アンケートの結果を見ると長い話を読みたい、ホロメンとの恋愛を見たい、という方が多いですね。
ということで今回はいつもより長めでお送りいたします。
本編では未登場のホロメンも出てくるこのお話をお楽しみください。
11万UAと日間ランキング入りありがとうございます。
まったりした日常
熱狂の渦。
暗闇に散らばったカラフルな光。
轟く歓声に響く歌声。
何もかもが自分の興奮を高め、ギアを上げる。
『みんなー、今日は私たちのライブに来てくれてありがとう!』
『次でラスト!すいちゃんたちもスパートかけてくからよろしく〜!』
『では、AZKiたちの最後の歌、聞いてください!!』
これ以上ないと思われた歓声、そのボルテージが数段上がった。
雰囲気に呑まれた自分も、握りしめたペンライトを掲げ、その声に応えようと「起きてーー!」――は?
なんだ?どこから「起きて起きて起きて起きて!」
首根っこを捕まれ、引きずり出されるような感覚。
不愉快な浮遊感に抗うが体がうごか――
「起きろって!シオンのご飯冷めちまうぞ!!」
「ぐぇ」
腹に鈍痛と重みが残される。
夢のような非現実から自分を追放した犯人を睨むと、怒りたっぷりのお顔で鼻先5cmまで接近してきた。
「何回体揺すっても起きねえのなんなの?」
「あのな、俺はついさっきまでときのさん、AZKiさん、すいせいさんの奇跡のコラボライブ会場に居たんだよ」
「は、何それずるい。吾輩もその夢に連れてけよ」
「無理だな、という訳で自分は今からその続きを見てくる。ご飯はラップして置いといてくれ」
「ダメに決まってんだろ、今日講義あるんだろうが!あ、こら、目をつぶるな!」
いつからか自分の家に転がり込んだクソガキその1、ラプラス・ダークネスとの二度寝をかけた運命の戦いは5分にわたる長期戦だった。
―――――――――――――――――――――――――
「遅すぎ。あくあちゃんずっと待ってたんだけど。『ご主人まだかな、疲れてるのかな〜』って子犬みたいにさ」
「はぁぁぁ!?あてぃし別にそんなこと言ってないし!ただちょっと心配だなーって言っただけだし!」
顔を洗ってリビングに入った自分にかけられた言葉は2つ。
1つはクソガキ二大巨頭の片割れ、紫咲シオンの発言だ。
もう1つは料理において一切の成長が見られない自称メイドの湊あくあが言った。
あくあが自分より先に起きていたことにどこか違和感を覚えるが、それよりも言いたいことがある。
「とりあえずさ、シオンはもう不法侵入止めてくんね?普通に泊まるなりインターホン鳴らすなりあるじゃん」
「えー、シオンいなかったら誰がここの朝ごはんつくんのー?言ってみ?wほらほら言ってみ?w」
「ぐっ…シオンさんしかいません」
「よろしい」
ゲラゲラと笑いながら煽りまくるクソガキにこちらは何の反撃もできない。
あくあとは元々家の都合で一緒に住んでいたが、気がつけば朝からシオンが家に居るようになり、その数週間後にラプラスがやってきた。
ラプラスはまだわかる、ご飯を何回かご馳走した時に「吾輩もここに住む!」という言葉を実行しただけ…いや、おかしいな。
でももう慣れたし、なんだかんだ子どもがきゃいきゃい喜ぶ姿は心を癒してくれる。
だがシオンに至ってはまるで理由がわからん。
何回かあくあが家に泊めてと言ってきたから許可したし、シオンとそこまで話した記憶もない。
我が家はみんな朝に弱く、シオンが朝に来るようになる前は講義開始スレスレに大学に突っ込むなんてことが日常だった。
そのことを知ってからシオンは一日たりとも朝に来なかった日はない。
彼女の家から近いとは言えない距離にあるはずだが、転移魔法やら何やら言い出したのでとりあえず理解した体でいる。
正直そんなことする位なら前日から泊まればいいと思う。
棒立ちで考えていたのを不審に思ったのだろう、ラプラスがズボンをくいくいと引っ張る。
「早く席座れよ、ご飯食えないじゃん」
「別に自分抜きで食べ始めればいいだろうに」
「だって…一緒に住んでるならご飯も一緒がいいじゃん…」
モジモジしながらラプラスは顔を逸らす。
そんなことしても耳が赤いのは誤魔化せないからな。
「なに朝からてえてえな雰囲気に出してんだよラプラス〜、あくあちゃんが除け者にされてかわいそーじゃん」
「なっ、シオンちゃんだって無視されて…痛い痛い!蹴らないで!」
知らない間に同居人が不法侵入者に攻撃されるという犯罪行為が起こっていたので被害を抑える為に席に座る。
左隣にあくあ、机をはさんで正面にラプラス、左斜め前にシオン。
いつの間にか決まった定位置だ。
いただきますと言ってから用意されたご飯に手をつける。
トーストにスクランブルエッグ、カリカリに焼かれたベーコンにコーンポタージュ。
毎度の事ながら朝から凝った料理作るなあ。
さて、先程の違和感について訊くか。
「なあ、何であくあがもう起きてるんだ?いつももっと遅くまで寝てるじゃんか」
「今日吾輩に起こされたやつがそれ言うのか」
「だまらっしゃいラプラス。昨日はフブミオとお嬢とでモン〇ンをやってたから今日の寝坊はノーカンだ」
いつもなら逆、というか自分が1番早く起きるし、ラプラスやあくあを起こしている。
シオンが家に来るようになってから1度もシオンより早く台所に立ったことは無いし、早いといっても先述の通りたかが知れてる。
それでも最近はシオンが来てから5分以内(※シオン談)にリビングに顔出すようになれたし、まさかあくあより眠りこけるとは…はっきり言って遺憾だ。
「ご主人あてぃしに対して容赦無くない?」
「思考をトレース出来るぐらいの深い仲だろ?遠慮しなくてもいいだろ?」
「え、深い?深いってどれくらい?」
「ど、どれくらい?えー…海ぐらい」
「そうなんだ、そんなにあてぃしのこと…へへ」
よく分からんところに食いつかれたし、最後は何言ってるのか全然聞こえない。
しかも本題が進んでいない。
あくあよ、思考をトレースできるのなら主人が今問いていることに答えておくれ。
って痛い痛い、シオンがグリグリ足を踏んできたんだけど。
そんなに腹立つこと今あったか?
「すぐにイチャイチャしないでくれます?鬱陶しいんだけど」
「なっ、ご主人との時間邪魔しないでよ」
「あくあちゃんがいつまで経ってもそのご主人からの質問に答えないから仕方なくシオンが代わりにしてあげようとしてるんですー、駄メイドさんは静かにしててくれますー?w」
「ごしゅじぃぃん!またシオンちゃんが駄メイドって言ったぁ!」
「全然話進まねぇ」
「…お前も大変だな」
そんな哀れみの言葉をかけても話は進まないのよラプラス。
代わりに君が答えてくれ。
「えーっとだな、今日吾輩たちは午後から講義があるから、朝はシオンとあくあさんと一緒にお出かけするんだ!羨ましいだろ?」
「堂々と家主をハブる宣言ありがとうな、ほんの少したりとも寂しいなんて思ってないことも無いこともないから!」
「別にハブきたくてハブいてんじゃねえよ!今日お前1限目から講義あるってわかって…た…」
朝起こしてくれたが、どうやら1限からだとは思っていなかったのだろう。
どんどんラプラスの顔が青くなっていく。
だが、それを笑うことは出来ない、そんな余裕もない。
いつもより起床時間が遅かったこと、1限目という不穏な言葉。
点と点が繋がり、おぞましい文字が浮かび上がる。
どうやら全員同じ言葉が頭に浮かんだようで、先程までギャアギャア言ってたあくしおも完全に黙ってしまった。
ありもしない藁にすがろうともう一度ラプラスに問う。
今日一緒に行こうと約束した友人がまだ来ていないだけかもしれないと有り得ぬ願望に縋りつきたい。
「…なあラプラス。風真はいつ来た?」
「15分前に来たな。お前の寝顔を見て『こんなに幸せそうに寝てたら風真には起こせないでござる。あとは頼むでござるよラプ殿!』って言って、お前の荷物を持って先に行ったな…」
「そうか…」
友人に荷物持たせるのどうなの?とか何で荷物持っていったの?とか色々言いたいことはあるけど、予感が間違ってなかったことに対する恐怖が大きすぎて気にしてられない。
時計を確認、ふむ、講義開始15分前か。
目の前には半分以上残っている朝食、服装はパジャマ。
なるほど、思い浮かんだ文字は間違っていなかったらしい。
「寝坊か…やばいってぇぇぇぇぇ!」
行儀悪いことを承知でパンをスープで流し込み、卵とベーコンを口に詰め込む。
シオンには申し訳ないが味わっている暇がない。
「ちょっ、ご主人喉つまらせちゃうんじゃ」
あくあ心配ありがとう、でも早くしないとまずい。
講義に遅れることはそこまで問題ではない。
それなりに勉強してるし、誰かにノートを見せてもらえれば最悪なんとかなる。
でもそれよりまずいのはあの人が来ることだ。
今日は一限の講義はないなんて言っていたが、万が一を考えて動かないと攫われてしまう。
歯を磨きながら寝癖を直し、次に自室に戻ろうと―
「ふーん。ねえ、どうしてもって言うならシオンがてんいま――」
『デーンデーンデーンでっででーんでっででーん♪』
「ヒェッ」
「Then you will die.」
充電器に繋がれていた携帯が某暗黒卿のテーマを歌い出した。
やめろラプラス、そのベイダーのセリフはこの状況にぴったりすぎる。
何故か頬を膨らませているシオンの横を通ってプレッシャーまみれの携帯を手に取り電話に出る。
「…えっと、もしもし」
『もしもし先輩。いろはとのデートは楽しかったですか?』
「うっ」
いつもよりも数段低いトーンの声を聞いて自室に向かう足が一瞬止まる。
これは…かなり怒ってらっしゃるのでは…
スピーカー状態にして机の上に置き、着替えてから手に取って、ふと浮かんだ疑問を投げかける。
「ちなみに、今どこにいらっしゃるのです?」
『窓を見てください』
窓?おっと、まだカーテンをしめたままだったか。
暖かな日光に包まれるために勢い良くカーテンを開け…て…
「おはようございます、先輩♪」
「お、おはようございます…」
電話でのトーンが嘘であるかのような明るい声で、しかし顔には一切の感情が残っていない、暗黒卿と等しい威圧感を放つ後輩、鷹嶺ルイがそこにいた。
「講義まであと15分を切りましたね。どうやって先輩は間に合うつもりですか?」
「え、えっと…」
「いろはに荷物を持たせて先に行かせた挙句、遅刻するなんて先輩ともあろう方が、まさかねぇ?」
次々に言葉の刃が心を引き裂く。
ちくしょう、何も言い訳できない。
でも嫌だ、アレだけは絶対に嫌だ!
「えっ…とですね、鷹嶺さ「ルイです」…ルイさん。準備が終わりましたし、今から走ればギリギリ講堂には入れるんですよ。だからその、アレだけは勘弁してもらえませんか?」
「ダメです。そもそも講堂に入れたからってそこから教室まで間に合わないじゃないですか。早く靴履いて家から出てきてください」
「…はい」
正論によってボロボロになった心を引き摺って玄関に向かう。
その途中でラプラス、あくあ、シオンの順に目が合ったが、ラプラスには合掌され、あくあには悲しげに目を逸らされ、シオンには睨まれた。
作ったごはんをあんな食べ方されたらいらだたしいよな、ゴメンなシオン。
あとラプラスは覚えてろ。
ガチャ。ヤットカンネンシタンデスネセンパイ、イキマスヨ。アッ、ソノカカエカタヤメテ!ハズカシイ!コレシカナインデス、トビマスヨ。マッテ、マダココロノジュンビガァァァァァ!!
「…行ったな」
「ちっ…」
「しっかし、シオンは誘うの下手くそだな。素直に連れて行ってあげるって言え…痛、いった!本気で蹴るなって!」
「…バカ」
――――――――――――――――――――――――――
遅刻寸前の自分を救いに来てくれた鷹嶺ルイ。
彼女は鷹の獣人(鳥人?)であり、飛行能力があるのだ。
羽は頭についてるのしかないのにどうしてそんなに飛べるの?なんて疑問を吹き飛ばすような速度で飛んでる。
これなら確実に間に合うと言える、言えるけど…
「ほんとに他に抱え方ない?支えが首と膝裏にしかなくて怖いんだけど」
「あら、ご不満でしたら米俵と同じように運んでもいいんですよ?あっちだと急停止したときに先輩を落としてしまうかもしれませんけど」
「遠慮します」
現在、自分は鷹嶺…ルイさんに両手で抱えられる、いわゆるお姫様抱っこで運ばれている。
ルイさんは先に荷物を大学に置いたのだろう、手ぶらで家に来たのでできる所業だ。
人が人を抱えて飛ぶ姿はなかなか目立つらしく、さっきから先輩やら同級生やら後輩やらと目が合う。
ほら、常闇だって今自分を見て「あーーっ!」なんて言って指を指してきた…恥ずかしい。
それに、意識しないように尽力していたけど、どうしても脇腹に当たるむにむにとしたソレが気になる。
自分が落ちるのが怖いと言ったせいだろう、強く抱えてくれているのでその豊満な果実の感触がしっかりと伝わってきてしまう。
意識するな、冷静になれ。
女の子に運ばれて興奮するとかもうどうしようも無い変態だぞ。
そう自分に言い聞かせて、少しでも意識をそらすために話を振る。
「そういえばさ、ル、ルイさんはなんで自分の家に来たの?」
「…え?」
ふにゅん。
ルイさんの腕により力が入ったことで、むにむに、むにむにと形を変える。
なにか不味いことを訊いただろうか?
いつもは1限目があるからそらをとぶので、不思議に思って訊いただけなんだが…
「あっ…んと、遅刻しそうなところに来てくれたし、ルイさん確か今日は講義ないって言ってたなーって」
「ああ…いろはから頼まれたんですよ。先輩がいつまで経っても来ないって」
「あ、あはは…」
何故か低くなった声のトーン。
崖に掴まっている人を突き落とすような人物が発するそれだが、裏腹により強く抱えられ…もう抱きしめられていると言ってもいいなこれ。
しかし、強く抱えられるということは、比例してその膨らみを感じてしまうわけであってッ…
「あの、ところで、ですね、ルイさん…」
「どうしました?」
「その、さっきから凄く、柔らかいのを感じるんですが…」
どうとってもセクハラ発言でしかない。
言ってから気付いたけどもう遅い。
後輩の力に頼って荷物運びをしてもらい(意図的ではないが)、遅刻を回避する。
外部から見ただけでこの字面、挙句会話は後輩が懸命に助けてくれている中セクハラ発言。
うーんこれは学校生活の終焉待ったなし。
「ふーん…先輩、こんな言葉をご存知ですか?」
「ん?」
「当ててんのよ」
ひゃん。
「先輩?もう着きますよ」
宇宙の根源に繋がろうと意識すれば、理性を溶かす存在を感じなくなると理解してすぐに声をかけられた。
時計を見るとあと5分、これなら教室まで余裕だな。
せっかく習得した技術を使えなくて残念…ではないが、風真が待っているであろう場所まで急ぎ、謝罪しなければ…
「ああ、ありがとう。遅刻せずに済んで助かった。この埋め合わせはまた連絡するよ」
「ふふっ、それじゃあまた晩酌に付き合ってくださいよ。かなり良いおつまみが手に入ったんです、先輩も気に入りますよ」
「え、ほんと!?助かるわ」
ルイさんセレクトのお酒やおつまみは絶品だ。
値段はなかなか張っているがその分美味しいし、今までまったく知らなかった物も出してくれる。
日に日に自分好みの品々になっているし、本当に楽しいのだ。
「それにしてもよく自分の好みに合わせられるね。ハマってるものとかもタイムリーに用意してくれてるし、観察眼すげー」
「そう言っていただけて嬉しいです。先輩のことはいつも見てますから…おっと、そろそろ時間ですよ」
ありゃ、ここに来てからもう2分経ってる。
3分もあれば十分だが、これ以上風真を待たせられないし、行くか。
「ありがとうね、ルイさん。次は無いといいな」
「次はお米様抱っこにしましょうか、行ってらっしゃい」
「次は絶対ないからね!?」
不穏なことを言われたので憶測を確定に昇華させる。
恥ずかしいことは間違いないが、たまになら、あんな空の旅があってもいいだろう。
そう思い、全力で走り出した。
「先輩のことはいつも…
「やっと着いたでござるか!?あまりにも遅すぎるでござるよ!」
講義開始の1分前、滑り込みで部屋に入った自分を見つけた風真いろはが、こっちこっちと手招き。
近寄ったらかけられた第一声がこちらです。
約束を破ったので、何も言い返せません。
現場からは以上です。
「以上じゃないでござるよ。早く座って?」
「心読みが徐々に精密になってきて自分は嬉しいよ」
日に日に自分の周りには心を読める人物が増えている気がする。
アイスティー飲みたいなと思った瞬間にそのペットボトルを渡されるし、財布を忘れた日には先払いで奢られる。
はて、自分はもしや、ヒモというものになりつつあるのでは?
そんな思いを振り払って、風真が取っておいてくれた席に座る。
「荷物は足元にあるでござるよ」
「…ありがとう」
冷えた刃のような声に、感謝を告げることしかできない。
「…怒ってる?」
「当然でござる。約束破られた挙句、遅刻寸前に来るとかがっかりでござる」
「返す言葉もございません」
聞くまでもないことを訊いた対価は事実確認という精神的ダメージ。
「どうせルイ姉に飛んでもらったんでしょ?まったく…」
「ん?風真がルイさんに頼んだんじゃないのか?」
「え、『ルイさん』?」
これ以上はないと思っていた風真の冷ややかさは、もはや極寒の領域に達した。
先程のが拗ねた子供の言葉だとすれば、今は武士が剣を怨敵に向けている時のそれだ。
会話が噛み合ってないし、意味が分からないところに噛みつかれている。
もう講義が始まって教授が無駄話を垂れ流している。
だと言うのに風真は一瞥すらせずこちらに詰め寄ってって、近い近い。
「いつからルイ姉のことを『ルイさん』なんて呼ぶようになったでござるか?」
「え、えっと…今朝から」
「なんで?」
語尾忘れてるよ風真。
もう講義始まってるよ。
そんな言葉をかけることすら許さない圧を感じる。
この教授は最初の方、雑談ばかりしているので聞き流していても問題は無いが、こんな雰囲気のまま講義を受けるのは御免こうむる。
まあ、全部身から出た錆なんだけどな。
情けなさというものは限界が無いようで、力の抜けた惨めな言い訳がどんどん紡がれる。
「あ、いや…その、ルイさんからそう呼ぶようにと圧をかけられて…」
「ふーん、そうでござるか」
風真が何かボソボソ言ってるが、「頼んでない」とか「抜け駆け」とか部分的にしか聞こえないので、聞いてなかったことにする。
世の中、程々の鈍さである方が生きやすいのだ。
カバンからノートと教科書、筆箱を取り出し、ペンを握る。
「鈍すぎ、でござるな」
心を読んだ声も聞いてない。
何せ自分は鈍いんでな。
盗み見た風真の手にあったのは、自分と全く同じペンであった。
「終わったぁ〜」
あれから80分、相変わらず予習しないと理解できない理屈をずらずらと並べられ、ノートにまとめるのに四苦八苦。
教授が退出し、風真は達成感に満ちた声を漏らしていた。
ん、と背中を伸ばし、怠慢であった筋肉たちの背筋を正している。
その瞬間に、ふるっと揺れるものに一瞬目を吸い寄せられたが、努めて逸らした。
いやいや、朝から盛りすぎだろう。
いくら何でも、ここまで節操なしであっただろうか。
「…えっち」
「すみません」
流れるような謝罪。
この反応速度、運動に活かせたらさぞ素晴らしかっただろうに。
あわれ、今後も使われる場面は女性に謝罪するときしかないのだ。
ほんとに、朝から後輩2人になに欲情しかけてるんだろうか自分は。
ちなみにだが、うちの学校は飛び級が認められているので、講座によっては2年離れた学生が1つの教室にいるということもある。
つまり、決して自分は無能なのではない、風真が優秀すぎるんだ。
誰に対してか分からぬ言い訳を並べ、ノートや筆記用具をしまう。
「もう行くでござるか?」
風真の問いかけに肯定の意を返す。
起きてからバタバタしすぎたせいで疲れているし、眠気もどこか残っている。
「空き教室か食堂でちょっと寝てくるよ。風真はこの後も講義?」
「本当にお寝坊さんでござるな、そでござる。この教室のままだし、ここに居るとするでござるよ」
そっか、と返し、荷物をまとめているとふと気づく。
「なあ風真、もしかしてだけど香水変えた?」
「んぇ?」
まるで想定外、といった反応を返された。
なんとなくであるが、前までと漂ってきた香りが違った気がした。
ただ、それだけ。
「…そうでござる。前に一緒にお買い物に行った時に、これ好きかも、と言ってたのを、ちょっと」
「ええ!?」
確かに、そんなことを言った記憶はある。
だがその時、風真はそれを買わなかったはずだ。
わざわざ後から買ったということであれば、全て自腹というわけだ。
好みを言っただけで香水を変えさせた申し訳なさもあるので、カバンから財布を取り出そうとするとその手を掴まれる。
「何しようとしてるでござるか?」
「何って、お代を払おうと…」
「いらない」
「いらないって…」
「これは風真が趣味嗜好で買ったものでござる。そんなものに後からお金を貰うなんてできないでござるよ」
「いや、そうは言ってもだな…」
「ああ、もう!」
変なところで強情なんだから、と若干イラつきの篭もった言葉をぶつけられる。
また怒らせてしまったのかと、オロオロしている自分を前にピッと真っ直ぐ指差し。
「名前」
「へ?」
「風真のこと、名前で呼ぶでござる。そしたら、遅刻のことも許すし、お代もいただいたってことにするでござる」
「それ、は…そんなことで?」
「できないなら、さっき風真のことをえっちな目で見てたことを皆に言いふらすで―「わかった、分かったから!」―なら、もうすぐ講義も始まるし、早くするでござる」
そんな急に言われても、なんと言えばいいか分からない。
名前だけ言えばいいのか?何か付け加えた方がいいのか?
正解はいくら考えても分からない、ので、思ったことを全部言うことにした。
「あー…その、今日約束破ってごめんな。席取っといてくれてさんきゅ。あと、また遊びに行こう、いろは」
「…!うん、また行こうでござる!」
そう返したいろはの顔は、今日一の満面の笑みであった。
――――――――――――――――――――――――――
食堂に行くと昼食の時間にはまだ程遠いからだろうか、利用している人はほとんどいない。
何も買わずに利用するのは少し罪悪感があるので、コーラを買って空調のよく当たるであろう席に座った。
ふとスマホを点けるとメッセージアプリの通知にて、シオンから弁当作るの忘れてたとのこと。
そもそもシオンが想定していた時間より早く出ていったのは自分なので、こればっかりはどうしようも無い。
久々に学食かぁと思いながら、先程の講義のノートを取り出し各ページをタブレットにパシャリ。
会ったらどうせノート見せてと言ってくるのだろうと、とある人物を思い浮かべての行動である。
やることが終わったので、冷えたコーラを1口。
机の上で腕を組み、そこに突っ伏す。
起きるのは…30分後ぐらいでいいかなぁ…
『ゆっくり、1時間眠ってもいいのよ?』
そうかなぁ…じゃあ…あ…と…
『――――て―い―』
なんだ?
『そう―――な―で――し』
なにか聞こえる、誰の声だろう。
『じゃ――し――して』
どんどん声が近くなっている気が…
「か〜ぷっ」
「うぉっ!?」
耳に人肌ぐらいの温かく、ちょっと湿った感触。
寝ぼけていた自分を覚醒させるにはオーバーキルな一撃であった。
「可愛い反応ご馳走様!もっとかぷかぷしていい?」
「あら、おはよう。よく眠れたかしら?」
ぼやけていた視界を占めるのは2人の金色。
1人は自分の耳を甘噛みした犯人の夜空メル。
イタズラが成功したことがよほど嬉しいのだろう、隣の席からキラキラした目でこちらを見てくる。
もう1人は正面にいる癒月ちょこ。
その豊満なものを机に乗せ、尻尾を揺らしながらニヤニヤと見つめてくる。
「斬新な起こし方ありがとう。いつからいた?」
「メルはついさっき来た!」
「ちょこは1時間前からね」
1時間前?
スマホで時間を確認すると、寝始めてから大体1時間が経過していた。
つまり、この女はずっと自分の前に…?
いや、寝る前に聞こえてきた声…もしかしてそれも癒月さんからの――
「どうかした?まだ眠たいの?」
「へぇ〜、眠たいなら仕方ないよね」
下から覗き込んでくる悪魔に手をワキワキとさせてにじり寄ってくるヴァンパイア。
今どきB級映画でも見ることの無い絵面であろう。
って待て待て、また耳を噛む気か。
「もう眠くないよ、だからいい加減落ち着いてくれないかな、夜空さん」
「ちぇー」
「まあメル様、そう言わずに。彼もルイ様に運ばれて大変だったのだろうから」
「あ、やっぱり見られてたのね」
空に鳥よりも大きい影があったら目がいくのは自然ではあるが、飛んでいるのは男を抱き上げた女という不自然もいいところな光景だ。
目立ちに目立ったことだろう、大変不本意だ。
「ええ、伸びきった鼻の下までバッチリと」
「え?」
「そうだねぇ。ルイちゃんに運ばれてた時の顔はデロデロだったね〜」
え、あの時そんな顔してたのか?
それルイさんに至近距離で見られてたとか色々まずくない?
そんなの沙花叉にバレたら1ヶ月は擦られるネタなんだけど。
しかし、2人の顔はどこか含みのある笑みであり、その事からカマをかけただけだと言うことがわかった。
「…卑怯だぞ」
「いやー、君もちゃんと男の子なんだなって分かってメルは嬉しいよ」
ほんのり赤らんだ顔で夜空さんは告げる。
年頃の男を弄んで何が楽しいんだ、ちくしょうめ!
「あ、そうそう。今日の夜ちょこの家に来ない?」
「え、なに?またパシリ?」
「違うわよ!頼んだの1回だけなのに根に持たないで!」
「ええ、ちょこ先生そんなことを…」
「メル様まで悪ノリに乗らないで」
癒月さんは月一でルイさんと一緒に料理教室の様なものをやっている。
以前も声をかけられ、遂にこの時がと期待したのも束の間、買い忘れた食材を持ってきて欲しいという件であった。
この時の失望感は今も忘れていない。
そのことを癒月さんに言った時、「え、料理も一緒にしたかったの!?」なんて返されて流石に泣きそうだった。
料理上手のルイさんと癒月さんと一緒に料理したくない人なんてこの世に存在するのだろうか。
「あの時はショックだったなぁ…まあ、大空さんたちが作ったお子様ランチは美味しかったけども」
「ごめんなさい…まさか料理までしたいとは思っていなかったの。でも今日は料理からよ!ルイ様は来れないけど、代わりにメル様が来るし、ちょこと一緒に泊まり込んで頑張りましょ?」
「え、泊まり?」
何か不穏な言葉が聞こえたのだが。
「そうそう。メルたちと一緒に夜ご飯と朝ご飯作り頑張ろ?」
2人は随分と乗り気なようだ。
だがしかし、絶好の機会とはいえ異性の家に泊まりに行くのは…
「ちなみにだけど今日あくあはシオンの家に、ラプ様はルイ様の家に泊まりに行くから家に帰ったとしても1人ね」
「うっ…1人か」
以前ラプラスと大喧嘩して、ラプラスが家出をしたことがある。
喧嘩の原因は忘れてしまった、多分ラプラスが部屋を片付けないとか、そんなくだらない事だと思う。
最初の2日は清々していたが、3日目でどこか静かな我が家に寂しさを感じ、4日目にてラプラスを引き取っていたルイさんの家に訪れて頭を下げた。
あの時の自分は気が立っており、あくあもあまり話しかけてくれなかった。
静かで孤独な一日は、自由の対価にいつもの楽しさを奪った。
今日は別に喧嘩別れという訳では無いが、一人でいるとふとこの日々を思い出してしまうため、家に帰るのにあまり気が乗らない。
「それに、異性の家に〜って言うのなら、普段のキミの家には何人の女の子がいるんだって話だし」
「おっしゃる通りです」
朝に3人、夜にはあくあやラプラスが誘って来た場合は5、6人なんてことにもなる。
ふむ、よくよく考えなくても結構おかしな状況だ。
それに…
「夜空さんって…料理出来ないんじゃ…」
「えー、この前のやつ写真送ったじゃん!美味しそうだったでしょ!?」
ポテトチップスにアセロラジュースとケチャップその他もろもろ突っ込んで混ぜたやつが美味しそうと?
なるほど、夜空さんの味覚は逝った。
恨めしい視線を向けると、癒月さんはウィンクして舌を出した。
「今回こそはちょこのレシピ通りに作ってもらうわ。それに、あなたが横でちゃんと作っていればメル様も間違えないわよ」
「うーん…」
それならまあ、横で殺人兵器を作られることはないのかな。
不安は解消されないが、癒月さんがいるなら大丈夫だと思いたい。
それに、今までシオンに朝ご飯を作ったことがないし、弁当までほぼ毎日作ってもらっている。
ここらで1つ、恩返しのために料理の腕を上げておきたい。
「じゃあ行くよ。でも着替え持って来るために家に1回帰るね」
「服ならちょこのを貸すわよ?」
「…シャツとか下着類が無いでしょ、言わせないでよ」
「ダメだよちょこ先生、あんまり彼をいじめちゃ」
そう言いながら肩に頭のせてくる夜空さんは何なんですかね?
さっきからあなたも十分自分を煽っている気がするんだが。
早速不安になったけど、大丈夫なのだろうか。
「あ、お酒用意してるから、夜ご飯食べ終わったら晩酌ね?」
「わーい、楽しみ〜!」
「…えっ聞いてない」
――――――――――――――――――――――――――
あの後、昼ご飯を一緒に食べた。
食べたいものが特に決まっていなかったので癒月さんたちと同じものを食べると言ったら、その瞬間に癒月さんが券売機を操作、知覚できぬ速度で奢られた。
もちろんお金を払おうとしたが鉄の意志で断られ、結局無理だった。
随分前に男運でボヤいていたが、そういう性格がヒモを作ってしまうのだと気づく日は来るのであろうか。
彼女たちはこの後講義が無いそうでそのまま食堂でゆっくりするのだそう。
残念ながら自分にはまだ講義が残っているので別れを告げ、目的地へ向かった。
少し早く着いたので、中に人は全然いなかった、が――
「あーっ!今朝鷹嶺ルイに攫われてた人だー!」
―とある人物の悪魔的所業でその全ての注目を浴びてしまった。
その視線に込められた感情はいかがなものか。
嫉妬だろうか、憐憫だろうか。
もし前者であるのなら、是非経験して見てほしい。
お姫様抱っこに憧れる少年少女は、あれが支えが少なくてどれだけ不安になるかを知らないと思う。
いや、やめよう。
ルイさんが別の人を自分と同じように運んでいる姿はあまり想像したくない。
考えるだけで謎のモヤモヤを感じた。
親しい女友達が男と結ばれそうな時に感じるアレだ。
それはさておき、こんなことを考える原因になった悪魔をとっちめよう。
ニヤついている彼女の元へ向かい、その隣の席に座る。
なんだかんだ言って、席を取っておいてくれてる所マジ天使。
「随分な言い草じゃあないですかね?常闇」
「えー、だって事実やん。トワ何も嘘ついてませーん」
そう言って自称悪魔、本質は天使である常闇トワはケラケラと笑う。
彼女はイタズラ好きで、本人曰く悪魔らしいことをしているようだが、程度は子供が思いつくそれでまあ可愛らしい。
今のコレだって、やっていることは小学生男児と何ら変わらない。
それどころか、普段の気遣いやら面倒見のいい性格やらで天使と呼ばれる始末だ。
きっと常闇が悪魔と呼ばれることは金輪際ないだろう。
「なんかお前失礼すぎん?」
「失礼なのは常闇だろ、勝手に人の思考読みやがって」
「はぁぁ!?読まれやすいそっちが悪いんですー!」
「だとしても口にするなよ、プライバシーを守ってくれや」
「うるせえ」
いつも通りの口喧嘩が展開される。
初めてこの教室でやった時は周りもギョッとしながら見つめていたが、今はもう慣れたようで無反応だ。
この口論もお互い本気じゃないのは分かっている。
何となく、そう、何となく常闇相手には遠慮する必要がないと思っているからこそだ。
多分、常闇の方もそう考えているだろう。
「相変わらずだなートワ様。もう少し優しく言ってあげられないの?『トワは君のことが好きすぎて分かっちゃうの♡』ってさ」
「んな事言ってねえだろ獅白ぼたん!ぶっ飛ばすよ!?」
会話に乱入してきたのは百獣の王、ライオンの獣人である獅白ぼたん。
一応獅白の方が後輩のはずだが、完全に常闇を手玉にとって遊んでいる。
「あ、先輩。こんにちは」
「こんにちは、獅白。常闇と違って素直でいいな」
「おおおい!何トワのことをディスってんねん」
「いぇーい、トワ様の負け〜」
「…もうツッコミ入れるの疲れた」
常闇のことをおもちゃにできてご満悦な獅白は自分の左隣の席に座った。
常闇が右で、獅白が左。
これも、いつもどおり。
「ほら、そろそろ教授いらっしゃるぞ。常闇は静かにしろよ」
「なんでトワだけなん!?」
「今うるさいのトワ様だけだよ」
「〜~~~っ!」
うーん、常闇で遊ぶのは楽しいね。
常闇は薄く涙が浮かんだ目でこちらを睨むが何も怖くない。
天使にイタズラは2万年早いのだ。
その2、3分後に教授がやって来て、雑談無しで本題に突入した。
この講義もまあ難解で、教科書を開いても何を言ってるのかさっぱりだ。
飛び級してこの講義についていけている獅白がどれほど凄いかよく分かる。
油断していると机とお友達になるようなレベルだが、その度に常闇が肩を叩いたり、頬を突いたりして起こしてくれる。
そういうところ
「ん?」
だが、今日は違うらしい。
左膝や脛にもふもふを感じる。
ちらりと視線を動かすと、白い毛並みの細いものがわさわさと蠢いている。
少し顔を上げると、意地の悪い笑顔と目が合った。
『息を荒らげるとトワ様にバレますよ』なんてメモをチラつかせながら、その尾の動きは止まらない。
もふもふ、もふもふ。
こそばゆいが、耐えることが出来る絶妙なラインで攻められる。
いっそ手で追い払おうかと思ったが、『尻尾って意外と敏感なんですよ』などとついでのように書かれており、反抗すれば獅白が何するか分からない。
思わず身動ぎしてしまうが、我慢、我慢…
「大丈夫?さっきから揺れてるけど」
流石常闇、視界に入るエラーが心配で声をかけてくれた。
慈愛に溢れたその行動は、しかしながら今回は自分の首を絞めることにしかなってない。
「ああ。ちょっと…手が届かないところがかゆくて、な」
「…そう。大変だね」
目から少し光が出ていったように見えたのは気のせいか?
目線を前に移し、左がギリギリ視界に入るようにすると、あちゃーっと言わんばかりの顔がチラリ。
どういうことだろうか…っ!?
「どうかした?」
「…何も」
「だよね」
平然とした顔で常闇はそう返したが、机の下は大変なことになっていた。
バシンバシンと両足に何かが当たる感じがする。
そう、足元で尻尾による縄張り争いが起きていた。
自分の太ももを遮蔽物とし、互いを突き、絡め、叩く。
尻尾ってこんなに細かく動かせるんだなーっと現実逃避をしながらノートを取る。
正直足元の大乱闘は眺めていたいが、この講義をサボると落単の可能性が急激に高まるので諦める。
それにしても…
「…」
「…」
2人とも無言でやりやってるのはちょっとマジっぽいからやめてほしい。
「ねぇ〜もう何してんの獅白!」
講義が終わった時の常闇の開口1番に飛び出たセリフは当然であって。
ようやく解放された自分は、疲労感からノートに突っ伏した。
「何って、先輩で遊んでただけじゃん」
「講義中だったんだわ!真面目に受けろよ」
「ノートはちゃんと取ってありますよー」
ほらーと言ってピラピラした音が聞こえてきた。
獅白が常闇に見せているのだろう、疲れすぎて顔上げたくないから分からんが。
「そういうことじゃなくて、コイツ疲れ果てとるやん。妨害するのは良くないだろ」
「いやー、先輩ならいい反応してくれるかなーって」
「動機やばすぎだろ」
アハハと笑うゲライオン。
まあこれぐらいの戯れなら別にいいけども。
「お前もなんか言っとけよ。このままだと獅白付け上がるぞ」
肩を叩かれながら常闇にそう言われたが、悪く思っている訳では無いし…
獅白は分からないところを訊くと教えてくれるから、この程度のイタズラなら怒る必要もないだろう。
「講義中にやったのは良くないけども、それ言うなら常闇もダメじゃね?」
「うっ」
「確かに、トワ様さいてー」
「うっさいわ!」
何故常闇は獅白と戦い始めたのだろうか。
そちらの方が気になる。
止めさせたいならメモなり言葉なり方法は色々あったはずだが。
「あー、もういいもういい。この話は終わり!」
「始めたのトワ様じゃん」
「もうやめてやれ獅白。これ以上常闇をいじると泣くぞ」
「そうやってトワのこと考えている事実に泣きそうだわ」
ため息をついて、常闇は荷物をまとめたバックを背負った。
次も移動だし、自分も早く行かないとな。
「んじゃ、自分はもう行くわ。常闇、席取っておいてくれてありがとうな。またな、獅白」
「最後にそれ言うのズルいだろ…」
「じゃーねー、先輩。また今度FPSやりましょ?」
常闇と獅白に見送られながら、次の教室へ向かう。
ピロンと通知音。
漫画アプリからだろうか、確認するとショートメッセージの受信だった。
『先輩、可愛かったですよ』
その一言を添えた、悶えてる時の自分の写真。
何と可愛げのない後輩だろうか、先輩相手にこんな態度をとって、舐めているのか?
いくらそう考えても、口元が緩むのは止まらなくて。
誤魔化すようにメッセージを送った。
「からかうな、か。相変わらず引っかかってくれないなぁ」
横で獅白がボヤいているが、何を言っていたかはイマイチ聞き取れなかった。
そんな余裕もない、という方が正しい。
――また、何も伝えられたかった。
彼が好きだという気持ちも、一緒にお出かけしたいという誘いも。
口から出るのは、いつも挑発ばっかり。
マジで頭小学生かよ。
「そろそろさぁ、トワ様も素直になった方がいいんじゃない?」
「…うるせえ」
あー、ムカつくムカつくムカつく!
なんでトワがあんなやつに心を掻き乱されなきゃいけないんだ。
「わざわざ尻尾で張り合っちゃってさ。バレバレだよ?」
あいつは気付いてなかったみたいだけど、やっばり獅白には分かっちゃったか。
でも、今はその感情の名前を聞きたくもないのであてもなく歩き始める。
「そんなに怒んなよー、トワ様。ちょっとじゃれただけじゃん」
獅白の距離感が羨ましい。
おちょくって、勉強教え合えて、素直にもなれる。
そんな関係がトワにも欲しい。
「早く素直になんないと、あたしが盗っちゃうよ?」
「ハッ、言ってろ」
あいつの心を奪うのは、この常闇トワ様しかいない。
その事をいつか、今目の前にいる親友にも教えてやろう。
決意を込めた1歩目は、なんだか軽かった。
過去最長でお送り致しました。
普段なら3話にくらいに分ける文量ですが、そうすると最初の方で色々書き足して更に文字数が増えるという…
いつかはホロメンを1人か2人に絞ってこれぐらいの文字数で書きたいです。
次は本編を更新する予定です。
麺屋ぼたんにするか…焼肉にするか…
お待ちしていただけたら幸いです。
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