ハリー・ポッターと日ノ本の死神   作:シオンカシン

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我らは幸福を求める
其れを糧とする

全ての幸せよ
我が口腔の中へ。








死神、払う。 再びの横丁と特急

 

イギリスへと降り立ち、興奮しっぱなしの雀部*1を宥めながら、刀原達は無事に漏れ鍋へと着いた。

 

「ショウ。こっちだ!」*2

 

中は相変わらず人で大賑わいだったが、その中からハリーが手を振ってアピールする。

 

「ハリー、元気そうだな。初めての自由は謳歌してるか?」

 

刀原が茶化す様に言えば、ハリーはニッコリと笑う。

 

「あれ程嫌だった夏がすっごく楽しいんだ!それにショウの手紙通り、この夏でダイアゴン横丁にすっごく詳しくなったよ」

 

「それは何よりだ」

 

どうやらハリーは初めての自由な夏(娑婆)をウキウキで過ごしていたらしい。

 

「ねえ、早く紹介してよ?」

 

ハリーとそんな話をしていると雀部がワクワクしながら刀原を突いてくる。

 

「ああ、そうだな。ハリー。こちらは日本の友人で、今年からホグワーツに留学することになった雀部だ」

 

「君がハリー・ポッター君ね?雀部です。よろしく!」

 

「よ、よろしく」

 

雀部の挨拶に戸惑いながら返事をするハリー。

刀原はそんなハリーの反応に首を傾げながら「それじゃ、ダイアゴン横丁に行くか」と言った。

 

 

 

 

雀部は俺の様に杖は購入しなかったが、午前中のうちに教科書やホグワーツの学生服をマダム・マルキン洋装店で購入し終える。

彼女のウキウキ気分は全く色褪せることは無く、終始ニコニコしていた。

 

「なあ、ハリー?」

 

そんな中、俺はハリーに先ほど何故どもったのかを聞いた。

 

「だって、すっごく綺麗な人じゃないか」

 

ハリーは雀部をチラッと見ながら小声でそう返す。

 

「なるほど、まあ、確かにな……」

 

俺は改めてそう言われている幼馴染みを見る。

 

容姿端麗で身長も小柄。

いつもニコニコしてフレンドリー。

髪は金髪で瞳は翠と、一見すると日本人には全く見えない。

こうしてダイアゴン横丁を歩いているのを見ているとすごく様になっている。

 

母方が日系の英国人だったからその遺伝なのだが、昔は良く見た目の事で騒ぐ馬鹿もいた。

まあ、俺が全員叩きのめしたが。

 

「雀部は綺麗で可愛いんだから、自信をもって。成長して誰もが振り返る美人になればいいよ!」

 

などと言ったっけ……。

 

そして実際に綺麗になっているし、実力だって俺や日番谷に次ぐ。

始解だって習得している。

 

だがかなり心配になるのは、俺が未だに彼女を信じ切れていないのだろうか。

 

「あ、いた!ハリー!ショウ!」

 

そんなことを考えていると、聞いたことのある声が俺とハリーの名前を呼んだ。

声が聞こえた方向に振り返れば、そこにはロンとハーマイオニーがフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パラーのテラスに居た。

 

「やっと会えた!」

 

とハリーが言うあたり、どうやらこの夏は未だ会っていなかったらしい。

 

「僕たち『漏れ鍋』に行ったんだけど、もう出ちゃったって言われたんだ……。君は誰?」

 

ロンが雀部を見ながら首を傾げる。

 

「忘れちゃったの、ロン?ショウが今年から友人も留学しに来るって手紙で言ってたじゃない。彼女がきっとそうよ」

 

ハーマイオニーがロンを見ながら言う。

 

「正解です!貴女がハーマイオニーさんですね?ショウ君が相当頭が良い女の子だと言っていたのですが、本当なんですね!」

 

雀部がそう言えばハーマイオニーは照れながらも勝ち誇ったかのような顔をする。

 

「ごめん…。だって、見た感じ日本人っぽく見えなかったんだ…」

 

ロンは申し訳なさそうに言う。

 

「大丈夫です、気にしてませんよ。貴方は赤毛のロンさんですね?」

 

雀部が若干失礼なことを言ったロンをフォローする。

フォローされたロンは名前を当てられたことに喜んだ。

 

「改めまして、雀部です。よろしくお願いしますね」

 

雀部はハリーを含めた三人にニッコリを微笑みながら自己紹介した。

 

 

 

自己紹介が終わったあと、ハーマイオニーが大真面目に「ハリー、ほんとにおばさんを膨らましちゃったの?」と尋ね、ハリーとロンは吹き出した。

 

「笑ってる場合か?」

「笑いごとですか?」

 

二人が吹き出したのを見て、刀原と雀部が聞く。

 

「ハリー、ロンも。ショウ達の言う通り、笑うようなことじゃないわ。ハリーが退学にならなかったのが驚きよ」

 

ハーマイオニーもむっとしながら戒める。

 

「退学処分どころじゃない。僕、逮捕されるかと思った」

 

「まあ、ハリーは二年生の時に警告をされているからな。本来ならそうなっても何らおかしくはないだろう」

 

「何でそうならなかったのかな?」

 

「多分、ハリー君だからでしょうね。有名で英雄のハリー・ポッター。そんな貴方を逮捕すれば、抗議が来るからでしょう」

 

「雀部の推察は、おそらくあっているだろうな」

 

 

「まあ、答えは今晩パパに直接聞いてみろよ。僕たちも『漏れ鍋』に泊まるんだ! だから、明日は僕たちと一緒にキングズ・クロス駅に行ける! ハーマイオニーも一緒だ!」

 

「パパとママが、今朝ここまで送ってくれたの。ホグワーツ用のいろんなものも全部一緒にね」

 

ロンとハーマイオニーがニッコリと笑う。

 

「最高!それじゃ、新しい教科書とか、もう全部買ったの?」

 

ハリーの言葉に、ロンは袋から細長い箱を引っ張り出すと、テーブルの上に乗せて開けて見せた。

刀原はその箱に見覚えがある。

オリバンダーのところの杖の箱だからだ。

 

「これ見てくれよ。ピカピカの新品の杖だ!三十三センチ、柳の木、ユニコーンの尻尾の毛が一本入ってる。前のはもう駄目だったからね……」

 

「ああ、あれを使い続けるのは自殺行為に近いだろうな。これでもう自爆ともおさらばだな」

 

どうやらリドルを苦しめたロンの大破した杖(ブービートラップ)はお役御免となったらしい。

はっきり言って英断である。

 

「良かったねロン!」

 

刀原とハリーの言葉に、ロンは「ありがと」と笑顔を浮かべた。

 

 

 

「僕の新しい杖とは別に、僕たちも教科書は全部そろえた。あの怪物本、ありゃ、なんだい、エ?僕たち、二冊欲しいって言ったら、店員が半べそだったぜ」

 

ロンがこう言うのは魔法生物飼育学の指定教科書。

その名も『怪物的な怪物の本』。

ダイアゴン横丁のフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店で刀原と雀部も購入した本だ。

 

その名の通り、随分な怪物っぷりを発揮していたかの本は、刀原と雀部が購入した直後まで確かに怪物だった。

 

だが所詮は本。

堪忍袋の緒が切れた二人は、容赦なく斬魄刀を、あと数センチあれば本を貫通するように突き刺した。

微笑みながら。

 

以来、かの本はただの本になった。

目の前に迫った確実な死に恐怖したらしい。

 

 

ロンがそんな怪物の本について話しているのを横目に、雀部がある疑問をハーマイオニーに投げ掛ける。

 

「ハーマイオニーさん。そんなにたくさんの本はどうしたの?」

 

雀部はハーマイオニーの隣の椅子に山積みになっている袋らを指差した。

ハーマイオニーは語る。

 

「さんは要らないわよ?私、たくさん新しい科目を取るのよ。これはその教科書。数占い、魔法生物飼育学、占い学、古代ルーン文字学、マグル学――」

 

「……要するにハーマイオニーは今年から始まる選択科目をすべて受ける事にしたんだよ」

 

下手すると長くなりそうなので、刀原は雀部に解説した。

 

「なんでマグル学なんかとるんだい?君はマグル出身じゃないか!パパやママはマグルだろ!?マグルのことはとっくに知ってるだろう!」

 

「だって、マグルのことを魔法的視点から勉強するのってとっても面白いと思うのよ」

 

ロンの言葉にハーマイオニーは真顔で答える。

だからと言って無茶苦茶大変だろうと刀原は思うのだが。

 

「ハーマイオニー、これから一年、食べたり眠ったりする予定はあるの?」

 

ハリーはこう尋ねる始末だった。

 

 

 

一行はアイスを食べたあと、ハーマイオニーがふくろうがほしいのと、ロンのペットであるネズミのスキャバーズが調子が悪いと言うことで、ダイアゴン横丁にあるペットショップに向かった。

 

店には多種多様な魔法動物がおり、そんな中ロンが店員にスキャバーズを見せる。

 

なんやかんや刀原もまともに見るのは初めてだったのだが、確かに具合が悪いようで、痩せ細っているし髭もダラリとしていた。

どう見ても絶好調では無い。

 

かなりの歳であろうスキャバーズのためにネズミ栄養ドリンクを買うロン。

なんとも健気だが、そこに忍び寄る存在が一つ。

 

「アイタッ!」

 

「駄目!クルックシャンクス!」

 

ロンを奇襲した存在はクルックシャンクスと名付けられた猫であった。

体はけっこう大きく、全身をオレンジの毛に包まれ、太いふわふわの尻尾と黄色い目が特徴なその猫は、店員曰く誰もほしがる人がいなかった(売れ残り)とのこと。

 

やたらとロンとスキャバーズを威嚇するクルックシャンクス。

堪らずロンと、おまけにハリーがペットショップから撤退する。

 

そして静かな女子二人。

 

「「か、可愛い!」」

 

どうやら二人はクルックシャンクスに一目惚れしたらしい。

 

「うわぁ、もふもふだぁ…。すっごく可愛いです!ショウ君もそう思いますよね!?」

 

雀部は目をランランに輝かせながらそう言う。

刀原も既にハーマイオニーの腕のなかにいるクルックシャンクスの頭を撫でる。

 

確かにもふもふで可愛い。

 

斯くしてハーマイオニーは雀部に断りを入れ、クルックシャンクスを購入した。

 

三人は外でハリー、ロンと合流したが、ロンの目は見開かれた。

彼は自身とスキャバーズを襲撃されたこともあって、クルックシャンクスを毛嫌いしていたのだ。

二人は対立したまま歩き続け、そしてそのまま漏れ鍋に到着したのだった。

 

 

 

 

「あの時、お礼を言いそびれてしまったから…。ここで改めてお礼を言わせて。ジニーを助けてくれて、本当にありがとう!」

 

「私からもお礼を言わせてくれ。勇敢な日本の少年よ、我が娘を助けてくれて本当に感謝している」

 

「は、はあ…」

 

刀原はロンの両親であるアーサー・ウィーズリーとモリー・ウィーズリーとは、汽車のお迎え時や去年のの一件の解決後(秘密の部屋からの救出後)に顔合わせはしていた。

しかし本格的な顔合わせは初めてであった。

 

そして挨拶もそこそこに言われたのがこの言葉だった。

 

こうして夕食は豪華となった。

漏れ鍋の亭主、トムが三つも食堂のテーブルを繋げてくれたので、その周りにウィーズリー家の七人とハリー、ハーマイオニー、そして刀原と雀部が座った。

 

雀部にとっては初めての英国料理だったが「噂より美味しい」との感想だった。

 

 

そして色々小さなニュースもこの時飛び交った。

 

まず、ロンの兄であるパーシーが主席になったらしい。

規律の鬼とも称される彼なら相応しい立場だろう。

なお、フレッドとジョージの双子が我が家最後の、と付け足したが刀原はその可能性は大いにあると考えた。

 

次に英国魔法省が車を出すとのこと。

おそらく例の件の対策だろうと刀原は結論した。

 

 

大にぎわいで夕食は進み、終わったあとも賑わいは続いていた。

雀部はハーマイオニーとジニーと女子トークをし、ハリーはロンとチェスをし、双子はパーシーの主席バッチをくすねて魔改造していた。

 

「トーハラ君。ちょっと良いかな?」

 

そんな中刀原はアーサーに呼ばれ、漏れ鍋の隅に行った。

 

 

 

 

「シリウス・ブラックと言う凶悪な魔法使いが先日脱獄したのだが、トーハラ君は聞いているかな?」

 

「ええ、まあ。耳には挟んでます」

 

アーサーの用事はやはりブラックの事についてだった。

 

「そうか…ではブラックの狙いも?」

 

「ハリーの殺害。そしてヴォルデモートの復活ですか?」

 

日本魔法省が集め、推察されたブラックの目的。

ヴォルデモートの名を刀原が平然と言えば一瞬顔を青くしたアーサーだったが、神妙な顔で頷く。

 

「その通り、少なくとも魔法省はそう考えている。ファッジは…ああ、こっちの魔法省大臣なんだが……彼はハリーに詳しい事は言わないと言っていてね、譲らないんだ。モリーも反対していてね……」

 

「ハリーは心配されてますね」

 

「それはそうだろう、私とて心配だよ。だが、ハリーには知る権利がある。それにハリーはもう十三歳なんだ。それに……」

 

「アーサー、本当のことを言ったら、あの子は怖がるだけです!ハリーがそれを引きずったまま学校に戻る方がいいって、本気でそうおっしゃるの?とんでもないわ!知らない方がハリーは幸せなのよ」

 

「わたしはあの子に自分自身で警戒させたいだけなんだ。ハリーやロンがどんな子か、母さんも知ってるだろう。二人でフラフラ出歩いて……『禁じられた森』に二回*3も入り込んでいるんだよ!今学期はハリーはそんなことをしちゃいかんのだ!」

 

刀原を置いていきヒートアップする二人。

 

「マダム。お言葉ですが…知らない方が逆効果だと思いますよ?」

 

刀原の言葉にやっぱりかと言う顔をするアーサー。

 

「ハリーは知りたがり、そしておそらく探ろうとするでしょうね。下手に隠したら面倒な事に成りかねませんよ?」

 

「……貴方は本当の事を知らないからーー」

 

「本当の事とは、ブラックがハリーの両親の親友で、ブラックは彼らを裏切ったと言うことですか?」

 

モリーの反論を遮って言う。

 

「ッツ」

 

「……そこまで知っていたのか」

 

「日本魔法省の情報調査部は優秀ですからね」

 

刀原はニッコリと笑って言った。

 

 

 

 

「トーハラ君の言う通りだろう。それに『夜の騎士バス』があの子を拾っていなかったら、魔法省に発見される前にあの子は死んでいたよ」

 

「あの子は無事なのよ。トーハラ君の言う事は分かるけども、わざわざなにも――」

 

「モリー母さん。ブラックは狂人だとみんなが言う。たぶんそうだろう。しかも不可能といわれていたアズカバンを脱獄した。もう三週間も経つのに、誰一人、ブラックの足跡さえ見ていない。ファッジが『日刊預言者新聞』になんと言おうと、事実、我々がブラックを捕まえる見込みは薄いのだよ。一つだけはっきり我々が掴んでいるのは、ヤツの狙いが――」

 

「でも、ハリーはホグワーツにいれば絶対安全ですわ」

 

 

「我々はアズカバンも絶対間違いないと思っていたんだよ。でもブラックがアズカバンを破って出られるなら、ホグワーツにだって破って入れるかもしれない」

 

「でも、誰もはっきりとは言ってないし、わからないじゃありませんか。ブラックがハリーを狙ってるなんて、」

 

またもや刀原を置いてヒートアップする二人。

 

「モリー、何度言えばわかるんだね? 新聞に載っていないのは、ファッジがそれを秘密にしておきたいからなんだ。いつもおんなじ寝言を言っていたそうだ。『あいつはホグワーツにいる……あいつはホグワーツにいる』とね。ヤツは、ハリーを殺せば『例のあの人』の権力が戻ると思っているんだ。ハリーが『例のあの人』に引導を渡したあの夜、ブラックはすべてを失った。そして十二年間、ヤツはアズカバンの独房でそのことだけを思いつめていた……」

 

「アルバス・ダンブルドアのことをお忘れよ。ダンブルドアが校長をなさっている限り、ホグワーツでは決してハリーを傷つけることはできないと思います。ダンブルドアはこのことを全てご存知なんでしょう?」

 

「もちろん知っていらっしゃる。アズカバンの看守たちを学校の入り口付近に配備してもよいかどうか、我々役所としても、校長にお伺いを立てなければならなかった。ダンブルドアはご不満ではあったが、しぶしぶ同意した」

 

「ご不満? ブラックを捕まえるために配備されるのに、どこがご不満なんですか?」

 

「ダンブルドアはアズカバンの看守たちがお嫌いなんだよ。私も嫌いだがね…」

 

アズカバンの看守。

良い噂は全く聞かない。

 

「それで?僕をこの場に呼んだのは何故でしょうか?」

 

刀原はこの夫婦喧嘩に飽きていた。

 

「……ハリーを守って欲しいんだ。生徒側で頼めるのは君しか居ない」

 

アーサーはハッキリとした目で訴える。

 

「元よりそのつもりですよ。ご安心を」

 

刀原もしっかりとアーサーの目をして答える。

 

「よろしくお願いね」

 

モリーが刀原の手を取りながら言う。

 

あんた等の息子さん達(ロンと双子)は良いのか?

刀原はよぎったこの疑問に蓋をした。

 

 

 

 

翌日はバタバタだった。

あれが無いこれが無いだの、何故前日に入念な準備と確認をしないのか。

 

そして時間になってやってきた魔法省の車は、アーサーの車と同じように何やら魔法がかけられていた。

大きなトランクも各ペットたちもそれから中に乗る人々も、二台分乗ではあるがすべて収まり、車は駅に向けて発進した。

 

キングス・クロス駅から入った九と四分の三番線は、今年も大混雑だった。

 

乗り込む寸前には最後の挨拶をアーサーやモリーたちにした。

モリーは別れを惜しんで一人一人の頬にキスをしていた*4

 

そしてアーサーに呼び止められたハリー以外が、列車に乗り込んだ。

少しだけ遅れてハリーはやって来て、列車は煙を吐いて汽笛を鳴らし、いつもの通りに走り出した。

 

 

誰も居ないコンパートメントを探し、一行は結局最後尾まで歩くことになった。

そしてそのコンパートメントに乗客は一人しかいなかった。

おまけに眠っている。

これぞ幸いとばかりに、一行はそのコンパートメントに転がり込んだ。

 

「この人、一体誰なんだ?」  

 

全員が席について落ち着くと、ロンが声を潜めて聞いてきた。

 

「ルーピン先生よ。ほらそこ……鞄に書いてあるもの。」

 

答えるのはハーマイオニー。

 

「おそらく闇の魔術に対する防衛術の先生だな。其処しか空席じゃないからな」

 

刀原が付け足す。

 

「……この人がちゃんと教えられるといいけど。」

 

ロンは懐疑的な様子だが、それはもっともな指摘だろう。

ルーピンの見た目はかなりみすぼらしいし、刀原達が入ってきても起きる様子の一つもない。

なんとも頼り無さげだ。

 

それに、今までの先生はどいつもこいつも駄目な連中ばかりだった。

一年目のクィレルはヴォルデモートと融合していたし、二年目のロックハートはペテン師だったという実績がある。

 

「……大丈夫かな?」

 

「み、見た目だけで判断するのは悪手だ」

 

雀部の心配そうな声に刀原はそうフォローした。

 

「何だか強力な呪いをかけられたら一発でだめになりそうだ……で、ハリー。何の話だったっけ?」

 

ロンにそう言われ、ハリーが昨晩聞いたことやらさっきアーサーに言われたことを説明すると、ロンとハーマイオニーは非常に驚いていた。

 

それもそのはずだ。

かの有名な殺人犯たるシリウス・ブラックが難攻不落の牢獄島アズカバンから、ハリー殺害を目的に逃走したというのだ。

しかもいままで脱走者はいなかったにもかかわらずにだ。

 

 

「ああ、何てこと……ハリー、お願いだから自分からトラブルに飛び込んでいったりしないでね?」

 

そう言うのはハーマイオニー。

だがハリーはため息をついて首を振る。

 

「いつだってトラブルの方から飛び込んでくるんだ。どうしようもないよ」

 

「可哀想に……」

 

事情を刀原から聞いている雀部が、心中お察しすると言った顔で慰める。

 

「でもどうやってブラックはアズカバンから脱獄したんだ?だって今まで脱獄したのは誰もいないし……」

 

「脱獄の方法など、問題じゃない」

 

ロンの問いに刀原が答える。

 

「え、どうして?」

 

「そんなもの、ブラックを引っ捕らえた後でも分かるからだ。そしてそれを受けて対策をすれば良いだけの事。問題なのは、」

 

「ブラックの目標と、それを達成されないようにする事です」

 

刀原が答えの理由を言い、雀部が続きを言う。

 

「雀部の言う通りだ。幸いにも目標は実に分かりやすい、即ち我らが親愛なる生き残った男の子……ハリー・ポッター君の命。そして策はハリーの滞在先……つまりホグワーツの防備を固めること。確か…ハリーはホグズミード村には行けないんだったな?」

 

ホグズミード村とはホグワーツの近くにある英国魔法使いだけの村で、ホグワーツ生は四年生から時々行けるのだ。

 

「うん……叔父さんから許可証のサインが貰えなかった」

 

そしてその村に行くには保護者からのサインが必要*5だった。

 

「残念な事だろうが、逆に良かったのかもしれないな。むざむざ狙われに行くようなもんだ」

 

諦めろと刀原が言えば、ハリーはガックリと項垂れる。

四人はそんなハリーに対し、ハニーデュークスのお菓子を買ってくる事を確約したのだった。

 

 

 

列車は順調に北へ向かって行くが天気は明らかに悪くなっていった。

刀原が間も無く雨が降りそうな雰囲気であると思ったすぐ後には、外はバケツを引っくり返したかのような大雨になり、まるで滝のようだった。

 

ルーピンは全く起きる気配も無く、車内販売にもマルフォイ一行にも起きなかった。

そして間も無く夜の帳が来る少し前、汽車が唐突に速度を落とし始めた。

 

「お、そろそろ着くのかな? 宴会が待ち遠しいよ。腹ペコペコなんだ」

 

ロンが呑気にそう言う。

窓の外は相も変わらず滝のような雨だが、真っ暗で駅のようなものはまるで見えない。

そしてハーマイオニーが首を振って否定する。

 

「時間的にはまだ着かないはずよ……どうしたのかしら」

 

その言葉を皮切りになったかのように、どんどん列車は速度を落とし、やがて停車した。

その上、停電まで発生する。

 

完全に視界不良となったコンパートメントは、誰かが動けば誰かの足を踏むと言う面倒な事になった。

おまけにネビルとジニーまでコンパートメントに入り、プチパニックになった。

そんな騒ぎでとうとうルーピンが起きたらしく「静かに」という少ししわがれた声がコンパートメントに響く。

 

「ショウ君………?」

 

「大丈夫だ雀部。……一応構えとけ」

 

事態は悪化し、列車の通路から得体の知れない寒気が夏だと言うのにコンパートメントに侵入していた。

打ち付ける雨がだんだんと凍りつき、ピシピシというガラスが割れそうな嫌な音が刀原の耳にはっきり届いていた。

 

刀原は不安そうな雀部に大丈夫だと答え、コンパートメントの出入口に陣取る。

 

「とりあえず私が様子を見てくるからーー」

 

ルーピンがそう言って立ち上がり、前に出ようとしたその時だった。

より強烈な寒気が押し寄せ、それから少しずつコンパートメントの扉が開いていく。

 

この寒気、まさか!

 

刀原の脳裏にある生き物的存在が浮かんだ矢先、黒いローブのようなものが目に映る。

 

しわがれ、不自然に痩せこけたもはや骨と言っても言い黒っぽい手、黒い頭巾をかぶった丸い頭。

そしてそこから冷たく凍えるような吐息が漏れているのは感じられた。

まるで空気以外の何かを吸い込もうとしているように。

 

その正体は『吸魂鬼(ディメンター)

人の幸せを食らう獣。

 

刀原が先程脳裏に過った存在である。

刀原の斬魄刀である『斬刀』は小太刀だが、狭いコンパートメントでの使用は不可能。

 

「ここにシリウス・ブラックは居ない」

「貴様等の餌はない。さっさと失せろ!」

 

やって来たルーピンと刀原が言うが、会話が通じる存在ではない。

吸魂鬼はおもむろに相対する二人に接近しようとする。

 

だが、それを許す二人では無い。

 

「「『エクスペクト・パトローナム!(守護霊よ来たれ!)』」」

 

二人の杖から出る狼と隼。

二匹の白い守護霊はに襲いかかり、それらをコンパートメントの外まで一息に追いやってしまった。

 

そしてその直後、二人の後ろから前へ駆け抜けた白い雷鳥がいた。

後ろで守りに徹していた雀部の守護霊だ。

 

「ありがとうな雀部。助かった」

 

「ふふっ。どういたしまして」

 

刀原の感謝に雀部はニッコリと笑って答えた。

 

 

 

 

「君たちが校長が言っていた日本の留学生だね?優秀だとは聞いていたが、まさかここまでとはね……」

 

吸魂鬼を撃退したあと、車内の灯りは即座に復旧した。

直後、ルーピンから賛辞を受ける。

 

刀原が後ろに振り替えるとハリーがぶっ倒れていた。

既に気付いた雀部が介抱しており、心配そうなロン達に「大丈夫。気絶しているだけみたいです」と答えていた。

 

「今のは吸魂鬼……。何故こんなところに?」

 

「おそらくシリウス・ブラックがこの車両に居るのではないかと思ったのだろう。その為、」

 

「検分に来たと? しかし奴らにそんな権限が? ……まさかあいつ等がアズカバンの看守だとでも?」

 

「日本の留学生なら知らないのも無理はない。そしてその通り。吸魂鬼はアズカバンの看守役だ」

 

syoukitohaomoenexezinnzidana(正気とは思えねぇ人事だな)

 

「今何て言ったのかな…?」

 

「ああ、失礼しました。日本では考えられない手法だったもので……」

 

何故アズカバンの看守に良い噂が無いのか。

さしもの刀原も知らなかったが、十分に理解出来る内容だった。

 

「とりあえず、私は運転手と話してこなければ。申し訳無いが皆にチョコレートを配ってくれ。知っていると思うが食べれば元気になる」

 

ルーピンはそう言って刀原に巨大な板チョコを託す。

刀原に断る理由など無いので「分かりました」と答える。

 

刀原の答えに満足げに頷いたルーピンは「では頼んだよ?」と言ってコンパートメントを出た。

後ろではハリーが目を覚ましたらしい。

 

事件が起きねぇ年はねぇのか……?

 

刀原はため息をつきながら雀部の隣に座った。

そして雀部が安心そうに、だが不安そうにしているのを見て「大丈夫だ」と声をかける。

雀部はそう言われると少しだけ刀原に身体をもたれかけた。

 

 

ホグワーツ特急は再び走り出す。

雨の中、ホグワーツに向けて。

 

チョコレートを食べながら、刀原はハリー達に説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
初めてテーマパークに来た子供さながらだった

*2
「ショウって言われてるんですか?じゃあ私もそう呼びますね」と雀部が言った

*3
一回目は罰則で、二回目はアラゴグ案件で

*4
いい加減そう言う文化に慣れた刀原はともかく、雀部はかなり戸惑った。

*5
ちなみに雀部の許可証には雀部長次郎忠息と書かれている

刀原の許可証には山本元柳斎重國と達筆な文字で大書されている





忙しい中でも頑張って書いていきます。
ですが、遅れることをご容赦ください。

斬魄刀で吸魂鬼、切れそうですね。
うちの主人公ならやれるはず!


感想、考察、ご意見。
ありがとうございます。
そしてお待ちしています。


では次回は
占いと動物
次回もお楽しみに







おまけ



強烈な寒気が押し寄せ、それから少しずつコンパートメントの扉が開いていく。

しわがれ、不自然に痩せこけたもはや骨と言っても言い黒っぽい手、黒い頭巾をかぶった丸い頭。

そこから冷たく凍えるような吐息が漏れているのは感じられた。
まるで空気以外の何かを吸い込もうとしているように。

その名は吸魂鬼。
人の幸せを食らう獣。


とても生物の様には見えないその姿を見たプレイヤーの皆さんは、SAN値チェックです!


ハリーとジニー以外、セーフ

ジニー 失敗
1d3 ー1

ハリー、ファンブル
1d6 ー5

ハリーは、謎の叫び声を聴きながら失神します。





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