とっておく
とは
余裕がある者だけの
特権だ。
クリスマスパーティーの翌朝。
全員が寝坊した。
そしてそれは早起きを習慣としているはずの刀原もそうだった。
グリフィンドールの談話室は、ここ一週間の浮かれようやお祭り感が無くなって通常運転に戻りつつあったし、昨夜は綺麗だったハーマイオニーの髪もいつもの様にボサボサに戻っていた。
「『スリーク・イージーの直毛薬』を使ったの。でも、面倒くさいから毎日やる気にはなれないけど」
「あの髪、一体どうやったの?」というハリー達の質問に対し、ハーマイオニーはそう答えた。
そして一夜明けて生徒たちも通常の休みに戻る中、人生最良とも言うべき時間を過ごした刀原と雀部もまた、ダンスパーティーに起こった出来事をハリーから聞かなくてはならなかった*1。
まず一つ目として……ハーマイオニーはロンとダンスパーティー中に、かなり揉めたらしい。
ロンはあれだけクラムをヒーローの如く見ていたにも関わらず「ホグワーツの敵」などと言い、ハーマイオニーに対しては「君は敵とベタベタしている。ハリーの内部情報を得ようとしているんだ」と言い放ったらしいのだ。*2
そしてそんなロンに対し、ハーマイオニーは「彼が到着したとき大騒ぎしていたのは、一体どこの誰?彼は私にただの一言も、ハリーの事を聞いてこなかったわ」と反論した。
ロンの思考は簡単にして単純。
嫉妬しているのだ。
だが当の本人はそれに全く気が付いていないようだし*3、言ったら意地になって認めないだろう。
せめて冷戦はやめてくれ、面倒くさいから。
聞いた刀原やハリーはそう思っていたが、二人は一夜明けてから争点には触れないと暗黙の了解に達したらしく、これ以上の進展は無かった。
二つ目として、スネイプとカルカロフの密会だ。
「我輩は何も騒ぐ必要は無いと思うが」
「何も起こっていないふりをすることは出来ない。数ヵ月の間にますますはっきりしてきた。否定することは出来ない」
これってなんのことだと思う?
と言ったハリーの言葉に、刀原はうーんと唸った。
「これから言う事は、大っぴらにしないと誓うか?」
刀原が真剣な表情でそう言えば、ハリーは「分った」と言う。
そんなハリーを見て、刀原は「よし」と言って頷く。
「日本魔法省情報調査部によると、イゴール・カルカロフは元
「じゃあ、なんでそれをスネイプに?……まさか」
「ハリー、憶測であまり言うな。だが、その可能性は十分にあるといっていいかもな……。兎も角、カルカロフは要注意人物って事になる。あまり一人で行動しない方が良い」
刀原は探るべき人が増えたことに頭が痛くなった。
カルカロフ。
スネイプ。
そして……いまいち警戒心が抜けないマッド・アイ。
このうちスネイプは除外してもよさそうと思っていたが…またお前か、とも思う刀原だった。
一部の例外を除き、ほとんどの生徒が思い出した宿題をする最中、既に宿題を瞬殺していた刀原と雀部、ハーマイオニーからなる『ハリーの第二の課題に対する対策作戦部』は本格的に動き出した。
「私はあの咽び泣くような声、というか音を何とかすれば……ヒントが聞けると思うのですが」
「確かにそうかも知れないけど、あるいは何か呪文でもかければ?」
「呪文が有効とは思えんが……。だが、雷華の案は近いと思う。特定の場所で聞けばヒントが聞けるとか?」
「特定の場所ですか?例えば?」
「そうだな、音が関係するところだと……何がある?」
「より静かなところとか、騒がしいところとかは?」
「静かな場所はともかく、騒がしい場所なら
「確かに……」
「それに生徒がどこでも聞ける場所ではないと……公平性に欠けますから」
「公平性か。それなら自然発生する物にも、音が変化するのがあるぞ」
「土とか水とか風とか?」
「その辺だな」
「それとあと、あれが何の音なのかにもヒントが隠されているような気がします」
「雷華、それ、いい案だ。なんの音か、か…」
「あんな咽び泣くような音、聞いたこと無いわ」
「声、か。鳴き声とかの可能性は?」
「魔法生物とかの?」
「ああ」
「うーん……」
「土や水、風に関係する生物で声……」
「……分かったぞ」
「え、」
「分かったの、ショウ?」
「ああ、おそらく
「成る程……確かに
「でも、どうやれば声が分かるの?確か
「
「ヒントが聞こえる……!」
「早速ハリーにやってもらいましょう!」
結果から言えば、正解だった。
そして唖然とした。
なんとハリーはセドリックから「風呂に行け」(ハリー談)という、ある意味決定的な助言を貰っていたのだ。
「あのなぁハリー……セドリックに(
「そうですよ。一生懸命に考えた私たちが馬鹿みたいじゃないですか」
刀原と雀部はそう言ってぷりぷりと怒る。
しかしハリーは「だって…」だの「だけど…」だのぶつぶつと言い訳がましく言う。
二人はそれを聞いて「「はぁ~」」と深いため息をつき、眉間を押さえる。
「とりあえずこの件はもういい。それよりも、卵はなんて言ってた?」
刀原がそう仕切り直すように言う。
「ええっと、確か…」
ハリーは思い出すかの様に言い始めた。
ーーーーーーーー
探しにおいで 声を頼りに
地上じゃ歌は 歌えない
探しながらも 考えよう
我らが捕らえし 大切なもの
探す時間は 一時間
取り返すべし 大切なもの
一時間のその後は もはや望みはあり得ない
遅すぎるならそのものは もはや二度と戻らない
ーーーーーーーー
「って言ってた」
ハリーは風呂内で聞いた内容を歌の様に言う。
「うーん…」
「また難問ですね」
それを聞いて刀原と雀部は頭を捻る。
「でも、ある程度は分かるわ。基本的には大切なものを取り返すって訳ね」
そう言ってハーマイオニーは、現在分かるだけの情報を言う。
「問題はどんな状況で、何が取られるのか。だな」
刀原がまとめるように言えば、他の三人は頷いた。
「どう思いますか?」
雷華が刀原に尋ねる。
「うーんそうだな……。とりあえず、場所が水中なのは間違いない」
「どうして?」
ロンがそう言って質問する。
「地上では歌えない。つまりこの卵のように、水中なら歌える……活動するってことだ。卵と潜って、終わりな訳がないしな」
「成る程……」
「だからハリーが用意しなくてはならないのは、水中戦の準備だな。それも一時間は活動出来るようになる準備だ」
刀原がこう言えば、ハリーは青い顔をした。
「僕、泳げないよ……」
どうやら道のりは長いらしい。
卵の真実が明らかになり、順調に思われた。
だが、予想外の伏兵によって事件が起こる。
『ダンブルドアの「巨大な」過ち』という記事が新聞に載ったのだ。
長くなるので割愛するが、内容としては……。
ハグリッドが半巨人である事。
杜撰で酷い魔法生物飼育学の授業をしている事。
巨人は凶暴で、彼も凶暴である事。
等々、よくもまあこんな個人を攻撃できる記事を書くもんだと思う酷い内容の記事だった。
「半巨人?ああ、やっぱりそうだったか。しかしこれはマズイな」
「ええ、これでハグリッドの教師生命は危機に瀕します。誰がこんな話を密告したんでしょうか*4……半巨人だろうが、ハグリッドはハグリッドなのに……」
新聞が記載された日の朝、朝食を食べながら刀原と雀部はそう言い合っていた。
「マルフォイ……。まさか、おめーじゃねぇだろうな?密告者は……?」
刀原は半ば慌てた様に新聞を持ってきたマルフォイに対し、霊圧を出しながらそう言う。
「そ、そんなわけないだろう!僕だったら去年の際に動いているはずだ、そうだろう?」
マルフォイは必死な形相でそう首を横に振る。
ここ最近、マルフォイとはハリー共々友好的な関係を構築していたのだ*5。
刀原、雀部としても、マルフォイを信じたい気持ちはあった。
「まあ、確かに『尻尾爆発スクリュート』は勘弁してほしいが」
そんなマルフォイはポツリとそう言う。
「あ、それは俺も思ってる」
「私もです」
そしてポツリと言ったマルフォイの本音に二人は即座に肯定する。
「とりあえず……また去年の様に
「ああ、理事じゃなくなっても権力の一つや二つは残ってるか。とりあえずそっちは任せた。ありがとうなドラコ」
「ありがとうございます、ドラコ。あとでクッキーとか差し上げますので」
「ああ、あのとてもおいしいクッキーか。ありがとうライカ。それとショウも、貴族としてこの様な馬鹿気た記事が許せないだけだ。礼はいらない」
マルフォイはそう言ってグリフィンドールのテーブルから立ち去っていく。
刀原達の予想は当たった。
ハグリッドは罷免されはしなかったが引き篭もってしまったのだ。
おまけに、代行として授業を行うことになったグラブリー・プランクは割と好評であり、「もうこの代行の先生で良いんじゃないかな?」という生徒がかなりいる*6のも、引き篭りに拍車をかけることになった。
「あのリータって嫌な女、どうやって知ったのかしら?」
「全くだ、隠密機動の
「スキーターは既に、学校への立ち入りが禁止されているはずです。どうやって侵入を」
「透明マントは?スキーターが持ってるのかも」
「だとしても俺や雀部の霊圧探知に引っかかる筈だ。だがそれすらなかった」
「とりあえずスキーターは嫌い」
「だな」
「です」
「うん」
「ええ」
五人はスキーターを目の敵にした。
そして……。
いつか天誅を下す。
刀原はそんな物騒な考えをしていた。
「さてハリー、ヒントは解いたよな?」
課題が行われるまであと二週間に迫ったある日、刀原はそうハリーに聞いた。
「何かを一時間以内に捜索する」
「場所は?」
「……水中」
「よろしい」
そこまでの解答に、刀原は満足げに頷く。
「ではどうやって一時間もの間、水中戦をするのか。その方法は考えついたのか?」
そして刀原が肝心な部分を聞けば、ハリーはバツが悪そうにプイッと顔を横に背ける。
「はぁ~」
あと二週間しかねぇのに……。
刀原は、眉間を押さえながら溜め息を吐く。
「ハリー。二週間もある、じゃねぇんだ。二週間しかねぇんだぞ?解ってんのか?方法を考えついた後、呪文だったらその習得や練習、アイテムだったらその調達なんかもあるんだ。少なくともこの時点で、方法ぐらいは考えついてないとヤバいんだぞ?「二度と戻らない」がハッタリじゃなかったらどうする気だ?」
刀原が珍しく強い口調でそう言えば、ハリーもヤバい事態であることにここでようやく気が付いたらしく、次第に顔が青ざめてくる。
「ど、どうしよう……」
「……はぁ~」
夏休みの宿題を最終日にやる子供か。
まったく……。
刀原はハリーの反応にそう思った。
「……とりあえず、呪文なら『泡頭呪文』。アイテムなら『
刀原は、そうさらりと言う。
「泡頭呪文?鰓昆布?そんなの、どこにも書いて無かった……」
ハリーがそう言う。
「まあ、確かにメジャーでは無いな。泡頭呪文は比較的新しい呪文らしいし……鰓昆布は新しくはないが、地中海原産でそう簡単には手に入らないものだから」
刀原はウンウンと頷きながら言う。
「ショウはどっちがおすすめなの?」
「鰓昆布かな。泡頭呪文は習得までに時間が掛かるし、緊急事態になった時に不安が残る。それに失敗した時にリスクが大きい。鰓昆布はその点、失敗の可能性が低いし、緊急事態にも強そうだ」
刀原はそう言う。
「じゃあ、鰓昆布がいいね」
ハリーは刀原の意見を聞いて、リスクが少なそうな鰓昆布を採用するつもりらしい。
「そうか、だが鰓昆布には時間制限がついてくる。まあ、どちらにしろそうだが……短期決戦になるぞ?」
「でも、いずれにせよそうでしょ?」
刀原が確かめるようにそう言うと、ハリーは結局はそうなると言う。
「確かにな」
ハリーの言葉を聞いて刀原は頷く。
「だが、水泳の準備はしないとな?ほら、さっさと湖に行くぞ!あと二週間しかねぇんだから」
刀原がそう言ってハリーを立たせ、そのまま引き摺るように湖に連れていく。
ハリーはその後、水着を着て寒中水泳を行うのだった。
鰓昆布を使用するのは決定したが、それをどうやって調達するのかが問題になった。
スネイプの薬品棚や、スプラウト教授の鉢等を漁れば入手出来るかもしれないが、それは最終手段であるためしたくない。
「しょうがねぇ。頼るか」
刀原はそう言って浦原に手紙を書いた。
入手出来るかを聞き、出来るのであれば送って欲しいと頼む為だ。
《出来るっすよ?ただ時間は掛かりますけど……第二の課題って二月二十四日でしたよね?それには何とか間に合わせるっす》
浦原の返答はこのような内容だった。
そして刀原はハリーに『英国魔法界のお菓子詰め合わせセット』を用意するように言ったのだった。
課題当日を翌日に控えた日の夜。
刀原達は図書館にいた。
「そっちはどう?」
「駄目だ、載ってない」
理由は泡頭呪文のことを調べるためだ。
実はこの日になっても鰓昆布が贈られてきていないため、慌てて次の対抗策である『泡頭呪文』の習得をしようとしたのである。
しかし、いくら探しても本は見つからない。
「借りられてる可能性が高いな」
「そうでしょうね……」
泡頭呪文のことを知っているのは刀原と雀部だけであったが、それはあくまで知識として知っているだけであり、詳しくは知らない。
「マホウトコロにもあった本なんだ。必ずホグワーツにもある筈だ」
そこで泡頭呪文が記載されている本を図書館で探している訳だが、見つからない。
古い本から新しい本まで。
図書館の主とも言われている刀原、雀部、ハーマイオニーですら死力をつくしているのに見つからない。
そして時刻はあっという間に夜になる。
「おい、ウィーズリーにグレンジャー。マクゴナガル先生がお呼びだぞ?」
そう言われ、途中ロンとハーマイオニーが離脱する。
そして最後まで粘るというハリーに別れを告げ、刀原と雀部も談話室へと引き揚げた。
「談話室で会いましょう」
そうハーマイオニーは言ったが、雀部曰くハーマイオニーは居らず、ロンも談話室にも寝室にも居なかった。
「駄目です。居ませんでした」
「そうか、こっちも居なかった」
まさかですか?
まさかだろうな……。
雀部の問いに、刀原は苦い顔でそう答える。
しかしハリーに報告したらマズイことになりそうだと判断し、ハリーが談話室へと戻って来ても刀原達は何も言わなかった。*7
そして翌朝。
ハーマイオニー達は一向に帰ってこず、ハリーもおそらく図書館に行ったままだった。
刀原達は不安げに思いながらも、フクロウを待つために朝食へと向かった。
そしてフクロウはやって来た。
鰓昆布は間に合ったのだ。
「良かった」
「流石にヒヤリとしましたね」
二人は安堵し、行動を開始する。
「雷華は図書館に向かってくれ。おそらくそこにはハリーが突っ伏して寝ている筈だ」
「了解です。しょう君は?」
「俺は現地の下見に行く」
「分かりました」
そう言っていた矢先、日番谷が血相を変えて来る。
【雛森を見なかったか!?】
二人はそう言った日番谷を見て全てを悟った。
【そっちは桃が捕られたか】
【そっちは、だと?】
刀原の言葉に日番谷が食い付く。
【ええ、実は昨夜からロンとハーマイオニーの姿が見えないんです。おそらく人質役になったからだと思うのですが……】
【ロンはハリーの人質。ハーマイオニーはおそらくビクトール・クラムの人質だろうな】
【なんてことだ……あいつを巻き込むなんて!】
二人の推理に怒りを露にする日番谷。
あ~あ、やっちまったな。
これで冬獅郞君は手加減しなくなりましたね……。
それを見て思わず二人はそう思った。
【一応、水泳はするつもりだったのか?】
【まあな……だがこうなったら、チンタラと泳いでる場合じゃない。さっさと
刀原の確かめるような問いに、握り拳を作りながらそう答える日番谷。
どうやら一応、泳ぐ気ではいたらしい。
だが、しないようだ。
【雛森に手を出したこと、後悔させてやる……!】
そう固く誓うように言った日番谷に【あ、うん、頑張ってね】となる刀原と雀部。
だが、この二人とてそうなった場合……手段を選ぶつもりなど無いのも、また事実である。
第二の課題の会場はやはり湖だった。
ハリーは刀原の読み通り図書館で寝ていたが、雀部がサンドイッチを片手に
「『
司会進行役のルード・バグマンが増幅呪文を使い、会場に自らの声を響かせる。
「さて、各代表選手の準備が出来ました。選手達は一時間のうちに奪われたものを取り返します」
刀原は司会を聴きながら各選手を見渡す。
フラーは思い詰めた顔をしていた。
どうやら妹が捕られたらしく、先ほど刀原と雀部の方に確認に来ていたのを思い出す。
【完全に、心ここにあらずって感じだな……】
【まあ、気持ちは分かりますが……】
刀原は【あれでは途中で脱落するかもしれん】と思っており、【万が一の時には動きますか?】という雀部の言葉に【まあ、大丈夫だろうがな……】と頷きながら答えていた。
そんなフラーの横では心配そうなセドリックがおり、そわそわしながらもウォーミングアップをしていた。
クラムも何処と無く緊張している。
ハリーは顔面蒼白。
「ローブは脱げ」
という刀原の言葉が無ければ、ハリーは邪魔になるローブを脱がなかっただろう。
緊張で、そこまで頭が回らなかったのだろう。
そしてそんなハリーの隣には、着物姿の日番谷。
【緊張のき文字もねぇ】
【逆に怒ってますね】
薄い水色の着物、氷輪丸を背中に背負い、腕を組む姿は、どう見てもこれから水中に飛び込む姿ではない。
まあ一応、濡れても良い格好ではあるが。
そして雀部の言うとおり、怒っていた。
【あ、早くしろって言った】
【速攻で終わらせる気満々ですね】
刀原達は【せめて、他の選手に影響が出ませんように……】【くわばらくわばら】と祈っていた。*8
「では、三つ数えます。いち、にい、さん!」
ホイッスルが響き、選手達が日番谷を除いて一斉に水へ飛び込む。
そして日番谷は瞬歩でその場から居なくなる。
【やっぱりか】
【だと思いました】
それを見て二人は項垂れる。
日番谷が考えて実行し、刀原と雀部が予想したのは以下の通りの戦法である。
まず霊圧探知で雛森の位置を特定する。
↓
次に瞬歩でその場に行き、着いたら急降下して潜水。
↓
潜水時は空中歩行の技術を使って移動する。
↓
人質はおそらく縛り付けられているので、斬魄刀で縄を切断し救出する。
↓
その後はまた瞬歩か空中歩行で帰ってくる。
実にシンプルだが、第二の課題を考えた者は想定外の攻略法だろう。
泳ぐのは遅いから空中を移動するなど。
まあ、刀原も実は考えていたのだが……破綻する部分があったため断念したのだ。*9
さて、話は競技に戻る。
競技開始早々に
そしてそのまま空中に立ち、呪文を唱えた。
「
距離があるため、聞き取れた者は少ない。
良い手だ。
刀原はそう思った。
それなら水の抵抗を軽減出来る。
日番谷は自身の身体を確認したあと、泡頭呪文で顔を覆い水へ落ちるように飛び込んだ。
そして三分もしない間に水から飛び出してくる。
雛森をお姫様抱っこしたまま。
「あ、シロちゃん。おはよう……」
どうやら雛森を始めとした人質達は守りを万全にした上で、昏睡させられているらしい。
「大丈夫か雛森?体調とか……」
「うん……大丈夫だよ……」
日番谷は労るように、ゆっくりと空中を歩いてステージの方へ向かう。
だが雛森は昏睡から抜けきっていない様子だ。
そして寝惚けたままの雛森は、ムギュッと日番谷を抱き締めた。
「ちょっ、おい、雛森!?」
固まる日番谷。
日番谷を抱き締めたまま、夢の世界へ戻る雛森。
沸き上がる会場。
ヤジと祝福の言葉を飛ばすマホウトコロ生。
甘い空気は日番谷がステージに戻り、雛森が起きて全てを把握するまで続いた。
なお、言うまでもないが一位である。
正気に戻ったカップルが赤面している間にも、競技は順調に進行していった。
だが、漸く戻ってきた次の選手の意識は無かった。
「フラー、脱落したか……」
「急いで救助を!」
俺と雷華が最も早く気付きいた為、直ぐ様水面からフラーを引き揚げてステージへと運ぶ。
顔面は蒼白で足や腕、顔には赤く掴まれたような跡や切り傷があり、かなり痛々しいものだった。
「
マダム・マキシームやマダム・ポンフリーもこっちに来ているが、到着を待つ余裕はなく、早急に治療を開始する。
フラーは雷華が蘇生呪文を使えば、ひどい咳とともにかなりの水の量を口から吹き出しながら起き上がる。
「
「
「ガブリエル!ガブリエル!」
俺達の静止も聞かずフラーは立ち上がろうとしたが、回復しきっていないため足元が覚束ず、すぐにふらりと倒れ込んでしまう。
「ありがとうミスタートーハラ。毛布です」
「ありがとうございます。マダム・ポンフリー」
ここでマダム・ポンフリーが到着し、フラーの側にいた俺に分厚い毛布を差し出した。
俺はそれを受け取り、問答無用という雰囲気を雷華と共に出しながらフラーに渡せば、フラーは大人しくふかふかなそれに包まれた。
〔
俺の問いに、フラーは蒼白のまま頷く。
〔ええ、泳いでいたら……急に襲われて、咄嗟のことで対処できなくて……それで慌ててしまって……〕
〔そうか〕
「
フラーはそう日番谷に聞く。
「大丈夫だ。まあ、元気一杯って訳じゃねぇが……人質は昏睡状態なだけだった。心配要らねぇよ」
腕を組みながら水面を見ていた日番谷は、フラーの問いに心配するなと言った顔でそう答える。
「ですが、『
「フラー、それは多分ブラフです」
フラーは、卵が言っていた文言を信じていたらしい。
それを雷華が首を振りながら否定する。
「その通り、安全に配慮してるって言うんだ。人質を死なす筈が無い。まあ、そうなったら俺達が奪還するから」
「そうです、その時は任せて下さい!」
俺達がそう言えば、フラーは安心したようだった。
セドリックがチョウを連れて戻り、クラムがハーマイオニーを連れて戻ってきても、ハリーとロンは戻ってこなかった。
既に一時間は過ぎている。
「どうしたハリー……なぜ戻らない?」
刀原は霊圧探知で既にハリーが人質がいる場所に着いていること、しかもセドリック達より先に着いていることを把握していたため、大丈夫だろうと思っていたがそれでも心配だった。
「もしかして、フラーを待っているのでは?」
雀部も霊圧探知で把握しており『もしかするとフラーの人質も連れてくるつもりだろうか』と聞いてくる。
「かもな……」
刀原はこうまで遅いとそうなのだろうと言う。
「天挺空羅で知らせるべきでしょうか?」
「いや、やめておこう……」
雀部が既にフラーが戻ってきていることをハリーに伝えるべきかと聞いてくる。
しかしリスクが大きいと刀原は言う。
そうしているうちに、水しぶきが上がった。
ハリーが戻ってきたのだ。
「戻ってきたぞ!」
「ですね!フラーの妹さんも一緒です!」
二人の言葉を受けて、会場に歓声が上がる。
ハリーはロンと共に、フラーの妹を連れていた。
「ガブリエール!あの子は無事なの?」
「大丈夫そうですから!落ち着いて!」
フラーは今にも湖に戻ろうとしているようで、雀部が必死に止めていた。
やがてハリー達はステージへと戻り、まだかまだかと
「よくやったわ、ハリー!」
ハリーのちょうど隣にはハーマイオニーがおり、盛んにハリーを褒め称えていた。
点数を付ける前に審議が入る。
審議は短時間で終わり、結果が発表される。
フラー……呪文は良かったが、人質の奪還に失敗。
25点
セドリック……奪還には成功、しかし一分オーバー。
47点
クラム……奪還に成功、しかしセドリックより遅い。
40点
日番谷……奪還に成功、時間も余裕。
50点
ハリー……奪還に成功、時間は大幅にオーバー。
しかし二番目に到着し、遅れた理由も人質ではない者も奪還しようとしたためである。
そのため、その道徳的な行動を称え……45点。
「第三の課題、すなわち最終課題は六月二十四日の夕暮れ時に行われます。代表選手はその一ヶ月前に課題内容を知らされることになります」
バグマンがそう会場にアナウンスし、第二の課題はこれで終了となった。
終わった。
その思いがハリーを包んでいるのだろう。
「さて、最後の課題は何かな?」
「三ヶ月後が楽しみですね」
ホグワーツ城に引き揚げる最中、二人はそう話していたが、途中でハリーが割って入る。
「鰓昆布を用意してくれたウラハラさんにあげるお菓子って、何がいいと思う?」
二人はクスッと笑い……。
「「ゴキブリゴソゴソ豆板とかどう?」」
と答えた。
審査員が審議中の間。
「髪にコガネムシがついているよ」
クラムがそう言った。
「コガネムシ?ハーマイオニーちょっといいか?」
刀原は「この時期に珍しいな、新種か?」と思い、スパッと捕まえ鬼道で囲う。
そしてつい癖で霊圧感知をする。
「!?」
そして驚愕を露にする。
「どうしました?そのコガネムシが何か?」
その顔を見て雀部が尋ねてくる。
「……ちょっとこれ見てみろ。霊圧感知でな」
「!? これって……」
霊圧感知をした雀部も、驚愕を露にする。
「ショウ、ライカ。何かあった?」
ハリーやハーマイオニーがそう尋ねる。
「いや何でもない」
「大丈夫ですよ」
二人はそう答える。
「審議の結果が出た!」
そしてルード・バグマンがそうアナウンスしたため、その話題はそれで終わった。
「これって、確かホグズミードで……」
「……ああ、だが気のせいってこともある」
刀原がチラリとコガネムシを見る。
「……見たところただの虫です。ポイっと湖に捨てましょうか……揚がってこないようにして」
雀部が黒い顔をして言う。
「そうか?俺は粗方調べたあと、暖炉かな」
刀原が黒い顔でそう言う。
「あ、でも、ひょっとしたら珍しい虫かもしれませんよ。日本の涅部長に送るというのは?」
ほほう、あの二人からのプレゼントかネ!
コイツの正体が楽しみダヨ!
はい、マユリ様。
「悩ましいな……」
「ですね……」
二人は黒い顔をしながらコガネムシを見ていた。
二人がコガネムシをどうしたのかは不明である。
だがそれ以来、コガネムシの姿は見られなかった。
そして、何故か……リータ・スキーターも。
なお。手段としては師匠に隠密機動の
兎にも角にも、そんなこと訳で……セドリックやクラム、フラーが取る作戦に対して諜報活動をこっそりとしている刀原には耳が痛い話だった。
当然、ハグリッド本人がこんなことを
記者本人がこっそり聞いたか、話を聞いた者が密告したかのいずれかになる。
そして刀原、雀部、マルフォイ、ハーマイオニーも薄っすらとだがそんな態度だった。
実際、日番谷から漏れ出た霊圧がただでさえ寒い気温を更に下げていた。
方法はこうである。
ハリーに箒を持たせる。
↓
空中を飛行し人質が囚われてる地点まで行く。
↓
着いたら箒から飛び降りて降下し、潜水。
↓
救出したら泳いで帰ってくる。
である。
完璧じゃね?
刀原はこう思っていた。
しかし……。
「どうやってハリーはその場所を特定するんですか?」
「あ」
ハリーは霊圧探知など出来ない。
またその当時は捕られるのが何か不明だった。
かくして作戦名『空中降下作戦』は、雀部の冷静な判断と言葉によって中止となった。
誰に手を出したのか
教えてやる。
第二の課題って、取られたものの位置さえ分かってしまえば空中から行った方が早いですね。
霊圧感知が万能過ぎる……。
前回、一万二千文字を避けるため前編後編を分けたのですが……。
今回はそうなってしまいました。
感想で短い方が良いか、それとも長くても良いか、教えていただけると嬉しいです。
感想、評価、お気に入り。
ありがとうございます。
そしてお待ちしております。
さて次回は
狂気と第三の課題 前編
次回もお楽しみに。