韋駄天様は手紙を届けたい(完結)   作:かりん2022

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それぞれの決意

「やあ! やっと会えたね、御神体の夏油君! そして八兵衛様!」

「は、はあ」

『また女性? また女性なのかい?』

「はは、警戒されてしまっているね。実は私は、呪霊のいない世界について研究していてね。異世界の神様にはとても興味があるんだ。ねえ、君の管理する人界には呪霊はいるかい?」

『あの穢れのことなら、いないと思う。でも、その代わりに悪霊や悪魔などがいるよ』

「それは興味深い! 話を聞かせてもらっても?」

「あ、それは私も聞きたいかも」

『私も、詳しくは知らないのだが……』

 

 夏油も九十九も楽しげに話を聞いた。

 呪霊のいない世界でも、争いが絶えないのは悲しいことだが、異世界の異能力者の話となればなかなか面白い。当人は大変だが、傍から聞いている分には面白いということだ。

 きっと、この世界のこともよい土産話になるのだろう。帰れたらの話だが。

 

「この世界では、呪霊は呪いから産まれる」

『うん』

「そして、呪術師は呪いを生み出さず、非術師が呪いを生む」

『うん……? ……はっ!! 人間界の学説に口を出してはならない!』

 

 八兵衛様は思い出し、相槌を打つ作業に戻る。

 

「……違うのかい?」

「九十九さん、間違っている学説を自慢気に話すのは……」

「いや、すまない。術師も呪いは生み出すのか?」

『いや、術師は呪いを生み出さない、のだろ? うん。続きは?』

「意地悪しないで、教えておくれよ。ヒントだけでもいいからさ」

『そんなわけには……。それに、この世界に詳しいわけでもないし』

「そんな! 大勢の人が救えるかもしれないのに!」

『いや、言えない』

 

 八兵衛様は強張った声で言う。こんなことは初めてだ。八兵衛様は人に甘いのに。

 九十九は目に見えて落ち込んだ。その沈黙に耐えられず、八兵衛様は呟く。

 

『……のどが渇いたから、お椀とインスタント味噌汁とお湯と多めの塩が欲しい』

「すぐ用意するよ!」

 

 九十九がぱあっと笑顔になって、いそいそと持ってくる。

 夏油は体の支配権を八兵衛に渡した。

 お湯を入れたお椀を持ち、八兵衛は日本みたいにキレイな器だな、と言った。

 夏油には意味がわからなかったが、九十九の視線が鋭くなる。

 

「呪霊みたいな特徴の強い味噌だね。だから退治してしまおう」

 

 味噌をぐぐっとお湯の中に絞り出す。

 

 そして。そして、塩を神通力で固めて箸を作って、その箸で味噌を撹拌した。

 

「これで大丈夫。なんていっても、塊が無くなったからね」

 

 そして、ちょっと溶けた塩の箸を取り出し、ずずっとお味噌汁を飲む。

 

「しょっぱい」

 

 当然である。そして、そこまで露骨な物を見せられた九十九と夏油は声を上げた。

 

「「馬鹿な!?」」

 

 それから、目まぐるしく考え始める九十九。

 夏油は体の支配権を奪い返して質問を重ねた。

 

「そもそも、根本的に祓えてないって事か!? 嘘だろ!?」

『わ、私は何も知らないし、お味噌汁を飲んだだけだ! ……でも、毒を毒で制しても綺麗にはならないよ』

「なら! なら、私達は何のために……! いや、待て。残穢、そう、残穢か! 八兵衛様が倒した後には、残穢は残らなかった!」

「確かに! 残穢もまた、結界内で残留して凝り固まるとしたら……術師も呪霊を生む! そして、この世界で、ただ八兵衛様と九兵衛様だけが、呪いを本当の意味で祓える……? 天元様……!!」

 

 最後の呼びかけは、祈りか怨嗟か。八兵衛様には推し量れなかった。

 

『あの、私は役目を果たしたら神界に帰らなくてはならなくてだね。九兵衛も連れ帰らなきゃだし、手紙も探さないとだし』

 

 恐る恐る八兵衛様は申告する。

「ああ、八兵衛様が正直に伝えてくださったんだから、こっちも正直になろう。帰さないよ。八兵衛様も九兵衛様も」

『へ?』

「末永く祀って大事にするってことさ。この部屋から出られないだろう?」

「九十九さん、私は八兵衛様の素養を持つ子供を作る事、前向きに考えてみようと思います」

「その心根、立派だよ」

『あの、どういう事だい? ちょっとー』

 

 八兵衛様が夏油の治療を終えて、出たいと言っても、当然ながら外出許可は下りなかったのである!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、甚爾は珍しく恵の頭をなでていた。

 

「そうか。八兵衛様の治療が終わったか」

 

 手紙を読みおわった甚爾は、それを丁寧に畳んで燃やした。

 灰をお茶に入れて、そのまま飲んでしまう。念の入った証拠隠滅だ。

 

「なんや、羽衣取られた天女様みたいやなぁ。ほんまにあるんや、こんな事。なんや可愛そうやなぁ」

 

 甚爾は、直哉の頭を撫でる。

 

「直哉。この一年、俺は人間になれた。こんな日が来るとは思わなかったが、まあ、悔しいが結構楽しかった。後は頼む。恵と、ついでに津美紀も守ってやってくれ」

「甚爾君……?」

 

 甚爾の常ならぬ行動に驚く直哉。

 

「お前は知らぬ存ぜぬを貫き通せ。元気でな」

 

 そして、甚爾は呪具を持って出た。向かう先は……呪専。

   




メロンパンもだしたかったけど無理かも。
色々ぶん投げつつ次回最終回です。(多分)
ここすき、感想、誤字報告ありがとうございます!

味噌の撹拌は私の勝手な考察です。
残穢とか残るから結局は同じことじゃないか、的な。
呪力操作してるから呪力もれないなら、残穢も消せないとおかしいだろ、と。
異論は認める感想ください。

なんだか何度も読み返してくださる方がいるらしく、
お気に入りやUAは少なくともPVはめちゃくちゃ多いのがありがたいです。
ありがとうございます!!
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