ホロのまったり日常   作:maximum

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お久しぶりです、もう1年受験生していました。
予てからの第1志望受かったので、投稿ペースを上げていきたいです。
とりまリハビリ作。
あとBLACK SUNとシン仮面ライダー格好いい。


《番外編》甘い雪

 

 

「な゛ぁ゛ん゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!」

 

 

 口から濁った──友人たちからは某ネコの声のようだと言われる──叫びを走らせてしまったが、これは仕方ないと思う。

 

 

「なんでって、ラミィがそんなところでジャンプなんてするからだろ。着地狩りなんて常套手段じゃないか」

 

 

 彼が正論をぶつけてくるが、いかんせん8連敗もしているので認めたくないのだ。パズル、アクション、RPG──様々なジャンルのゲームで競ったが、1度も勝てていない。

 これで彼が搦手を用いていたのならまだ言い訳ができたものを、純粋な操作技術の差によって全て白旗まで導かれたので、この雪花ラミィはおかんむりなのだ。

 

 

「さあ、約束だ。自分が勝ったんだし、いい加減そこからどいてもらうぞ」

 

 

「やだやだ! もうひと勝負、次! 次負けたら退くからぁ!」

 

 

「そう言ってもう何回目だよ……」

 

 

 彼の家にて、現在家主はソファに足を大きく広げて座っており、ラミィはその間に腰をかけている。絶対に嫌だと主張する彼に駄々をこねにこね、ゲームに負けたら退くと言ってしまったのだ。

 背中に感じる温もりとラミィの前に通された腕に慣れるまで2戦、知能戦でボコボコにされること3戦、アクションにて玩具にされること3戦。実に一方的な試合であった。

 仕方ない、この手だけは使いたくなかったが手段を選んでいられない。

 

 

「えっと……じゃあ次、これ! これで勝負!」

 

 

 ラミィが手に取ったのは赤い帽子を被った髭のおじさんが車に乗っているパッケージ。このおじさんが思ったより若かったことで驚いたのが懐かしい。

 

 

「分かった分かった。2人でレースすればいいのね。じゃあ──」

 

 

「ううん、違う。タイムアタックで良いスコアを出した方の勝ち」

 

 

 それを聞いて彼は訝しげであったが、それも当然である。このお髭のレースゲームにはアイテム制度があり、最下位になろうとも1発逆転が狙えるパーティーゲームに相応しい作り込みがされているのだ。

 今のラミィの発言はそのチャンスを投げ捨てることに等しい。これまでの戦績を省みるに、ゲームにおける技術はジャンルが違おうとも彼に軍杯が上がる。勝ちを狙う姿勢には見えないだろう。

 

 ──だが、それでいい。

 

 

「いいよ、じゃあステージはラミィが選んで?」

 

 

 嫌々と言いながらラミィに対しての優しさを止めないあたり、すごくグッとくる。こう、口がもにょもにょしてしまうような、そんな感じ。

 ステージは横に壁がなく道が長い、難しいとされる部類のものを選んだ。一応ラミィも練習はしたが、彼に勝てるかと言われたら無理の一言である。それでも良いスコアを出そうと、気合い代わりに持ち込んだ箱から琥珀糖を1つ取り出し、食べた。

 

 

「それ美味しそうだな。1つ貰ってもいい?」

 

 

 振り返ると物欲しそうな彼の目があった。あげたい気持ちは山々なのだが、今ではない。

 

 

「いいよ、でもラミィの番が終わるまで待ってて」

 

 

 1つ深呼吸し、前のめりになって準備万端。であったのだが、結果はやはり大したことない。ルートから落下するなどタイムアタックに有るまじき失敗を重ねてしまった。自分から勝負を仕掛けたくせにこの成績はないんじゃないかとラミィも思える程だが、今回に関してはノーカンだ。

 

 

「……じゃあ、次は自分の番だな」

 

 

 微妙に感じたと隠しきれない声音だが、言い返せないし狙い通りではあるので見過ごした。ステージ、キャラ、車体をラミィとまったく同じものにした彼が、いざと挑む前に声をかける。

 不思議そうな顔をしているだろう彼の元から立ち上がり、振り返って彼の両膝に手をそれぞれ置く。そのままピッタリくっつけさせた後、そこに跨って腰を下ろした。

 

 

「お、おい、それは……」

 

 

「ほー、顔赤くしてどうした? もしかしてこの可愛い可愛いラミィちゃんに魅了されちゃってる?」

 

 

 口を開けては閉じ、を繰り返す彼は視線もおぼつかない。こちらに目を合わせた、と思いきやラミィの腕へ、胸へ、太ももへ、そして床へと移る移る。

 彼の家に行って真っ先にシャワーを借り部屋着姿に着替えた今のラミィは肌色の面積が大きく、彼にとって目に毒であるのは間違いない。こんな服装で彼の前にいるのは乙女の沽券に関わるが、どこまでも奥手である彼を食べるにはやりすぎぐらいが丁度いい。

 

 

(チラチラと見るくせに、線引きはしっかりとするんだから)

 

 

「ぐっ……いや、画面見えにくいからそこ退いてくれん?」

 

 

「やだ」

 

 

 正当な言い訳を見つけたと言わんばかりの表情をしていたが感情論にて叩き潰す。先程とは違い彼の太ももに乗っている分、彼の視界を占める雪花ラミィ率は跳ね上がっていることは違いない。だが、それに対する言い分も、対処法も予め分かっていた。

 

 

「えっ、ちょちょちょっ! 何して──」

 

 

「こーら。暴れないの」

 

 

 腰を彼の体へピッタリ合わせ、その右肩に顎を乗せた。勿論身体も密着、互いの鼓動を肌で感じられるぐらいにぎゅっと。これなら彼はゲーム画面をはっきり見られるだろう。そして先程の箱から琥珀糖を右手で摘んだ。

 

 

「はい、あーん」

 

 

「ぇあ……その、えっと……」

 

 

 そのまま右耳に囁いて、生ASMRをしてやればあっという間にでろでろな彼が出来上がった。相変わらず吐息によわよわで雑魚雑魚なところがチョロい。好き、大好き。

 もう一度催促するとコマンド入力したみたいに素直に口を開いてくれたので、口腔へゆっくり琥珀糖を押し入れた。しかし指先に残っている僅かな砂糖までは食べてくれなかったので舐め取る。わざとらしくちゅっ、と水音まで響かせると、彼は口をもごもごさせながら手を近づけて、と思えば引いてを数度繰り返した。

 

 

「ほら、ゲーム始めなくていいの?」

 

 

 彼の首の後ろで腕を通して、彼の脳へ言葉を透す。そのまま首元に顔をうずめ、鼻先でこそぐようにグリグリ、グリグリ。幸せをもたらす温もりに触れて、幸せになる匂いを吸い込んで、彼はラミィの幸福の一部であることを再認識して、幸せになって、幸福を得て、至福を()けて──

 

 

「あ、やべ……」

 

 

 ──そして、祝福が下った。

 画面に表示されたタイムはラミィよりも大きい数字だった。焦燥を含んだ彼の声は福音であり、慶福。正当な権利を漸く勝ち取ったラミィは顔を上げて正面切って向き合う。しかし彼は即座に左を向いて首を仰け反らせたので、その左頬に手を添えた。

 

 

「ねえ、ちゃんとこっち向いてよ」

 

 

 形だけの抵抗であったのか少し力を加えただけで視線を交わせた。見上げている彼の姿は新鮮で、脳内フォルダに大量保存するまでの判断は長男なら見習うべき早さであった。そのまま腰をゆったりと揺すると、より鮮やかに赤く色付いた。左手で彼の右手の指を摘み、絡み、と感触を愉しむようにして最終通告を放つ。

 

 

「はしたないって思う?」

 

 

「……いや」

 

 

 沈黙と否定。彼からじんわりと伝わる熱は胸の奥を温めて、腹の中を滾らせる。膝からゆっくりと這ってくる彼の左手も、背中をなぞる彼の右手も、何もかもが愛おしい。

 箱に残っていた最後の琥珀糖を取り出し、人差し指と中指で挟んで1番綺麗に見える角度で保持する。

 

 

「最後の1個。どうしたい?」

 

 

「食べたい」

 

 

 即答。もう欲求に抗えないのだろう。ラミィも食べたい、食べられたい。全てを味わって、貪って、限りなく一つに近づきたい。

 

 

「はい、召し上がれ」

 

 

 手にしていた宝石を食み、目を閉じる。ラミィの腰と後頭部に添えられた手の温かさによってビートは止まらない。待ちきれぬ舌が僅かに解けた糖と唾液を攪拌し、甘さが増して口寂しさが加速する。

 待ち侘びた邂逅の時までは無限に引き伸ばされた数秒であった。残っていた結晶を押し込み、2匹の舌が舐り上げ、完全に溶けるまで──いや、溶けた後も重ねて締めてを繰り返していた。口を離して酸素を取り込み、できる限り早く相手の艶やかな唇に吸い付く。次第に水音に布切り音が加わり、横倒しになり、2つの境界線が溶け合った。

 

 

 甘く、甘やかに、雪のように。

 

 

 




最近は面白いホロ二次が豊作ですね。全部拝見しました。感想欄で見かけたら優しくしてください。
夏に思いついたケモ耳の話、好き嫌いの続きの話、朝起きてオチまで思いついたシャチの話。
多分次回はこのうちのどれかです。

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