その日、偲は朝に起きなかった。
森の賢王関連の手続きを終えて、宿のベッドに寝転んだ後、深夜、感知能力に引っかかる物がある事に気づく。それも、大量に。
偲には感知系
(墓地か。物凄い量だな。召喚……? いや、こんな量のモンスターをこの世界では召喚できるのか?)
「……ウル、行くぞ」
「オッケー」
「理由は聞かないのか?」
「その顔を見りゃ分かる。戦いだろ?」
そんな会話を経て、偲とウルは宿から出た。最近泊まりだした宿の為に偲はまだ周辺地理を理解していなかったが、どこからモンスターが出現しているのかは感知能力を使わずとも分かっただろう。
「あっちか」
「行こう」
墓地の壁で起こっている騒ぎを見たウルの発言に、偲はうなずいて墓地へと歩いた。
「──え?」
が、足を止める。
「どうした?」
「……モンスターの反応がある」
「へえ」
驚く偲に対し、ウルは面白そうに笑いながら、その家屋の扉を蹴破った。
「……そんな過激な行動に出るとは思わなかった」
「じゃあ俺を責めるかよ」
「いや……」
偲はウルへの叱責より先に、事態の確認を急いだ。
「ここはンフィーレアの家だ。無事を確認しないと」
「よりにもよって、か」
焦る胸中と共に、偲は感知しているモンスターの方へ急ぐ。
「な、なんだいあんたら!」
感知した場所へ着く直前、老婆が突然の侵入者に驚く。
話に聞いた特徴からンフィーレアのおばあちゃんか、と偲は考えたが、彼との事情を今説明する必要はないだろう。
偲は扉を開けながら、老婆に話しかける。
「とりあえず、あなたが無事で良かった。モンスターがこの奥に──!?」
「な、なんじゃこりゃあ!」
偲が開いた扉の先にはニニャの顔があった。偲へ魔法を放つ。
「アンデッド!」
戦闘準備をウルがする前に、偲はニニャの攻撃をすれ違うように避け、振り返りざまに魔法を使う。
「〈
腐り落ちた筈のニニャの肉は元に戻った。だが、様子がおかしいと偲はいぶかる。
「私を救ってくれてありがとう、偲。いえ、天使さ──」
「黙れ」
〈
「──あ。えーと、偲、今のは……。いや、それよりありがとうございます。奴らは……?」
気絶した所を介抱したという誤解だろうと偲は推測する。
「いや、僕らが来たときには誰も」
「そうですか……。隣にいるのはリイジーさんですね。偲、奴らの目的はンフィーレアさんです。さらわれてしまいました」
「なんじゃと!」
意味のわからない状況変化に戸惑っていたリイジーも、孫が危機らしいと知るや否や事態を重く見出す。だが、ニニャは先に仲間の心配をした。
「ダイン、ルクルット、ペテル……」
ニニャが向かったのは彼らの横たわった肉体だ。
「また、か……」
ニニャは軽口のように、だが藁にもすがるような口調で偲に問うた。
「偲、私みたいに皆も……」
「死体だな」
ピシャリと切って捨てるウルの物言いに、ニニャは黙ってうつむいた。偲も「そんな言い方、ないだろ」とたしなめる。
「大丈夫ですよ。ウル、リイジーさんを連れてけ」
「偲、まさかだよな?」
「そのまさか、かもね……」
はぁ、とウルはため息を吐く。
「全くもう、お人好しで困るね。天使さん」
ぼやきながらも、ウルは偲の命令通り、リイジーを連れて共に部屋を去った。
「……偲、今彼が言っていたのは?」
「ニニャさん、すみません。今まで嘘をついてました。僕は貴族の出じゃないんです」
「……え?」
突然なぜそんな事を、と思うより先にニニャは、場違いな身分蔑視の矛先を向けた事を思い出し居心地の悪さを感じた。
が、次の言葉からそれも霧散する。
「ウルが言ったのは冗談じゃない」
額を指差し、偲は〈
三人の死体に天使の本能からか″哀れさ″を感じた偲は、種族を明かしながらも彼らを″救う″のに躊躇しない。
″漆黒の剣″の死んだ三人は、無効にした《
そして、ニニャと同じように偲の顔に浮かぶそれを見て驚く。
「……やっぱり、気づいてなかったんですね。探知防御も、ここまでくれば認識阻害だな」
「本……当……に天使なんですね。三つも、目を持っているなんて」
彼らが見ていたのは偲の額にはりついた、見開かれた第三の目だ。
これこそが偲の半人形態。人間形態での魔法を使えないデメリットが消滅した姿。
「口外はしないでくださいよ。あなたがたに見せたのは魔法を使える説明のためですけど、宗教の強いこの国じゃ知られると騒ぎになりそ──!?」
「……なんで!」
偲は驚く。ニニャが偲の肩をつかんで、叫ぶように語りかけてきたのだ。「え……?」
「なんでッ! なんでですか! どうして祈っても祈っても来てくれなかったくせにっ、今さら! 死者を蘇らせられるなら、今すぐ姉さんを取り戻してくださいよっ!」
「な……」
貴族の子供という設定はまだしも、天使という種族さえ他人からよく思われない可能性など想像もしていなかった。
だが、彼女の告白を見て、自らの知りえない情動に偲は、異世界の人が現実世界と同じく、生きた人間である事を再確認させられた。
「……ニニャさん、手を離してください。これからあなた達を死なせた人に、天使からの罰を与えに行きます」
答えにはなっていないだろう。だが偲はそう答えるしかなかった。
「皆さん、これからウルについていってください。モンスターが都市にはいっぱいいます。彼が安全な所に行かせてくれますから」
ニニャがだらしなく手をぶらさげるのを見て、偲は部屋の外に逃げるように歩く。
***
ウルに仕事を押し付けた事で怒られるだろうかと考えていると、廊下の曲がり角で、ウルと鉢あわせた。
「……ウル、リイジーさんは?」
「ンフィーレアを探しに家を回ってるよ。見つからないだろうな。それで? どうした」
「……ウル。″漆黒の剣″を飛空艇に届けてやって。そこが一番安全だ」
「乗りモン使えって? そりゃ嬉しいけどよ。それでそれで? お前はどうするんだ?」
ウルはニヤニヤとした顔持ちで、偲の言葉をうながす。
「何って……。″天使からの罰″を執行するよ。これをしたやつは僕の友達候補をさらって、冒険仲間を死なせた」
「なる」
「″漆黒の剣″を運ぶ時、注意しろよ。この世界は
「まっ、分かったさ」
それを聞き偲は出口へ歩み始めるが、その背中にウルは言葉を投げかける。
「なあ? 依頼でもないのになんで助けるんだ?」
「奴らは墓地にいる。探知が簡単にできたんだ……ムカつくんだよ」
偲が去ったあと、その言葉に一人ニヤリとウルはつぶやく。
「……なる。りょーかい、俺の創造主さまっ」
***
軋む扉の音が聞こえるたび、おもむろにその場の悲壮感は強くなっていくようだった。墓地の衛兵たちの顔は皆青ざめ、扉から目を背ける事もできていない。
視界外の情報は耳が感知した。金属音。
その冒険者は銀のプレートをつけていた。
衛兵達は彼がアンデッドの大群を討伐する希望から、止める事もできず、だがすぐに諦念を抱く。
海をも思わせるアンデッドの濁流に、一人の人間がどのように対処できるというのか。
見上げる先を見て、奇声が上がった。彼は、墓地の壁でも隠れない、無数の死体が作る巨大な死体の巨人と目を合わせていた。
そして、剣の名前を呼ぶ。
「『神々の小剣』」
トグロを巻いたヘビを思わせる形状の剣が、高級そうなソードベルトから呼び出される。呼び出された白い剣は浮かび上がり、彼はそれを手の平で押した。
一陣の風が吹いたと思えば、浮かんでいた剣がなくなっている。
「チャチだな。こんなので死ぬなんて」
その声に巨人を見た衛兵は、モンスターの塊に空いた巨大な穴を見過ごさなかっただろう。
「門を」
「な……、あ、開けられる訳がないだろう! 向こうにはアンデッドの大群がいる上、第一……、子供じゃないか!」
ひとまず眼前の危機が去り、その見た目をようやく衛兵は認識できた。
「そうですか」
冒険者は取り合わない。助走もしない跳躍で、墓地の門を乗り越える。信心の深い衛兵は、その跳躍に翼の音を聞いた。
彼の持つ白い短剣は、いつの間にか鞘に収まっていた。
彼が跳躍ののち落ちていく間も、アンデッドは発生する。先程の死体の巨人、
粘りついた液体のように盛り上がり巨人を形作る死体を、落下する冒険者はたやすく崩壊させる。
衛兵は超人以上の特殊技術に崇拝に近い感嘆をこぼした。
「な、なんだあいつ……」
「救世主だよ。アダマンタイトの器だ……」
「銀のプレートに白い剣……いや……」
その冒険者は白銀の布鎧に身をまとった。
だから、白銀の冒険者と呼ばれた。
そういえば主人公が戦う相手どっちがいいです?
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クレマンティーヌ
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カジット
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まとめてかかってこい