「やあ! やっと会えたね、御神体の夏油君! そして八兵衛様!」
「は、はあ」
『また女性? また女性なのかい?』
「はは、警戒されてしまっているね。実は私は、呪霊のいない世界について研究していてね。異世界の神様にはとても興味があるんだ。ねえ、君の管理する人界には呪霊はいるかい?」
『あの穢れのことなら、いないと思う。でも、その代わりに悪霊や悪魔などがいるよ』
「それは興味深い! 話を聞かせてもらっても?」
「あ、それは私も聞きたいかも」
『私も、詳しくは知らないのだが……』
夏油も九十九も楽しげに話を聞いた。
呪霊のいない世界でも、争いが絶えないのは悲しいことだが、異世界の異能力者の話となればなかなか面白い。当人は大変だが、傍から聞いている分には面白いということだ。
きっと、この世界のこともよい土産話になるのだろう。帰れたらの話だが。
「この世界では、呪霊は呪いから産まれる」
『うん』
「そして、呪術師は呪いを生み出さず、非術師が呪いを生む」
『うん……? ……はっ!! 人間界の学説に口を出してはならない!』
八兵衛様は思い出し、相槌を打つ作業に戻る。
「……違うのかい?」
「九十九さん、間違っている学説を自慢気に話すのは……」
「いや、すまない。術師も呪いは生み出すのか?」
『いや、術師は呪いを生み出さない、のだろ? うん。続きは?』
「意地悪しないで、教えておくれよ。ヒントだけでもいいからさ」
『そんなわけには……。それに、この世界に詳しいわけでもないし』
「そんな! 大勢の人が救えるかもしれないのに!」
『いや、言えない』
八兵衛様は強張った声で言う。こんなことは初めてだ。八兵衛様は人に甘いのに。
九十九は目に見えて落ち込んだ。その沈黙に耐えられず、八兵衛様は呟く。
『……のどが渇いたから、お椀とインスタント味噌汁とお湯と多めの塩が欲しい』
「すぐ用意するよ!」
九十九がぱあっと笑顔になって、いそいそと持ってくる。
夏油は体の支配権を八兵衛に渡した。
お湯を入れたお椀を持ち、八兵衛は日本みたいにキレイな器だな、と言った。
夏油には意味がわからなかったが、九十九の視線が鋭くなる。
「呪霊みたいな特徴の強い味噌だね。だから退治してしまおう」
味噌をぐぐっとお湯の中に絞り出す。
そして。そして、塩を神通力で固めて箸を作って、その箸で味噌を撹拌した。
「これで大丈夫。なんていっても、塊が無くなったからね」
そして、ちょっと溶けた塩の箸を取り出し、ずずっとお味噌汁を飲む。
「しょっぱい」
当然である。そして、そこまで露骨な物を見せられた九十九と夏油は声を上げた。
「「馬鹿な!?」」
それから、目まぐるしく考え始める九十九。
夏油は体の支配権を奪い返して質問を重ねた。
「そもそも、根本的に祓えてないって事か!? 嘘だろ!?」
『わ、私は何も知らないし、お味噌汁を飲んだだけだ! ……でも、毒を毒で制しても綺麗にはならないよ』
「なら! なら、私達は何のために……! いや、待て。残穢、そう、残穢か! 八兵衛様が倒した後には、残穢は残らなかった!」
「確かに! 残穢もまた、結界内で残留して凝り固まるとしたら……術師も呪霊を生む! そして、この世界で、ただ八兵衛様と九兵衛様だけが、呪いを本当の意味で祓える……? 天元様……!!」
最後の呼びかけは、祈りか怨嗟か。八兵衛様には推し量れなかった。
『あの、私は役目を果たしたら神界に帰らなくてはならなくてだね。九兵衛も連れ帰らなきゃだし、手紙も探さないとだし』
恐る恐る八兵衛様は申告する。
「ああ、八兵衛様が正直に伝えてくださったんだから、こっちも正直になろう。帰さないよ。八兵衛様も九兵衛様も」
『へ?』
「末永く祀って大事にするってことさ。この部屋から出られないだろう?」
「九十九さん、私は八兵衛様の素養を持つ子供を作る事、前向きに考えてみようと思います」
「その心根、立派だよ」
『あの、どういう事だい? ちょっとー』
八兵衛様が夏油の治療を終えて、出たいと言っても、当然ながら外出許可は下りなかったのである!!
一方その頃、甚爾は珍しく恵の頭をなでていた。
「そうか。八兵衛様の治療が終わったか」
手紙を読みおわった甚爾は、それを丁寧に畳んで燃やした。
灰をお茶に入れて、そのまま飲んでしまう。念の入った証拠隠滅だ。
「なんや、羽衣取られた天女様みたいやなぁ。ほんまにあるんや、こんな事。なんや可愛そうやなぁ」
甚爾は、直哉の頭を撫でる。
「直哉。この一年、俺は人間になれた。こんな日が来るとは思わなかったが、まあ、悔しいが結構楽しかった。後は頼む。恵と、ついでに津美紀も守ってやってくれ」
「甚爾君……?」
甚爾の常ならぬ行動に驚く直哉。
「お前は知らぬ存ぜぬを貫き通せ。元気でな」
そして、甚爾は呪具を持って出た。向かう先は……呪専。
メロンパンもだしたかったけど無理かも。
色々ぶん投げつつ次回最終回です。(多分)
ここすき、感想、誤字報告ありがとうございます!
味噌の撹拌は私の勝手な考察です。
残穢とか残るから結局は同じことじゃないか、的な。
呪力操作してるから呪力もれないなら、残穢も消せないとおかしいだろ、と。
異論は認める感想ください。
なんだか何度も読み返してくださる方がいるらしく、
お気に入りやUAは少なくともPVはめちゃくちゃ多いのがありがたいです。
ありがとうございます!!