ハリー・ポッターと日ノ本の死神   作:シオンカシン

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復讐の味

蜜より甘い至福の味
望んで我らはそれを味わう

それは終われば虚しい味だ。








死神、当てる。予言と動物たち

 

 

祝宴の余韻冷めやらぬ深夜の寝室に、突如として大絶叫が響いた。

 

「何事だ?」

 

ハリーが跳ね起き、刀原も起きた。

叫んだのはロンだった。

そのロンのベッドのカーテンは片側から切り裂かれていた。

 

「ブラックだ、ブラックが居た!ナイフ持ってた!」

 

「えー!?」

 

「ブラックだと?んな馬鹿な…」

 

ロンはブラックが居たのだと供述した。

とりあえずその場にいた全員が談話室に向かう。

先程までパーティーが行われていた事もあって、談話室はその残骸で散らかっていた。

当然、誰もいない。

 

「叫んだのは誰だ?」

 

「マクゴナガル先生が寝なさいっておっしゃってたでしょう!」

 

どうやらロンの絶叫は寮全体に響いたらしく、何人かが降りてくる。

 

「まったく!いい加減にしなさい!」

 

マクゴナガルもやって来る。

ロンがブラックの襲撃を受けたと言う話をマクゴナガルやパーシーに言っている中、刀原は眠そうな目を擦りながらやって来た雀部と共に入り口近くに布陣していた。

 

そして調べの結果、判明した。

ブラックが本当に居たことがだ。

 

 

 

ロンは一躍、時の人となった。

ハリーを差し置いて襲撃を受けたからだ。

 

ホグワーツはブラックに対する警戒度が、再び一段と高まった。

襲撃を受けた日の夜、刀原と雀部には談話室に待機するよう要請が入ったし、以後ハリーの傍を離れないようにとの要請も受けた。

 

そしてブラックを今回も取り逃がすことになった。

 

 

ブラックに対して、刀原には疑問が残った。

 

《何故ブラックはハリーでは無く、ロンを襲撃したのか》と言う疑問だ。

 

その訳を知るのはブラック本人だけだが、刀原はそれを推理のヒントにしていた。

 

刀原は当初、ブラックは詰めを誤りロンのベッドをハリーのベッドと間違えて襲撃したと思った。

しかし「そんなミスしますかね?」と言う雀部の至極当然な指摘で違うと考えた。

 

ブラックが本気でベッドの主*1を仕留めようとするのならば、()()()()()()()()()()などと言うとんまな事態にはならない。

カーテンごとナイフで突き刺せば良いからだ。

 

そして雀部の「しょう君も気付かなかったってこと?」と言う指摘だ。

 

 

自慢では無いが、同年代よりかは殺気に敏感だろう。

とは刀原の証言だ。

 

無理もない。

幼少期の頃からとんでもない人達(護廷十三隊の隊長)の熱烈な修行をしていたのだ。

そして当然だろうが、ブラックより卯ノ花や四楓院の方が殺気の消し方が上のはず。

 

例え自分が対象では無くとも、()()()()()()()の殺気に気付かない筈がない。

 

刀原と雀部はそう考えた。

 

つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言う可能性が出たと言う事だ。

 

 

 

ブラックがホグワーツに二度も侵入したと言うことは、ホグズミードをブラックが平然と闊歩している可能性が高いと言うことに他ならない。

だが、ハリーとロンは実に呑気だった。

そして刀原とハーマイオニーの説得も虚しく、ハリーはホグズミードに行くことにしたらしい。

 

何故ハリーはホグズミードに行けるのか。

それは双子から渡された謎の魔法具『忍びの地図』を使っているからだ。

 

この忍びの地図はホグワーツを完全に網羅していた。

そして誰が何処にいるのかも完璧だった。

 

例え死んだ筈の人間、ピーター・ペディグリューが地図に載っていたとしても。

 

ハリーはピーター・ペディグリューの名を見つけた後、即座に追跡した。

そして地図の上ではすれ違ったが、そこには誰も居なかったらしい。

 

そんな地図の制作者はムーニー、ワームテール、パッドフット、プロングスという者達。

ハリーがなんやかんやあってルーピンに地図を取り上げられた際、ルーピンは制作者に会ったことがあると言った。

 

 

ここに至り刀原と雀部は、今まで建てていた仮説が現実味を帯び始めていると気が付いた。

 

ルーピンが抱えているであろう秘密。

ボガートが変化した物。

定期的に悪化する体調。

 

ピーターの死の疑問。

そしてすれ違うも姿が見えなかった理由。

 

ブラックの本当の目的。

侵入方法。

 

そして、三人ともハリーの父親……ジェームズ・ポッターと知り合いだったと言う事。

 

そして、ここ最近起きた行方不明事件との関係。

ロン曰く、スキャバーズの指は欠けていたらしい。

 

 

 

謎解きのショーが開かれるのは近い。

 

 

 

 

だがそれよりも近いのがあった。

クィディッチの優勝決定戦である。

 

決定戦はグリフィンドール対スリザリンの一戦となったのだが、因縁の一戦であることもあって、試合前はかなりピリピリムードとなっていた。

 

グリフィンドールが優勝出来る条件は、二百点以上で勝利することだ。

その為、ハリーは何度もウッドに「俺達が五十点以上取った上でスニッチを取れ!」と言われていた。

 

グリフィンドール寮全体が、来る試合に取り憑かれているようだった。

イースターの休暇が終わる頃にはチーム同士や寮同士の緊張がピークに達し、廊下のあちこちで小競り合いが散発していた。

 

大事な大事なシーカーであるハリーは、とくにひどい目に遭っていた。

 

刀原には教授陣から要請されていたハリーの警護の任があり、そうでなくとも普段からよく一緒に行動していた。

そしてハリーを潰そうとするかもしれないと思ったウッドからも、警護の依頼も受けた。

 

ウッドの懸念は当たっており、ハリーの行く先々にスリザリン生が現れては刀原と雀部が傍にいる事を確認し、残念そうに立ち去ることも少なくなかった。

 

試合前夜のグリフィンドール寮の談話室では通常の活動が一切放棄されていた。*2

 

そして翌日、大歓声の中試合が始まった。

 

試合はグリフィンドールが早々にリードを奪ったことで、スリザリンがクアッフルを奪うためには手段を選ばない戦法にシフトした。

その為、最悪の泥試合となった。

 

スリザリンは棍棒で殴ったり*3、ウッドを狙い撃ちしたりをした。

 

だが、グリフィンドールは圧倒的だった。

リードは広がり、約束の五十点以上となった。

 

そして。

 

マルフォイとのデッドヒートに勝利したハリーがスニッチをキャッチした。

グリフィンドールは宿願の優勝を果たしたのだった。

 

 

 

 

優勝したという余韻に浸りたいのは山々だが、生徒達には試験が迫っていた。

 

『変身術』の試験では、ティーポットを陸亀に変えるという課題だった。

とりあえず刀原はガラパゴスゾウガメに変え、マクゴナガルをニッコリさせることに成功した。

 

『闇の魔術に対する防衛術』は独特な試験だった。

 

簡単に言えば野外での障害物競走のようなもので、魔法生物を如何に捌きゴールするかという内容だった。

 

刀原と雀部は協議の末、馬鹿正直に対処せず全て強行突破すれば最速タイムが出せると判断した。

 

そして瞬步一歩手前のスピードで駆け抜けた。

 

その為、魔法生物達は引き込む(水魔)ことも道に迷わせる(ヒンキーパンク)ことも叶わず、撲殺しようとしたレッドキャップに至っては物理的に処理(斬魄刀で撃退)されてしまった。

 

当然、最速タイムを叩き出した。

ルーピンからは反則スレスレと言われたが。

 

 

そして最後に残ったのが『占い学』だった。

先日、遂に我慢ならなくなったハーマイオニーが自主的に辞めたこの科目の試験は比較的簡単に終わった。

 

筈だった。

 

ハリーが試験を受けた際の事だ。

 

つい先程まで()()()()()()()トレローニーが、突如として()()()()()おかしくなっていた(ラリっていた)のだ。

虚ろな目をして口をだらりと開き、肘掛け椅子に座ったまま硬直していたトレローニーは、いつもとは違う荒々しい声で喋り始めた。

 

「事は今夜起こるぞ。闇の帝王は、友も無く孤独に朋輩に打ち捨てられて横たわっている。その召使いは十二年間、鎖に繋がれていた。今夜、深夜になる前にその召使いは自由の身となり、ご主人様の下に馳せ参じるであろう。そして闇の帝王は召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう……」

 

なんだ、いつも通りじゃないか……。

 

では済まされない内容だ。

おまけにこれを言ったことをトレローニーは覚えていないらしい*4

つまり、様子が様子だっただけにいつもの様に笑い飛ばすことが出来ない。

 

しかし、これがアルバニア(潜伏先)で起きることであるならば阻止できる筈もない。

手出しも対策も出来なかった。

 

 

 

 

 

魔訶不思議なこともあったが、ひとまず全生徒の永遠の宿敵(期末テスト)は一旦消えた*5

 

そしてハリー達はハグリッドの下へ向かうことになった。

ここ最近調子を取り戻しつつあるハグリッドが、再びバックビークを彼らに会わせたいらしい。

 

ハリー達には雀部も同行することにした。

護衛の為ということもあったが、久しぶりにバックビークと触れ合いたいという願いも兼ねているだろう。

 

刀原としてはルーピンに先の予言について意見を聞きに行きたかったが、同行を願う4人に折れ、一緒にハグリッドの小屋へと向かうことになったのだった。

 

 

小屋では平和な空気が流れた。

ハグリッドは数多くの者が死んだと思っていたスキャバーズを捕獲していたらしく、ロンは最愛のペットと感動の再会をしたのだった*6

そしてスキャバーズの無事が確認されたため、ロンとハーマイオニーによる冷戦構造も雪解けとなった。

 

そんな中、刀原は絶好の機会だとしてスキャバーズをよくよく観察してみた。

するとそこら辺の魔法生物より、遥かに多い霊圧を持っていることが分かったのだ。

人間並の霊圧をだ。

 

まさかな……。

刀原は深く考え混み始めた。

 

なお、ヒッポグリフ達はは相変わらずだった。

雀部お気に入りのヒッポグリフも元気そうで、何かと殺伐だった雰囲気も和やかなものになった。

 

 

 

動物とのふれあいはあっという間に終わり、帰る時間となった。

スキャバーズは未だに暴れており、飼い主たるロンにもどうにもできないようだった。

そして何度か噛みつかれているようで、その都度悲鳴があがっていた。 

 

「一体どうしたんだ!このバカネズミ!」

 

堪え切れなくなったロンが荒げた声を出すも、構わず暴れるスキャバーズ。

そして最悪のタイミングで現れた猫が一匹。

 

クルックシャンクスだ。

 

「駄目!クルックシャンクス!」

 

ハーマイオニー(飼い主)が言うも、クルックシャンクスは気にせずどんどん近づいてくる。

 

「駄目だスキャバーズ!」

 

そしてついにスキャバーズはロンから脱出し、一目散に逃げだした。

クルックシャンクスがつかさず追いかけ始めた。

 

折角再会したのに今度こそ食べられてはならないとロンも追いかける。

そしてロンを追いかける形で残る四人も追いかけ始めた。

 

かくして始まったチェイスは暴れ柳の近くまでたどり着き、ロンがスキャバーズを確保したことで終わった。

既に周りは暗くなり始めていた。

 

ロンはひとまずほっとしているようだったが、如何せん場所が悪い。

 

「ロン!ひとまずこちらへ!ここは……」

 

訓練しているため夜目がきく雀部がロンを呼び寄せようとした瞬間だった。

かなり大きな黒い犬が突如乱入してきたのだ。

何もすることが出来ずにロンが犬に腕を噛まれてしまい、そのまま引き摺られて行ってしまう。

 

そして襲い掛かってくる太い枝。

雀部は言い損ねたのだ。

既に暴れ柳の射程圏内に入っていることに。

 

「『ルーモス!(光よ!)』」

 

刀原や雀部ほど夜目がきかないハリーが杖先に灯りをともし、直後息をのむ声が聞こえる。

 

暴れ柳の根元ではロンが健気な抵抗をしていた。

だが、無駄な抵抗だった。

 

パキッという嫌な音が聞こえてきた。

木の根に足を引っ掛けていたようだが、どうやら足を折ったらしい。

 

そして獲物が無抵抗になった為、ずるずるとロンを容易く引き摺って行く黒い犬。

 

「待ちなさい!縛道の四『這縄』!」

 

「させねぇよ!『インカーセラス(縛れ)』!」

 

雀部の鬼道に刀原の捕縛呪文の甲斐も無く、ロンは拉致られてしまった。

 

 

「助けを呼ばなくちゃ!」

 

ハーマイオニーがそう叫ぶが直ぐに悲鳴に変わる。

暴れ柳の枝に当たったらしい。

 

「駄目だ!あいつはロンを食ってしまうほど大きい、そんな時間はない!」

 

ハーマイオニーの言葉にハリーがそう叫ぶ。

確かに奴はデカかった。

直ぐにでも行けなければロンが奴のディナーにされかねない。

だが行こうにも暴れ柳が邪魔だった。

 

「どうします!?」

 

雀部が枝を避けながら刀原に聞いてくる。

 

剪定か、焼き焦げ炎上か…。

 

刀原は少し悩んだ。

そして決めた。

 

「良し…。んじゃ、俺が止めるから、その隙に木の根元まで行くんだ。いいな?」

 

そう言って刀原は少しだけ距離をとる。

 

「縛道の七十九『九曜縛』」

 

刀原がそう唱えれば、木の周りの縦方向に八つ、胴体に一つの黒い鬼道の玉のようなものが出る。

そして暴れ柳はピクリともしなくなった。

 

その隙に全員が木の根元にあった通路の中に入り込む。

そして入り終わったという雀部の合図で刀原は鬼道を解いた。

再度暴れ始めた暴れ柳だったが、気にせず刀原は突っ込み、枝を避けながら通路へ入ったのだった。

 

 

通路は狭く、薄暗かった。

 

「このトンネルの先は何処に?」

 

雀部が警戒しながらハリーに問う。

 

「わからない……。忍びの地図には書いてあったけど、フレッドもジョージも使ったことはないみたいなんだ。ホグズミードにはつながっているんだろうと思うけど……」

 

ハリーには分からないらしい。

 

やがてうっすらと光が見えてきた。

先には霊圧が三つ。

ロン、スキャバーズ、そしてスキャバーズと同じく人間並の霊圧を持つ黒い犬。

 

まるでこの先3人の人間が居るかの様だった。

 

 

通路の出口は埃を被った部屋だった。

 

壁紙の半分は剥がれ落ちており、もう半分は黄ばんでしまって元の柄が分からなくなっている。

フローリングは所々めくれ上がり、床下の空間が露出していた。

窓には板、そして家具はほとんどボロボロで、原型をとどめていないものも少なくない。

 

完璧な廃墟だった。

 

「叫びの屋敷……でしょうか?」

 

「おそらくな……」

 

雀部が警戒しながら推察する。

刀原は多分正解だろうと言った。

 

ホグズミードにある廃墟など、其所しか思いつかなかったものあるが*7

 

「ハリー、ショウ、ライカ……。此処って、叫びの屋敷よね?」

 

ハーマイオニーも同じ結論に達したらしい。

 

そして辺りを見渡せば、床の埃が擦れていた。

ハリーがそれを指差し、一行はそれを頼りに屋敷の階段を上がっていった。

 

やがて、扉の閉まった部屋の前にたどり着く。

中からは低いうめき声が聞こえてきた。

ロンの声だ。

 

【ご用改めである!って言った方が良いですかね?】

 

【んなこと言ってる場合か】

 

刀原と雀部は腰にある斬魄刀に手を掛け、抜刀体勢をとる。

ハリーが目配せし、刀原と雀部が頷けば戸を蹴り開け、四人は部屋へと突入した。

 

 

 

中は天蓋付きのボロボロのベッドがある部屋だった。

クルックシャンクスがそのベッドに乗っかり、呑気に頭を掻いている。

その脇の床にはロンが足を投げ出して座っていた。

 

刀原と雀部は油断無く霊圧の先を見つめていた。

 

背後ではハリーとハーマイオニーがロンに駆け寄っているようだった。

 

「ロン!大丈夫?犬は?」

 

「犬じゃない。ハリー、罠だ……」

 

ハーマイオニーにロンが呻きながら答えた。

 

「え?」  

 

ハリーが唖然として聞き返し、刀原は目を細めて斬魄刀の柄を握る。

雀部も同じ行動をしていた。

 

既に鯉口は切っていた。

 

ロンが言った。

 

「あいつだ、あいつが犬なんだ……あいつはアニメーガスなんだ……!」  

 

ロンが指し、刀原と雀部が見ていた方向……扉の方をハリー達が振り返った。

 

それと同時に暗闇に包まれた廊下から、もじゃもじゃと整えられていない髪、痩せこけた頬、窪んだ眼窩、そしてぼろぼろの服を着た男が現れた。

男は進み出て、扉を閉めた。

 

「……シリウス・ブラック……だな?」

 

「その通りだと言ったら?」

 

刀原が刀に手を掛けたまま、ゆっくりと男に問うた。

男はニヤリと笑いながら聞き返した。

 

「一応、降伏を勧めるが?」

 

「それは出来ない」

 

「そうか」

 

それが合図だった。

 

「『エクスペリアームス(武器よ去れ)』」

 

ブラックが武装解除呪文を放つ。

それは流石と言うべき技量で、ハリーとハーマイオニーの杖が瞬く間に奪われてしまう。

 

しかし姿勢を低くし、スライディングしながら接近した刀原には当たらず、懐に入り込む。

そのまま横凪に刀を振るうが、ブラックはすんでのところで躱した。

 

「流石は評判の日本の魔法使いだ。躱すので精一杯だよ……」

 

「それは此方の台詞だ。まさか躱されるとはな」

 

ブラックには冷や汗が流れている様だった。

一方、刀原は既に霞の構えをしており、臨戦態勢だった。

 

「おまけに退路を断つとはね。年の割に随分と場馴れしてないか?」

 

ブラックがおどけたように言う。

先のやり取りで刀原は、ブラックが避けた場合、出口から遠退くように仕向けたのだ。

 

「最高の師匠達がいるんでな」

 

「そうか、最近の若者は末恐ろしいな……だがひとりでは無理だろう」

 

ブラックはニヤリと再び笑う。

ハリーとハーマイオニーを既に武装解除しているからだろうか。

 

「生憎と俺は一人じゃねぇ」

 

刀原は言いきる。

 

「ほう、では誰が」

 

「私よ。縛道の九『崩輪』」

 

すると今の今までハリー達の傍から離れなかった雀部が鬼道を放った。

ブラックは完全に意表を突かれた形となり、なすすべなく雀部の縛道に捕らわれる結果となった。

 

「君は、ハリーの友達の一人じゃなかったのか?」

 

ブラックが驚いた感じで言う。

雀部は一瞬キョトンとした。

だが直ぐにニッコリと笑う。

 

「私は確かにハリーの友人ですよ?でも私の出身地は日本なんですよ」

 

ブラックは雀部の容姿を見て、まさか日本人だとは思わず、英国人と思っていた様だった。

それを利用し、雀部はあえて刀原に任せていたのだ。

そして最高のタイミングで参戦したのだ。

 

「まいった。私の完敗だ」

 

ブラックは全てを悟り、項垂れたのだった。

 

 

 

 

ブラックは御用となった。

ブラックの後ろには雀部が刀を向けながら立っており、刀原も前から向けていた。

 

「一応聞くが、何をしに此処へ?」

 

刀原がブラックに聞く。

だがブラックは刀原の質問には目もくれず、ハリーの方を向いた。

 

「ハリー。君なら友を助けに来ると思った。君の父親……ジェームズもそうしただろうし、そうしてくれた。勇敢だ、実に勇敢だ。先生の助けも求めずにね」

 

ブラックは狂人だと誰もが言っていた。

だがハリーにそう言うブラックは実に穏やかだと刀原は思った*8

 

「……ブラック。お前の目的はなんだ?ハリーが狙いならあの瞬間、ハリーのみを狙えば良かった……。だがお前が狙ったのはロンだった。この前もロンだったな?そして仮にロンが狙いなら俺たちが突入する前に始末出来た筈だ。手負いの学生一人屠ることぐらい容易だろうからな……。言え、お前の真の目的はなんだ」

 

刀原がブラックの正面に立ち、強い口調で言う。

ブラックは観念したかのように答えた。

 

「一人を殺せば十分だからだ……。たった一人だけを。その為にここに来た」

 

ブラックは静かにそう言った。

そしてそれを自分のことだと受け取ったハリーは激昂し、ブラックに吐き捨てるかのように聞いた。

 

「この前はそんな事を気にしなかった筈だろう?ペティグリューを殺すために、沢山のマグルも無残に殺した。そのお前がアズカバンで骨抜きにされたのか?」

 

「ハリー!やめて!」

 

ハーマイオニーが悲痛な声を出す。

だが今までの恨みを堪え切れなくなったハリーは止まらない。

 

「こいつが!僕の父さんと母さんを殺したんだ!」

 

目は血走り、表情は怒りに染まっていた。

ハリーは既に杖を取り戻していた。

だが、刀原がハリーの前に刀を出して止める。

 

「ショウ!邪魔をしないでくれ!」

 

ハリーは刀原を睨みつけた。

だが刀原は血が上っているハリーを見ず、ブラックを見ていた。

 

「ブラック。俺の質問に完璧に答えてないぞ?お前が狙ったのはハリーでは無く、ロンだった。つまりハリーの命が狙いではない。だがロンの命も目的では無かった。では一体誰の、」

 

刀原の言葉はそこでいったん止まった。

誰かが階段を駆けてきたからだ。

 

その一瞬のスキはハリーは逃さなかった。

刀原の脇を抜け、ブラックへ迫った。

 

だがハリーの復讐は始まらなかった。

 

「『エクスペリアームス(武器よ去れ)』」

 

乱入してきた者がハリーを武装解除したからだ。

 

「ルーピン教授……」

 

「やあ、ショウ。ハリーを止めてくれてありがとう」

 

やって来た乱入者はルーピンだった。

そして……。

 

「『エクスペリアームス(武器よ去れ)』」

 

ルーピンが武装解除呪文を()()()()()()放った。

 

「ッ!!」

 

しかし刀原はまたも躱し、ルーピンの喉元に刀を突き付けた。

 

「やれやれ、不意打ちでも駄目か。リベンジといきたかったのだが」

 

「残念ながら、咄嗟の不意打ちには慣れてるんです。師匠が隠密機動の人なので」

 

ルーピンが笑ってそう言えば刀原もニッコリ笑ってそう返す。

 

「リーマス、してやられたな。私も先ほど彼らを舐めてかかり、このざまだ」

 

「そのようだな」

 

ブラックとルーピンはやけに親しげだった。

 

「ルーピン教授?一応、理由を伺っても?」

 

刀原は笑みを崩さないまま襲い掛かってきた理由を聞いた。

 

「最大戦力であり、現状最も正面切っての戦闘をしたくない恐ろしい生徒を早めに無力化したかった。では駄目かい?」

 

「本当に?」

 

ルーピンの答えに刀原は真面目な顔でそう聞き返す。

 

「お手上げだ……付け足すとしよう。これから起きる事を邪魔されたくなかったからだ」

 

ルーピンはそう言って手を挙げる。

 

「邪魔はしません。むしろ俺が説明した方がいいでしょう」

 

刀原はそう言う。

 

一連の流れと真相は分かった。

刀原は真実にたどり着いたのだった。

 

 

「ショウ……」

 

「ハリー。今から俺が言うことが、おそらく真実だろう。だがその前に……、出てきたらいかがですか?スネイプ教授」

 

刀原はドアの方へと目線を移せば、スネイプがのっそりと現れた。

 

「トーハラ。気付いていていたのかね?」

 

「ハロウィンの一件以降、霊圧感知を行っていましたから」

 

スネイプが言うと刀原はおどけた様に答える。

スネイプはそれを聞いて「うむ」と一言置くと勝ち誇ったかの様な顔をした。

 

「さて?どうやら我輩の予想は当たっていた様ですな…。ルーピン、君がお友達のブラックを手引きしているとね。だがその様子を見る限り、君たちは我が校の優秀な生徒の実力を履き違えていたと見える」

 

スネイプはかなりウキウキしていた。

と刀原はそう思った。

しかし、どんな恨みがあるのかは知らないが邪魔されるわけにはいかない。

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

 

「ではトーハラ。彼奴らを長の前へ引っ立てる手伝いをしていただけますかな?」

 

「いえ、スネイプ教授。それはまだ早いです」

 

「……?何故かね?」

 

「それはまだ真相が明らかになっていないからです」

 

「真相だと?」

 

「はい。引っ立てるのは僕の推理を聞いてからでも遅くは無いかと」

 

「ふむ……。他ならない君の言葉だ。まずはそうしよう」

 

スネイプが譲歩したことにハリーは驚いていた。

刀原は、スネイプが退いたことに心の中でガッツポーズ*9しながら扉の前に立った。

 

「……では、今から真相を暴きます」

 

刀原はそう言って話し始めた。

 

 

 

 

 

「まず、ルーピン教授について。ルーピン教授はある一定の時期、いや周期で体調を崩されます。そのヒントは僕らの最初の授業にありました。ルーピン教授に対しボガートが変身したのは満月でしたね。そして体調を崩すのは、決まって満月の時です。そしてこれから導かれる答えは一つ。つまりリーマス・ルーピン教授は狼人間だと言うことです」

 

「狼人間…」

 

ハリーとロンが驚いた表情になる。

ハーマイオニーがそうならなかったのは俺たちと同じく気が付いていたからだろう。

 

「ああ、その通りだ。私は幼い時にフェンリール・グレイバックという狼人間に噛まれ、狼人間になった」

 

ルーピン教授が疲れた様子で話した。

 

「ダンブルドア教授は私に学びの機会をと思って下さり、入学を許可してくださった。そしてその対策として『叫びの屋敷』を作り、ここへのトンネルの出口に暴れ柳を植られたのだよ」

 

ルーピン教授の告白を受けながら推理を続ける。

 

「ルーピン教授、シリウス・ブラック、ピーター・ペティグリュー、そしてハリーの父親であるジェームズ・ポッター。彼らは友人だった。彼らは友人で、ルーピン教授が狼人間であることも暴いた。そして『忍びの地図』の設計者であり、製作者でもある。ルーピン教授がムーニーですね?」

 

「その通りだ」

 

「そしてブラックがパットフットですね?」

 

「ああ」

 

俺がそう聞いていけばルーピン教授とブラックが認める。

 

 

「先ほど見た通り、ブラックはアニメーガスだ。何故か。おそらくルーピン教授の為にアニメーガスの技術を習得したからだ。狼人間へと変身したルーピン教授と共に行動が出来るように」

 

「ああ、ジェームズやシリウス、ピーターは必死になって習得してくれた。私を一人にしない様にとね」

 

ルーピン教授がそう言う。

 

 

「そしてやはり気になるのはワームテールとプロングスはどっちか、ということだ。まあ、さっきまでパットフットも確証が無かったけどね。……実は言うと僕は既にワームテールの答えを気付いていた……理由はハリーの証言だ」

 

「僕の?」

 

「そう。ある晩、ハリーは地図を見ていた。すると地図には死んだ筈のピーター・ペティグリューの文字があった。そうだったね?」

 

「そうだよショウ。でも地図が壊れてたからだよ。追いかけても見つからなかったし」

 

「そう、ハリーは見つけられなかった。だが地図が正確で間違っていないとなると、ハリーは何故見つからなかったのか?暗い深夜の廊下だ。しかも相手は人だと思っていた。だからハリーには見えず、気付かなかったのだ。足元をすり抜けた………ペディグリュー、ネズミを。ルーピン教授。……ピーター・ペティグリューは、ワームテールと呼ばれ、変身したのはネズミなのでは?」

 

「その通りだが、何故そうだと?」

 

「簡単な話です。製作者のコードネームには動物の特徴が由来になっている。そのうちパットフットはイギリスの北部の伝承に伝わる魔犬のことと、犬の柔らかい肉球を指す言葉。つまり犬。プロングスとは角の枝分かれという意味からおそらく鹿、或いはトナカイ。どれも隠れられる動物ではない。一方、ワームテールとはネズミの尻尾を指す。つまりそういうことです」

 

「正解だ」

 

 

「でもショウ。ピーターはもう死んでるのよ?」

 

「そうだよ。こいつが爆殺したんだ!」

 

「小指一本しか残さずにね」

 

ハーマイオニー、ハリー、ロンがそう言う。

 

「確かにそう言われている。だがまあ、聞いてほしい」

 

俺がそう言えば三人は静かになってくれた。

 

「三人の言う通り、ペディグリューはブラックによって爆殺された。小指一本しか残さずに。()()()()()()()()()()()()()()()()。本来なら他の部位が残っていてもいいのに。それこそ他の指とかね。…散々考えた末、小指一本しか残らない条件を二つ見つけました。一つ目はまぐれ、偶々、奇跡的。二つ目は…()()()()()()()……。つまりブラックが爆破呪文を使ったのでは無く、()()()()()()()()使()()()()()

 

「…目撃証言がありますぞ?見た者も大勢いた」

 

スネイプ教授が聞いてくる。

 

「確かにそうだと聞いてます。ですがそれはペディグリューがブラックを叱責した直後、爆発し、残ったのはブラックだった。ではありませんか?」

 

「……確かにそうだ」

 

「でもショウ。ブラックが裏切り者だった!こいつが父さん達の居場所をヴォルデモートに教えたんだ!」

 

「それについては予想が出来てるよハリー。だけどまずはペディグリューとブラックとの疑問についてだ」

 

「……分かった」

 

「ありがとう。さて、先ほど言ったことを覚えていますか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことです。僕はペティグリューの遺骸が小指一本だということを聞いた直後から、ペティグリューは生きている可能性があるという事だけ分かっていましたが、それは机上の空論でしかありませんでした。そしてその時はどうやってペティグリューが爆殺されたと見せかけた後逃れたのか分かりませんでしたが、ここでようやく分かりました。簡単な話です。ペティグリューはアニメーガスなのでネズミになり、そこら辺の下水道に逃げ込んだのです」

 

 

 

「これまでの推理はペティグリューが自らの死を偽装する方法です。何故そうせざる得なかったかについては後程。さて、僕は何故死んでいないという可能性を考えたのか。それはブラックの脱獄とやって来た理由です」

 

「ブラックが脱獄してやって来た理由?」

 

「そんなの僕の命だろう」

 

「いいやハリー。ブラックの目的はハリーじゃない」

 

「「「ええ!?」」」

 

「ブラックは今まで三回、襲撃してきた。一回目はグリフィンドール寮に入れず失敗。二回目はグリフィンドール寮に入り込めた。だがブラックが狙ったのはロンのベットだった。当初は間違えただけだと思いましたが、実は間違えてなかった。そして三回目もロンを狙い、今度は連れ去る事に成功した」

 

「ウィーズリーをかね?」

 

「ええ、そうですよスネイプ教授」

 

「なんで僕を?」

 

「それはこれから。さて、三回目の襲撃ではハリーを確実に狙えましたが、やはり狙ったのはロン。ここまで来たらブラックのターゲットがハリーでは無く、ロンであることが分かる筈です。しかしどうやらロンの命では無い様子。では、何が目的なのか。誰がターゲットなのか……!」

 

 

 

 

 

「……シリウス・ブラック。貴方は脱獄する直前、新聞を貰ったそうですね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「まだ持っていますか?持っているなら見せて頂いても?」

 

「…分かった。左のローブに入ってる」

 

俺はブラックのローブに手を入れ、クシャクシャの新聞を見る。

 

「……やはりそうか」

 

見た後、確信した。

間違っていなかったな。

 

「これは約一年前の新聞です。内容は賞金でエジプトに行ったある家族の事。すなわちウィーズリー一家のことです。当然ここにはロンも映っています。そして、一年前から様子がおかしくなったネズミ……スキャバーズもね」

 

「まさか…」

 

「そんな馬鹿な…」

 

ハーマイオニーとスネイプは察したらしい。

 

「スキャバーズには特徴がある。十二年も生きている事、エジプトから帰ってきた時から様子がおかしい事、ロンからも逃げようとしている事、霊圧が人並にある事、そして……指が一本無い事」

 

「だから何なんだ!ショウ!まさかこいつが、スキャバーズが()()()()()言いたいのか?」

 

「その通りだ。でなければロンが狙われる理由がない」

 

「……」

 

「ロン。スキャバーズを渡してくれ。スキャバーズは違うという証明をしたい。無論、ただのネズミならこれで傷つくことは無い」

 

「分った……」

 

「ありがとう」

 

未だキーキー喚くスキャバーズをロンから受け取る。

 

「『レベリオ(現れよ)

 

そしてスキャバーズを掴みながら呪文を唱える。

 

スキャバーズは床に落ちる。

そして先ほどまでネズミだったものは小柄な男となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
主がハリーかロンかはこの際置いておく

*2
あの()()()()()()()()()()本を手放していた

*3
なお言い訳は「ブラッジャーと間違えた」

*4
一種のトリップ状態だったと推察される

*5
どうせまた来年には現れるが

*6
相変わらず()()()()()()()()()キーキー踠いていたが

*7
当然、失礼ではあるが他所様の家である可能性も捨てきれないが

*8
全て諦めたからかもしれないが

*9
なお譲歩しなかった場合、遺憾ながら武力で制圧するつもりだった






投稿が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
頑張って投稿間隔を維持したいと思いますので、今後とも宜しくお願いいたします。



推理ショーを行ったのは筆者の趣味です。
問答無用で正体を暴くことも出来ましたが、それはそれでつまらないと思いまして。

なお、刀原・雀部のタッグが本気を出せば、大人を含めた全員の武力制圧は可能だと考察しています。

原作では恨みで冷静さを失っていたスネイプが大人しく退いたのも、ゴネたら武力制圧されると踏んだからですね。
なお、ハリーも同じくです。

ちょっとした抑止力ですね。


感想、考察、ご意見、評価。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。



では次回は
死神とアズカバンの囚人編 決着と終幕
次回もお楽しみに



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