戦いこそ
我が望み
外交交渉を終わらせ、英国とハリーに一抹の不安を抱きながら日本に戻ってきた刀原に待っていたのは、溜まっている書類と報告だった。
刀原はそれらを裁きながら、三番隊の管轄地域で暴れる賊軍を撃破する。
と言っても、大概は副隊長や三席でなんとかなっている為……これといった問題も無かった。
日本ではそんな小競り合いを続けながら、十二月を迎えた。
英国ではハリー達が逃亡生活を送っていた。
「分霊箱は身に着けるな」という刀原の助言を聞いていたハリー達はロケットを小瓶の中に厳重封鎖し、慎重な管理を続けている。
目下の問題は、破壊方法。
ハーマイオニーの調査と刀原の情報から、破壊方法が限られることは既に分かっている。
本当はバジリスクの牙があれば良かったのだが……。
残念ながら置いてきてしまった為、三人は未だにロケットを破壊できずにいた。
しかし、三人の気持ちには余裕があった。
来年になれば刀原達が動けるようになる。
今すぐは破壊できなくとも、いつかは必ず分霊箱を破壊できる。
最後の二個も、ある程度の場所は分かっている。
今は雌伏の時だと、三人は分かっていた。
自分たちの仕事は、捕まらなければ良いのだと分かっていた。
三人は特に何の問題もないまま、十二月を迎えた。
ヴォルデモート陣営は焦っていた。
現在進行系で国際的に孤立しているのはまだ良いのだが……。
一番の問題が……いずれ極東から
故に、彼らは何としてもハリー・ポッターとその一味を見つけなければならない。
のだが……。
ハリー・ポッターとその仲間達は見つからず、不死鳥の騎士団も見つからないか逃げられてしまっているのだ。
由々しき事態だった。
ちんたらしてたら、
更に、欧州の各魔法省や米魔法評議会が乗り込んでくるという情報もある。
幸いにも、ホグワーツの統治は
ヴォルデモートは下知を飛ばす。
とりあえず欧州からの乗り込みを阻止するために……仏、独、伊、西、蘭、露の魔法界にいる
ヴォルデモートはさらなる混乱をまき散らす。
混沌と混乱の波に呑まれながら、英国と欧州は十二月を迎えた。
「俺の名はジェローム・ギズバット!
「『斬払い』」
「
来る十二月。
日本の瀞霊廷内では、護廷十三隊と日本魔法省、星十字騎士団からなる連合部隊と『賊軍』との決戦が行われていた。
護廷十三隊から参加出来るのは一桁席官以上の者に限られ、日本魔法省も部長や副部長クラス以上の者に限られている。
だが、それでも連合部隊の優勢は覆らない。
やはり、実力はピンキリだな。
『キズバンド』だか『ケツバット』だか良く聞こえなかったが、なんで自分の力を喋るんだ?
咆哮ってことは、黙らせれば良いのだろう?
この前の異議を唱えてきた奴といい、援護に来た奴らといい……滅却師は悠長だなぁ。
何やら五月蠅かったので沈黙呪文で黙らせ、間髪入れずに吹き飛ばした滅却師を思い出しながら、刀原はそう思った。
「さて、周囲はどうだ?」
刀原がそう言いながら周囲を見渡す。
ーーーーーー
「デスクワークで随分と鈍ってんなぁユーゴー。騎士団長サマは大変みたいだなぁ!」
「そう言うなら変わってくれバズ」
「はっ!嫌なこった。俺はお前に相応しいと思ってるからな」
「嬉しい言葉だ友よ。それに、確かに戦場から離れて久しいが……それでも天秤を傾かせることは出来る」
「それでこそ俺が認める騎士団長サマだ!」
子供の頃から親友だというバズビーとハッシュヴァルトが、軽口を言い合いながら敵を倒していく。
ーーーーーー
「ぼ、僕のラブが効かない?そんなことが「はっきり言ってキモイです」がぁああああ!?」
「さすがライカ!バンビーズの新戦力に相応しいわ!」
「電撃を纏って防ぐか。ライカも十分規格外だな」
「同じ雷なのに、ライカに負けてますよ」
「同性としても負けてるぞ。情けないなキャンディ」
「うるせぇ!」
「私は、バンビーズに加盟したつもりは無いのですが……?」
バンビーズと雷華が、一緒に戦っている。
相手は良く見えないのだが……なんだか見たら気分を著しく害するかもしれない気がしたので、辞めておく。
雷華のあの態度だと、多分相手は塵ぐらいしか残らないだろう。
ーーーーー
「くそ!?」
「まさか救護詰所を襲うとは……。本来なら貴方ごときに見せる気は無かったのですが……良いでしょう」
雀部長次郎が戦っているのはドリスコール・ベルチ。
ここまで少なくない数の隊士を殺害し、あろうことか救護詰所を襲撃したドリスコールを、雀部が許す筈も無かった。
「刮目せよ。卍解『黄煌厳霊離宮』」
雀部の卍解と共に、黄金にも似た輝きを放つ楕円形の雷雲が発生する。
そして雷雲から下に伸びる帯状の雷を斬魄刀に纏わせると、まっすぐドリスコールへと突撃した。
「く、クソがぁあああ」
まさに黄煌の一閃。
その圧倒的な速度と威力に、ドリスコールは何も出来なかった。
「あそこでは我が孫娘が戦っている様子……あの子も随分と強くなりましたが、まだまだ負けてはおられませんな」
そう離れていない場所で変態を消し炭にした雷を見て、雀部は穏やかに笑った。
「私の獲物を取らないで下さい?」
直後、出てきた卯ノ花に窘められたが。
ーーーーーー
カァンという、鉄を打ったような音が響く。
パキンという、氷を割ったような音が響く。
『
「刀原の奴だったら……苦も無くてめぇをぶった斬れただろうな」
蹴りの衝撃を後退することで逃がした日番谷が少し苦い顔でそう言う。
自分の初撃は、鋼鉄の皮膚で防がれたが……刀原の斬魄刀なら斬れた筈だと思ったからだ。
純粋な斬術では勝てない。
日番谷はそれを理解していた。
しかし己の強みも、日番谷は理解している。
斬術で勝てないなら斬魄刀の……氷輪丸の力を、より高めれば良いだけ。
「行くぜ『氷輪丸』」
余裕の表情を浮かべる日番谷が、氷輪丸を構える。
「君の氷なんて、簡単に砕いてあげるよ」
蒼都の表情も、余裕の笑みで変わらない。
先ほど氷の壁を割ったように、全ての氷も粉砕出来ると思っているからだ。
「そうかよ。でも、俺はもう仕掛け終わったぜ」
しかし、相手は
「『六衣氷結陣』」
「な!?」
蒼都は自身を囲むように氷の結晶が仕掛けられている事に気が付く。
あわててその場から離れようとするが、もう遅い。
「知ってるか?鉄っていうのは、冷気を通しやすいんだぜ?」
日番谷のその言葉を聞けることなく、蒼都は氷柱の中に捕らわれた。
ーーーーーー
「うん、なんか順調みたいだな」
軽く見渡しただけでもこれなのだ。
ルキアと朽木隊長は……うわ、ホラーと戦ってる。
あ、でも千本桜景厳で圧倒してるっぽい。
刀原がそう思っている、その時。
膨大な霊圧と濃密な殺気が襲いかかってくる。
そしてやってきたのは……。
ボサボサの長髪。
ボロボロの死覇衣。
刃こぼれだらけの刀。
その姿、怪物か怪獣か。
それとも鬼神か。
「更木……剣八だな?」
刀原の問いに、怪物は高笑いと共に肯定する。
なるほど……強ぇな。
「一閃煌めき両断せよ『神殲斬刀』」
刀原は霊圧を上げ、始解する。
怪物はニヤリと笑い、歓声とも聞こえる声を上げ、刀原に斬りかかった。
刀原が更木と戦闘状態に入ったことは、両者の霊圧でもって、周囲に知れ渡った。
「あの人と渡り合ってやがる……。何者だあいつ」
煌めくスキンヘッドが特徴のヤンキー……班目一角がぽつりと言う。
自身が敗北し、その器量を認めた怪物……更木。
目の前の男、黒崎をもってしても辛うじて退けることが出来たという怪物。
当然だが、黒崎一護とて弱いわけではない。
少なくとも、自分と互角以上に戦えてる。
だが、そのこいつでも辛うじて。
あの剣鬼と渡り合うことが出来るのは……総隊長、初代剣八、七代目剣八ぐらいだろう。
班目はそう思っていた。
まだまだ俺は弱ぇ。
「あ?なんだよいきなり」
思っただけのはずだが、どうやら言葉に出てたらしく、一護の野郎がそう言ってくる。
「あの人とやりあっているのは誰だろうと思ってな」
班目は半ば誤魔化すように言う。
「ああ。多分この霊圧は将平の奴だな。あいつなら更木の奴にも勝てると思うぜ」
黒崎はケロッとそう言う。
自身をボロボロにした怪物を相手しているというのに、心配のかけらも感じられない。
信頼ってやつか。
「そうかよ。じゃあてめぇは自分の心配をしやがれ!」
班目はそう言って自身の霊圧を高める。
「卍解『龍紋鬼灯丸』!」
班目が持つ斬魄刀が、三つの特殊な形状をした刃が鎖で一連に繋がっている形状に変化する。
班目の背後に控える真ん中の刃には龍の紋が彫られており、その姿は威風堂々たるものだった。
「来いよ一護!」
班目一角の誘いに、黒崎は乗ることにした。
「卍解『天鎖斬月』」
装いは黒いロングコートを思わせる死覇装に変わり、刀も出刃包丁から漆黒の刀に変わる。
「いいぜ!そうこなくっちゃな!」
戦闘狂と自負している班目は、黒崎に向かって吶喊した。
ーーーーーー
疼いてしまいますね……。
卯ノ花は表情を変えないように堪えながらそう思った。
楽しめそうではなかったが……それでも斬り応えはありそうだった敵を雀部長次郎に取られてしまい、それ以降は救護詰所にやってくる者がいない。
だからと言って、敵を求めて詰所を飛び出すのは……いくら何でもアレだろう。
そのあとでやってくるであろう元柳斎の五月蠅い小言は面倒だし。
まあ、あの子が劣勢になったら……援軍を口実にして行きますか。
ーーーーーー
「可哀そうに」
この戦いの先導者であり原因でもある綱彌代が、嘲るように言う。
「あの怪物は私ですら制御出来ない猛獣でね。可哀そうに。彼はきっと食い散らかされてしまうだろう」
息を吐くように出る煽り。
確かに盤外戦として、戦略として時にはそれを口にする者も多い。
『ハゲ』だの『白玉』だの『ツルピカ』だの『頭も思考も恰好も寒そうな奴』だの『いい歳して恥ずかしい』だの『頭がおかしくてイカれてる魔法使い』だの『アフロをあげたい奴』だのと、ヴォルデモートを散々貶した刀原とて……まあ殆どが本当のことなのだが……盤外戦術の一環で言っているだけなのだ。
だが、この男は息を吐くように言う。
当たり前のように。
彼らと違うのは……綱彌代が発する言の葉は、悪意と彼自身が持つ邪悪さから来るものだということだ。
『邪悪な悪意が人の形をしている』というある人の評価は、大いに正しかった。
「君たちもそう思うだろう?」
綱彌代がそう言ったのは彼を倒しに来た者。
「全く思わないな」
藍染は吐き捨てるように言う。
「君こそ、彼の力量を履き違えている。あの更木という猛獣は彼によって討伐されるだろう。尤も……彼は殺しはしまいだろうが」
そう言った藍染は、ほんの少しだけ笑う。
曾祖父と父の跡を継ぎたいと考えている彼は、剣八襲名を嫌がっているから。
そして藍染は即座に笑みを消す。
「だが私は、君を殺しはしまい……などとは言うまい。私の親友のため、私の贖罪のため……君を斬ろう」
自身の前髪を掻き上げると、掛けていた伊達メガネも外し、滅多に抜かない己の刀を抜き放った。
「斬る?私を?おいおい、あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ?」
綱彌代は嘲笑う。
「ふ、これは余裕というものだよ」
藍染は余裕たっぷりに言った。
己の中に渦巻く、怒りの業火を隠しながら。
ーーーーー
強ぇ!
面白れぇ!
更木は歓喜の中で剣を振るっていた。
一護も、日番谷も、他の奴も、面白れぇ奴だった。
だが、物足りなかった。
食い足りなかった。
暴れ足りなかった。
斬り足りなかった。
満たさなかった。
だがこの敵は違う。
俺の攻撃で吹き飛ばねぇ。
てか、当たらねぇ。
全部捌くか、避けやがる。
こいつの攻撃は俺を傷つける。
てか、普通に斬ってきやがる。
回避もままならねぇ。
恐ろしいほど基本に忠実で。
流れるような連続攻撃。
そして隙が微塵もねぇ。
だが、それが面白れぇ!
今まで会ったどの剣士とも違うタイプだな。
刀原は迫りくる剣の暴風を冷静に捌きながらそう思った。
基本なんてねぇ。
一発一発が重い。
だけど案外隙だらけ。
奴の剣速も速いが、夜一さんの方が速い。
奴の剣の正確さは、卯ノ花さんより劣る。
だから……。
「ぐおぉお!」
奴が放つ片手大上段の攻撃を躱し、こちらの攻撃を浴びせられる。
だけど。
「まだまだぁ!」
倒れない。
斬り斬れない。
立ち上がってくる。
「おらぁあああ!」
歓喜の声を上げて。
剣速を上げて。
まさかこいつ、この戦いで更に成長してるってのか!?
「『斬払い』!」
強引に距離を取るため、奴を斬り飛ばす。
「ぐぉおおお!?」
奴は直撃を受けて吹き飛ぶ。
だが。
「面白れぇ!この俺を吹き飛ばすなんてなぁ!」
多くの敵をノックアウト……時には屠ってきたこの技ですら、効果は薄いらしい。
そして。
奴が飛び掛かって来た時、悟った。
無理やり距離を取るのは失敗したと。
それをやったのは、俺の逃げだと。
「うらぁあああ!」
「ーーッ!?」
そのツケを、俺は自身の左肩で支払うハメになった。
ようやく斬れた。
斬ってしまった。
一度味わってしまった甘美な時間。
「しくじった。俺としたことが……」
結局こいつも……。
これじゃあ俺は……。
「でもまあ、死ぬほどじゃない」
そんな俺の思考とは裏腹に、こいつは体制を立て直す。
「死んだとでも思ったか?生憎と、俺は一回斬られたぐらいで死ぬような修行はしてねぇんだよ。俺の師匠は、かの『死剣』だぞ?」
奴はそう言って傷を治す。
「座興はこれまでにしよう」
卍解『斬滅白刃太刀』
「来いよ、更木剣八。叩っ斬ってやる」
俺はその言葉に、何度目かも数えていない歓喜の声を上げる。
卍解したのに見た目が変わってねぇが……そんなのは関係ねぇ。
俺は跳躍し、大上段に切りかかる。
直後に見たのは、とんでもねぇ速さでやってきたとんでもねぇ数の斬撃だった。
『
手数を増やし、一対多数戦を想定している。
斬撃の切れ味は始解の時と大差はない……。
だが、その斬撃の数と速さを上げている。
一つ剣を振るえば、三つの斬撃が飛ぶ。
速さも始解とは比べるまでもない。
そして張る、攻防一体の斬撃の陣。
更木は笑いながら迫ろうとするが、斬撃によって阻まれ、吹き飛び、斬られる。
しかし、迫る斬撃を弾き、躱し、肉薄してくる。
その度に動きが良くなる。
だが。
「そりゃあああ!」
「舐めんなぁあああ!」
俺だって隊長だ!
あの人達の弟子!
あいつらの兄貴分!
簡単に斬られるほど、緩い修行はしてねぇ!
それにな。
「……ふふっ、あはははは!」
剣士として、純粋に斬り合うのを楽しみたい!
二人は、お互いが笑っていることに気がつく。
「いい笑顔だぜ刀原!」
「まだ行けるだろ更木!」
「「ああ!そう来なくちゃな!」」
舞え!踊れ!
叫べ!狂え!
いま、この瞬間を!
剣士として、楽しませて貰う。
一話で終わらす筈が……。
ハリポタだけを楽しみにしてくれている方には申し訳ないのですが、あともう一話だけお付き合いを。
今年も本小説をご愛顧、また読んでいただき、誠にありがとうございました。
いよいよ大詰めですが、来年も宜しくお願いいたします。
では次回は
日本決戦
次回もお楽しみに
溶ける……。
溶けていく……。
……強ぇ。
……届かねぇ。
だけどよ。
段々と動ける様になってるんだ。
眠っていた体が、起きた様に……。
俺は眠っていたのか?
そうか、そうか!
これが戦いか!
なあ更木。
俺はな、今まで満足に斬り合いなんか出来なかった。
強い人は大概味方で。
恩人で、師匠で、同期で。
そりゃあ手加減出来る様な真似も余裕もないけどさ。
でも、命もやり取りでは無かった。
どこか、遠慮があった。
けどよ。
お前に遠慮なんか必要無いだろ?
それに……。
そうか、そうか。
これが剣士の戦いか!
そうだよ剣ちゃん。
だからさ。
もっと楽しむために……。
私の名前を呼んで?
ああ、主が楽しそうに……。
ならば私も、全力で答えるまで。
さあ行きましょう。
万物を斬る力を、今こそ。
解き放ちましょう。