ルクルットから森が騒がしいと聞いて、漆黒の剣と共に退避しようとしたンフィーレアを偲は引き止めた。
「ンフィーレア、戦闘準備して!」
「ええっ?」
「君の能力を知りたいんだよ」
「わ、分かったけど、次からは先に言っておいて欲しいかな!」
「知らせてなかったのかよ……」
グダグダだ、と偲は自らの段取りの悪さを後悔した。
〈
鋼鉄が樹木を打ったような音が聞こえ後ろを向くと、鱗で覆われた尾が樹木に巻き付いていた。
『なんだ、これ……?』とンフィーレアが言うより先に事態は動く。ブチブチと何かがちぎれる音とともに、根ごと樹木が引き抜かれた。尾はそのまま樹木を振り回し、それを防いだのはウルだった。
「あらよ、と!」
ウルの掌底が風穴を開け、樹木を吹き飛ばす。日光を
尾が引き戻され、尾の主が姿を表す──
「──いや、違う!」
気付くと偲は前へ出た。そこへ、巨大な塊が突進してくる。その速度が尋常でないのは、魔獣の脚力だけでなく尾を引き戻す際のスピードが乗っているからだ。
樹木が引き抜かれたのは振り回して攻撃する為でなく、ただ尾を引き戻す力と魔獣の体重が凄まじかった為でしかない。
ワイヤーアクションかよ、と偲は考えながら、巨大な塊の勢いに抵抗し、遂にはそれを押し留める事に成功した。
「吹き飛ばされなかったのはノックバック耐性があったからってだけか。僕以外の人にとっては強いんじゃないか?」
「賞賛と思って受け取るでござる」
「……ござる」
その語尾から想起されるのはサムライだが、ナワバリに来た強者に必ず戦いを挑むという噂も相まって、辻斬りという単語が偲の頭には浮かんだ。
「それがしはハムスケ、人間らの言うところの森の賢王でござる! おぬしの名前を聞くでござる」
「ちょっと待って、僕にはまだ君の胴体しか見えないから。顔を合わせて自己紹介しよう」
偲に見えるハムスケの体は白銀の体皮だけで、その全貌は距離が近すぎる為に見えていなかった。
後ずさっている間、偲はハムスケというその名が、ハムスターみたいだな、と気付いた。
名前だけだと、思っていた。
「完全にハムスターだ……」
「む? ……さて、そろそろ名を名乗るでござる!」
その全貌を見た偲の呟きに対して一瞬、ハムスケが野生なりの鋭い視線を向けたが、偲は気づかなかった。
「僕は偲だよ。こっちはウルで、それとンフィーレア」
「偲、でござるね。覚えたでござる!」
「でも、名前なんか聞く必要ないんじゃないか?」
偲は抜いた剣をハムスケに向け、言う。
「だって、今から殺し合うんだろう?」
「死ぬと思ったらそれがしも逃げるでござるよ?」
「……なるー、あの噂はそういう事だったのか」
森の賢王という魔獣は森へ来た強者と戦いを挑み、その力が十分だと思えばそこから去るらしい、というのが偲の聞いた話だ。
その噂から、力試しに来る冒険者が後を絶たないらしいが、魔獣が野生の本能で逃げているだけと考えると……
「かなりしょうもない話に思えて来たな。じゃあ、戦おう。君と戦うと組合での昇格点が入るらしいし」
「人間達の中ではそんなシステムができているでござるか……。ではかかってくるでござるよ!」
獣にしては性格がいいんだな、と思いながらも、譲られた先手を偲は無駄にしない。踏み出した一歩は普段より軽かった。
話している間、ンフィーレアが魔法をかけていたのだ。偲に時間稼ぎの意図はあまりなかったが、抜け目のなさだけなら偲よりンフィーレアの方が冒険者だった。
大上段から剣を構え、ハムスケの頭蓋を狙う。剣筋に尾が塞がるが、偲はそれを逆手に取り尾を地面に叩き付けた。ウルの攻撃を通す隙を作る為に。
「おぉ?」
「〈外皮強化〉でござる!」
だが、ウルの叩きつけた拳はハムスケを数歩後退させるのみだった。
「……武技か」
「すごいな森の賢王……。武技まで使うのか」
「
「なる……」
そんな問答の末、偲は違和感に首を傾げた。
「ンフィーレア、モンスターが武技を使うなんて普通じゃない……よね」
「そうだね……。修行ってやつかな?」
いや、と偲は顔を振る。ユグドラシルでは異形種の特殊技術を覚える難易度が高く、何よりわざわざ自分から特殊技術を覚える異形種がいるとは、この平均レベルの低い世界では考えにくい。
特殊技術という物が、この世界では現実世界と同じような、修練によって習得できる物の延長線上にあるものらしいと偲は考えていた。
「野に生きる獣が何か訓練を行おうなんて発想する……か?」
それよりは、誰かがハムスケに武技を教えた可能性の方が高いのではないだろうか。根拠はないが、偲は自らの直感が正しい事を確信した。
〈──剛爪〉
偲が考え事をしている間にも事態は動いた。ハムスケが鋭くとがった前足の爪によって斬撃を振りぬくのに、偲は転がって回避する。
その俊敏さや攻撃力から考えると40レベルは届くだろうか。誰だか知らないが、ユグドラシルに居ないモンスターをよくここまで訓練した物だ。
「〈斬撃〉! でござる」
ふと偲は自らの失敗に気付く。ハムスケが尾をウルに叩き付けたのが見えた。近くのウルを差し置いてハムスケが偲を引っかいたのは、地面に抑えつけられていた尾を自由にする為だった。
「……ウル?」
「なんて事ねぇ! くそてめえ、ぶっ潰してやる!」
なんて事ありそうだと偲は歩を急ぐ。ウルはそもそも
森の賢王は強い。今のウルでは、その攻撃を無視できない程には。
(ンフィーレアも同じ事だ。とすると、僕以外に命の危険なく賢王と戦える奴はいな──)
「〈
拳を握る偲の背後から魔法が飛んだ。
「──ンフィーレア!」
「……照準を定めてたんだよ。だから遅くなったのは許してくれないかな!」
「許してやるからもっと魔法使え!」
「待てよウル。きっと僕らが邪魔で撃てなかったんだ」
偲は自分が久しぶりに本格的なチーム戦をしている事を自覚した。
(まずは敵を遠距離攻撃使いに近づけさせない。そして射線は通す。すっかり忘れちゃってるなあ)
「……なんの! でござる!」
眉間辺りを少し酸で焼かれたハムスケは少し怯んでいたが、既に攻撃態勢に移っていた。尾を槍のように動かし、偲を突く。
それを剣で受け止め偲が踏ん張った靴の裏に、土の山が作られた。
「本当に、攻撃力は高いね。一番強い僕だから狙ったのかな。獣にそんな知性があるのか」
「けど、俺を忘れて貰ったら困るな、〈気爆掌〉!」
「偲、避けて!〈
ンフィーレアの掛け声に転がって避けた後、見てみれば二人の攻撃はハムスケに当たっていなかった。
だが、事態は変わらず偲達の優勢だろう。数の利があるのはもちろん、ハムスケが偲へ異様な頻度で攻撃してくるのも理由だった。
警戒されているのだろうか。この場で最も強いのは偲だから、それは間違いではないが……。
「〈
ハムスケの体表にある紋様が
(モンスターの魔法か。いよいよユグドラシルらしい……)
「そろそろ、僕も攻撃させてもらおうか」
我慢ならないと偲は剣を振りかぶる。
偲の素早さがかなり高いのは現在の姿でも同じ事だ。ハムスケに迎撃の姿勢すら取らせずその攻撃は成功する。
そして、偲の脳内にハムスケの情報が流れ込んできた。
寝ぼけて深夜に投稿してしまったぽい
そういえば主人公が戦う相手どっちがいいです?
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クレマンティーヌ
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カジット
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まとめてかかってこい