「でさ、そこのダンジョンでは転移系の罠もあって……」
「ええ!?」
ンフィーレアが驚いたのに、偲も驚く。そこまで大声を上げる事だろうかと思うが、そういえばこの世界では転移魔法はかなりの力がないと使えない部類の魔法だった。そんな魔法を罠として使うのは、この世界での常識に照らし合わせてみればひどく驚くべき事なのか。
ただ、それは偲としても問題はない。話に食いついてくれるタネがあってよかったな、というぐらいだ。
「驚くだろ? しかもかなりダンジョンの作り、いやらしくてね」
「へえ、モンスターの群れの中に転移させられた、とか?」
「その通りなんだけど、女性はそれ以上だったらしい。ゴキブリって分かる? それが大量にいる中に転移させられたんだって」
「ひぃ」
ンフィーレアの反応に偲は満足げな表情をする。実際の所、ユグドラシルというただのゲーム内でのダンジョン体験を話しただけなのだが、昨日の戦いをいまと同じように馬車の御者台から見ていたンフィーレアからはかなりの好感触を得られていた。
目元を隠す髪で分かりづらいが、その視線には尊敬さえ伴っている気がする。現実世界で例えるなら、かなりの才能を持ってるという事で有名になった同年代の有名人に対する表情だろうか。
とりあえずある程度の説得力は得られたかな、と思い、偲はポケットからある物を取り出した。これがあった為に、わざわざンフィーレアとの会話が他の四人に聞こえないよう、人間形態では使えない魔法の為にアイテムを消費したんだ。
「そんなダンジョンに行って帰ってきた訳だから……こんなものも見つかった」
「え? そ、それは!」
偲が出したのは赤いポーション。薬師における伝説という事らしい物だ。
「ああ、折角この町で一番有名らしい薬師と会えたんだ、見せてみようと思ってね」
「……それを、売りたいって事?」
そう言われると偲は困ってしまう。ユグドラシルポーションの価値を知った時は宿屋でふっかけなかった事を後悔したが、今はお近づきの印としてこれを渡そうとしているのだ。
これを無償で渡せばンフィーレアと親しくなれると偲は踏んだのだが、価値の高さゆえに無償での手渡しが不自然になるとは思ってもいなかった。
「……別に、金には困っていないんだけどね」
「それも、そうか」
「というか、そもそもンフィーレアはこれが目的で依頼したんじゃないのか? 欲しがると思ったのに」
「……知ってたのか」
偲は肩を竦める。
「宿屋での話を聞いたって言ってたからね。そうなのかもなって。ンフィーレアの依頼はちょうどこれの価値を聞いた直後だったから、流石に記憶力が弱いと言われてた僕でも分かるのさ」
「じゃ、じゃあ」
「うん、あげる」
偲が手渡すと、ンフィーレアは目を丸くした。
「う、売るんじゃなくて?」
「さっきも言った通り、金には困ってないしね。というかそれ、効果はそこまで強くないよ? 第二位階魔法。そんなの、市販ので買えばいい」
「……それなら、ありがたく受け取るよ。でも、そんな簡単に手放して大丈夫なのか?」
「繰り返すなあ。そんなに数が少ない訳じゃないから、気にしないでいい。僕からすれば効果はそこまで高くないんだから、欲しい人が受け取るべきだ。これも貴族の務め、ってね」
「そりゃ、貴族さん様々だね」
拳をぶつけあって、偲はンフィーレアとより親密になれたように感じた。
と、馬車の中にいるンフィーレアは周囲の光景を見て、何かに気づいたように、少し目を見開く。
「……もう少しでカルネ村だ」
「そうなのか? なら、魔法を解除しておくから、皆に知らせないと」
「え、魔法って……」
「ああ、この話が聞かれないように防音してましたー」
「ええー?」
ふざけた用な口調でアイテムを見せると、ンフィーレアもおどけたような驚き方を見せる。
ウルと漆黒の剣が談笑している方へンフィーレアが到着を知らせると同時に、周囲を見渡した偲はここ辺りの光景を一度見た事があるような感覚に襲われた。思えば、カルネ村、という名前もどこかで見たような気がしていたのだ。
だが、偲が見た事がある地形は望遠鏡での光景と、あとは──と、想像に偲は顔を歪める。
そして、取り出した魔法地図の指す現在地を見て、その想像が当たっていた事を知るのだ。
***
蜥蜴にはその理由が分からないけど、そこには最近、虫達がたくさん群がっていた。無論、蜥蜴が餌とするこの虫達にも警戒心という物は存在し、その闖入者を見て逃げ出すのだが、それでも逃げ切れなかった虫を蜥蜴は食す。
そんな場所──カルネ村の村民達だった死体が集められた場所で、ンフィーレアはすすり泣いていた。
虫が寄り付き、腐った匂いが漂う死体の山は、このような蛮行を行った犯人が死体を処理しようと集めた後、何らかの出来事があって処理まではできなかったかのように見える。
偲は喉から酸味がこみ上げてくるのを感じる。未だ白骨化はしていない為に以前の面影が見られる死体が、それはもうグロい。
村には住民が残っていなかった。偲はガゼフ・ストロノーフの話で幾人か避難しているのを知っているが、彼らのような避難民だって今、生き延びているかどうかもわからない。
他のメンバーは、野営地を探していた。村に泊まる事が出来なくなった為だ。
ンフィーレアの護衛として偲は残された訳だが、本当にそれだけが理由なのだろうか。
偲は、短期間で少し親しくなれたからといって慰めるのを期待されていたなら、勘弁してほしい、と思う。
(こんなの、どう慰めればいいんだ)
おそらく、村に親しい人でもいたのだろう。友人、さもなくば恋人とか? だが、どちらにせよ偲は慰める言葉を持たない。
「復活…………僕は魔力系だから………開発……アンデッド……」
だが、ンフィーレアのその発言は無視できなかった。
「ンフィーレア」
「ああ、大丈夫──ではないけど。後追いとかはしないさ。それも臆病なだけかもしれないんだけど」
「そんな事は、ないよ。誰だって死ぬのは怖いだろ。それに、ンフィーレアが死ぬ事を願う人なんて、この中にいない……そうじゃないのか?」
「そうだね。うん、ありがとう」
座り込んでいた彼の肩に手を置くと、その上にンフィーレアも手を置いた。
「……誰が、こんな事をしたんだろう」
瞳に暗い輝きをともしてンフィーレアが言ったセリフは、当然答えは期待されてなかったろうが、それを聞いて偲は、これは正体を明かす事はできないなと思った。
陽光聖典は捕らえ、飛空艇で働かせる予定だ。偲が飛空艇に所属する事を明かせば、聖典まで辿り着かれる可能性もある。
友人としてある程度関係が進めば、偲の事情を共有できると思っていたのだが。
ただ、復讐の輝きもその目から失わせ、ンフィーレアは立ち上がり、偲と改まった調子で対面した。
「偲、僕を仲間に入れてくれないか?」
「……どうして?」
偲には本当に彼の言葉が分からなかった。
「僕は、エンリを守れなかった。僕は村を守ろうと考えられる程強くなかったし、それにこんな事になるなんて想像もしてなかった。今のままじゃ駄目なんだ」
エンリとは誰なのだろうと偲は考える。発言からしてただの友人でも無いように思えた。そして、そんな人が殺された無念も、転移してかなり変質したように思える偲の精神であっても、強く感じ取る事が出来た。
「こんな事になって、同じままじゃ居られないんだ。強くなって、もし同じ事が他の場所で起きるのなら誰かを守れるようになりたい。だから、偲──君の強さを僕に少しでも教えてほしい。荷物持ちでも何でもするし、僕は第三位階までの魔法や
生まれながらの異能と聞いて、偲は驚く。生まれながらの異能に関しては、とある伝承がある為に公表する者は少ない。
生まれながらの異能を誇示し、見せびらかした者は、とあるアンデッドに目をつけられて魂を抜かれるとか。偲としては夜の口笛かよと思ったものだが、この世界ではかなり信じられている
それは、ンフィーレアの本気を裏付ける話だろう。
彼が語るのは、偲にはまるで死んだ人に囚われた道のように感じられた。だが、それで彼が悲しまずに済むのであれば、と偲は頷いた。
「分かった。今日この日から、僕らは仲間だ」と。
ちなみに、腐った死体をンフィに見せる為に本編より半月イベントを遅らせた説があったりなかったりします
そういえば主人公が戦う相手どっちがいいです?
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クレマンティーヌ
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カジット
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まとめてかかってこい