんとコミュニケーションが成り立っているんですよ? こういうところから、トレーナーさんは日々のトレーナーのアイデアを思いついているわけですし。
「……まったく。だが、お参りという案は悪くなかろう」
「えっと、此処から北海道神宮までは徒歩だと四五分かかるね。足元が雪で不安定なことを考えると、プラス二〇分くらい見積もった方がいいかも」
「なに、そんなにかかるのか……。往復の時間を考えると、あまりゆっくりは出来なさそうだな。フクキタル、別の近場の神社ではダメか?」
「ナ゜っっっっっっニを言っているんですかっっっっ!?!?!?!?」
信じられないことを言い始めたエアグルーヴさんに、私は耳を疑う気持ちで問い返しました。
な……なんですって? 北海道神宮が? 遠いから? べ……別の神社と言いましたかァッ!?
「う、うお……」
「札幌に来たのなら北海道神宮以外ありえません!! 他の神社では運気が逃げます! 大凶です!! 距離がなんだというのですかっ!? 距離で妥協して別の神社に浮気するような不信心者に、神様が運気を授けてくれるわけがありましょうか!! そんなことでは大吉はやってこないのです!! 神頼みは遊びじゃないんですよ!!!!!!」
「そ、そうか……。す、すまん……。私が悪かった……」
まったくもう。私だって伊達や酔狂で神頼みをしてるわけじゃないんですからね。本気で、全身全霊をかけて運任せをしているんですから!
「……くっ、何故私が責められているんだ……? 間違ったことは言っていないはず……」
「……あの」
そこで。
私達のドタバタを聞いていたスズカさんが、控えめに手を挙げて、おずおずとこんなことを言いました。
「私、スぺちゃんのご実家にご挨拶に行きたいわ。せっかく札幌に来たんだし……」
………………………………………………。
それに対する、エアグルーヴさんの返答は。
「完全な私事都合じゃないかっていうかここから日高までどれくらい時間がかかると思ってるんだ北海道のだだっ広さナメるなァッ!!!!」
「ちなみに、車でも軽く片道二時間はかかるね」
「はー……はー……」
その後。
喧々諤々の会議の末、エアグルーヴさんは肩で息をするほどに疲弊していました。
いや~、ことごとくダメ出しを受けてしまい、なんともならなかったのですねぇ。一番感触がよかったのが最初のタイキさんの牧場くらいで。
「だいたいだな、お前ら! 個人行動をとるわけじゃないんだぞ。私達全員が一団となって向かうんだ。他のチームメイトのことも少しは考えろ!」
「えぇ~、でもよかったと思うんですけどねぇ。札幌の雪を使ってセルフ雪まつり」
「ご近所迷惑!!」
「ウェル~……やっぱり海鮮パーティはダメですかー……?」
「そういうのはヤツがレースで勝ってからにとっておけ!」
「ランニングはみんな楽しめると思ったんだけど……」
「なんで観戦に来た私達が観戦前に走るんだっっっ!!!!」
ああ……どんどんエアグルーヴさんが疲弊していきます。
あれ? でもエアグルーヴさんが疲弊したらツッコミが弱くなって、そのまま押し切れるんじゃないですかね?
「あの~」
そこで、トレーナーさんと談笑しながら私達のやりとりを見守っていたチームメイトの方が、頃合いを見て声を上げます。
栗毛のショートカット。さらりとした髪が印象的な方です。私もよくキューティクルケアで相談している方ですね! ほら、私の髪ってわりと癖っ毛なので。
「最初に話してたこの近くの牧場、電話してみたら特別に中を見学しても良いみたいですよ~。乳牛体験とかもできるそうです~。あと、お土産にニンジンも用意してくれてますって~」
………………。
「……よし! 行くか……牧場!」
「イエース! レッツゴー、ファーム!」
……フッ、やはり北西は吉。
私は間違っていませんでしたね!