オーバーロードナイトスター   作:曳航彼

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依頼

 昨日イエローから〈伝令(メッセージ)〉が届いた為、偲は早朝ではなく昼に冒険者組合へ行った。ウルは宿屋に残してある。

 いつも早朝へ行っていたのは無くなる前に依頼を受ける為だ。この半月で偲は銀級冒険者にまでなったが、銀級程度の依頼をこなせる冒険者はエ・ランテルでも多い。

 そして今日、昼に来たのは──と、偲は冒険者組合の扉を開け、目当ての人物達がテーブルで談笑しているのを見つける。一人は勿論イエローだ。後の四人は偲と同じ銀のプレートを首から下げている。

 「お待たせしましたか?」

 「あ、いえいえ。同じ階級の冒険者だとはいえ、今は依頼主と依頼された冒険者の関係です。だから気にされないで良いですよ」

 「そうですか? でも、敬語は止めていただきたいですね……。年上からそう言われるのはちょっと」

 「ははは、ちょっとわかるわ。ペテル、だってよ」

 「ルクルット……。まあ、分かったよ、えっと……」

 「″漆黒の剣″の方々、彼が私の主人である偲様です」

 イエローが助け船を出すと、四人の視線が少し性質を変えたように思えた。

 「へぇ。お前があの……。じゃああの『鮮血』または『悪魔の哄笑』はどうしたんだ?」

 偲とイエローは顔を見合わせる。誰の事かは想像できる。だが──

 (僕の知らない所であいつは何をしているんだ? しかもリーダーの僕より先に二つ名が出来てるし)

 「えっと、あいつは置いてきました。というのも──」

 「″漆黒の剣″の方々。先程も少しお伝えしましたが、今回は偲様に平民として冒険者として、そしてこの都市に生きる者として様々な知識を教えて貰いたいのです」

 偲がこの時間に組合に来たのは、これの為だ。簡単に言えば情報収集の一環だった。

 四人は納得を込めてうなずく。

 「なるほどなあ。この都市の人間にしては噂を聞くようになったのが急だなと思ってたら、別の都市──いや、他国の貴族だったのか」

 「ご理解いただけたようで嬉しくございます」

 「平民として、という事は貴族を出奔したなどであるかな!」

 「待て、ダイン。偲も、まずは自己紹介からにしないか?」

 「なるほど。分かりました。といっても、僕はイエローが言った以外の事は無いですよ? イエローやルクルットさんが言っていたその『鮮血』ウルとチームを組み、リーダーをやってる偲です」

 「イエローさんもチームに入ってるのか?」

 不思議そうに言ったのはルクルットだ。

 他の人もだが、イエローに対してかなり親しい様子を見せている。設定は十分に機能しているようだと、偲は心のメモに記入をして置く。

 イエローを連れてきたのは勿論商人としての役割に期待したのもあるが、設定がどれだけの効果をなしているかという実験も兼ねていた。

 飛空艇では異世界に来てから様々な実験を行っているが、こういったNPC達が知りえない情報などはNPCに任せるのではなく偲が秘密裏に実験を行う必要があった。勿論、設定うんぬんをNPC達に教えてもいいのだが、彼らはそれらを適当な遊びではなく創造者が何か意味があってそうしたのだと理解しているのだ。わざわざ夢を壊す必要はない。

 「えっと、イエローがチームに居る事、ですね。講習で、ダンジョンから取れたアイテムを商人に売るのは、必ず手数料のある組合を通さなきゃいけないって言われたので」

 「んん? あー、チーム内で渡す分にはオッケーだから、イエローさんに渡して、イエローさんが商店で売る、って事? 手数料が取られないように」

 「ああ、商店で買い物をする人が商人かどうかなんて、組合が確かめる事もしないでしょうしね。大分グレーですけど」

 「なんというか、冒険者初っ端から酷い裏道を通る物であるな!」

 そうだろうか、と偲は思う。

 裏道を探るのはワールドサーチャーズの基本だ。彼らに127レベル計画の概要を見せてやりたい。

 「偲が考えたのか?」

 「ええ」

 「へえ。そりゃ幼いのに賢い事で」

 「そんな事ないと思いますよ? 同じ事考える人は居るでしょうし」

 「確かに同じような事をするチームも聞いた事はありますが……」

 「まま、自己紹介を続けようぜ。俺は野伏(レンジャー)のルクルット・ボルブ。チームの目と耳!」

 ルクルットの言葉にチームは口々に自己紹介を始める。

 「うむ。ダイン・ウッドワンダー、森祭司(ドルイド)である!」

 「魔法詠唱者(マジックキャスター)のニニャです」

 「あれ、ニニャ、『術師(スペルキャスター)』は?」

 うわ、とペテルの言葉にニニャが恥ずかしげな風に顔を引きつらせる。

 偲にはその二つ名がどういう事か気になるが、なんというか聞かない方が良さそうな雰囲気だな、それを恥ずかしがるなら魔法詠唱者(マジックキャスター)とかも恥ずかしがれよなどと思っていると、ルクルットが教えてくれる。

 「偲君、こいつ生まれながらの異能(タレント)持ちなんだよ」

 「ああ、成程。有名なんですか?」

 「ああ。この都市ではな」

 君付けされた事に怖気(おぞけ)が走るが、彼に悪気はなさそうなので何も言わない。

 「効果は魔法適性らしいぜ。とは言っても、そうやって限定するのも良くないんだがな」

 「へえ、そりゃなぜです?」

 「変化がなくなるからさ。タレントはイメージトレーニングとかの訓練で強化するものだからな」

 「へぇー」

 「偲君は知らなかった? まあ、これを解明したのは百年前にここら辺にあった国だから、そこまで広まってないのかねえ」

 「百年前の国、ですか」

 『百年前の国』とは、今見つかっているユグドラシルのプレイヤーが関与してそうな物の一つだ。

 その国は丁度今のカッツェ平野辺り、王国と帝国の国境にあったらしい。斬新な政策を幾度も打ち立て、軍事力と生産力が十分にあった為に現代における多様な文化の源泉だとも言われている。何らかの理由で滅びたらしいが……。

 軍拡もしていたらしいからタレントの訓練方法も発見できたのだと考える事もできる。が、ユグドラシルのプレイヤーというユグドラシルの法則に準じており、逆にこの世界の法則からは外れた異物が、そんな研究をしっかりと出来るんだろうか。

 だが、偲は次の人物の自己紹介にその思考を止める。

 「で、僕がこのチームのリーダー、ペテル・モーク。見ての通り戦士だね」

 「よろしくお願いします」

 「こちらも改めて、よろしく。偲の噂はよく聞いてるよ」

 「そりゃ、嬉しいですね」

 「で、依頼だけど。まあ言っちゃえば知識だろ。知識ならニニャに任せてもいいかな……。ニニャはチームの頭脳なんだ」

 「あ、でも森祭司(ドルイド)とか言ってましたね、そういった知識も欲しいです」

 「ああ、成程。そういうのもありだったら、全員で教えるのが良さそうだな」

 リーダーのペテルが次々と物を決めているが、それに反対するような声は上がらない。偲の見る限りでは良いチームのようだった。

 

***

 

 もの知らずでも怪しまれない、自らが考え出した設定に偲は感謝する。この世界において偲が余りにも無知である事を知ったからだ。

 「なる……」

 「どうかしました?」

 「いえ、ニニャさん、大丈夫です。赤色のポーションって、無いんですね……」

 「ええ。紫色と青色の物だけですね」

 「時々赤紫色の物が広まるが、そのぐらいであるな!」

 なんという罠だと、偲は頭を抱えそうになる。宿屋で男の人に使ったポーションをタダにしたのは間違っていたかもしれない。希少価値が高いだろうから、ウルの言う通りお代を貰うべきだったか。

 というか、存在しないのであれば偲の質問自体、変だ。違和感を持たれなければいいのだが。

 ふと、偲は思いつく。この世界では赤色のポーションを持つだろうユグドラシルプレイヤーが、なぜか過去にも来ている。

 ならば、こうだ。

 「本には、あったんですけど……」

 「ああ、神話でありますね、赤色のポーション」

 「へえ。そりゃ野伏として興味があるぜ。どんなんだ?」

 「僕もうろ覚えですけど……〈保存(プリザベイション)〉をかけずとも腐らないとか、肉片からでも全身が蘇るとか。薬師には神の血とも呼ばれてるとか」

 多分肉片からでもは誇張じゃないかな、と偲は胸の内で呟く。

 「ふむ……。まだ若い偲が知っているそれを私が知らないのは森祭司(ドルイド)として恥であるな……」

 「そんな事はありません。若いとは言え偲様は様々な本を読み学ばれている御方。ダイン様が知らない知識を得ていてもおかしくはありません」

 煽ってるのか慰めているのかよく分からない事を言うイエローに、偲は目配せする。

 「なるほど。偲君は好奇心が強いのか。それで冒険者になったとか?」

 「ええ、それで正しいですよ。ちょっと家を出ちゃいました」

 「蒼の薔薇のリーダーも似たような事をしていたらしいですね」

 「ええ、それを聞いたのもあるんですよね」

 そう会話していく内、微々たる物ながら偲に対する評価が上がっているのを感じる。

 知識に貪欲である事。それは冒険者には必要な事だからだ。

 (その点、ユグドラシルと似てるのかもな)

 何はともあれ、策がはまって良かったと、偲は拳を握る。

 会話が一区切りついた所で、ペテルが依頼の終わりを切り出した。

 「──さて、偲。教える知識はこれで終わりで良いかな?」

 「そうですね。でも、知識が足りない時があれば、もう一度依頼をかけるかもしれませんが」

 「そんな事が起きたら、俺らが今回の依頼でシクってたって事だから、無料で教えてやるぜ。いいだろ、ペテル」

 「だな。じゃあそういう事で、偲」

 「ありがとうございます!」

 「結構早く終わっちゃったけど、依頼とか受けてる?」

 「あー、いえ」

 そう言いながら、偲は組合から借りている相談室の窓を見る。日は未だ真上に座しており、まだ依頼を受ける余裕があった。

 「だめだぜー。用事があっても、それが短く終わりそうだったら朝に一応依頼を受理しておくもんだ。そうしないと時間が無駄になる」

 「なる」

 「どうする? 僕らはさっき言ってた『討伐』の任務を受けてるから、それに参加するかい? 確か、ダンジョンだけで森林とかは行ってないんだったよね」

 「そうですね。確かに、ダンジョンだけだと冒険者人生味気ないですし、それに参加しましょうか」

 「お、じゃあ噂を確かめるいい機会だな」

 「ルクルット、そういうのは言わないでおきましょうよ」

 「じゃ、ウルを呼び出しますね。〈()──」

 と、偲ははっとする。偲は戦士として売ってるのだ。噂を知っているだろう四人の前で魔法を使うのは不味い。

 「め、〈伝令(メッセージ)〉のマジックアイテムを使ってくれませんか、イエロー」

 「かしこまりました」

 苦し紛れに隣の人物に振ってしまったが、そこはやはり交渉術に長けたイエローだ。実はそんなマジックアイテムなどイエローは持っていないのだが、上手く対処してくれる。

 パントマイムかのように何かを持ったような素振りをしながら、普通に魔力系魔法詠唱者として〈伝令〉を行使した。パントマイムもおそらく偲が見破っているだけで、幻術でも使っているのだろう。

 「マジックアイテムをそんな事に使うとは」「さすが貴族様は違いますね」「おいご本人の前で貴族嫌いを発揮するな」「ルクルット、お前もやめろ」とか声が聞こえるのだから、それは間違いない。

 『やっほ。上手くいった?』

 唐突に声が聞こえた。ウルの機密司令(シークレットコマンド)か。機密司令によって偲、ウル、イエローが魔法的な糸電話で繋がる。

 『ウル、偲様にそのような口振りは……』

 『うっせ。本人がそう決めつけたんだから良いだろ。それに船員が船長に文句言うなよな』

 『だから……! いや、これは私が間違っているな。すまない。偲様だが、それはそれは素晴らしい知識の入手方法だったよ。途中、冒険者からの評価を上げるよう誘導もなさったし、本当に素晴らしいね』

 イエローが言っているのはポーションの時の件だろう。だが、あれは偲も冷や汗ものだった。なんせ、偲が思いついて行動したというのもあるだろうが、ああも取るのに難しいボールをイエローか投げてよこしたのは、つまるところイエローが偲を信頼している証だ。つまり、息が詰まる。

 『若い年齢で、あのような頭脳をお持ちだとは。稀代の才能をお持ちに違いありません』

 『イエロー、お世辞はちょっと、止めてくれませんか……』

 実際、偲にとってこれはお世辞だった。というのも、偲は場馴れしているだけなのだ。

 確かに、この世界の成人は十六歳からで、現実世界の成人は異世界より上ではあるが、現実世界での就職を行う年齢は十六歳よりはるかに下だ。

 偲だって、小学校高学年程度から学業と共に仕事を始めた。無論、それは偲の家に経済的余裕が無かったという理由からではなく、小学校で「お前、仕事してねーのかよー、おくれてるー」とか言われたからだったが。

 それが今役に立っているのだから人生というものは分からない。からかってきた生徒には今でもむかっ腹が立つが。

 『いえいえ、そんな意図はございませんよ。とにかくウル、首尾は上々だった。そして、依頼をしたチームと共同で別の依頼をこなす事になっから、組合に来い』

 『ヨーソロー』

 機密司令が切れる。切れて気づいたのだが、機密司令は音が他の人間に聞こえないという点で伝令とは違う。四人には違和感を与えなかっただろうか。まあ、イエローが幻術でなんとかしてくれてるか。

 「では、ウルが着くまで、準備でもしましょうか」

 「そうですね。でも僕らは整ってます。そちらはどうですか?」

 「偲様。それは私がやっておきます」

 「ですか? ならお願いしま──」

 「失礼します。偲様、ご指名の依頼が来ておりますが……」

 偲は耳を疑った。

 

***

 

 

 「偲様にご指名の依頼がございます」

 そう言う受付嬢と共に部屋に入ってきたのは一人の少年だ。偲と同じ位の年齢に見える。

 その少年の名前はンフィーレア・バレアレ。その名前は先程偲がニニャやダインから聞いた名前だ。彼のような薬師は城塞都市エ・ランテルとあう戦略拠点においては高い地位を確立しているらしい。その中でもひときわ有名な彼では尚更の事だった。

 「指名依頼か……。でも、今契約してる依頼で僕は初めて森に行く予定だから、後日にしたいかな」

 その言葉に″漆黒の剣″の視線が集中する。ダインの「偲、結構自由であるな」という呟きを偲は無視した。

 「あ、それなら丁度いいと思いますよ。というのも、森へ薬草の採取に行くのに警護をしていただきたいんです。その依頼と兼ねる事は出来ませんか?」

 「お、なら丁度いいじゃん、偲君。モンスターを殺しながら薬草とりにいこうぜ。野伏(レンジャー)森祭司(ドルイド)もここにいる訳だし」

 「うむ。ルクルットの言うとおりである!」

 「そうですか? なら、そうしようかな……。あ、ンフィーレア。なんで僕に依頼したんだ?」

 ちなみに、偲がンフィーレアにタメ口なのは、初めてこの世界で同年代に会ったために、できるだけ仲良くしたいからである。

 「そうですね。宿屋での話を聞いて……。あれ? 赤髪の人はどうされました?」

 「今こっちに来てる所だね。ウルに宿屋って、ああ、あれ?」

 「ええ、蹴りで男性冒険者の足を折ったとか」

 ″漆黒の剣″の顔が引きつる。今から会う人物の危険性を冒険者的勘で探知したらしい。

 「今まで雇っていた方々が別の街へ行ったようでして、新しい方に警護を頼みたかったんですよ。それに、ダンジョンでの噂も聞きましたし」

 「なる」

 「納得いただけた所で、依頼は受けてもらえますか?」

 「とりあえず偲、こっちと一緒に依頼を受けるって事でいいか?」

 「はい、大丈夫です」

 偲の鋭敏な感覚はその後のンフィーレアの呟きを聞いたが、それを聞いた所で偲は何も思い出せはしなかった。

 「それに、久しぶりにカルネ村に行くしね……楽しみだ」

 

***

 

 アジトに広がる邪悪な旋律に、新しく不安を煽るような音程の狂った鼻歌が重なる。邪悪な鼻歌と比べ、狂った鼻歌はそこまでの印象を人には与えない。

 カジットは機嫌よく鼻歌を流すクレマンティーヌに対し不快げに切り出す。

 「いと美しき旋律を邪魔するでないわ。だが、おぬしのその態度を見るに──もしや、見つかったのか」

 「いやいや、見つかってないよー」

 なんだ、とカジットは肩を落とす。期待まではしていなかったが、そうであれば己の利益となっただろうに。

 「だが、それではなぜおぬしは機嫌がいいのだ。ひねた稚児のようなおぬしが何もしないとは、嵐の前触れのような恐ろしさがあるわ」

 「ひっどいなー。見つかったのはカジッちゃんのコネのおかげなのにー」

 「コネ……。かの狂信者共の事か? そこまでの効果は見込んでいなかったが……。それに、見つかったとは? 本当に適合者が見つかったのか?」

 「カジッちゃんはせっかちだなー。『適合者は』見つかってないよー」

 「要領を得ない解答をするものだな。はやく答えないと追い出すぞ」

 「わかったわかったこたえるこたえるー。いやあ、薬師のババアに、孫がいたでしょー?」

 「なに?」

 「あいつの生まれながらの才能(タレント)、素晴らしいね。丁度私達の為に生まれてきたんじゃない、あいつ?」

 「ふむ……。一考の余地がありそうだな」




書籍版読みながら書いてるんですが、ダインの一人称が「私」である事にめちゃくちゃ驚いた

そういえば主人公が戦う相手どっちがいいです?

  • クレマンティーヌ
  • カジット
  • まとめてかかってこい
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