予告と違うもので1話完結だけど許して
疲れた。
あの人たち、容赦がない。
――テロ組織の完全な駆逐から1ヶ月経った。
生活の面では復興が完了し、以前のような生活が送れている。
これも魔法のおかげだ。
最低限の形さえ残っていたら修繕の魔法で直せることが多く、また現場工事についても物の運搬に魔法が使われかなり早く進んでいった。
次に軍事面。
こちらは壮絶であった。
ゲリラで活動され、被害も甚大。
相手には実力者も多く死傷者の数は想像以上だった。
また、連日の爆発や銃声によって心を壊した方もいらっしゃる。
戦いの才能を磨き上げるにはかなりの時間がかかる。
こちらは完全復活には程遠いと言える。
ただ、それだけの犠牲を払って得た平和は一時のものだとしても素晴らしいことに変わりはない。
今この時に、失ったものや傷を直視して、前に進まねばならない。
また、あんなことにならないように。
とはいえ、流石に最近の仕事量は許容範囲を超え気味だ。
テロ以来、どの組織も本格的にナノマシンの研究、もしくは対策を練り始めた。
それは宝鐘海賊団や白銀聖騎士団も例に漏れず、毎日どちらかに向かっては戦い、戦い、戦いだ。
その後は戦闘ログの確認とデスクワーク、正直しんどい。
いくら自分しか液体金属を使う者がいないと言っても、中々の酷使ぶりだと思う。
その分給金は多いのだが、貯金通帳が満たされるかわりに心から何かがこぼれ落ちていく感じがする。
癒しが必要だ、これ以上ない極上のものが。
――――――――――――――――――――――――――
鍵を差し込み、ロックを開けてドアノブを握る。
魔法で開けられないように色々細工したので、おとなしく鍵を使うしかないのだ。
「ただいまー」
そんないつも通りの言葉に、いつも通りの声が帰ってくる。
「おかえりー、お風呂はもうすぐだよ」
靴を脱ぎながら礼を言い、自分の部屋に入る。
自分がいつ帰ってくるかなど分からないはずなのに、いつもこうなのだ。
本人に何かルーツでもあるのかと聞いたら、なんとなく、と言われた。
これだけ聞くとまるで完全に心を通い合わせているような感じがするが、実際は向こうからの一方的なものだ。
こちらもできる限りの事はしているつもりだがどうしても1枚上手を取られる。
いわゆる、できた嫁というやつだ、悔しい。
風呂から出て部屋着に着替えると食卓には2人分の食事が。
自分が食いしん坊と言う訳では無い、ならば…
「帰ってくるの遅い時もあるんだから先に食べててもいいのに」
「余が待ちたくて待ってるんだからいいの。それに、ご飯作るタイミングといつも噛み合うし」
「それも、なんとなくってやつか?」
なんて訊くと、頬を綻ばせて、うん、と頷く彼女。
そんなに嬉しいことなのか、と思いはするが陰りのないその笑顔を見せられては何も言えない。
それに、一緒に食事ができるのは自分にとっても嬉しいのだ。
皿が食器棚に仕舞われていく音が響く。
後片付けは自分がやった。
疲れているといっても流石に何もしないのは心が痛む。
それに、そんなのは自分勝手な言い訳に過ぎない。
疲労のベクトルが違うだけで、彼女も大変なのだ。
「おー。皿洗いご苦労!でも余がやらなくてよかったのか?」
「そこまで働かせるにはいかないよ…っと」
最後の皿を仕舞う。
「そう言ってる割には動きに疲れが出てるぞ?」
「男の子の強がりは見て見ぬふりをするもんじゃないの?」
「以前、余を庇ってぶっ倒れた人が言ってもな〜」
それを言われると弱い。
あの後2日間痛みに苦しんだのでもう勘弁だ。
「ふっふっふっ…頑張ってくれたご褒美はちゃんとあげないとな」
なんて言って彼女は床に座り、そこで止まる。
そして時が止まった。
「…えっと、何をしてるの?」
「え、分からないのか?」
「いや、説明も無しに座られても…」
「…あっ」
焦りを手足にのせてあたふたし始めた。
デイリーポン達成、おめでとうございます。
すると、耳に朱を残したまま彼女は自分の太ももを軽く叩いた。
「んんっ!……おいで?膝枕してあげる」
「おお…」
恥ずかしそうな顔で耳まで赤いのは凄いグッとくる。
当社比1500%のかわ余成分に溢れていることを確認。
これは、まさに極上と呼ぶにふさわしいだろう。
「ちょ…早くしてくれないか?これ以上はこの空気に耐えられない…」
最後の方は小声で何言ってるか聞こえなかったが、遠慮しないでという感じだろう。
本人も早くと言っているし、早速だが堪能させてもらおう。
ではでは―――
「ふぇ!?ちょ、ちょっと!何してるんだ余!」
「ふぁにって、ひざまくあ」
「その状態で喋るなぁ!くすぐったいだろうが!」
「りふじん」
用意された枕に、顔から突っ込んだ。
優しい闇と柔らかな温かさに包まれて、至福だ。
深く息を吸って更なるかわ余を摂取する。
「ふぁっ…に、匂いを嗅ぐんじゃない…ほっぺをスリスリするな、人間様のすけべ!」
「もんくがおおい…っと、ふぅ」
体を半回転し、顔を合わせる。
まだまだ味わいたかったが、これ以上は怒られそうなのでやめる。
自分の頭を撫でながら、しかし目を合わせずに呟き始める。
「まったく…何時からこんなにすけべになっちゃったんだ…」
「そりゃ、こんなに可愛い嫁さんがいたら我慢できないでしょ。最高級の可愛さを携えた方が悪い」
「ばか」
そう思うならその手を止めればいいのに。
撫でている動きを止めずに文句を言う様は、やっぱり可愛い。
「あんまり言うと、今度からもうしない余?」
「ごめんなさい」
流石に調子に乗りすぎたらしい。
「なあ、人間様は余のこと好きか?」
「なんだ、藪から棒に?」
「何それ?まあいいや。とにかく質問に答えてくれ」
「答えてくれって…そんなの、見れば分かるだろ?」
「もーそうじゃないの!ちゃんと言葉として聞きたいの!」
「ええ…なら、そっちは言えるの?」
「え?人間様のことか?大好きだぞ!」
おい即答すんな。
尚更答えなきゃいけなくなるだろうが。
「おう、そうか…」
「毎日頑張って色んな仕事してるとことか、家事をよく手伝ってくれたりするとことか、あとは…」
「もういい、いいから!」
聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ!
しかしどうしたものか、ここまでされても中々勇気が出ない。
「なぁ、人間様…余のこと、好き?これからも愛してくれる?」
先程よりも弱々しく、不安げな声音の問い。
きっと、今まで表にしなかっただけでその内に色んなものを溜め込んでいたのだろう。
そんな思いをさせてしまった責任は、俺がとらないといけない。
起き上がり、彼女と向かい合う。
耳を引き裂くような静寂。
打ち破る勇気は、やっぱり持てなくて。
でも、目の前にある赤い瞳を、その揺らぎを裏切ることもできない。
言うべき言葉が、喉のすぐそこまで来ている。
あとは、伝えるだけだ。
彼女の肩に手を置き、後頭部に手を添える。
やっぱり俺は、言葉で伝えるのは無理らしい。
なら、手法を変えよう。
ゆっくりと、ゆっくりと近づく。
目を閉じ、その後の感触にこの熱を全て伝えられるよう触覚に意識を集中する。
そして――
この世でたった1人の、愛する妻である百鬼あやめとキスをした。
何とか年内に投稿できたので失踪します。
次は3月になります。
筆者めのリアルの都合でごさいます、ご容赦ください。
今使ってる機種/拙作が読みやすいか
-
パソコン/読みやすい
-
パソコン/読みにくい
-
スマホ/読みやすい
-
スマホ/読みにくい