ホロのまったり日常   作:maximum

2 / 31
ボツが3つもできたので初投稿です。

オーバーロードIVも15巻も16巻も最高でした。
きっと5年後の自分があれぐらい格好いい文章を書く力を手に入れるでしょう。


今回のお話ですが、かなり使い古されたネタです。
他の方の作品に負けないよう頑張ります。
それと、アンチ・ヘイトにご注意ください。


☆Like or hate?or…①

ドッキリ。

それはテレビや動画作成サイトで度々行われる娯楽である。

反応がオーバーすぎるとか、ヤラセだとかで苦手な人もそこそこいるが、自分は楽しむ側の派閥に身を置いている。

ドッキリは終わった後、関係に罅が入らないようにせねばならないし、その中身も人を悪意あって貶めたり、故意に傷つけないようにしなければならない。

それでいて斬新なアイデアが求められるので、手の込んだ企画をする方は本当に凄いと思う。

先日、自称メイドのあくあと共にテレビを見ていてそう思ったのと同時に、とある欲求が湧き上がった。

 

 

―――自分もやってみたい。

 

 

とはいえ、見たものと同じようなクオリティは出来ないし、簡単なものにするつもりだ。

あくあや風―いろはやときのさん――アイドルに仕掛けられるのかは不明だが――はいい反応してくれそうだし、想像するだけでワクワクしてきた。

 

 

 

「というわけなんですよ尾丸後輩よ」

 

 

『そこでポルカに振るんですかぁ…』

 

 

あの時からずっと燻っている思いを吐露した相手は、自分の可愛い後輩である尾丸ポルカだ。

ピエロの格好をしていたり、髪の毛が高速回転していたりする彼女の頭はまるでおもちゃ箱かのように、奇抜な発想が詰まっている。

意外と常識人であるし、彼女ならグレーゾーンのものを思いついてくれるだろうというある種の信頼があった。

 

 

『先輩に頼られるのはすげえ嬉しいんすけど、なんか複雑…』

 

 

「こういう企画において尾丸の右に出る者はいないと思ってな。いつも斬新なアイデアを提案してくれるし」

 

 

『って言っても即興じゃ凝った企画モノとか無理ですよ。お金もかかっちゃうし、協力者とか許可とか色々面倒ですから』

 

 

「あ、そこまでのは求めてないし大丈夫」

 

 

『はぁぁぁぁ!?』

 

 

鼓膜を穿つ絶叫をあげる携帯を遠ざける。

相変わらず情緒がジェットコースターしてる、あまり眠れていないのだろうか。

 

 

『いや、ポルカの情緒ガタガタにしてる人先輩なんですわ。てか、それなら誰でも良かったんじゃ?』

 

 

「まあそうかもだけどさ。自分の頭にポルカの顔が我先にって飛び出してきたもんだから、つい」

 

 

『それは信頼されてるってことなんですかね…』

 

 

その点については間違いない。

"企画力"と言えるものが彼女に宿っているのは何度も目にしてきた。

それに、何かあっても尾丸なら何とかしてくれるだろう。

何故か頭に、おそらくmaybe、などという単語が浮かんだが自分は頭痛が痛くないし、そんな発言侍など知らないので振り払う。

 

 

『んー、テンプレなとこ攻めるなら…あっ』

 

 

何処か陽気で邪悪な声が現実に意識を引っ張る。

 

 

 

『先輩、人を褒め殺すことってできますか?』

 

 

「褒め殺す?」

 

 

頭によぎったのはいろはをいろはと呼ぶようになった時。

いろはのことを褒めた訳ではないが、彼女に感謝の意を伝えるのはどこか恥ずかしかったし、褒めるにしてもきっと、同じ末路を辿るといふもおろかなり。

 

 

『時代逆行しないでもろて。とりあえず思いついたのは人を褒めるってことっすね。適当な用事を一緒に済ませて、そん時に口説くって感じで』

 

 

 

「ハードル高くないか?」

 

 

対面でその行動はもはやナンパである。

 

 

 

『別に顔を合わせる必要は無いんですよ。通話しながらゲームしてその終わり際に、とかでも。最初は電話からやっていきましょ』

 

 

 

何故だろうか、尾丸の熱意が自分のを上回っているように感じる。

 

 

 

『あっ、なら好きだって言って精神攻撃を仕掛けるのもアリ、か…』

 

 

「なしだわ!そんなことしたら気持ち悪がられるだろうが」

 

 

尾丸の提案は恐らくだが、自分の好感度を売りにしたスタイルという方針の下組まれている。

確かに、友達から褒められることに何か裏があると感じることはあるかもしれないが、それでも悪い気はしないだろう。

だが、好きという言葉をかけるのは話が変わってくる。

女同士の仲ならそういった言葉が飛び交うのも日常なのかもしれないが、男としての生を与えられた自分は違う。

同性の友人ですらそんな言葉をかけるのは躊躇われるし、異性相手なんて以ての外だ。

好感度が足りない人にそんな言葉をかければ忌避される、だけならまだマシだ。

最悪の場合根も葉もしっかり生えた噂として今後の生活が揺らいでしまう。

自分が友人だと思っている人物たちは皆、優しい。

だが、愛と憎悪は表裏一体、あっさりと反転する。

そんなことになってしまえば───

 

 

『先輩はここらで自分の好感度を自覚すべきですよ』

 

 

「は?」

 

 

『先輩は無自覚な行動が多々見られますからね〜、これを機会にその身で味わってもらわないと』

 

 

 

「いや、ちょっと待て、話を──」

 

 

 

『そうだ!彼女が出来たとか、本当は嫌いだったとかもあるじゃん。バリエーション豊かにドッキリ出来ますよ!』

 

 

 

「だから、まずは自分のはな──」

 

 

 

『と!い!う!わ!け!で!先輩には今からポルカを褒めてけなして褒めちぎってもらいまーす!』

 

 

 

「ねえ、言葉通じてる?」

 

 

 

『ちゃんと聞いた上で無視してたので大丈夫っすよ!ポルカも乗りかかった船だし、なんか面白そうなんでノリノリになってきました!』

 

 

 

「人選ミスった。今すぐかえ─」

 

 

 

『今更逃がしませんよ先輩。さあ、地獄へ踏み出しましょう!』

 

 

 

破滅へのカウントダウン、その針の音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

可愛い後輩が悪魔に変貌してから約2時間。

自分が褒めるもけなすも好くも嫌うもできるようになるまでかかった時間だ。

というか尾丸の演技が凄すぎる。

褒めれば揺れる尻尾を幻視する程の声音で、嫌えば空気が鉛のように重く錯覚する程の荒れ具合を見せた。

その感情の上げ下げは、ジェットコースターという名に偽りなしと思わせたが…まさか、あれが素なのか?

まあ、それは後で考えれば良い。

とりあえずは誰に仕掛けるかだ。

尾丸から仕掛けて欲しい人は何人か聞いているが、最初は自分が決めた人にやりたい。

彼女ネタのときは尾丸の名前を使う以上、尾丸が満足してくれるような結果を収穫しなければ。

さあ、命をかけて始めよう。

 

 

 

 

 

 

【好き:雪花ラミィの場合】

 

 

 

「んふふ」

 

 

自身のスマホに保存されているお気に入りの写真集を眺めると、思わず笑みがこぼれてしまう。

いけないいけない、こんな顔は彼には見せられない。

デロデロに蕩けた表情を虚像の彼に見せながら、本物の彼を思う。

フォルダには講義中に眠ってしまった彼や、誕生日を祝われて赤くなっている彼、協力ゲームを一緒に攻略してまるで子供みたいに喜ぶ彼がいる。

もちろん、一瞬を切り取られた彼の姿はあるだけ欲しい。

でも、足りない、短い。

一生隣にいる権利(花嫁)ぐらいがちょうどいい。

欲を言えば、輪廻から解脱するまで彼と転生して共にいたい。

純粋で、ちょっぴり強欲な衝動はいつまでも顔の筋肉を引っ張りあげんばかりであった。

そんなラミィに喝を入れたのは、やはり彼であった。

 

 

「うひゃあッ!」

 

 

『今時間ある?』という彼からの通知に反応したのは脊髄か右手か。

知覚と返信に一切のラグがないその姿は、誰が見ても満点を与えただろう。

真っ暗なパソコンの画面を鏡代わりに前髪を手櫛で梳き、通話ボタンをタップ。

 

 

『おっ、いつも早いな。もしもーし』

 

 

「もしもし、あなたの恋人で花嫁で妻な雪花ラミィでーす。今日もラミィからの愛が欲しくなっちゃった?」

 

 

『どれも役職間違ってるからしっかりしてくれ。あとなんだ「も」って。自分は1度も強請ったことなんてないぞ』

 

 

「またまた〜、何だかんだ言って喜んでるくせに〜」

 

 

『まあ…そうだな』

 

 

「ぅえ?」

 

 

いつものじゃない。

想定外の反応にたじろぐ。

え、デレた?まさか、まさか彼がついにデレた!?

 

 

 

『ラミィは可愛いからな、顔も声も性格も、全部。そんな娘に好き好き言って貰えてなんにも思わないわけないよ』

 

 

「えっ。えっえっ、まって、待って!」

 

 

『遊びに行く度に違う服装だから、オシャレに気を使ってるんだなーとか、飲み屋で自分が潰れないように気を配ってんだなーとかさ』

 

 

「ちょっ、ストップ!ストォップ!!」

 

 

彼の甘美な言葉が骨の髄まで溶け込んでいくようだ。

表情筋は言葉を発するので精一杯、脳内では先程の言葉が幾千万も繰り返され、なおも足らないのか全会一致で彼の言葉を促すことが議決される。

 

 

 

『自分の好きな物とか細かいところまで覚えててくれてるし、話面白いし、ちゃんとツッコミしてくれるし、話してて飽きが一生来ないまである』

 

 

 

「あっ…あ、アッ…」

 

 

ダメだ、もう意味のある言葉を発することが出来ない。

体の中で暴れる幸せはどこか表現できる場所へと逃げようとするが、反応できるほどの力が残された組織はどこにもなく、鳴き声と言っても遜色無いそれを上げることのみであった。

 

 

 

『自分が作ったご飯食べた時だって、どこをこだわったのかとかしっかり言い当てるし、作りがいがあるってもんだ──』

 

 

(ま、まだ続くの…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──だし、その時の顔も…って、ラミィ?おーい』

 

 

「らっ、らみぃおよめしゃんになりましゅぅ…」

 

 

『こりゃだめだ』

 

 

脳を侵す音は、実に30分続いた。

聴く麻薬を過剰摂取したラミィの姿は、「メス」という言葉では足りないほどの女としての本能が漏れ出ている。

その顔は熟れたトマトのように赤く、手足は糸を無くしたパペットのように投げ出されており、完全にでき上がっていた。

そんな彼女を、絶頂から蹴落とす言葉がやってくる。

 

 

『ラミィ?これ尾丸から頼まれたドッキリなんだけど、聞こえてる?』

 

 

 

「ぇ?」

 

 

体が急激に冷えていく。

ドッキリ。どっきり。ドッキリ。

つまるところ、嘘だ。

 

 

 

「嘘、だったんだね」

 

 

『え?おい、ラミ──』

 

 

「全部、全部嘘だったんだね。ラミィのこと可愛いって言ってくれたのも、お嫁さんにしたいって言ったの─『それは言ってない』─ほら!?嘘ついてたんだね!?毎日服変えて君に会ってたのも、一緒にお酒飲んでた時に酔い潰れないようにしてたのも、意識してやってたから…気づいてもらえたんだって、そう思えて嬉しかった。君の好きな物を覚えてたのだって、君と同じ物を好きになりたかったから、好きを共有したかったから…お喋りも、当たりが強いラミィにどこまでも着いてきてくれて、この人とはずっと一緒にやっていけるって、そう思えるくらいに相性が良いって思ってた…おもってだ…のにィッ」

 

 

幸福の天辺から転落する時に鳴る音は、嗚咽と後悔のようだ。

勘違いを指摘されたことにより、勘違いの加速は止まらなくなった。

どんどん事実を曲解していくラミィは溢れる涙を乱暴に拭う。

ビデオ通話じゃなくて良かった、こんな姿は見せられない。

例え彼がラミィのことを好いていないとしても、好きな男の前で惨めな姿は晒したくないのだ。

 

 

『あー、ラミィ?ちょっと色々誤解してるから1回冷静になって聞いて?』

 

 

呆れた声音がスピーカーから響く。

最も、ラミィの耳には意味ある言葉としては聞こえなかった。

ああ、彼はもうラミィに興味を失ったんだ。

一緒にお酒を飲むことも、どこかへお出かけすることも、もうできないんだ。

 

 

 

『褒め殺した時の反応を見ようとしたのは事実だけど、その内容もちゃんと事実だよ』

 

 

そんな失意に呑まれていたラミィを引き上げたのは、やはり彼の言葉であった。

 

 

「う、えっ!?ねえ、それって…」

 

 

『まあラミィは思い込みが激しかったり、めっちゃグイグイ来たりするからその辺は何とかして欲しいとは思ってるけども…可愛いって思ってるのも、今日、その、褒めたことも…じ、事実です』

 

 

あれだけラミィのことをスラスラ褒めてたのに、ネタばらしの時に恥ずかしがるとは一体どんな感性をしているのだろうか。

純情な乙女心を弄んで、ムチとアメを与えて、調教師にでもなったつもり?

そんな事しなくても、雪花ラミィはとっくに君しか見てないのに。

 

 

『そういう訳だから、じゃ!』

 

 

「あっ…切れちゃった」

 

 

勝ち逃げされたように感じたが、なかなかどうして悪い気分ではない。

それはラミィの性分がMだからなのか、彼に飴玉をぶち込まれたからなのか。

前者だろうが、後者だろうが、ラミィがこうなった責任はきっちりと取ってもらわねばならない。

だが今は余韻に浸っていたいし、やることもある。

まずは音声録音がしっかり出来ていたかの確認。

その後、入ってしまったラミィの声を取り除く、携帯に保存する、バックアップをとる──

 

 

(あと、ポルカは〆る)

 

 

 

 

 

 

 

【嫌い:風真いろはの場合】

 

 

 

風真と一緒に運動したいだなんて、珍しいこともあるものだ。

それが、彼からの連絡を見た感想であった。

彼は筋肉質という訳では無いが、太っているのでもない。

たまにテニスを一緒にやるが、嗜む程度に運動しているといった感じの動きであった。

ダイエット…ではなさそうだし、何かやりたいことでもできたのだろうか。

理由はなんであれ、彼と時間を共有できることは嬉しい。

しかも風真の得意分野で、だ。

ちょっとぐらい全力を出して彼に良い所を見せても、バチは当たらないだろう。

待ち合わせ場所にて、浮つく体を鎮めるため5度目の手足の柔軟体操をしていると、彼がやってきた。

 

 

「お待たせ〜、やる気満々だね」

 

 

「え、ああ…そんなに待ってないから大丈夫だ、でござる」

 

 

やる気はもちろんあるが、主目的は気分を落ち着けることであったので気の抜けた返事をしてしまった。

その元凶は目の前で首を傾げているのだからタチが悪い。

以前のルイ姉の件や香水の件然り、鈍すぎではないだろうか。

とはいえ、その鈍さを失ったら彼は即座に誰かに盗られる気がする。

押しに弱そう、それもかなり。

 

 

「なんか失礼なこと考えてね?」

 

 

「えぇ!?あ〜いや…フー」

 

 

余計なところで勘が冴えてる彼に鳴らない口笛を開く。

こういう所によって香水に気づいたと思うと強く言うことができない。

彼らしいと言えばそうなのだが、なんだかなぁ、と思わずにはいられない。

 

 

(これじゃあ、風真のやる気が空回りしたみたいで嫌だなぁ…)

 

 

第三者から見たら十分そう見えるだろうが、ここは2人きりだし、今日この後も誰にも会うつもりはない。

日時は道順や状況を知ってる人に任せた方がいい、と彼に委ねられ、この事にほくそ笑んだ。

人に会わない時刻、場所、日課で知り得たことを応用すれば人を避けて行動することぐらい容易だ。

方向音痴な風真だが、覚える能力は人並みにある。

 

 

(だから、少しぐらい誘っても…いいよね)

 

 

 

運動しやすいからという建前で装備したのは白の半袖シャツ、それとショートパンツ。

休日に纏う和服と比べると肌色の面積が少しだけだが大きい。

が、目的はそうじゃない。

手に取ったTシャツは生地がうすい──つまり、透けやすいのだ。

運動し、汗をかけばどんどんとその内にあるものを晒してしまうだろう。

流石に黒の下着を付けることは無理だった──あまりにもはっきりと透けるのでそれでは品がない──ので、同じ白のものを着たが、想像以上に恥ずかしい。

彼が女性に興味を抱いているというのは、しっかりとこの身に浴びる視線で理解している。

他の男──友人を除いた女も──に視姦されるなど言語道断。

この髪も、顔も、目も、体も、心も…風真いろはの全ては彼の物であり、その肢体を観賞することは少なくともこの時は、彼一人であってほしい。

そんなピュアな乙女心が導くままに行動し、脳はその意見を採択した。

しかし羞恥心は1人声を上げ続けている。

はしたない女に思われるぞ、それ以上は痴女と勘違いされてしまう…そんな意見が風真を決定打まで持ち込ませない。

そんな葛藤を知らない能天気な声の主は問うてきた。

 

 

「そういや今日は風真の日課に付き合うってことだったけどさ、何するかまだ聞いてなかったね」

 

 

 

「あー、えっと───でござるよ」

 

 

 

「は?え…え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ちょっと、ごめん、1回、休憩、させて…」

 

 

 

彼が音を上げたのは、それから1時間後のことだった。

風真の日課を伝えた時の表情は、それはそれは愉悦に足る──もとい、未来をネタバレされたあの日の少年と同じであった。

被害者と加害者が一致する少年とは違い、風真が彼を墜としたが、そのことについての罪悪感は多少なりともあった。

だからこそ加減をし、彼のペースに合わせていたのだが、まあ彼が褒める褒める。

走ってる姿がかっこいいだの、体力がたくさんあって凄いだの、そんな言葉たちは風真のリミッターを少しずつ解除し、ペースは完全に風真主軸のものへシフトした。

結果はこれだ。

彼は完全に力尽き、膝と腕をついて肩で息をしている。

いわゆるやっちまったってやつだ。

どんな言葉をかければよいか分からないが、何か言わなければならない…そんな義務感は足を出し、カチリとスイッチを踏んだ。

 

 

 

「えっと、その…大丈夫でござるか?」

 

 

「どう見ても…大丈夫、ではないだろ」

 

 

「…ごめん」

 

 

さっきより低くなった声音は、彼の心情を伝えるには十分であった。

まずい…怒らせてしまった。

一緒にいた友達が急に自分を置いていったら、誰だって文句を言いたくなる。

そこに疲労のスパイスを加えれば、怒りも膨れていくだろう。

そんなことぐらいわかる、分かってる。

でも、今まで彼に冷たくされたことなんてなかった。

こんな風に怒らせてしまったこともない。

どうすれば、どうすればいいんだ…

何も言えない、してやれない風真を見て立ち上がった彼は言う。

 

 

「いろは…本当にさ、そういうところどうかと思うよ」

 

 

「…え?」

 

 

「自分は、いろはのことを凄いと思ってるよ。勉強熱心だし、運動もできるし、家事もできて歌も上手い。能がない自分のことにも気を使ってくれるしさ、話しかけてくれる…本当に、いいやつだよ」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔でつらつらと述べられる。

待って、待ってくれ。

 

 

「でもさ…いろは、お前は自分と住む世界が違う。そのことについての自覚があまりにも足りてないように思えるよ。天才に凡人が勝てないことぐらい分かってる、それでも背中を見ていたいから努力してるんだよ。それなのに、いろはは──」

 

 

「ぁ…ぃや、ちがぁ…」

 

 

違う、違うのだ。

決して君を傷つけるつもりではなかった。

言葉は出ない、嗚咽ばかりで、違う、違うと反芻してしまう。

 

 

「──うん、お前は…自分みたいな凡人と一緒にいるのは合わないよ。沙花叉とか、あやめとか、ノエルとか…才ある人達とずっといた方がいいよ」

 

 

そうじゃない、それではダメなんだ。

風真いろはの隣には、何よりあなたが必要なんだ。

涙が止まらない。

両手で拭って、嗚咽を殺して、彼の言葉を聞くので精一杯だ。

彼の顔なんて見れなかった、見たくなかった。

 

 

「なあ、いろは」

 

 

「や、やめっ…てぇ」

 

 

彼が次に何を言うか、容易に想像がつく。

聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない。

 

 

「自分さ、風真いろはのそういうところ…嫌いだわ」

 

 

音を立てて崩れる。

何がだろうか、心?自信?彼との繋がり?

多分、全部。

何もかもを捧げてもいいと思える人に、嫌いだと突っぱねられた。

それは風真の一部に過ぎない、しかし、その一部は捧げられる風真のものだ。

供物はより完璧に近いものが最適に決まっているだろう。

一部でも否定された、不良品なんて捨てられる。

捨てられる?捨てられて、しまう、のか?

 

 

「だから…うおっ!?」

 

 

気がつけば彼の胸元を両手で掴み、壁へと彼を押し付けていた。

視界は滲んで彼の顔もはっきりと見えないし、きっと見るに堪えない面をしている。

それでもせめて、言いたいことを全部言ってから拒絶されたい。

遅すぎる決意が体にみなぎった。

 

 

「風真は…け、決して…きみのことを、きず、つけるつもりじゃながったの…一緒に居れて、うれしくて…それぇ、で」

 

 

「うっ…く、苦しい…いろは、まず話を─」

 

 

「ふたりきりでいっ、たくて…色々、かんがえでぇ…きみが、少しでも楽しんでほしいって…そう、おもって…」

 

 

「わかった、分かったからまずこっちの話を─」

 

 

「でも、でもッ!…風真、きみの気持ちも考えずにぃ、ひとりっよがりになっぢゃって…ごめん、ごめんなさい…謝っ、謝るから…捨てないでぇ…風真と、一緒にいてよぉ!」

 

 

 

「さっきの全部嘘だ!だから手を離してくれ…へぶっ!」

 

 

何だ…彼はなんと言った?

思わず力が抜けてしまい、その手から彼を離してしまった。

 

 

「うそ、嘘だよ!自分がいろはに劣等感抱いてるのも、いろはのことが嫌いなのも全部嘘だ!」

 

 

「なっ…じゃあ、なんでぇ…あんな、ことを」

 

 

「尾丸に頼まれて、嫌いって言った時の反応を教えろって言われたんだよ…いろはを選んだのは自分だけどさ。そもそも、いろはについていけなかったぐらいで嫌うわけないよ」

 

 

嘘、そうか、嘘か。

なんて、なんてサイテーな嘘だ。

そんな、踏み絵みたいなことをするなんて。

理性は駄々をこねていても体は正直なようで、嗚咽も涙もその言葉で収まってきた。

 

 

「…サイテー、ほんとに、サイテーの嘘でござる」

 

 

「…ごめん」

 

 

「風真が言われた時どんなにショックだったか、分かる?」

 

 

「測ることすら烏滸がましいです」

 

 

「ほんとに…本当に最っ低…」

 

 

ああ…本当に…

何で風真は、こんな人を好きになったのか。

何でまだ、好きが止まらないんだ。

 

 

「さっきの言葉、嘘なんだよね?」

 

 

「…えっと、いろはを褒めた所は本音で、あとは全部、嘘、です」

 

 

こんな時にも余計なことを言うなんて、生意気な口だ。

これじゃ、素直に怒ることが出来ないじゃないか。

 

 

「風真のこと、嫌いじゃないんだよね?」

 

 

「微塵もそんなこと思っておりません」

 

 

「これからもずっと、隣にいてくれるんだよね?」

 

 

「いろはが嫌わない限り、こっちから頼らせてもらうよ」

 

 

言質は取ったぞ。

口の中で呟く。

 

 

「じゃあ…褒めてくれたことは事実だし、許してあげる」

 

 

その言葉に彼は喜色満面となる。

まだ続きがあるのに。

 

 

「えっ、本当か!?「でも」…え?」

 

 

彼の左肩に右手を置き、顔をそっと近づける。

 

 

「次は、もうないでござるよ?」

 

 

彼の耳元にそう囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼と別れ、帰路につきながら物思いにふける。

許してしまったあたり、風真は甘いのだろうか。

一瞬そう思ったが、実際は違うだろう。

あの時、形は最悪だが彼の本音が聞けた、ずっと一緒にいると言質を取れた…そういった要素が積み重なった結果だろう。

嫌いという言葉だけであったら、多分家まで持って帰っていた。

まあ、次やろうものなら返答がどうであれそうするが。

とはいえ、家に閉じ込めてしまっても何だかんだ甘やかすのだろうなと思ってしまうほどに、彼に惚れている。

ああ…欲しいなぁ。

ピロン♪と通知、なんだろうか。

 

 

『それと、さっきの格好、ちょっと無防備すぎるぞ。ちゃんと相手を選んでしてくれ』

 

 

送信主は彼。

相変わらず鈍ちんな発言だ。

 

 

(君以外見せることのない、君だけの風真いろはの姿でござるよ)

 

 

それは心にしまった、伝えるべき言葉であった。

 




今回はここまで。

声が低くなったのは、疲れていたから。
あのタイミングで怒ったのは、なかなか機会が見つけられずここしかないと思ったから。
顔をしかめていたのは、彼女を傷つけることに罪悪感があったから。
言われてみれば…ってなっても、その時に気づけなかったら意味が無いですよね。

一人一人にシチュエーション用意するの大変なので次からは唐突に言われたシーン集見たくなるかもです。
というか嘘でもホロメン罵倒するのはしんどいし、誤解を生まないような書き方にするのも大変なので「嫌い」の一言で済ませてしまうかも。

続く…かな?

今使ってる機種/拙作が読みやすいか

  • パソコン/読みやすい
  • パソコン/読みにくい
  • スマホ/読みやすい
  • スマホ/読みにくい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。