「恐らく、本物の神族だ」
夜蛾は頭を抑える。神様が降臨するなど前代未聞だ。
それが異界の神であれ、天与呪縛に干渉できるなら関係ない。上位者だ。
お茶を飲む手が震えている。
「神様ってああ見えるのか……」
「傑大丈夫なの?」
硝子が心配する。
「一応、神様が責任持って返すというのだから大丈夫だろう。数日で目覚めると言っていた。任務だが……」
「俺に勝てるぐらいだから大丈夫だろ。神様だし」
「しかし、神様に任務を押し付けるのは……」
「聞いてみればいいじゃん。あの人そんな事で怒らね―だろ」
「機嫌が良さそうだな、五条」
「あの神様、速度で無限に追いついたんだよ。無限自体もキャンセルできるけど、俺相手にはしないようにしてたし、もうすげーの♪ 多分傑の回復に力を割いてるし、それであれだからすげーよなって」
「とにかく、悟! くれぐれも不敬はするなよ!」
「わかったって」
一方その頃、甚爾は戸惑っていた。
極端に落ちる身体能力。溢れ出る呪力。それは、やろうと思えば切り替えることも出来た。
鋭い身体能力と、呪力なしの身体へと。
まるで、ゲームのアバターの切り替えだ。
戦士タイプと、魔法使いタイプの切り替え。
はっきり言ってチートである。
相伝ではないが、影の竜を操るかなり強い式神系の術式だった。
甚爾はしゃがみ込む。馬鹿なことを考えている。馬鹿なことを考えている。
猿でなくなったから何だというのだ。
あの場所で、受け入れられて嬉しいとでも言うつもりか?
戸惑いながらも、歩き始めた先には、捨てたはずの実家があった。
「呪力を得たと? 馬鹿な!」
「相伝じゃないがな」
甚爾が印を組むと。ズルリ、と影の竜が現れる。
相伝ではないが、相伝にかなり近そうな術式である。
影には当然のように物をしまっておけたし、影で作った鞭でも大剣でも出現させられた。
控えめに言って強く見栄えが良い。
甚爾が引き起こしてきた問題はかなり多い。だが。禪院は実力主義だ。
そうして、会合が行われた。
「パパ! 新たな当主候補を選んだやて!? ふざけんなや!」
「新たな当主候補の甚爾だ」
「甚爾くんが当主なら従ったるわ!」
直哉の豪快な手のひらくるりに頭を痛めつつ、直毘人は説明する。
「それって、甚爾くんの本来の術式ってこと? 僕にも見せてや!」
甚爾が影の竜を見せると、直哉は大喜びだ。
もう次期当主甚爾くんで良くない? 甚爾くんで決まりやな!
はしゃいで喜ぶ直哉にやはり頭痛がしながらも、直毘人は告げる。
「甚爾は当主候補にはするが、当主にしたとしても実権は渡さない」
呪具をお馬さんに貢がれたら困るというのが切実な理由だ。
ただ、お飾りの当主としてはあり得るということだ。
恵と津美紀を引き取る話も出ており、直毘人としては、恵こそはきちんと教育しようという腹づもりである。勝手すぎる。
討議は――揉めた。
天与呪縛であることは変わらない。猿が今更何を。
罵詈雑言を、憎しみの眼を向けられ、やっぱり受け入れられるはずがないか、などと冷笑する。なお、憧れの眼で見てくる直哉は甚爾の視界には入ってない。受け入れられたいなら、まずはそこを眼中に入れてあげたいものである。
「韋駄天・八兵衛……」
「呼んだかい? 神に愛されし青年よ」
ひょっこりと顔を出した韋駄天・八兵衛。依代の名は夏油 傑に、よりすぐりの術者達は度肝を抜かれる。
誰も気配も入ってくる様子も感じ取れなかったのだ。
「夏油 傑!?」
「お前、呼ばれれば来るのかよ」
驚きつつも問うと、かなりびっくりな答えが帰ってきた。
「私の名において助けを求められればね」
「はあ?」
「助けを求めていたのだろう? 私が来たよ! どんな悪霊も退治して……あ、こちらでは呪霊を祓うというのだっけ?」
しばし沈黙した甚爾は、笑った。
「天与呪縛を猿だって言われて困ってるんだよ。なんとかしてくれ、韋駄天・八兵衛サマ」
「――神が与えた施しを猿とは随分な表現だね」
夏油 傑から清浄な空気がざあっと巻き起こり、術師達はすべからく頭を下げた。
なお、この時点で恵が「選ばれし運命の子」であることを韋駄天・八兵衛がぽろりして、恵の将来は決まった。
「それはそうと、八兵衛サマ。「助けて」ほしいんだけどよ」
「なんだい?」
甚爾は、八兵衛を違約金として時の器に売っぱらった。
信じられないでしょうが、八兵衛様のお人好し度はほぼほぼ原作準拠です。