運命など信じぬ
特別など有りはせぬ
目立ちたいだけだろう
そうに違いない
違いないのだ
真実は残酷なので
絶対に見ない
昔も
今も
これからも
見ないふりをする。
十月三十一日はハロウィーンである。
必ず毎年盛り上がり、かつ事件が起きる*1ハロウィーン・パーティーだが、今年は生徒全員がそわそわしており、大半の生徒が食事に集中していなかった。
そしてついに皿がまっさらな状態になり、ダンブルドアが立ち上がると大広間は静まり返った。
「さて、わしの見るところ、ゴブレットはほぼ決定したようじゃな……」
ダンブルドアがそう言った。
「あと一分ほどじゃの……。さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは教職員テーブルに沿って進んで隣の部屋に入るように……。そこで最初に指示が与えられるであろう」
そう言ったダンブルドアは杖を取って大きく一振りし、ほぼ全ての蝋燭を消して部屋を暗くした。
その暗闇の中で『炎のゴブレット』は明々と輝き、青白い炎が実に美しかった。
やがて炎は赤くなり、火花が飛び散り始めた。
次の瞬間に炎が燃え上がり、焦げた羊皮紙が一枚だけハラリと落ちてきた。
「ダームストラングの代表選手は……」
ダンブルドアがその羊皮紙を捕らえ、力強く、はっきりした声で読み上げる。
「ビクトール・クラム!」
「そうこなくっちゃ!」
大広間は拍手の嵐、歓声の渦に包まれた。
クラムはテーブルから立ち上がり、前屈みにダンブルドアの方に歩いていく。
そして隣の部屋へと消えた。
そうこうしている内にゴブレットの火が赤く燃え上がり、二枚目の羊皮紙が飛び出した。
「ボーバトンの代表は……フラー・デラクール!」
ダンブルドアが読み上げた。
ロン曰くヴィーラに似ているという女子生徒が優雅に立ち上がり、クラムと同様に隣の部屋に消える。
そして沈黙が訪れ、僅かな間を置いてゴブレットが燃え上がり、紙が飛び出す。
「マホウトコロの生徒は……なんて読むんじゃ?」
ダンブルドアが読み上げようとして首をかしげる。
それを受け、何人かがずっこける。
「あんのアホどもが……」
刀原は頭を抱えながら、助けを求めているように見えるダンブルドアの元に向かう。
「すまんの……流石に読めんかった」と謝ってきてので「……後で言い聞かせておきます」と返す。
そしてダンブルドアが持っている紙を見て「成る程、予想通りだな」と小声で言った後、ダンブルドアに書かれている名前を教える。
ダンブルドアは刀原から聞き、改めて宣言した。
「マホウトコロの代表は……トーシロー・ヒツガヤ!」
マホウトコロの代表は日番谷だった。
日番谷はテーブルから立ち上がり、ダンブルドアと刀原の元に向かう。
【英語で書け、アホンダラ】
【すまん、つい】
刀原がジト目になりながらそう言えば、申し訳なさそうに後頭部を掻きながら日番谷がそう謝った。
珍事が起きてしまったが、代表の選定は続く。
刀原は
そしてゴブレットが赤く燃え上がった。
「ホグワーツの代表選手は……」
「セドリック・ディゴリー!」
ハッフルパフから大歓声が上がり、生徒達が総立ちになって拍手する。
セドリックはニッコリ笑いながらその中を通り抜け、隣の部屋へと向かった。
大歓声は暫くの間続いたが、やがて収まった。
「結構、結構!さて、これで代表選手が決まった!選ばれなかった生徒たちも、あらんかぎりの力を振り絞って代表選手達を応援してくれい。選ばれるだけではない。勝ち残った者のみが、」
ダンブルドアがそこまで言って言葉を切った。
もう赤くなる筈がないゴブレットが、再び赤くなったからだった。
そして紙が出てくる。
代表選手が選ばれた時と同じように。
ダンブルドアが反射的に手を伸ばしそれを捕らえ、そこに書かれていた名前を見て、こう呟いた。
「ハリー・ポッター……」
そこには、想定外の選手になる名前が書かれていた。
大広間にいる全員が、ハリーの方を見た。
拍手も歓声も無く、痛いほどの沈黙が流れる。
「僕、名前を入れてない……」
ハリーは、放心したかのようにそう言った。
しかし、ロンもハーマイオニーも何も言えなかった。
「ハリー・ポッター!」
ダンブルドアが沈黙の中、そう叫んだ。
「行くのよ…。行かなきゃ」
ハーマイオニーがハリーの背を押しながらそう言い、ハリーは立ち上がり、ゆっくりと前に出た。
誰も何も言わず、ただ驚いた顔のままだった。
その中、刀原は天を仰いだ。
隣にいた雀部は、額を手に乗せていた。
やがてハリーが隣の部屋へと消えると、大広間の全員が騒ぎ出す。
ダンブルドアは「では、これで選定は終わりじゃ……解散」とだけ言い、隣の部屋へと向かった。
そしてそれにクラウチやカルカロフ、マダム・マクシーム、藍染、マクゴナガル、スネイプ、ムーディーが続いた。
生徒達は「不正だ!」「ポッターが出れるなら、何で俺が出れないんだ!」と騒いでいる。
「全く、面倒なことになった……」
刀原はそう吐き捨てたあと、立て掛けてあった斬魄刀を持って隣の部屋へと向かった。
「ダンブリー・ドール。これはいったい、どういうこーとですか?」
「私にも、是非知りたいですな」
俺が部屋に着けば、マダム・マクシームとカルカロフがそう言っていた。
「刀原君、来たのか。ご覧の通りだ」
藍染がやれやれといった感じでそう言った。
「ダンブルドア校長、紙を拝見しても?」
俺の言葉に
「へぇ?」
俺はその紙を見て、何と無く推察する。
そんな事をしている間にハリーは尋問を受けており、特に目の敵にされているスネイプのねちっこい目は、意地悪く光っていた。
「君は『炎のゴブレット』に名前をいれたのか?」
「いいえ」
ハリーはそう言うが、大半の者が「信じるものか」と言った感じだ。
「上級生に頼んで『炎のゴブレット』名前を入れてもらったのか?」
「いいえ」
「誓って本当じゃろうな?」
「はい、本当です!」
ダンブルドア校長が尋ね、ハリーは激しい口調でそう答えた。
「でもこの
マダム・マクシームが叫ぶ。
「
「ダンブリー・ドールがまちがーえたのでしょう」
マクゴナガル教授がビシッと言うがマダム・マキシームが肩をすくめながらそう言った。
「それはあり得ないですよ」
そうハッキリ言ったのは刀原。
「トーハラ……」
マクゴナガル教授がそう言えば、マダム・マクシームとカルカロフは「トーハラ……まさか、あの?」といった反応をした。
「ダンブルドア校長が間違えていたのであれば、未成年のホグワーツ生の何人かが名前を入れている筈です。
俺がそう言えば、大半の者が「ぐぬぬぬ……」と言った感じとなった。
「更に、ハリーの名前が書かれていた紙には学校名が書かれていませんでした。つまり……ハリーは本来はない五校目の代表としてゴブレットに名前を入れた、いや、
「入れられた?」
「まず……ゴブレットの魔力は強大です。そんなゴブレットを欺くには強力な『錯乱の呪文』を掛けるほか無いと思います。当然ながら、ハリーにそんな事が出来る筈ありません。おまけに書かれていた文字は、ハリーの筆跡ではありませんでしたし。つまり、ハリー以外の第三者……しかもゴブレットに無いはずの五校目を誤認されられる力量を持つ者が、ハリーの許可も無く、勝手に入れたということになります」
「反論があればどうぞ」と続けて言う俺に、反論してくる者はいない。
と思っていた。
「随分と分かったような口を言うな?ミスタートーハラ……。噂に聞く君の実力なら、それが出来るのではないかね?まさしく君の言った手口で……」
そう言ってきたのはカルカロフ。
威圧するように言ってくるが、恐ろしくもなんともない。
「そうですね。確かにやろうと思えば出来ます。理由はハリーを代表にさせたいから?それともハリーに頼まれたから?」
「自白するのか?」
「何故?」
「は?」
「何故、犯人自らベラベラと手口を言う必要があるんです?そのような利点は一体どこに?」
「それは……」
「彼はハリー・ポッター、栄誉なら既に持っている。ヴォルデモートを倒した『生き残った男の子』としてね。それにポッター家はかなりの財産を有していることから賞金など目も暮れないでしょう。故に、彼は危険と非難されることを承知で立候補する事などあり得ない。それに僕はマホウトコロからの留学生です。つまり……マホウトコロの名を背負ってここに来ています。そんな事をすればマホウトコロの看板に泥を塗ることにもなる。断じて、そのような恥ずべき行為はしない」
「私も、彼の意見に賛成ですね」
高らかに言えば、後ろに来ていた藍染校長が俺の両肩に手を置いてそう言ってくれた。
「マホウトコロの現校長として、彼の事は理解しています。聡明で、実力も申し分なし。彼が出れば優勝は貰ったも同然だと思っていたので、今回の件で散々立候補しないのかと聞きましたが、断られました。本人曰く、留学生なのだからホグワーツ生に申し訳なく、マホウトコロ側で出ることもないとね。彼は誠実な子です。故に、彼はそのような真似は一切しない。私が……いや、私も含め、護廷十三隊の全隊長が保証致します」
藍染校長……。
「まあ、しかしじゃ。こうなってしもうては結果を受け入れる他あるまい。ゴブレットの火も消え、ホグワーツ以外の学校がもう一人の代表選手を選定することも叶わんしの……」
ダンブルドアはまとめるようにそう言う。
「ダンブルドア校長、そして各校長の皆様、こうしては如何ですか?魔法契約*2なので、ハリーは参加させる。但し、ホグワーツの代表としてでは無い。もし優勝したら、報酬として賞金は貰える。しかし、優勝しても優勝杯と学校の栄誉は、その後に代表選手同士の正々堂々とした決闘の勝者の物とする。まさか賞金目当てで立候補した者などいないでしょうからね?」
俺がそう言えば「それは名案じゃ!」とダンブルドアが言い、各校長も「まあ、それなら……」といった感じで落ち着いた。
俺は心の中で「勝った」と思った。
もし決闘となったら、勝者は決まっている。
「では、それでいこう……」
そうクラウチ氏が言い、彼によって競技について簡単な説明が始まった。
「トーハラ君、ちょっと残ってくれんかの?」
ダンブルドアは刀原を残るようにそう言い、ふたりは校長室へと移動した。
最早恒例となってしまった
「どう思うかね?」
「おそらく罠かと。もっとも、
ダンブルドアの問いに、刀原はそう答えた。
「ハリーを競技中に殺すのが目的か、我々の眼を眩まして拉致るのが目的か、それ以外か……。これらのどれかは分かりませんが、少なくとも……悪いことへの前触れであるのは間違いないかと」
「同感じゃ」
そう付け加えた刀原の言葉に、ダンブルドアは頷きながら肯定する。
「それで?どう対処するおつもりですか?」
「辛い決断じゃが……手を出さず、成り行きを見るほか無いと思う……。事の真相を見抜く為にはの……」
ダンブルドアはそう辛そうに言う。
「ハリーを囮にすると?」
「そうじゃ……」
「…………」
「言いたい事は分かる。後手に回るのは確かに良くない。受動的なのもな……。じゃが、真意が読めん以上、こうするほか無いのも事実じゃ」
「……
ダンブルドアの決断は理解出来る。
「とにかく、ハリーから目を離さんで貰えるか?」
「勿論です。お任せを」
「ありがとう。いま彼には心強く、かつ信頼における者が傍に居たほうが良い。只でさえ不安な筈じゃからな。試練のことしかり、此度の一件もしかりの……」
ダンブルドアはそう言って窓を見た。
暗い夜のホグワーツは相変わらず幻想的だったが、どこか不気味だった。
翌日。
ハリーへの視線は何とも言えなかった。
雀部曰く、ハリーが寮に戻ってきたら即座に宴会が行われたとのことだが、グリフィンドールからの全体的な反応は、
そして他の寮からの反応は、お世辞にも良いとは言えないものだった。
以上が各寮の反応だった。
中立1。
対立2。
日和見1。
おまけにボーバトン、ダームストラングの生徒からも、当然ながら
マホウトコロの生徒からは
ほぼ四面楚歌とは正にこの事だった。
マルフォイからも「毎年大変だな……。まあ、頑張れ……」という同情の言葉を言われてしまっていた*4。
ハリーは
正直、同情するなら代わってくれと思ったし、なんなら実際に言った*5。
そしてハリーにとって何よりもショックだったのが、ロンとの関係悪化だった。
優秀だったらしい長男と次男。
同じく堅物だが優秀なパーシー。
双子は問題児だが、彼らの悪戯グッズは中々に高度な技術で出来ており『馬鹿と天才は紙一重』だった。
ジニーは唯一の女子であり、モテモテだった。
つまり、ロンは個性的過ぎる兄妹によって自身が霞んでいるように感じていたのだ。
そして残念ながら刀原は、それについて
とにもかくにも。
ロンはハリーが自らの名前をどうにかしてゴブレットに入れたと思っており、ハリーを目の敵にし始めたのだった。
もっとも、数多くの生徒がそうであったが。
すなわち、ハリーが何者かに嵌められて代表選手となったとは夢にも思っておらず、自分の意志で代表選手になったと決めつけているのだった。
だが、いずれの理論にも欠けているものがあった。
『どうやって?』である*6。
どうやって
どうやってゴブレットに
彼らにはその『どうやって?』を覆す方法があった。
刀原である。
曰く、ハリーは刀原に頼み『どうやって?』を攻略した、とのことだった*7。
しかし、その理論は一週間で消え去る。
理由は二つ。
一つ目は『あの刀原がそんなことするとは思えない』である。
そして二つ目は……。
「んじゃ、その馬鹿な理論が正しいか、実際に試してやろうか?」
「え、あ、その、えっと」
「心配すんな、ちゃんと加減してやるから」
「すいませんでした!勘弁して下さい!」
当の本人が大広間で突っ掛かってきたスリザリンの七年生を論破した挙げ句、
願いがある
それはささやかな願い
もうたまにでいいから
平穏な生活をしたい
駄目なのだろうか?
ホグワーツ生って時々「頭足りてなくね?」と思うときが往々にしてあります。
いや、そう考えられないでしょ。
とね。
あと……ハリーの名前が書かれた紙を開示して、ダンブルドアら教授達が見解を示せば、少なくとも四面楚歌にはならないと思うんですよね。
なんでしないんでしょうかね……。
まさか、状況を説明されての態度でしょうか?
それだったら擁護出来ないです……。
まあ、年相応な態度でもありますけどね。
感想、評価、お気に入り、誤字報告。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。
さて次回は
第一の課題
次回もお楽しみに