オーバーロードナイトスター   作:曳航彼

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第一章:ワールドサーチャーズ
プロローグ


 ──〈即応反射〉、〈六光連斬〉

 咆哮とともに、ガゼフは止めを刺しに来た天使を斬り払う。

 だが、それらを召喚する魔法詠唱者(マジックキャスター)に肉薄する事は出来ない。いや、ついぞ出来なかった、というのが正しいのか。

 もはや身体は重く、部下は死んだ。武技を使えるのも奇跡のようなものだ。まもなく、ガゼフは崩れ落ちるだろう。

 だが、こんな、自分一人の命の為に村をいくつも犠牲にする輩に殺されまいという矜持が、ガゼフを奮い立たせる。ガゼフが死ねば、後ろの村の住民は全て殺されるのだ。

 自らの意気に萎縮する敵の姿も、勝機が無い戦士に冷笑する敵の声も、彼には分からない。ただ戦意があった。

 だからガゼフは剣を振る。

 〈即応反射〉、〈流水加速〉

 そして──

 

***

 

 ある一つの人影がもう一つの影の横でみすぼらしい船を動かしていた。

 彼が回す操舵輪はしかし、それに反して美しい芸術品としての意匠が施されており、中央の宝石がその価値を証明するように輝いている。

 狭い船室の窓からは遠く下に、水晶のような輝きをもつ平原や、毒々しい色の沼地が見えていた。

 ここに誰か居たとして、船が空を飛んでいる事に驚くだろうか。いや、そんな事はないだろう。なぜならこの世界はデータ──正確に言えば、今日サービス終了をする、DMMO-RPG、ユグドラシル──ゲームの中なのだから。

 一人で黙っているのも何だか寂しいような気がして、操舵輪から投影された中空の地図を眺めながら、彼は横のNPCへ向かい呟く。

 「次はどこに行こうか」

 勿論、NPCは答えない。黙る以上に寂しい行為だったような気がした。

 彼──偲にとって、サービス終了はそこまで大きなイベントでは無かった。この船をホームとする、そして偲がギルドマスターであるギルドは、既に同じ名前、同じメンバーであるチームが別のゲームに作られているからだ。そちらのゲームでは偲ではなく、そのゲームの得意な別のメンバーが長を務めているのだが。

 つまり、偲にとって、そしてそれ以上に他のメンバーにとって、ユグドラシルは既に終わった物なのだった。それなのになぜサービス終了時になってインしているのかという理由は、このギルド『らしい』と言える物だ。

 このゲームは偲がやってきた中で初めてのDMMO-RPGだった。そして、サービス終了に初めて立ち会う事が出来るDMMO-RPGだった。だから気になった。脳を専用の機械に接続するDMMO-RPGは、サービス終了時どんな感じなのだろう、と。

 普通に考えてログアウト時と同じ感覚なのは分かっていたが、DMMOゲームは長寿だ、サービス終了の感覚を味わえる機会は少ない。これを逃す手は無かった。公式の行うイベントにも興味はあったしそれに、初めてこのギルドに入った思い出のゲームでもある。

 (それが一番大きいのかも知れないな……)

 知り合いのギルドでも訪ねようかと沼地の見える窓に向けていた視線を、手元のコンソール……時計の表示されたそれへ移した。

 23:58:49

 訪ねる時間は無いようだ。

 ギルドのランキングをコンソールを操作し表示させる。

 ランキングに表示されたギルドのワールドアイテム保有数、メンバー数、PKレート等の数値を見たあと、ある数値を見て満足そうに頷く。

 勿論、ユグドラシルというゲームの中でその顔は動かず、通常通り──笑顔のままだ。

 23:59:21,22,23,……

 ユグドラシルにおけるギルドの軌跡がなくなる、それなのに寂寥はそこまで持たなかった。

 それはまだギルドが終わる訳ではないからだろうか。きっと違った。偲にとって、これは足を踏み出したあと、反対側の足を地面から離すような物だ。

 ユグドラシルから別のゲームに移行する時、偲は少し気がかりに思った。まだやり残した事があるような気がして。それが今日綺麗さっぱり無くなるのだ。

 23:59:51,52,53,……

 システムがダウンすれば、夜を更かして向こうのゲームで遊ぼう。今日なら色々閃ける気がする。

 58,59,………

 思わず、終了時間に合わせて目を瞑っていた。が、何も起こらない。これがサービス終了の感覚?

 目を開ける。美しい操舵輪が見えた。まだ終わっていない。ふと見るとコンソールが消えていた。

 「お」

 お、公式が最後の最後にイベントを考えてくれたのかな、と声に出そうとして、最初の部分で気づいて、口を閉じた。そう、閉じたのだ。声を出す際に、口が開いたのだ。

 汗で服が張り付くような感覚が肌を駆け抜けた。いや、実際にそうなっているのかもしれない。ユグドラシルの機能になかった筈の表情の動きが、今やあるのだから。

 「有り得ない……」

 いや、本当に有り得ないのだろうか? 偲は疑問に思う。偲はゲームに詳しい方じゃないし、自らの仕事によって得た専門知識はこういった技術には役に立たなかった。もしかしたらサービス終了と見せかけてのサプライズ大幅アップデートなのかもしれない。

 そうであれば公式から連絡なり来る筈だから、今は慌てず待機といった所か。正直いって偲は浮かれていた。驚きはしたが、それは未知による物で、つまりそれは偲の脳内では期待感、わくわくに変わる。

 だがそれらは──期待感と驚きは、次の瞬間倍増する事になる。隣に待機させていたNPCが、先の偲の発言に返答する事で。

 「ああん? 有り得ないって、何がだ?」

 

***

 

 エンリ・エモットは、村から遠く中空に浮かぶ点──船のように見えるそれを発見した。




超期待しないで待ってて
あと、『どんな犠牲があろうとも』に期待してる人はごめんね、それは後編の予定なんだ
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