ああ…どうして分からなかったのだろうか
「守る」と「救う」の違いが
どうして考えなかったのだろうか
戦えても癒せられないことに
そんな「中途半端」な態度が――――
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「んむぅ」
朝かぁ。
頭は全然回らないし、目も全然開かない。
起きたくないなぁと思っていると、想い人の匂いを感じた。
そりゃそうだ、一緒に寝てるんだもの。
なかなか広がらない視界でも、近くにいることだけはわかる。
ギュッと抱きしめ、顔を胸にうずめる。
(はぁ、幸せ…)
こうしてまったり過ごすのも乙というフサッ「ふにぁあ!?」
「なんだその声、猫かよ」
「狐じゃい!」
いきなり耳を触られて変な声を出してしまった。
「起きたのなら言ってくださいよぉ」
「悪い、目の前にある耳に我慢ができなくてな」
そう言い、ハイライトの無い目を白上に向けてくる。
あの時のような普通の会話…なのに、目に光は灯らない。
残念には思うが、そんな感情を見せる訳にはいかない。
「さ、朝ごはんもできた頃でしょうし、行きましょう!」
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今日の朝ごはんはあやめちゃんが作ったのだろう。
ご飯に関してはるしあちゃんとあくあちゃん、あやめちゃんがローテーションして作っているので、日付的にそうだ。
豊富な品数とよく考えられた栄養バランスが彼女の料理の特徴だ。
「美味しいな。こんな卵料理は初めてだ」
そう言って彼が食べているのはスフレオムレツだ。
卵黄と卵白を分け、卵白を泡立ててフワッフワな食感を作り出す。
卵もいいものを使っているからか、程よく濃厚だ。
かけられたトマトソースの酸味と旨味によってその味のボルテージは跳ね上がる。
(事実ではあるけど、ちょっと妬けるなぁ…)
白上の料理ではどうしてもあの3人には勝てないので分かってはいる、いるけど…
2人きりの時ぐらい、白上に集中してほしい。
そう思うのは、わがままなんだろうか。
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「なあ、フブキ」
「どうしました?」
今は朝食も食べ終わり、まったりと日向ぼっこをしている。
学校があった頃は、たまにこうして一緒に過ごしていたのだ。
「あの液体金属は今どこにあるんだ?」
「―ぇ」
まだ、あんなものに縋るのか?
あくあちゃんを守れず、自分自身すら守れないあんなものに……
「あれの所在が分からないんだ。あの複合テロ組織による騒動のとき、フォールンの奴らがずっと狙っていたのだから、新しい火種になる可能性がある」
だから秘蔵しているんだよ。
もうあなたに外に出て欲しくない、戦って欲しくない。
そう考えて封印してるのに…
「それに何より、調整をしておきたい。あれのコアに使っている旧大罪の心臓の様子をッ!?」
その言葉に、もう我慢ならなかった。
どうやら外の世界の痛みを忘れてしまったらしい。
「ねえ、どうしてそこまであれに触りたいの?もう外に出なくてもいいって何回も言っているのにどうして?何が不満なの?この生活に飽きちゃった?」
「待てフブキ、俺はッ!がッ!」
首を絞め、足元を弱火でゆっくり炙る。
「ガハッ!はぁ…はぁ…グッ!」
「私と2人きりなのに、あれの話題ばっかり。何がそんなにいいの?あくあちゃんを癒せなかったあれの、何が」
首から手を離し、彼が尻もちをついて呼吸を整えている間に再び絞める。
「ほんとはね、こんなことしたくないんだよ?白上だって怒るのはやだし、こんなこと続けたら、いつか嫌われちゃうかもって」
「カッ!ゲホゲホッ!…はぁ…はぁ…」
彼の瞳が恐怖に彩られる。
そう、その目だ、その目の時だけ――
ナイフを取り出し、彼の腕を浅く切り裂く。
「アァァァ!」
「でもでもでもでもっ!あなたがこうやって、あれの所在を聞いたり、外に対する要望を言ったりしちゃうと…何するか分かんないよ?」
溢れ出た赤を舐めとる。
彼を自身の一部にできたようで、高揚する。
「ねえ、ちゃんと見てて?私だけに集中して?私も、他のことを考えられないくらい夢中にするから、約束して?」
痛いでしょ?苦しいでしょ?
でも、お外はもっと辛いんだよ?
もう体験したでしょ?
彼は腕を抑えて、なかなか返事を返してくれない。
仕方ない、もっと痛く――「わ、分かった…やくそく、する」
弱々しい彼の声、でもしっかり聴こえた。
「わぁ、良かった!これでも分かってくれなかったら白上にどうしようかと思ってましたよ!」
「たのむ…早く術をといてくれ…」
「もっとこのままが良かったんですが…しょうがないですね〜」
幻術をとく。
すると、彼の腕の傷や足にあった火傷、首の痕が全部無くなった。
「安心してください。こんなことはそうそうしませんよ?でも、また同じことを言ったら――」
――次は、どこか無くなっちゃうかもね?
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夜になり、彼と別れたあと、今日一日を省みる。
ダメだなぁ、どうしてもいじめる時にやりすぎちゃう。
加減はしているつもりだけど、途中から興が乗って色々やりたいことがでてくるんだよなぁ。
彼はいつも、心ここにあらずといった態度で喪失感に塗れているが、ある1つの感情を持った時だけ、白上をはっきり見てくれる。
――それは、恐怖。
心をもつものなら知っている感情。
生にしがみつきたいなら、より濃密になる感情。
彼はこの時だけ、生殺与奪の権を握る白上に全神経を集中する。
そのことが、たまらなく快感で病みつきになる。
彼に与えた痛みも、彼が抱いた感情も、何もかもが白上によるものという事実が、これ以上ない興奮を誘う。
幻術によるものだから、多少派手にしてもいいということが最高だ。
(まったく、彼には困ったものですねぇ)
白上たちが、私が、脅威から隔絶して貴方を護るから。
だから―――
――あなたの全部、私にちょうだい?
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その違いに気付けない限り、彼の心は戻らない。
鳥籠のように護ろうとしても、徒労だ。
彼のアイデンティティたる液体金属の代わりになれる、何かがない限り――
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その夜。
煌めく緑の光によって、目が覚めた。
これは緊急事態のときのるしあの合図だ。
即座に武装し、るしあの元へ向かう。
「ノエル、面倒なことになったのです」
開口一番にるしあに言われた一言。
それは――
「マリンたちに気づかれたかもなのです」
――エデン崩壊への、第1歩であった。
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