プロローグ
──夜闇の中、フードを被った人影が迷宮都市の巨大墓地を進んでいた。
墓地内に設置されている魔法的な明かりがあったとしても手元すらおぼつかない暗さの中、それに反してまばらに人々とすれ違う。
すれ違う人々には時折、人影を押しとどめようとする者も居たが、すぐ思い直す。人影が墓地にいるのは、自らが考えている理由ではなく、単に墓参りに来ただけなのかもしれないのだから。
やがて人影は、霊廟にしては立派すぎる建造物を前に足を止める。すれ違う人々はこの建造物から出てきていたようだった。
──この建造物こそが迷宮都市の巨大墓地が有するダンジョン、その入り口である。
「到着、と」
フードを外した人影──金髪の女はダンジョンへと入る。歩くたび、金属の擦れるような音が鳴った。
まるで、目的地が定まっているかのような足取りで、夜にしては明るい、迷宮の入り組んだ路地を歩む。途中、
そして、目的の場所に到達すると、今度は壁に触れ、そして──幻術により隠された扉を開く。
扉の中には広い空洞があった。死臭がそこらじゅうに漂う空間は、明らかに邪悪な何かを秘めている。
このダンジョンは盗賊やならず者の根城として丁度いい、適した場所だ。モンスターがうろつく為に衛兵は近寄らず、難易度もそこまで高くない為に新参者以外では冒険者すら入ってこない、女が所属する秘密結社には都合のいい場所。
女は広間を見渡すと、ある一点に目を止めた。
「そこで隠れて見てる人、お客さんが来ましたよー」
気配を察知されたのに肩を震わせる弟子を下がらせる者が居た。
その人物のアンデッドにも似た風貌に、女──クレマンティーヌは笑いかける。
「ちわー、カジッちゃん」
「その挨拶はやめないか。誇りあるズーラーノーンの名が泣くわ」
強大な力を持つ盟主を頭に抱き、そしてその盟主よりさらに強大な御方がその手に有する邪悪な秘密結社。その十二幹部は二人──カジットとクレマンティーヌが相対していた。
「で、おぬしはどういう理由でここに来た?」
「あー、それがねー」
カジットは少し驚く。
歯切れ悪そうに躊躇っている今の姿はこの女には珍しかった。初めて見るのかもしれない。
「まあ、いいや。これだよ、これー」
「それは……」
カジットも一目見た事があった。そのサークレットの名前は、
「ふん、漆黒聖典を裏切って得たのがその程度のガラクタだと? 笑わせてくれる」
「ガラクタはひどいなー」
このアイテムは低確率でしか存在しない適合者でしか使用が出来ない。
だからこそ、スレイン法国の至宝をカジットはあざ笑ってみせる。
「それより、おぬしにとって重要なのはここからどう逃げるのか、ではないのか? おぬしの元同輩どもが追ってきてるだろうて」
「いんや、多分漆黒じゃなくて風花の連中だとは思うけどねー。でさ、カジッちゃん、ちょっくらかくまってくんない?」
カジットは顔を
「風花聖典ならばすぐに見つかるぞ? 儂がかくまった所で意味はないと思うが……。何か当てはあるのか?」
そうだ。だが、それと同時に彼女の当てを探るのは、目の前の女が決して脳味噌の無い人物ではないと知っているからこそ。
「なあに。でっかいイベントを起こしゃいいだけさー」
クレマンティーヌがサークレットを手元で転がす事で、カジットは彼女の意図を知る。
「これでカジッちゃんの儀式に協力すると言えばどう?」
「……なるほど。だが、見つけ出すというのか、百万に一人の適合者を?」
「そうだねー。そこは賭けになるのかな。といっても、ギリギリになれば切り捨ててくれて構わないよー」
「無論だ。おぬしからしても見つかるギリギリまでここで適合者を探すメリットはあるまい」
カジットからすればデメリットはあまり無い提案だ。最悪の場合風花儀式の場所を移すかもしれないが、それは本当に低い可能性だ。頃合いを見計らってクレマンティーヌを追い出せばよい。それに、万一適合者が見つかれば──
「──死の祭典を前倒しで行えよう。分かった。儂も少し協力しよう。しかし、繰り返すようだが、おぬしに当てはあるのか?」
その問いにクレマンティーヌは答える。首を傾げながら。
「さあ? どうしようね?」
調子出てきた感