『城塞都市』、または『迷宮都市』。
リ・エスティーゼ王国はエ・ランテルを指す際、ある程度この都市を知っている人間はそれらの表現を使い分けるだろう。
王や貴族など、国家レベルでの視点で物を考える者であれば、そこは王国におけるバハルス帝国への要所として捉えられた。
そして、街の外れや巨大墓地などに様々なダンジョンを抱えるこの都市は、冒険者達の都としても広く知られている───。
***
冒険者組合から出た偲は無数の視線を受け、恥ずかしいような、誇らしいような気分を得た。
目立つ行為が偲のような年齢には自尊心を回復させる物である事は常だが、恥ずかしさもまた感じているのは何故か。
偲は自らの布鎧をなぞる。
古今東西、布鎧が意味する物は防御能力を持つ服のような形式をとった装備品だ。現実世界だと、自警団または警察組織における特殊機動隊や、父の勤務していた企業が有する私兵などの制服がそれに当たるだろうか。
だが、偲が着ているそれはそういった真面目な風体を見せず、まるで現実世界でどこかへ遊びに行く時に着ていたような、文字が書かれた普通の服のような見た目だ。
当然、ファンタジーと呼ぶべきこの世界では、現実世界によくあった文字が書かれた服装など存在せず。
自らへの視線には珍奇な物を見たようなそれが必ず含まれているはずだと、偲は確信する。
(それに、ニグンさんや聖典の人達がこの装備を優れているとか言ってたし、この世界の住民全てに優れた武具を見抜く能力があるかも知れないんだよな……。やっぱり、
少なくとも、この文字のせいで目立っているのは間違いないのだから、外装は変えておく方が良かった気がする。
(といっても、この世界でのクリエイトツールかなり使いづらいからなぁ。やれる事は増えたんだけど、その代わりに、みたいな。試しに僕の異形形態をいじってたら三日もたってたし)
「では、私はこれで」
共に冒険者組合を出た中年のような見た目をした存在に偲は手を振る。
イエロークローズ……イエローは元々触手だけで出来た悪魔なのだが、現在は人間形態である為に少し凛々しいだけの、太った中年男性としか見えない。
ちなみに、彼のトレードマークである黄衣……もとい黄色のレインコートは置いてきてある。
「じゃあ、僕の御用商人として頑張って」
そういう設定だ。だが、決して内実を伴わない物ではない。
イエローは商人系統の職業がいないワールドサーチャーズにおいて、エクスチェンジボックスやユグドラシル公式で提供されていた商人NPCに対する値切り
彼にNPCとして設定された性格などもそれに準じた物になっており、ワールドサーチャーズが異世界に適応、そして異世界を探求するにあたって最も有用なNPCが彼だと偲は断言出来た。
「かしこまりました」
そして、偲が貴族の子供として雇っている御用商人という、この都市で使うつもりの設定は、こういった──今イエローがお辞儀をしているような──NPC特有の態度も覆い隠してくれる利点があった。
他のNPCでなくウルをここに連れてきたのにも、そういった理由がある。
イエローが去っていくのを見届けた後、偲は組合で勧められた宿へ、教えられたうろ覚えの道を思い出しながら向かう。
「冒険者の登録は上手くいけたな。つーか、この分だと大体の事は問題なさそう?」
敬意の全くこもらない声に、欠伸をしながらついてくるウルを見る。
ウルは船長としての服をそのまま着て来ていた。腰より少し下まで垂れ下がった、彼の眼球より少し濃い緑のコートと、腰の部分が服により少し隠れた褐色のズボン。
だが、最も目立つのは火のような意匠が全体へと施された、通常より大きめなベルトだ。コートとズボンを同時に固定している藍色のベルトは、ウルが持つ、とある
ウルは50レベル程でしかないために、わざわざ最高位アイテムを持たせる必要がないとギルドメンバーには判断されていた。それなのに一つだけ持っているのは、ギルド長である偲が作った物を与えた結果である。
先程目立っていた理由にはこのアイテムもあるかも知れないなと考えながら、偲は口を開いた。
「そうだね、真言能力も問題なく機能しているようだし」
「頼むぜ、言葉は分かるけど、俺はこの世界の文字は読めないからな」
「頼まれた、よ」
天使の種族的な能力により、偲はこの世界の文字が読めた。というより、異世界人の言語が分かるのもそれによる物だと思っていたのだが、真言能力のないウルにもこの世界の言語は分かるらしい。
そもそも、飛空艇内のNPC達同士でも使える言語がそれぞれ違ったりする訳で、そこで気づくべきだったのかもしれない。
例えるなら映画の吹き替えのような物が、この世界では行われているようだった。
では、実際に彼らが話しているのは何語なのだろう。いや、もしかしたら声すら元々の物とは別の物が聞こえているのかも知れない。
吹き替えだしな、と偲が適当な事を考えていると、ウルが話しかけてくる。
「だが、偲。ティアマトではないけど、その、大丈夫なのか? 今は能力の殆どが使えないんだろ?」
ウルが言っているのは、現在偲の人間形態に設定されているペナルティの事だ。
ユグドラシルにおいて、そしてこの異世界においても、プレイヤーはクリエイトツールを用いて人間形態や半人形態などでのペナルティと異形形態でのボーナスが調整出来るのだが、偲は異世界で冒険者をするにあたり、現地に馴染む為にも、人間形態でのペナルティを大幅に大きくしたのだ。具体的には50レベル程度まで能力が下がる程に。
「確かにペナルティは大きくしたけど、それでも種族の特殊技術や利点をまるまる消しただけで、
「ふーん。ま、本人がそういうならいいけどよ」
「それに、そのペナルティの分、異形でのボーナスは恐ろしく高くなったからね。今127レベルとかの強さなんじゃないかな、僕の完全体。そんなだから、このペナルティはある意味武装でもあるのさ」
「なる」
「分かってもらえたようで嬉しい。さて、この辺だったかな……」
偲は望遠室で書いた地図、その写しを布鎧のポケットから取りだす。
教えられた宿屋は、言われた通り看板に書かれた文字もしくは絵を見ればすぐに分かるのだろうが、折角地図を作ったのだから使ってみたい。
望遠室の書机によって書かれる地図は単に地形だけでなく、そこでのフィールドエフェクトや地名が書かれており、紙面をなぞる事で拡大縮小も可能だ。そこらへんの機能はユグドラシルと同じらしい。唯一違う点は、ショートカットに設定する事で視界のすみにマップを配置する事ができなくなった程度か。
ちなみに、望遠室のあの
そんな高位の魔法道具で書かれた地図によると、この城塞都市にして迷宮都市、エ・ランテルのフィールドエフェクトは、帝国と王国の国境帯に影響している『アンデッド発生確率上昇・高』と、王国全土の『悪魔の残滓』。そして、迷宮都市たる所以なのか『迷宮モンスター発生・中』もあった。
これらを見た時、偲はかなり困惑した事を覚えている。一つ目はユグドラシルで見た事のあるものだった事。そして二つ目と三つ目はユグドラシルで見た事がないものだった事が理由だ。
そもそも──
(この世界でポップモンスターは存在するのかな? この世界は魔法があるにつけても表面上では最もらしい法則が成り立っているようだから、何もないところから魔物が湧き出てくる事はないと思ってたけど。……いや、ないんだろうな。『モンスター発生確率上昇』じゃなくて『モンスター発生』って書いてあるし)
アンデッドが埋葬されなかった死体などから発生するといった話は聖典から聞いているので疑問はない。勿論、戦争での死体が多数埋葬されているにしても、『アンデッド発生確率上昇・高』は発生しすぎな気もするが。
拡大と視点移動を繰り返し、偲はやっと目当ての宿屋を地図に見つける。
すぐ近くだ。偲は二段ほど階段を上がり、そして西部劇で見たような扉を押し開いた。
そういえば主人公が戦う相手どっちがいいです?
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クレマンティーヌ
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カジット
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まとめてかかってこい