おかしい。
季節は12月下旬、世間はクリスマス一色となっておりオタクの聖地秋葉原であってもその流れには勝てず秋葉原も赤と白で彩られている。
たった一つの世界線を超える為にあの地獄の様な夏を幾度も繰り返し、今ここに立っている。
変わらぬ日常程恐ろしいものは無いが、時が戻る事のない日常を謳歌しつついつものように牛丼サンボで少し遅めの昼飯を取っていたのだが・・・・
目の前のコイツは知っているのだろうか、サンボは客に厳しく『スマートフォン禁止』となっており張り紙も大々的に張り出されている。
俺の目の前で牛丼を待っているコイツの目の前に置かれているのは・・・
黒の固定電話、ダイヤル式だ。
よく祖父の家でジーコージーコー回しては遊んでいたのだが待って欲しい。
確かにこれはスマートフォンではない、ガラパゴス携帯でもない、固定電話だから禁止はされていないがそんな骨董品を食事のテーブルに置いて何をしたいのだコイツは・・・?
見た所電話線が繋がっている訳でもなく、本格的にただの置物としての電話でしかなく鳴るわけが
ジリリリリン、ジリリリン。
鳴った。
祖父の家で聞いた懐かしいベルを鳴らす音が鳴った。
・・・・おそらく良く出来た玩具なのだろう、このオタクの街秋葉原であれば少しぐらい変な玩具があってもさほど不思議ではない。いや、意味は全く分からんが。
流石にこの音には店員も注意するのか目の前の女に向けて歩みを進め始め
「はい、もしもし。」
おい、出たぞこいつ。
一人で電話芝居でも始めるつもりか・・・?見ろ、店員さんも困惑してるじゃないか。
この女の異様な行動でいつも静かな店内は更に静まっており、そのおかげか何を言ってるかまでは判らないが確かに電話の向こうから音が出ているようだ。
もしやこれは新手の固定式携帯電話なのか?いや、なんだ固定式携帯電話って意味が分からんぞ。
この俺岡部倫太郎こと鳳凰院凶真も大概ではあるがこの女も大概頭のネジが数本飛んでいるようだ。
よくよく見れば整った顔立ちに銀髪、体つきもよく本当に『黙っていれば美人』というタイプだろうが頭に着けた獣耳のコスプレもあって・・・いやまるで元からそこにあるようにまで獣耳が似合っている。
何にせよこう言った手合いには関わらないべきだろう、美人で獣耳と言えばフェイリスのようなチートかつ厄介な人材である可能性があると言うかそんな匂いがプンプン匂ってくる。
「了解、任務を開始する。」
チンッ、と心地よい音が静かな店内に響き渡り残念女が立つ。
立ってみると意外に身長はあるようで桐生萌郁と同じ・・・いや、それ以上か?
女性にしては高く170cm前後もありそうで、高身長残念女が麻袋をこちらに向けて掲げると中々の威圧感があり・・・
「・・・・は?」
「確保っーーーーーー!!!!」
高身長残念女の勢いの良い声と共に麻袋で視界が塞がれ・・・不味い不味い不味い不味い!!
未だSERNの手先がこの街に残っていたと言うのか!?
必死にもがきはするものの足まで一気に被せられた麻袋のせいで手足の自由は奪われ、
何よりこの高身長残念女の力が強すぎる。まるでエビフライの様にされた俺を右肩に担いでいるだけなのに
拘束力が半端なさ過ぎてミスターブラウンに掴まれているかと錯覚するレベル・・・つまり高身長残念女は軍隊上がりの可能性すらある。
必死の抵抗も空しくまるで陸に打ち上げられた魚の様にもがく。
「なんだ!?なんなのだこれは!?」
悲鳴に近い声を上げると何処からか声が聞こえる。
「え、えっとこれは・・・・?」
この声は店員のお姉さんだな!?そうだ、これは非常事態なのだ何とかしてくれ!
「おう、ねーちゃん!ツケといてくれ!トレセン学園のゴールドシップ宛で!!」
「違うz・・・」
否定する声を掻き消す様にドンッとまるで鉄球が落下したような音と共に風が顔面を打ち抜いた。