僕の為に命を使った両親
僕を信頼してくれた多くの人
ありがとう
今度は僕が命を賭ける番
大丈夫
僕を信じて。
「お前たちは雄々しく戦った。
だが無駄なことだ。
俺様はこれ以上の損害を与えたくはない……。
魔法使いの血が流れることは痛打と言える損失だ。
我が方の部隊に一時撤退を命じよう。
その間に、死者を丁重に弔うのだ。
ハリー・ポッター。
今、俺様はお前と直に話す。
一時間以内に、禁じられた森にある我らの本陣へ来い。
来なければ、我らは即座に総掛かりを命ずる。
皆死ぬぞ。
老若男女問わずにな」
ハリーは全てを知った。
己が死なねばならないことを知った。
スネイプの勧めを取り敢えず謝辞したハリーは、校長室に続くガーゴイルの前で待ってくれていたロンやハーマイオニーと合流した。
そしてヴォルデモートからのメッセージを聞いた。
三人は大広間へ向かうことにした。
「ようハリー、無事だったか」
大広間の大扉の前にいたため、ハリー達を出迎えること形となった刀原。
その刀原を見たハリー達三人は、天地がひっくり返ったような衝撃を受けた。
彼の左腕が無かったからだ。
「しょ、ショウ!?ひ、左腕が……」
「ん?ああ、気にすんな。油断した…訳じゃねぇが、敵の攻撃が当たってな……。止む無く自分で切り落とした」
三人の心配を他所に、刀原はケロッという。
「ただまあ……出来れば無傷で勝ちたかったんだよなぁ。負傷したの俺だけだし」
敵が敵だったとはいえ……片腕失う羽目になった刀原は、井上からの治療を受けながら悔しそうにそう言った。
それを聞いたハリー達が促されるように周囲にいる隊長格を見てみると、ほとんど無傷の者が多い様だった。
如何やら片腕を失うような負傷をしているのは刀原だけらしい。
「相手が相手だったんです。しょうがないのでは?」
刀原の近くに座って彼の治療を見ている雀部がフォローするように言う。
「そうそう、奴さんは
京楽もその様に言う。
トレードマークだった編み笠や女性物の着物が無く、疲労も隠せないようだが……それでも目立った傷はない。
「京楽さんは
「でも僕は浮竹と一緒だったんだよ?そして逃げられた……まあ、それは雷華ちゃんや日番谷君も同じだけどね?対する君は……一対一。しかも撃破したんだ」
「説得力は無いです」
刀原が京楽にそう言った丁度その時「はい、終わったよ刀原君!」と井上が言った。
いつの間にか刀原の左腕が元通りに治っていることに、ハリー達は驚く。
「助かるよ井上。ありがとな」
刀原はそうお礼を言いながら、左腕の感覚などを確かめるようにぐるぐると腕を回したり、手を握ったり開いたりする。
「さすがだな。違和感がほとんど無い」
そう言った刀原は井上に再度お礼を言った後「さて……」と言いながらハリーを見据える。
「ヴォルデモートの意味不明なご高説に関しては、後で議論するとして……今はホグワーツや騎士団のみんなに顔を見せに行ってこい」
そして刀原はそうハリーを大広間の奥に通した。
かつて輝きに満ちていた大広間は、今や死傷した者たちが大勢いる場所だった。
マダム・ポンフリーや卯ノ花が重傷者を、雛森、そして刀原の治療を終えた井上が軽傷者を診ている。
「来たかね、ハリー……ポッター」
「お前が……そうか」
刀原達がいる場所からほんの少しだけ離れたところにいた、死覇装と隊長羽織を纏い、杖を突いている髭の長い老人。
そしてその傍にいる初老の男性。
山本元柳斎と雀部長次郎がハリー達を見据える。
「皆の者へ顔を見せてやりなさい」
「今、お前がすべきことはそれだ」
二人の言葉に従い、ハリーは前に歩き出す。
死傷した者、治療している者、肩を寄せ合っている者……その中をハリーは歩く。
「ダメだった……助からなかった……」
そう言っていたのは、戦場では水晶玉を飛ばしていたトレローニー。
彼女が顔に布を掛けたのは……誰だったのだろうか。
共に悲しんでいるのはパチル姉妹にラベンダー・ブラウン。
ラベンダーは顔に手酷い傷を負っているが、誰にやられたのだろうか。
コリン・クリービーとセドリックが担架を運んでいる。
乗っている者にも布が顔に掛かっていた。
ネクタイは……緑色だったのに。
「ロン!ああ、無事で良かった!」
ロンを見たウィーズリーおばさんが呼んだ。
ビルもチャーリーもパーシーもいる。
ジニーも無事のようだ。
だが双子の姿が見えない。
ウィーズリーおじさんも。
肝が冷えたハリーだったが、直後に胸を撫で下ろす。
三人とも生きている。
だが、ジョージの片耳が無い。
「大丈夫かジョージ」
「大丈夫な訳ないだろう……でも、ショウのやつに比べたら平気さ。それに、これで判りやすくなった」
「直ぐに判らなくなるさ」
双子は変わらず、そう軽口を言う。
「あとで必ず治療しに来るからね!取り敢えず出血を止めておいて!」
井上がそう言ってくれたのは救いだった。
「ハリー、無事だったか。……ああ、良かった」
「君を死なせては……ジェームズやリリーに怒られてしまうからな」
シリウスとリーマスが心の底から安堵したようにそう言い、近くの椅子にもたれ掛かる。
二人の近くではトンクスが休んでいる。
産後だというのに彼女が参戦したのは、最愛の人が戦場にいることが我慢出来なかったらしい。
他、ざっと見た死者数は……二十名弱。
多いというべきだろう…。
「僕の予想だと、もっと死者数は多かった。刀原君やハリーがみんなを鍛えたお陰で少なく済んだんだよ」
開戦前に必要な部屋で出会った派手なメガネを身に着けた青年が、いつの間にか傍に来てそう言った。
「君が会った何人かは……犠牲者になっていた。誰とは言わないけどね」
「君は、いや貴方は…」
「君はやるべきことが分かっているね?なら真っすぐに進むことだ」
僕が出来るのはここまで、後は任せたよ?
彼はそう言って姿を晦ました。
「言われなくても」
ハリーは一人になりたいと言い、大広間を出た。
「何処へ行こうというのかね?ハリー・ポッター君?」
禁じられた森の中にて、そう声を掛けられたハリーは少しだけドキッとしたが……想定していたこともあって、直ぐに立ち直る。
声の方向を見ると……そこには刀原が木を背にしてもたれ掛かり、腕を組みながら立っていた。
「ショウ……」
ハリーは昔から最も信頼し、そして今は最も会いたくない人物……刀原と向き合った。
「気分転換の為の散歩にしては遠くまで来すぎだな。一時休戦中とはいえ、お前は総大将なんだぞ?」
刀原は苦笑いしながらそう窘める。
いつものように。
「それとも……まさかあの下らんご高説に従い、ヴォルデモートと会うのか?連中に紳士の嗜みなんて無いからな。行ったって……
「……手荒い歓迎だね」
いつものように冗談交じりの会話をする。
「今、お前が死んだところで……ホグワーツが総攻めを受けることは変わらん。それぐらいは理解しているだろう?」
「勿論、分かっているよ」
いつものように、教え教わる会話をする。
「なら何故来た。何故、敵の本陣に向かうのかな?」
いつものように、刀原は
目が笑ってない、満面の笑みを。
「
ハリーは内心で込み上げてくる恐怖を、鋼の意思で押し殺しながらそう言った。
「破れかぶれの吶喊をするにはまだ早いと思うし、その必要もないだろう?」
「分かっているさ、その必要がなさそうだと言う事も……。それに、その時はショウも誘うさ。今までもそうだっただろ?」
「そうとも」
「でも、これは僕が一人でするべきだ」
「何故……フッ、口調が違うな」
ハリーは半ば気づいていなかったが……ロンやハーマイオニーと接している時と、刀原や雀部と接している時とでは口調が変わっている。
それは……仲間たちのリーダーである時と、それをしなくてもいい時との『思考の差』とも言えた。
今、ハリーの口調はリーダーとしてのものだった。
「良かろう。では護廷十三隊の隊長として接しよう」
ハリーが変わったことを機敏に感じた刀原は、途端に雰囲気を変える。
「理解してるなら、尚更…認める訳にはいかねぇな」
刀原は眼光鋭くそう言う。
「だがまあ、一応の理由を聞いておこう。このまま城に連れ帰るにしてもな……。ああ、下らん理由なら喋んなくていいぞ?「僕のために、皆が死ぬのが辛い」とか「申し訳ない」とか……そんな理由ならな」
「そう思うのは、いけない事?」
「無論それを思うのは大切だが、それを君が口にするのは……少なくとも今は許されん。多くの者は君の為に戦っているんだ。覚悟を決めた彼らへの侮辱に等しい」
今までの刀原ならあまり言わないような言葉だが、これは護廷十三隊の隊長としての言葉だった。
「それで?理由は?」
「……僕が分霊箱だからだ」
ハリーは最初から話した。
ヴォルデモートから襲撃を受けた時、リリーの『愛の護り』*1によって『死の呪文』は跳ね返った。
跳ね返った呪文はヴォルデモートに命中し、彼は肉体を失った魂だけの存在となった。
そしてこの時、ヴォルデモート本人も意図しない形で魂が分裂……周囲にいた唯一の生きた魂であるハリーに引っ付いた。
故に、ハリー・ポッターは分霊箱になっている。
ハリーは聞いた全てを共有した。
「……そうか、やはり我々の推察は……。藍染さんと浦原さんの考察は当たっていたか」
ハリーの語りに刀原は然したる反応も見せず、ただそう言った。
「そのために、ハリーは死なねばならないと?はっ、馬鹿げてるな」
そして怒気を隠さずにそう言った。
「しかし、これで君を行かせることは出来なくなったな。君の中にある分霊箱ごとき、我々が対処出来るのだから」
城に戻るぞ。
刀原はそう言った。
だがハリーの意思は固かった。
「いや、戻らない」
「なに?」
刀原のトーンが下がる。
「行く必要があるんだ」
ハリーは恐怖を覚えつつも、引き下がらない。
「聞こえてなかったのか?それとも理解出来なかったか?分霊箱なら俺らがなんとか出来るって言ってんだ」
「聞こえてたし、理解してるさ。何とか出来るとも思ってたさ。でも、でも僕は行かなきゃならないんだ」
「そうか、でもなぁ……。駄目だ」
刀原が不意に霊圧を上げ、放出する。
一瞬だけ意識が飛びそうになるような感覚を味わうが、ハリーはそれをグッとこらえた。
「フン、これぐらいは耐えるか」
「鍛えられたから」
「だが俺が教えたのは、お前を無駄死にさせるためじゃねぇ」
「無駄死にじゃない!」
「はっ、何が違うんだ?半端な覚悟でここに来て、人の死を感じて、手っ取り早いと思い込んでいる方法で終わらそうと考えてんじゃねぇのか?」
「違う!最善な道を自分なりに考えて、進もうとしているだけだ!」
「ただの勇み足にしか見えねぇな」
「もう一度だけ言う。城に戻れ」
刀原はそう言って組んでいた腕を解き、ハリーの行く手を遮った。
「断る。僕は選ばれた者で、ヴォルデモートを終わらせる者だ。僕は逃げない」
ハリーは毅然とした態度で言った。
「死ぬぞ」
「僕は覚悟を決めた」
「……なら見せてみろ。てめぇのその覚悟とやらを!」
刀原は杖を抜き、無言で呪文を撃つ。
ハリーはそれを横にローリングすることで回避した。
「ハンデだ。
「勿論、受けて立つ!」
ハリーも杖を抜く。
「『
「『
二人の呪文が激突した。
瞬歩で右斜め下に移動した刀原は、無言の失神呪文を放つ。
それにハリーは何とか気づき、武装解除呪文を放った。
二つの呪文は拮抗して一本の線になるが、刀原はねじり上げてそれを崩す。
そして刀原はハリーに接近する。
「『
刀原の間合いに入ったら
刀原は吹き飛ばされるが、空中で受け身を取る。
「『
それどころか空中で呪文を放ってくる。
「『
ハリーはそれを盾の呪文で防ぐ。
だがこれで、ハリーが狙っていた着地後の隙を衝いた攻撃は出来なかった。
「『
地面に着地した刀原は炎を出現させ、そして杖先をくるりと回して炎で出来た鳥を作る。
「『
十羽ほどの炎の鳥が、ハリー目掛けて一斉に襲い掛かった。
「『
ハリーは水を盾の様に正面へと出した。
炎の鳥はその全てが水の盾に突撃し、無残にも消えた。
ほんの僅かな時間ではあったが水蒸気も発生する。
「「『
数舜の暇もなく、二人は同時に失神呪文を放つ。
お互い全力で撃ち出したそれは、二人の真ん中でぶつかり、拮抗する。
意地と意地のぶつかり合いに近いそれは、最終的にハリーが制する。
刀原が杖を後ろへと反らす形で崩したからだ。
「しゃーねぇな。ちと危険だが……」
ハリーがそれを聞けたのは幸運だった。
「『
「『
刀原の爆破呪文をハリーは辛うじて凌ぐ。
だが体勢を大きく崩されてしまった。
その隙を逃がしてくれる刀原ではない。
再度接近しようとしてくる。
慌てて放ったハリーの
お返しとして向かって来た失神呪文は、何とか回避出来た。
だが気づけば接近されてしまっていた。
あと一メートル半。
刀原がニヤリと笑う。
普段なら
諦める訳にはいかないんだ!
ハリーはさっきまでの攻防の最中に拾っていた木の枝を、素早く変身術で変化させる。
一番イメージがしやすかった…グリフィンドールの剣に似た剣へと。
ここだ!
ハリーは左手で剣を振るう。
まさか剣を振るってくるとは思わなかった刀原は…完全に虚を突かれた形となった。
剣は刀原を捉える。
切った……?
ハリーはそう思ったが、相手は刀原である。
「隠密歩法"四楓"の参『空蝉』」
ハリーが切ったと思ったのは、刀原の残像だった。
後ろに回り込まれた!
ハリーは直ぐに後ろに向くが、もう遅い。
左逆手で抜刀し刀原が、横薙ぎでハリーの剣を根元から切り飛ばす。
そしてその勢いそのままに回転し、ハリーの額に杖を突き付けた。
「強くなったな」
刀原は嬉しそうに言う。
根元から切られた剣を投げ捨てたハリーが、体勢を立て直して刀原の胸に杖を向けていたからだ。
つまり、それは……。
鬼道無し、斬魄刀無し、死神の能力もほぼ無しと言うハンデがあった*2とはいえ……。
ハリーは
「次は
刀原は好戦的な笑みを浮かべる。
「僕はもう二度と戦いたくないよ」
ハリーは苦笑いを浮かべた。
「はぁ……。誰が親友を死なせたいと思うかよ」
「ショウ……」
「だが、引き分けた以上はしょうがねぇ。この先に行くがいいさ」
刀原はそう言ってハリーの行く手を開ける。
「……ありがとう」
ハリーは刀原を少し見ると、前に歩き出そうとする。
「あ、ちょっと待て」
「え、なに?」
「持ってけ。そしてその間際まで手に持ってろ」
刀原がそう言って投げ渡したのは、小さな四角い箱。
「なにこれ?」
「お守り…的な物?良いことがあるぞ……多分」
ハリーの疑問に、刀原は疑問形になりながら答える。
「不安になったら開けろ。大丈夫だ……多分な」
此方が不安になる刀原の態度にハリーは
暗い禁じられた森の中を、たった一人で歩く。
ハリーの胸中には、ある意味当然の不安が残滓の様に残っていた。
死への恐怖だ。
だがそんな弱気の自分を振り払うように、ハリーは首を振り、ポケットにある四角い箱を取り出す。
決意を新たにするために。
半ばドキドキしながらそっと開けると、そこには四角い小さな石があった。
まさか、これは……。
「蘇りの石……?」
箱から石を取り出したハリーは、しっかりと蘇りの石を握りしめ……ゆっくりと目を開けた。
そして目を開けると、そこにはハリーが最も会いたかった二人……ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターがいたのだった。
「貴方はとても勇敢だったわ」
リリーはゆっくりとそう言った。
「ずっと傍にいたわ。ずっと見守っていたわ」
「よく頑張ったなハリー。お前は僕達の誇りだ」
二人の言葉に、ハリーは泣き出しそうだった。
「苦しいものなの?辛いもの?」
「シリウスならこう言うだろう。『眠りに落ちるより素早く、簡単だ』つまり、あっという間に過ぎてゆく」
ジェームズは笑いながら大丈夫だと言う。
「これからも傍にいてくれる?見守ってくれる?」
「勿論よ。今までも、これからも……ずっとね」
リリーはにこやかに、安心させるように言う。
ハリーは二人の言葉に安心し、石を箱に戻した。
心は温かく、澄んでいた。
「ハリー!?なんでこんなとこ来た!?」
「来たかポッター……哀れな」
ハグリッドやヴォルデモートの言葉になんとも思わず、ハリーは緑の閃光を受けた。
気づけば真っ白い空間にいた。
「君は素晴らしい。素晴らしく、そして勇敢な子」
圧倒される程の神々しさを感じる女性が立っていた。
「初めてまして。私は、日ノ本の魔法世界において……『霊王』そう、呼ばれている者よ」
女性はニコッと微笑み、そう言った。
貴方が見えずとも
私は貴方を愛す
互いに触れられずとも
僕は貴方を支える
過去も
今も
未来も
我らはずっと
貴方の心に
刀原vsハリー。
刀原が死神の力を封じ、更に殺す気ではなければ……ハリーは勝てます。
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ありがとうございます。
そしてお待ちしております。
では次回は
境界と伝説
次回もお楽しみに
「いや~まさかあんなに腕を上げていたとは思わなんだ。見事に一本取られた。参ったなぁ」
「……本気ではなかったのじゃろう?」
「……当たり前です。俺らの本気は命を取ることが目的ですので。それで?……これで貴方は満足ですか?」
「……すまぬ。辛いことを押し付けた」
「今さらですね。それに、俺は確信してます。ハリーの帰還をね。それに……確固たる確信。それがあるからこそ、貴方も賭けに出た。違いますか?」
「敵わぬの」