「あー。礼にお馬さんを見に連れて行ってやるよ。レースとか好きだろ」
「教育に悪いからやめろ。やめろ」
「ほんとうに糞だな」
『レースは好きだよ!』
「あああ……」
そして、競馬に連れて行かれた八兵衛様は終始ソワソワしていた。
「なんだお前、走りてぇの?」
『走っているのを見ると、どうにも追い越したくなる質でね』
「頼むから傑の体で参戦しないで」
「なあ、どれが勝ちそう?」
『そうだね。3ー8-5-1-4-2-6-7かな!』
「よし、直哉3連単(三着まで順番通りに当てる。最も難しい)買ってこい」
「了解や」
結果、大当たりである。
「よっしゃああああああああああ!! 今日はぱあっと食べに行こうぜ!」
「最低の大人だ……」
「八兵衛様、甚爾を甘やかせるのもいい加減にしてください」
『?』
「駄目だ、わかってない……」
「なんか欲しい物あるか? 八兵衛様! 何でも買ってやるよ!」
『そうだね。変装できるものが良いかな。白い無地の服に刺繍でもしようかと』
「変装?」
『考えたんだが、やはり人間の世界のあれこれに干渉しすぎるのは良くないと思うんだ。特に、あちこち助けに行ってるのは、神としてちょっとなって』
「ほう」
「そーだな。俺らは助かるけど、神様ってそもそも八兵衛様が見るの初めてだしな」
『だから、変装すれば問題ないかなって。仮面をしてゲトーマンを名乗れば正体も隠せるし』(原作準拠)
「隠せねーよ!」
「お願いします止めてください」
「変身ヒーローになりたいんやったら、僕に任せたって!」
「「やめろ直哉」」「はい」『暴力はやめるんだ!』「テメーのために言ってんだよ!!」
「八兵衛様は何が食べたい? 硝子も呼ぼうぜ!」
『そうだね。あまり好きではないけれど、神通力が心もとないから、イモリの丸焼きとか食べたいな』
「食べるの私だよね??? そんなことより安静にしていてよ」
『む! 九兵衛!?』
「ヒャハハハハハ!! 俺の方が早いな!!」
馬の隣に並走している人形の異形に、ザワザワとざわめきが走る。
そうか、呪霊じゃないから見えるんだ!!
直哉が慌てて帳を下ろす。
「敗北者は死ね!」
攻撃にさらされた騎手と馬を、私の体の支配権を奪った八兵衛様が身を挺して庇った。
「やめるんだ、九兵衛!!」
「はっ 八兵衛! まさかこんな所に気配がするとは、驚いたぞ! 優等生が競馬とはなぁ!」
「おかげ様で大当たりだったぜ」
「え。神が人界で賭け事? 本当にしたのか、お前? それ、禁則事項じゃ……」
「何をわけのわからないことを言っているんだ、九兵衛!」
ドン引きする九兵衛様に、理解しない八兵衛様。
「まあいい! 今度こそ、俺は九兵衛! お前に勝つ!! 一番足が早いのは俺だ!」
「どっちの方が早くてもいいじゃないか。神界に帰ろう、九兵衛!」
「良くねぇ!! 勝負だ、八兵衛!! 俺に勝ったら戻ってやるよ!」
「くっ 仕方あるまい!」
「ルールはそうだな。シンプルにこの競馬場を一周でどうだ!」
「受けて立つ!」
「戦闘じゃねぇのかよw」
「神様同士の戦いはわかんねーな」
八兵衛様と九兵衛様は並び立った。
そして、走る。
目まぐるしく景色が動く。凄い。
八兵衛様は早かった。けど、九兵衛様はもっと早かった。
いや、これは!!
九兵衛様を、そして八兵衛様を取り巻く呪力がわかる。
「これは……!!! 九兵衛!」
九兵衛様を心配した声をあげた八兵衛様。
九兵衛様がゴールした瞬間、八兵衛様は……私は血を吐いた。
「ぐはぁっ」
「はっ 弱い! 弱いぜ八兵衛!! 今のお前に勝っても嬉しくねぇ、止めは刺さないでやるよ!」
そして、九兵衛様は去ってしまった。
「まずい……! こんなに早く影響が!? 馬鹿な……!! 九兵衛は気づいてないのか!?」
「大丈夫か、八兵衛サマ」
「傑、大丈夫か!?」
「補助監督呼んだから、後は任せよ」
そして、競馬場を出る。
「力を、力を得ないと……! 早く九兵衛を連れ戻さないと、大変なことになる」
「よし、今日は焼肉食って力をつけようぜ!」
というわけで焼肉屋で硝子と合流して事情聴取である。
「信仰の影響を受けた?」
『そうなんだ。でも、あんなに早く影響を受けるなんて、ありえない……!』
「……実は、八兵衛様をご心配させないようにって口止めされてたんだけど。九兵衛様は、首都高で車に勝負を仕掛けては追い越した車に攻撃を仕掛けていて、それが多数に目撃されている」
『そんな……!!』
「八兵衛サマも何か影響を受けていたようだけど」
『そうなんだ。守護するものとしての属性が付与されて、その分速度が遅く……参ったなぁ……! このままでは、九兵衛は、早く、強く、理性を持たない化け物に変わってしまうかも……! 一体、どうすれば……!』
「……マジで早く帰ったほうが良いかもな、八兵衛様」
「ああ、やばいな。直哉。手紙の事、頼んだぞ」
「うん? ああ、八兵衛様がなくした手紙やな。任せたって」
「……直哉、お前変わったな」
「そ?」
「良い方にだから安心しろよ」
お腹が膨れたら、次はカラオケ屋である。無断で学校を抜け出した事を思い出して、だんだん怖くなってきたけど、たまには良いよね!
メールだけ入れて連絡は無視しよう。
げんこつは覚悟しないとな……。
皆で順番に歌を歌い、最後に私にマイクが手渡された。
「八兵衛サマ。歌って!」
『しかし、私は人界の歌を知らないのだが』
「天界の流行りなら知ってるやろ」
『……下手だよ?』
そう恥じらう八兵衛サマに身体を渡す。
そして、皆で拍手や手拍子をして歌を盛り上げた。
部屋の隅にいた蠅頭がガンガン消滅していくけど、私達は何も見なかった。
この神様、ちゃんとお家に帰してもらえるんだろうか。
感想、お気に入り、ありがとうございます!!
この話からどんどん独自設定入れていきます。
誤字報告ありがとうございます!
誤字多すぎで本当すみません。