洗脳
拷問
殺人
人が起こす業
許されるものではない。
昨年と同じく最悪な天候だな。
刀原はクィディッチ・ワールドカップでの出来事を熱く熱く語るハリーとロンの話を聴きながら、窓の外が土砂降りなのを見てそう思っていた。
クラムが凄かっただの。
ナントカフェイントだの。
刀原と雀部は、それを既に何回も聞いているであろうハーマイオニーと共に相づちをうっていた。
そして隣から漏れ聞こえた影響で、ホグワーツやマホウトコロと同じく魔法学校のダームストラングの話題になる。
『闇の魔術に相当な力を入れてる』という噂のダームストラング魔法学校。
相まみえる時が楽しみだ。
刀原はそう思っていた。
「ウィーズリー。言い方は悪いが……こんなのを本当に着るつもりか?1970年代に流行ったものだぞ?」
そう言ったのはマルフォイ。
ダームストラングの事を話していた隣とはマルフォイの事であり、ダームストラングの話をしていた刀原達に平然と混ざってきたのだ*1。
「うるさいマルフォイ……。全く、どうしてママはこんなのを僕に持たせたんだろう?」
マルフォイの言葉を受け、苦々しい顔をしながらロンはこう言う。
こんなのとは、ロンのトランクからはみ出てているドレスローブの事だ。
おそらく例の件で使うことになるドレスローブ。
残念ながら趣味がいいとは言えないそれは、古い以前にダサかった。
「災難だな……ところで、君たちエントリーはするのかい?特に…ショウ達は出るのか?」
心底同情するといった顔のマルフォイが続いて言った言葉に、首を傾げるハリー達。
どうやら例の件について、ハリー達は知らないらしい。
「俺と雀部は
「なに、そうなのか?」
「ああ……まあ、結果はもう見えてるがな」
刀原は腕を組みながらそう言う。
その横に居る雀部もうんうんと頷いている。
「どういうだ?それは君が中立でいる事に関係があるのか?」
「まあな」
どうやらマルフォイは、例の件が実施されることは知っているが
それらを聞いた後、マルフォイは去っていった。
「一体、何があるんだい?」
ロンがじっと刀原を見ながらそう言う。
「外交的な守秘義務があるから黙秘する。ただ……悪い事じゃないのは確かだ」
刀原はニヤリとしながらそう言った。
「あの闇の印……誰が出したか分からないんですって。会場の警備、どうなってたのよ?」
日刊予言者新聞*2を読みながらハーマイオニーがそう言い放つ。
クィディッチ・ワールドカップ決勝戦が終わった後、会場付近のキャンプサイトは襲撃を受けた。
そしてその際、会場の空にはヴォルデモートの象徴とされる『闇の印』が打ち上げられていたのだ*3。
「厳重だったってパパが言ってた。なのにしてやられた。だから大騒ぎになってるんだ」
ロンがそう言う。
クィディッチ・ワールドカップの決勝戦ともなれば各国の魔法界から来賓が多数来るだろうし、そこで事件なんか起きれば*4英国魔法省は大失態となり看板にも泥が付くことになる。
先日に冤罪事件が起きていた為、よっぽどだ。
闇祓いをはじめとする警備陣はおそらく死力を尽くしたのだろうが、敵が一手上回ったという事だろう。
「なんにせよ、警戒は必要だな。シリウスの意見はどうだった?」
「ショウと同じで、警戒しておいた方がいいってさ」
刀原がハリーに聞けば、ハリーはそう答えた。
シリウスはペティグリューを合法的に追いかけるため、ハリーを守りやすくするため、闇祓いの職に就いた。
すなわち追いかける側に前日まで追いかけられる側の一人が加わったということであり、刀原はそれを聞いた時に苦笑したのを思い出した。
そうこうしているうちに汽車はゆっくりとしたスピードとなり、間もなくホグワーツであるというアナウンスが流れる。
外は相変わらずの土砂降りであった。
大広間での組分けも終わり、ダンブルドアは言う。
「思いっきり、掻っ込め」
実に単純で明快な一言であり、生徒の全員が一斉に現れた食べ物にガブリついた。
因みに、ハーマイオニーはワールドカップの会場の一件が原因で屋敷しもべ妖精の労働環境に憂いる点が出来たらしく、ホグワーツのご馳走に手を付けようとしなかった。
しかし雀部が「食べないんですか?折角作ってくれた妖精たちに感謝しながら、美味しく食べましょう」とニッコリと笑い、刀原が「ハーマイオニー、屋敷しもべ妖精の生きがいを奪ってやるな。彼らはそれが幸せなのだから」と言えばおずおずと食べ始めたが。
やがて全員が腹が満たされたあと、ダンブルドアが立ち上がり、話し始めた。
「さて……みんなよく食べ、よく飲んだことじゃろう。いくつか知らせがあるので、もう一度耳を傾けてもらおうかの」
ダンブルドアが生徒たちを見回して言う。
「まず管理人のフィルチさんからお知らせじゃ、持ち込み禁止品リストが更新されて、新たに437項目が加わった。一応、リストはフィルチさんの事務所で閲覧可能じゃ」
直後に「確認したい生徒がいればじゃが」と追加してるところをみると、ダンブルドアは効果があるとは全く思っていないらしい。
「続いて新しい『闇の魔術に対する防衛術』の先生じゃが、」
ダンブルドアがそこまで言ったタイミングで、大広間にある魔法の天井から雷が鳴り、雨が降り始めた。
ふざけた天井だ。
刀原はそう思い、杖を取り出して雨雲を吹き飛ばそうとしたが、それよりも先にそれを行った者がいた。
戸口に立っていた異様な風貌の男だ。
片足はおそらく義足。
片目もおそらく失陥し、義眼。
いかにも歴戦の戦士といったところだ。
「ふざけた天井だ……」
「フフッ、そうじゃの」
男がダンブルドアと握手したあと、ボソッとそう言い放ち、ダンブルドアも同意した。
「紹介しよう。新しい『闇の魔術に対する防衛術』の先生、元闇祓いのアラスター・ムーディ教授じゃ」
ダンブルドアは教員テーブルに座り、辛うじて残っていたディナーにがっつき始めた男をそう紹介した。
例年通りに禁じられた森への立入禁止とホグズミード村へは三年生からという連絡が行われた。
「次に……これを知らせるのはわしにとっても辛いことなんじゃが……今年のクィディッチ寮対抗試合は、全て取り止めとする」
「あーはいはい」的な感じで聞いていたハリー達だが、この言葉で空気がガラリと変わる。
選手であるハリーは勿論、熱心なファンであるロンなどが絶句する。
巻き起こるブーイングの嵐。
「皆の気持ちはよう分かる。じゃが、これも十月から始まり今学期末まで続くイベントの為なのじゃ……」
ダンブルドアがそう言えば生徒達も押し黙る。
「わしとしても、この開催を発表するのは大いに嬉しい……。これから数ヵ月間にわたり、我が校は誠に心踊るイベントを主催することになった。ここ約二百年ほど行われていなかったイベントじゃ……」
ダンブルドアはここで一度言葉を切り、告げた。
「今年、ホグワーツにおいて
この宣言に「ご冗談でしょう!」と声を張り上げた双子を皮切りとして、誰もが興奮していた。
ダンブルドアはその後、大まかな経緯とルールを説明する。
英国魔法省の『
代表選手を一名選出し、過酷な課題に挑むこと。
などなどだ。
「さて、従来ならトーナメントにはヨーロッパの魔法学校が参加する。ボーバトン、ダームストラング、そして我がホグワーツがの。じゃが、此度から新たな魔法学校を加えることとなった。それは十月までのお楽しみじゃ」
ダンブルドアがそう言ってウィンクする。
「ボーバトンとダームストラング、そして新たな参加校の校長が代表選手の最終候補生を連れて十月に本校へと来校し、ハロウィーンの日に代表選手の選考を行う。試合に相応しいと判断された選手が選ばれるのじゃ。そして優勝杯、学校の栄誉、そして選手個人への賞金一千ガリオンと、永遠の名誉を賭けて戦うのに誰が相応しいかを、公明正大なる審査員が決める」
沸き立つ大広間。
立候補を表明する多くの生徒。
そしてダンブルドアがまた口を開き、それに気がついた大広間が再び静まり返る。
「全ての諸君が、優勝杯をホグワーツにもたらそうと熱意に満ちているとは承知しておる……。しかし参加する各校長及び魔法省は、今年の選手に制限を設けることで合意した。安全の為じゃ。ある一定の基準……具体的には十七歳以上の生徒だけが、名乗りを上げることが許される。わし自らがそれを判断する『年齢線』を引くので、くれぐれも基準に満たない者は審査員に名前を提出したりして、時間の無駄をせんようにな」
「年齢線ってのは、確か……魂の年齢で判断される魔法だったはず」
ホグワーツはトーナメントの開催が発表された数日間、年齢線とは如何なる魔法で、どうすれば
そして意見を求められた刀原の結論がこれだ。
フレッドとジョージ、その他数名は老け薬の確保に乗り出したが、それは魂の年齢には全く関係ないので疑問を呈する声も多かった。
そしてそれ以前の話として。
年齢線を出し抜くということ。
つまり……。
無理じゃね?
という結論になったが*5。
世紀の一大イベントなど関係無く授業は行われる。
「去年は良かったんだが、今年は大丈夫かねぇ?」
そう言うのは刀原だが、それは多くの生徒達も心は同じだった。
それ故に駄目だった時の反動は大きい。
最高からの転落が何より堪えるのだ。
そして望みは薄いというのが最初の評判だった。
アラスター・ムーディ。
通称はマッド-アイ。
最近はイカれてるという噂がある伝説の闇祓い。
捕獲した死喰い人で、アズカバンの半分を埋めたと言われている。
なお、非常に用心深い性格らしく、水分を取る時も毒殺を警戒しているのか、自分の携帯用の瓶からしか飲んでない*6。
「教科書なんぞ要らん。仕舞ってしまえ」
ムーディは入って来て、威圧感たっぷりの風貌とグルグル回る魔法の瞳で生徒たちを睨みつけたあと、そう言い放った。
凄みのある声に、生徒達はいそいそと教科書を鞄に仕舞い直す。
「アラスター・ムーディ。元闇祓い。ダンブルドアの依頼で一年間だけ教鞭を取る。以上だ」
実に簡素で簡単な挨拶だった。
「え? ずっといるんじゃないの?」
ロンが思わずという感じでそう聞く。
「ああ、一年だけだ。ダンブルドアのために特別にな……その後は静かな隠遁生活に戻る」
そう言ってムーディは語る。
「さて、わしの役目は、魔法使い同士が互いにどこまで呪い合えるものなのか、お前たちを最低線まで引き上げることにある。お前たちは遅れている。呪いの扱い方について、非常に遅れている。魔法省によれば、わしが教えるべきは反対呪文であり、そこまでで終わりらしい。だがわしに言わせれば、戦うべき相手は早く知れば知るほどよい。見たこともないものから、どうやって身を護るというのだ?え?」
実践に勝るもの無し。
理論は時に役に立たない。
それは戦場に出たものなら痛感するものだろう。
「今まさに違法な呪いを掛けようとする魔法使いが、ご丁寧にこれからこういう呪文をかけますなどと教えてはくれん。面と向かって、親切に優しく闇の呪文を掛けてくれたりせん。お前たちは備えなければならん。緊張し、警戒しなければならん」
ムーディはそう語った。
そしてそれを聴きながら刀原と雀部は仕切りに、うんうんと頷いていた。
油断大敵。
慢心ダメ絶対。
刀原はそう思っていた。
「さて、魔法界で最も厳しく罰せられる呪文が何か……知っておる者も多いだろう」
許されざる呪文。
洗脳、拷問、そして殺人を可能とする呪文。
1717年、ヒトに対して使用することを禁じられた三種の闇の魔術であり、ヒトに対して1つでも使用すれば、英国ではアズカバンで終身刑になるとされている。
ムーディが聞けば何人かがパラパラと手を挙げ、その中からムーディはロンを指名した。
「えーと。パパが一つ話してくれたんですけど……『服従の呪文』」
「ああ、お前の父親ならよく知ってる筈だ。魔法省は散々てこずらせたからな」
ムーディは「訳を教えてやる」と言い、机の引き出しからガラス瓶を取り出し、クモを一匹つかみ出して手のひらに乗せた。
実際にやるのか。
これから起きることを予期した刀原が、苦虫を噛み潰したような顔をする。
雀部も同じ顔をしていた。
「『
杖先から閃光が零れた瞬間、クモはムーディの手から飛び降りると、様々な曲芸をやってみせる。
自分の吐いた糸で空中ブランコをし、後ろ宙返りをし、側転をするクモ。
その動きに、ほとんどの生徒が笑っていた。
「面白いと思うのか? わしがお前たちに同じことをしたら、喜ぶか?」
そう言えば、笑い声は瞬時に消える。
「完全な支配だ。わしはこいつを、思いのままに出来る。窓から飛び降りさせることも、水に溺れさすことも、なんだってな」
『服従の呪文』
対象を自分の絶対的支配下に置く魔法。
これを掛けられている間、対象者は最高の気分になり、術者の命令ならば普段出来ないようなことでも実行するようになる。
「無理に動かされているのか、自らの意思で動いているのか、それを見分けるのが、魔法省にとって難しい仕事だった……」
掛けられているの分からず、おまけに「誰が裏切っているのかわからない」「誰を信じていいのかわからない」という状況を作り出し、社会全体を疑心暗鬼の渦に取り込むことができる。
洗脳以上の危険性を持った術だ。
「この呪文と戦う事はできる。もちろん呪文をかけられぬに越したことはないがな」
そう言ってムーディはクモをつまみ上げ、ガラス瓶に戻し、そして改めてクラス中を見渡した。
「他の呪文を知っている者はいるか?」
ムーディ先生が当てたのは、なんとネビルだった。
ネビルが自ら進んで答える姿を、刀原は初めて見た。
「一つだけ……『磔の呪文』」
「お前はロングボトムだな?」
ネビルは恐る恐る頷く。
ムーディは二匹目のクモを取り出して肥大呪文を掛け、再び杖を上げて呪文を唱えた。
「『
途端にクモは痙攣し、ひっくり返り、苦しげにピクピク身を捩った。
「やめて!」
「止めてください!」
ハーマイオニーと雀部の声にムーディは杖を離し、クモを縮ませてガラス瓶の中に戻す。
そして言葉を紡いだ。
「苦痛。『磔の呪文』が使えば、拷問に『指締め』もナイフもいらない……これもかつてさかんに使われた」
『磔の呪文』
想像を絶する苦しみを与える拷問用の魔法。
全力で何度も繰り返しかければ、相手を発狂させて廃人にする事も可能という呪文。
通常の拷問とは違い肉体は損なわれず、傷まず死ぬこともないため、繰り返して行うことも出来る。
「他の呪文を何か知っている者はいるか?」
響くムーディの声。
そして少し間が空いて、ハーマイオニーが「『アバダ ケダブラ』」と囁いた。
「そうだ。最後にして最悪の呪文。『アバダ ケダブラ』……死の呪いだ」
ムーディは再びクモを掴み、そして唱えた。
「『
「気持ちの良いものではない。しかも、これら禁じられた呪文に反対呪文は存在しないから、防ぎようもない。これを受けて生き残った者は、たった一人しかおらん」
ムーディがハリーを見てそう言う。
『死の呪文』
呪文を防ぐための反対呪文が存在せず、命中すれば問答無用で即死させるという最凶にして最悪の魔法。
かつて日本で起き、その時殺害された者の検死を担当した医師達は「死んでいるという事実を除けば、医学的には健康そのものである」という見解を示し、共に検死した卯ノ花もそれに同意した。
そして刀原が知りうる限り、鬼道にこのような凶悪なものはない。
「これら、許されざる呪文を使うには強力な魔力が必要だ。お前たちがわしに向けてこの呪文を放ったところで、鼻血さえ出させられるかも怪しい」
つまり裏を返せば、禁じられた呪文を使えるということが、力のある魔法使いという証明になるということだ。
最も、そんな形で証明などしたくはないが。
「備えが、武装が必要だ。しかし、何よりもまず、常に、絶えず、警戒することの訓練が必要だ。羽根ペンを出せ……これを書き取れ……」
それ以降は『許されざる呪文』のそれぞれについてノートを取ることに終始し、授業は終わった。
授業が終わるまで、誰もが沈黙していた。
しかし授業が終わり、教室を出た瞬間、ほとんどの生徒が興奮したように喋り始めた。
「……少なくともマシですか?」
「……少なくともマシではある」
雀部がそう聞き、刀原がそう答えた。
なお、これ以降の授業は驚愕の内容になる。
「今日の授業では『服従の呪文』を生徒一人一人にかけて、お前たちが抵抗できるかを試す」
なんとも、ムーディはマッドな考えをしていた。
ちなみに、抵抗できたのは三名。
「僕はしないぞ!」
気力で抵抗したハリー。
バチィ!
「やっぱり」
電撃の霊圧でシャットアウトした雀部。
パチン!
「デスヨネ」
斬撃の霊圧でシャットアウトした刀原。
特に刀原、雀部は三回やっても結果が同じだったので、以降は免除となった。
シャットアウトできた理由など単純である。
深層心理で密接に繋がっている斬魄刀が、主人を洗脳させる筈がないのだ。
何を考えているのかは不明だが、犯行を高らかに宣言し、それを自慢しているかのようだと。
《
先の特別隊首会での結論はこれになった。
「正攻法では無理に近い」
「
と言い放った。
なお、鬼道や斬魄刀を使えば不可能ではないということは伏せた。
少なくともカボチャジュースでは無いだろう
BLEACHに許されざる呪文要素はなかったはず。
洗脳……。
いや、あれは催眠であって洗脳ではないですよ!
即死させる鬼道はないですよね。
まあ、当たらなければどうと言うことは無いですし。
映画の描写も交えながら書いています。
感想、考察、評価、お気に入り、誤字報告。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。
さて次回は
想定外の選考選手
次回もお楽しみに