オーバーロードナイトスター   作:曳航彼

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旅路2

 

 ハンマーを鎧に叩きつけ、へこみを直す。反動で手が痺れるが、すぐに治った。また叩きつける。切り上げると、目の前の面々に作業の終了を告げた。

 「まあ、応急処置ならこの位でいいんじゃないでしょうか」

 「おお……」

 (かまど)の前で行った鍛冶師の真似事は、いくらかの反響を得られたようだった。一番大きな声は意外な事にウルの物。少しの間、共に過ごして、こんな事が出来るとは一つも思わなかったからだろう。

 モンスターの群れを倒した後、チームの四人は偲の強さを口々に褒めてくれて、偲の自尊心を満たしたが、チームの前衛の装備はボロボロだった。

 自らの強さを分かりやすく示す為に偲はあのような行動に出たのだが、それがそのような結果を生んだのだ。罪悪感を感じて、鎧の修理を申し出るのも当然の話だった。

 勿論、成人するかしないかの少年が修理を出来ると簡単に信じるほど前衛二人は武器に対して軽率ではない。その為に見られながらの修理になったが、次第に人数は増え、なんだか見世物のようになってしまった。

 「すごいね……。戦士じゃなくて鍛冶士としても優れているのか」

 「いや、ンフィーレア氏。もしかしたら他の技能もあるのかも知れないのである」

 「魔法を使いたいという話でしたが、そこまで多芸なら、本当に出来るんかもしれないんじゃないですか……?」

 「そんな事はありませんよ、ちょっとやれる事が多いだけです。鍛冶だって修理ぐらいしか出来ませんもん」

 これは事実だ。というのもこの鍛冶だが、かなり特殊な方法で偲が取得している高級武器職人(グレイターウェポンスミス)特殊技術(スキル)〈武具修理Ⅲ〉による物だからだ。だから逆に、鍛冶系特殊技術はこれ以外持っていない。

 「修理だけでも、冒険にはかなり便利である!」

 ダインはそう言ってくれるが、彼の鎧を直す途中、修理特殊技術と同じ方法で手に入れた破壊者(ブレーカー)の特殊技術を間違って使いそうになってちょっとヒヤヒヤしたのは黙っておこう。

 特殊な方法とは、ある職業による物なのだが……と、偲は続く声に意識を向ける。

 「そういえば、あの動きってどうやるんだ? 僕に出来るかは分からないが、教えてくれよ」

 あの動き、と聞いて偲は「あー」と少し沈黙する。何回か話されてやっと分かったのだが、あの動きとは偲が小鬼(ゴブリン)の上を歩いた時の事らしい。なんでも、彼らには音がないというか、人に気づかせない動きのように思えたらしい。

 偲は別に特殊技術を使ったつもりはない。確かに暗殺者系の特殊技術も持ってはいるが、その特殊技術は直接攻撃系の〈急所攻撃(スニークアタック)〉と〈致死攻撃(デスアタック)〉と〈迅速な死(スウィフト・デス)〉だけだ。

 だが、その動きは何によるものか、偲は既に予想していた。おそらく──

 (僕の探知防御だろうな)

 偲の探知防御用装備は神器級(ゴッズ)アイテムである。これはユグドラシルプレイヤーの中でかなり珍しい。

 というのも、ちょっとしたレアドロップアイテムとしてある程度探知防御をしてくれるアイテムは出てくる為に、それで済ませるプレイヤーが多かったのだ。実際、ワールドアイテムや神器級アイテムによるバフなしでならそのアイテムの探知防御は破れなかったし、偲以外のギルドメンバーもそれで済ませていた。

 だが、ワールドサーチャーズという、以前大戦争で情報の重要性を知ったワールドサーチャーズのギルド長は違う。ギルド長の役割として偲にギルド内情報の管理という仕事が新しく増えたし、このアイテムをギルド総出で作る事にもなった。

 (実際、組合で顔が一切覚えられてないのを見るに、立ってるだけで顔がおぼろげになってるみたいだからな……。この世界に来てからだけど、ここまで来るとむしろ不便だ)

 実験の余地はあるが、前は探知系の能力を防ぐだけだったのが、視覚や認識能力まである程度防ぐように転移で効果が変わったようだった。

 しかも、戦闘行為をしても探知防御が和らがないようにするデータクリスタルの効果もそのままだ。だからあのような、ゴブリンを何体か倒しても異状に気づかれないとかいう意味のわからない事が起きるんだろう。隠密に特化した暗殺者職がユグドラシルでそんな事をしていた事もあったが、まさかそれレベルの事がこの装備で出来るようになるとは思っていなかった。

 (まあ、そんなのが効くのもレベルの低い相手ぐらいだろうけど)

 つまり、やり方をペテルに教える事は一切できない。が、拒絶する訳にもいかないと、偲は嘘をついた。

 「武技ですよ。オリジナルの」

 「へえ……」

 嘘をついて、武技か、と偲は戦闘中でペテルが使っていた武技を思い出す。

 確か、〈斬撃〉と言っていただろうか。やっている事を見るに、特殊技術とあまり変わりない物のようだったが、偲も取得する事ができるのだろうか。〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉なら強引に取得もできそうだが──。

 (それなら、経験値がたまった時に何をするか決まるな。さっきのモンスターの群れで大体稼げた気がするし)

 「おーい、俺が準備してる間に目を楽しませやがって。飯できたぞー」

 

***

 

 スプーンをすくい、冒険者組合から支給されていた食事を口の中に入れる。不味さに顔を歪めたのを他の人物達に見られ、一行を笑わせてしまった。

 「いやあ、やっと貴族っぽいとこ見せてくれたな。やっぱこういうのキツイのか」

 「耐性がないみたいな言い回しやめて下さい。皆さんより舌が肥えてるんですよ」

 「はは、言うであるな」

 笑って流されるのに少し腹が立つが、偲は現実世界では学校にも行けていた。そのままだったら大学にも入れただろうから、あの世界での貴族というようなポジションでいたのは間違いないのは事実だろう。

 ただ、冗談で食べてみた緊急避難用食糧よりもまずいのはどうかと思う。それとも、技術的に仕方がないのだろうか。今までは宿屋の食堂ではなく露天などの食事で済ませていたから、この世界のちゃんとした食事のまずさに気づかなかった。

 (ファストフードが現実世界と似たような味なのはなんなんだろうな……。他のプレイヤーが広めたのか? そうだとしたらすごい馬鹿げた事してるけど)

 まあ、やはりダンジョンの方がいいなと偲は結論づける。食事もこんなまずい物を食べなくて済むし、それに延々とモンスターを倒さず歩く事もない。

 「……貴族様はさすがですね」

 とかニニャが小さく呟くのが偲の鋭敏な感覚には聞こえた。漆黒の剣の他のメンバーは慌てるが、表情の変わらない偲に安心している。

 何か貴族に恨みでもあるのだろうか。実際、ある程度他のメンバーとは仲良くなった気がするのだが、ニニャとはかなり距離を感じた。そんな事が起こり得る事はこのようなロールプレイを行うにあたって想定していたから、偲は気にしないが。

 むしろ反応した方が″漆黒の剣″の他のメンバーに悪いのだろう。もうちょっとおちょくってみたい気もするが。

 ″漆黒の剣″のメンバー同士が何か囁きあっているのを横目に、ンフィーレアが偲に話しかけてくる。

 「馬車から見てたけど、なんというか、凄まじかったね。走りもすごい速かったし」

 「そう? まあ、健脚には自信があるんだ」

 天使というのは弱点という弱点が少ない種族だ。種族的な耐性もかなり高く、ステータスではスピードが高い。他のステータス値はかなり微妙だった上、そもそも素早さはユグドラシルでは微妙ステータスとして名高い為、釣り合いは取れている。

 ちなみに、ンフィーレアにもタメ口を要求しておいた。偲がこの世界の同世代と仲良くなりたかった為である。もしかしたら、このまま現実世界に帰れないのかもしれないのだから。

 「健脚? 貴族ってそんな走らなさそうなイメージだけど」

 「王国は、そうらしいねー」

 偲は陽光聖典や漆黒の剣、特にニニャが語り聞かせてくれた王国の現状を思い出す。

 権力抗争が激しく、腐敗した政治。悪魔崇拝がはびこり、悪い治安。

 「へえ、その黒髪、この国の人じゃなかったんだ」

 「え? ああ、うん」

 なぜそこに食いついてくるんだと思ったが、彼が自分に依頼した理由を思い立つ。

 話が終わったのか、漆黒の剣が会話に戻ってくる。

 「いやあ、急に仲間内だけで話しててごめんね」

 「ペテル、なんの話してたんだ?」

 そんな事を聞くなよと思うが、ウルの顔から、ああわざとだなと確信する。

 そんな性格悪く設定したっけかと思うが、NPCが設定者の性格を受け継ぐのだろう事は分かっているし、共同制作した0リットルさんの性格なのだろう。彼もこんな性格ではなかった気がしたが。

 「内容は分からないけど、そんな長く話して、仲がいいんですね」

 少しピントのずれた言葉だったが、それが四人を安心させたらしかった。

 「そうですね、まあどこも同じ感じだと思いますよ、命がかかってるんですし。あと目標が同じなのも。ほら、昼に言ってたあれですよ」

 「ああ」

 偲はペテルの腰にある柄をちらりと見る。

 「あと、異性がいないのもな!」

 (ん?)

 ルクルットの言葉に偲は小首を傾げた。異性がいないって、どう()ても──。

 「チーム、ねえ。なあ、偲とかはどうだったんだ?」

 「あれ、偲もチームを組んでいた事があったんですか?」

 「ん、あ、ええ」

 「ああ、俺に向かって殴りかかりに来やがったんだぜ、あいつら」

 飛空艇のボスで、一回殺された事もあるウルだが、記憶があるらしい。

 「へえ? どんなチームだったんだ?」

 「そうですね……」

 偲は野営地を見渡す。

 魔法的な線はユグドラシルにないニニャが使った魔法〈警報(アラーム)〉だし、野営の作り方は現実世界では行われようもない、この世界独自の最適化された物。やっている時は辟易したが、文化自体には、好奇心が刺激される。

 そして、あのギルドはそれを重んじた。

 「そのチームの始まりは、ある一人の有名人でした。こっちでは有名ではないですけど、彼はそこではとても有名な配し……まあ、別の事で有名だったんです。で、彼を中心に人員が集まり、チームの方針も彼によってすぐに決まりました」

 偲は、ギルド長になった今でも、人格の出来た彼をクラン長と呼んでしまう。

 「なんだろ、『冒険者』? ほら、組合の依頼に『冒険』ってありましたよね。そんな事をしていました。ある人は魔法を探求して、ある人は鍛冶のなんたるかを研究するとか。地図とかの作成は当然のごとくしてましたね。ダンジョンを何度も発見し、侵入しては未知のアイテムをたくさん見つけました」

 「ほぉー」

 「まあでも、そんなギルドだったからかな。すごい変な人ばかりでした。皆勝手にあっちこっち行くんですよ。それで、メンバーの中で一番普通だからと、僕がリーダーに選ばれました。本当ですよ?」

 驚いたような面々に、くすぐったいような笑いをしてしまう。実のところ偲の年齢は、ユグドラシルでの外装通りだ。それなのにリーダーに選んでくれたのには別の理由もあると偲は思っている。

 「まあ、リーダーだからと沢山資源や装備を回してくれたから、それも彼らの僕に対する優しさだと今なら分かります。ま、僕の思い過ごしなのかもしれないんですけどね」

 彼らの支援があったからこそ、偲の装備スロットは全て神器級(ゴッズ)装備──それも、アーティファクトや課金アイテムではなくデータクリスタルによる手作りの──で埋まっているのだ。偲という少年がゲームを楽しめるようにしてくれた。そういう事をしてくれるならもうちょっと好き勝手な行動を少なくして欲しかったが。

 「まあ、ちょっと変でしたけど、いい人達でしたよ」

 「……その方々は、今どうされてるんですか?」

 ニニャの声が少し小さいのは、偲がずっと過去形で言葉を発しているからだろう。何かを察知し、しかしそんな質問が出来るのは、偲の顔に影がない為に違いない。

 「んー……」

 言うのを少し躊躇ってしまうのは、現実世界への未練だろうか。一ヶ月程異世界で過ごして、それでもまだこの現実を偲は受け入れられてなかった。眠って起きるたび、この世界が夢とならなかった事を恨んでいる。

 その空気に、ニニャが慌てふためき付け加える。

 「いやっ、言いづらいなら、言わないでも構いませんよ」

 「いえ、別に彼らが死んだ訳じゃなくてですね」

 なるほど、と思う。冒険者と言ったが、それは彼らにとって命の危険がある職業だ。それで偲が影を作る理由は確かに、メンバーの死亡に他ならない。

 「どっちかというと、彼らが僕の事をそう思ってるのかもしれませんよ」

 「逆って事か? どういうことかわかんねえけどよ」

 ルクルットの言葉に、偲は沈黙で返す。ただ、夜空を見上げた。

 この気持ちは、他人である漆黒の剣やンフィーレアどころか、身内であるウルにすら理解できないだろう。

 今頃、彼らはあの空戦ゲームを楽しんでいるのだろうか。一ヶ月経ったから偲の異常には気づいているだろうが、どうしようもないだろう。心配すらされないかもしれない。結局、ネットゲームでのチームメイトというだけの関係だ。

 だけど、彼らと一緒にゲームをするのは楽しかった。だから──

 「……帰りたいなー」

 その小さな呟きは、沈黙が支配した野営地には大きく響いた。

 

そういえば主人公が戦う相手どっちがいいです?

  • クレマンティーヌ
  • カジット
  • まとめてかかってこい
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