オーバーロードナイトスター   作:曳航彼

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今回は長い


ダンジョン

 

 ──庭小人(ノーム)の首が、また一つ宙へと飛ぶ。

 「よ、っと!」

 「お見事! ノームを一太刀なんてねー。結構かったいんだよ? こいつら」

 「そうなんですか? ブリタさん」

 偲は自らの剣を見る。

 神器級(ゴッツ)アイテムながら、この剣は威力だけ見るなら聖遺物級(レリック)にすら遠く及ばない物──その分、別の利点もある──だが、ノームにはひとたまりもないだろう。また一つ、首を刈り取った。

 正直、迷宮都市が誇るダンジョンで湧くのが、庭小人の破壊工作者(ノームサバター)などですらない単なるノームという事は流石にないと思っていたのだが。

 偲は、どう見ても人の作り出したようにしか見えない石レンガの壁と、その所々に設置された魔法的な光という、この地下第一階層ではどこにでも見られる光景を横目に見る。

 「それにしてもその剣、すごい一品だね? 禍々しい、というか」

 「あはは……」

 実際の事は言わない方がいいようだ。だが、偲はそれを言った時の反応に興味を抱く。『これと同じ位価値の高い剣が、あと十本はありますよ』などと。

 「おいおい、俺は褒めてくれねえのかよ。ブリタ」

 「あんたは子供じゃないでしょう。それとも、子供扱いされたい?」

 「もちろん、勘弁だ」

 「あと、汚いから近づかないでくれる? 生臭い」

 ウルは口をへの字に曲げる。ウルは冒険者としては修行僧(モンク)──『飛空艇船長』などと名乗れる訳がない──という設定から、ノームを殺す際拳で頭蓋などを破壊していた為、脳漿や血液などがガットレットを嵌めた両手どころか、身体中にまでぶちまけられた状態だった。

 勿論、普通冒険者はそんな事にはならない。そもそも、冒険者は自らに見合った依頼を受ける為、そこまでの実力差を持った相手と戦わないのだ。それに、強い冒険者が雑魚敵と戦う際は、こういった事にならないように手加減する物だという。だが、ウルに手加減が出来る筈もない。

 「ブリタさん、こいつは耳を切るんですか? 確か、ダンジョンでもモンスターの殺した証を持っていけば報酬貰えるんでしたよね」

 偲は一応、新人冒険者への組合による講習を受けている。

 「いんや、やめた方がいいね。このダンジョンはモンスターを狩る奴が多い分、報酬は低いよ。そういうのは狩る必要範囲が広い街道か、人気のない墓地ダンジョンがいいだろう」

 「なる」

 「ダンジョンで割りがいいのは、装備品さ。こいつら無限に湧いて出てくるくせに、鉄装備とかしてくるからな」

 偲はノームの死体を観察する。偲はデータクリスタルが出ない事に残念がってはいたものの、この世界の住民からすれば、ここは確かに、無限に資源が出る場所なのだ。

 この世界では柔らかい方の金属であるとしても、鉄が様々な用途で使われるのは変わりないのだから。

 「だから、ここのダンジョンでは装備品を取るのが常識だよ。軽いのはある? 帰り道でモンスターに遭遇した時の為に、持ってくのは軽い装備だけにしようか」

 「はーい」

 素直っぽくそう言って、ウルと共に装備を剥いでいると、彼が苦虫を潰したような表情をしていたのが見えた。

 『なあ、これになんか意味でもあるのか?』

 『ん?』

 わざわざ一日ごとの枠を一つ使って、機密司令(シークレットコマンド)で密談してくる。

 『もーうんざりなんだけど。全然強くねえ、こいつら』

 『早いなあ、まだ一日目だよ?』

 まあ、設定した通りの行動なんだけどね、と偲は心の中で呟く。

 『つーか、再度聞くがなんでこんな事してんだ? 冒険者をしてえっつーたって、お前がしたいのは冒険だろ? 別にこのダンジョンに気になるような事はないと思うぜ』

 確かに、ウルの言う事はもっともだ。このダンジョンはユグドラシルでもありふれた──いや、出てくるモンスターが低級すぎて、逆に珍しい代物。だが……だからこそだ。

 『ユグドラシルにいた僕ら的には確かにそうだろうけど、この世界にはダンジョンが珍しい物みたいなんだ。それもこの都市にしかない程に、ね。百年前の神とか邪悪王とか言われてる存在が作り出したとかだけど……』

 『ああ、なる。つまり……プレイヤー関連だな?』

 偲や飛空艇と同じく、この世界に転移してきたプレイヤーらしき存在またはユグドラシルのダンジョンらしき存在は、ある程度陽光聖典から聞いていて、NPC全員にも情報を共有している。

 プレイヤーという概念を知らないのではないかと懸念していたのは杞憂だった。特殊技術(スキル)とかが分かる時点で今更だったのかもしれない。

 『だけど、そうですらない』

 『と言うと?』

 『ウル。僕はこのダンジョンを見た事がない。ワールドサーチャーズの知識に、こんな低級のダンジョンは存在しないんだよ。この意味、分かるか?』

 『……なる』

 ワールドサーチャーズはユグドラシルのギルドの中で最も多く世界の発見をしてきた。それを馬鹿にするNPCはあの飛空艇には居ないだろう。そしてその知識に無い物に興味を抱くのは当然の事だ。とはいっても、全く偲に敬意を持ってない感じのウルまでそうだとは思わなかったが。

 偲はウルの方を向く。密談が聞こえないブリタからすれば、ノームの装備を黙々と剥ぎ取っていた偲がする突然の行動は不可解だったが、偲は気にならなかった。

 ウルというNPCは、意思を持った今、どういうモチベーションでいるのだろう。彼は飛空艇の初見踏破ボーナスとして貰った、通称元ボスNPCだった。だから彼の現在の状況は、自分以外の飛空艇船員を皆殺しにした張本人の一人に従っている、という事になる。設定で縛られてはいたとしても、これは不可解な事ではないだろうか。

 勿論、彼が裏切って戦いを挑んできても、問題はない。ありとあらゆるバッドステータスやデバフを嫌う偲は、それらを全て最初に装備品で無効化した為に、襲う寝込みすら存在しない。

 だが……好奇心は残る。

 『どうした?』

 『いや──』

 『じゃあ引き続き説明してもらおうか。考えられるのはこの世界ではダンジョンを一から作り出せるのか、自然にダンジョンが出現するのか……。どちらにせよこの都市のダンジョンがお前の興味に足る物だってのは分かった。だが、それじゃあ魔法を使えばどうだ? グライアの片っぽ程じゃないにしろ、偲も情報系魔法使えるんだろ?』

 『探知できなかった』

 『…………はぁ!?』

 『多分、逆探知もされたね』

 それは一応防いだけど、と額を揉みながら偲は言うが、ウルは驚いて口を手で塞いでいた。声が漏れないようにという考えからの行動だろう。

 『まあ、探知が防がれたってのはダンジョンの深部だけの話だけどね』

 『つまり……地下深くに強者が居るって? この世界では一般的じゃない程に?』

 『それだけじゃないよ? 味方への攻撃が効くこの世界で情報系魔法を防ぐという事は、味方からの探知も防ぐという事』

 『それが?』

 『例えば僕とウルからの定時連絡がなくなった時に、もし完全な情報封鎖を行っていれば、飛空艇の面々は僕らに何が起こったのか探知魔法で調べる事も出来ないだろ』

 『あー、どういう事だ?』

 『えっと、あんまり自信が無いけど、だから自らの情報を隠す事はつまり、大方の情報が味方にとっては自明なのか、その人物にとって敵からの探知を防ぐ事の方が自分の状況を味方に知らせる事よりも重要なんだと考えられる。後者の場合、かなり興味深いね』

 『なる、確かにそれは俺も気になるわ。にしても、最近この世界に来たばっかとは思えない適応ぶりな』

 ウチのギルドが持つ情報戦技術をナメないで欲しいね、と偲は言って、以前に攻性防壁を発動した時の事をふと思い出す。あの時は味方への攻撃の件を思い出して、攻性防壁に設定する魔法を探知魔法だけにしたものだが──。

 あの探知は聖典から情報を収集した上で飛空艇幹部と協議したところ、法国による陽光聖典への監視だと結論付けられた。その場合、偲と飛空艇に仕掛けられた攻性防壁が法国へ発動した訳だが、議論においてこれがかなり危険視されていた。

 偲の攻性防壁に設定されていた魔法も飛空艇のそれと同じく〈蛆蝿托卵(クリエイト・ネスト)〉なのだが、これがかなりまずい。情報戦を扱う事が多かったギルド、ワールド・サーチャーズにおいてこの魔法が攻性防壁として好まれたのは、生み出される蝿の王(ベルゼビュート)が倒されない限り帰還しない為だ。

 蝿の王がレベルに対して弱いモンスターなのは、このメリットの代償なのだろう。ギルドでは、生み出した蝿の王に探知魔法をかけることで探知者の情報を探る手をよく使ったものだ。

 ただ、この倒されない限り帰還しない性質が蝿の王を倒す事の出来ない程に平均レベルの低いこの世界に限っては大問題だ。おそらくは四体の蝿の王が法国に出現し、国が滅びるんじゃないか……と最初、思っていた。

 だが──。

 (法国にモンスターが出現したという話すらなさそうだった。探知ではそれらしい影は見えなかったけど……レベル93を倒す強者が法国に居るのは間違いない)

 偲は自らの思考に結論をつけ、〈機密司令(シークレットコマンド)〉での会話に戻る。

 『あと、経験値を稼ぎたいのもあるね。願いが叶わなかった分幸いレベルは減らなかったけど、余剰経験値はあの〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉でほぼ全部取られたと思うし』

 『ああ、あれね。といっても、こんな弱い奴らで経験値稼げるのか?』

 『僕の職業でのパッシブ特殊技術があるから、装備も相まって経験値は三百倍にまで引き上げられる。最低の一点でも三百点になるから、そんなに馬鹿にしたもんじゃないよ』

 経験値の高いレアモンスターを一定数狩る事で取得が可能な幸運な戦士(ラッキーウォーリア)に始まる職業シリーズでは、取得経験値が高くなる特殊技術が得られた。全面戦争によってクラス構成を変えた時、レベリングを楽にする為真っ先にとった職業でもある。

 『ふーん。あ、そういや、〈星に願いを〉で叶えられなかった願いってなんだったんだ? その世界級(ワールド)アイテムで強化されてんだから、大抵の願いは叶えられるだろうに』

 布鎧にウルが指をさしてくるのに、偲は寂しげに苦笑する。

 〈星に願いを〉が望んだ願いを叶える魔法となった事に、偲はそこまでの驚きを感じなかった。ユグドラシルでも、運営にシステム変更を要求出来るという効果が、ランダム選択肢として表示される中にあったために。勿論それは信じられない程の低確率で、だったが。

 幸運値が高く、世界級アイテムによって強化されていた為に見つける事の出来た効果だが、この世界では常に使えるらしい。少し損をした気分になるが、こちらの世界での〈星に願いを〉は使用経験値量がそれらの分軽減されるようになったようなので、実際にはそこまでの損失は無い。

 だが、強化された〈星に願いを〉ですら叶えられない願いも存在すると知ったのは、数日前の話だ。

 『……まあ、それは言わないでおこうかな』

 『ふーん? ま、理解したわ。じゃあ、ダンジョンは今日の内に踏破するか?』

 『ブリタさんが居るし、それは後に取っておこうか。今日は第一階層だけにしよう』

 『おっけ』

 長かった機密司令を終え、偲はふと気づく。時間をかけすぎたのではないかと。急いでブリタの元へ向かう。

 「ブリタさん、終わりました」

 「お疲れ。随分時間をかけたけど……。まあ、最初だしこんな物か。まだ続けられそう?」

 「はい、大丈夫そうです」

 「じゃ、狩り続行と。これじゃあすぐ鉄級冒険者になれそうだね」

 「そうですか? ありがとうございます!」

 疑われるのにひやひやしながらも、偲は少年の素直さを演じる。

 ブリタは、相部屋した縁か、ダンジョンへ行くと話すと、ここへの馬車の調達や冒険者の基本事項の確認など様々な事をしてくれた。そんな立派な装備を持っているなら墓地のダンジョンよりこっちの方がいいだろう、という配慮付きだ。

 子供の外装が功を奏したのだろうか、と偲は考える。その場合、完全異形形態を見たら彼女はどんな反応を返すだろう。

 「どうした?」

 「いえ」




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そういえば主人公が戦う相手どっちがいいです?

  • クレマンティーヌ
  • カジット
  • まとめてかかってこい
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