ホロのまったり日常   作:maximum

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アイドルとお星様のお話。書きたいこと足していったら出すの遅くなりました。ごめんなさい。
一番くじ5回引いてビジュアルボード3枚、スタンド2つ。対あり。


Like or hate?or…②

【好き:ときのそらの場合】

 

 

「あー、冷たくてきもちい……来てくれてありがとう。さぞ忙しいだろうに……」

 

 

「いーのいーの! こういう時ぐらい遠慮しないで!」

 

 

 うーんうーんと顔を赤くして唸る彼を安心させるために微笑む。

 冷えピタを貼ってあげた応答は、一握りの苦しみが混ざった笑顔だった。

 

 

 

 それは、某日。

 ライブツアーも無事に成功し、まとまった休みの内に実家に帰省したり友人たちと顔を合わせたりした後であった。

 次の日は彼と遊ぶ予定の日であり、その時に着るつもりの服の組み合わせ確認を8回していたところに割り込んできたのは、彼からのメッセージだった。

 

 

 ───明日無理だ、ごめんね。

 

 

 電子の板切れを用いた4ヶ月もの決死の攻防の果てに、ようやく敬語では無くなった彼の言葉。

 本来なら嬉しいはずのそれは、真反対に感情を揺らす内容を孕んでやって来た。

 曰く、1日前に高熱で倒れ、同居人は2日後まで帰ってこない。

 曰く、まだふらつくので迷惑をかけてしまう。

 曰く、貴重な休みに合わせてもら──

 曰く、次の機会を───

 曰く──

 

 

 

 着替えの用意と財布、携帯を持ってそのまま彼の家へ向かった。

 久しぶりに会える機会を奪われて、はいそうですかと簡単に諦められない。

 辛かった時に相談に乗ってくれたり、一緒に考えてくれたりしたのに、いざ立場逆転したときに何もしないような礼儀知らずの女なんかになることはできない。

 最低限の家事ぐらいならできるし、手料理を披露する絶好の機会である。

 食材や薬、スポーツドリンクなどをいくらか購入し、彼の家に上がった。

 家の状態はどうなのか、寂しくなかったのか、ご飯はちゃんと食べていたのか。

 色々知りたいことがあった中、まず最初にしたことは──正座であった。

 

 

「自分が風邪にかかっていたらどうするのさ、うつっちゃうかもしれないんだよ?」

 

 

「で、でも……」

 

 

「でももだってもありません。あなたアイドルよ? ときのさんの体は自分1人だけの資本ではないんだよ?」

 

 

 正論である。

 これより30分程のお説教があったが、私の名誉の為に割愛する。

 時間に比例して彼が大きくなり、私がこじんまりとしていったとだけ言っておこう。

 心配して来たはずなのに当の本人に余計な労をかけてしまい、あまりにも申し訳なく思ってしまった。

 

 

「──まあ、そんなお茶目なところもときのさんらしいと言えばそうなんだけど……って」

 

 

「おっとっと、大丈夫!?」

 

 

 ふらつく彼を支えるが、その体は温かい──いや、熱い。

 やはり、まだまだ万全ではないようだ。

 彼をベッドに寝かせ、買ってきた冷えピタを貼った。

 そして現在に至る。

 

 

「あれだけお説教しても、結局世話になってるもんなぁ……情けない」

 

 

「今までたくさん支えてもらったし、そのお返しだよ。お説教はちょっと効いたけど……ゴホン。とにかく、しばらくゆっくり休んで? 溜まった家事はやっておくから」

 

 

 ありがとう、と蚊の鳴くような声で答えた彼はすぐに眠りについた。

 多分、生活サイクルの乱れによる高熱なのだろう。

 レポートやら用事やらが立て込んで、普段と違う時間に寝て、普段より多く疲労を溜めた。

 体が悲鳴をあげているのに無視を決め込んでいれば、いつか限界は来る。

 そのいつかが今日になったようだ。

 もっと早く休めば良かったのに、と遊べなくなったことに対するちょっぴりの不満と、ある種のお家デートとなったことに踊る心が胸の内にある。

 単純すぎるとは思うが、本当なのだから仕方ない。

 アイドルとして多忙な今、その忙しさは嬉しい悲鳴ではあるが彼や同級生などの同業者以外との繋がりが薄くなっているのはただの悲鳴である。

 同じ志を持つ仲間達も優しいし、もちろん好きだ。

 しかし、彼女たちの多くはどこか私を神聖視しており、一線を引いたような態度で接してくる。

 そういった状況では、程よく遠慮がない彼のような存在は一種のカンフル剤であった。

 

 

「んしょ。これで洗濯物は干し終わったし、次はご飯かな」

 

 

 アイドルである以上、必要以上に異性と関わることはスキャンダルに繋がってしまう。

 大事なファンの皆を執拗に騒ぎ立てることは避けたいし、彼の言うとおり私はまだ皆のものだ。

 彼に余計な迷惑をかけたくないし、直接会う機会は3ヶ月に1度ぐらいに減らしている。

 制限に制限をかけた中の、わずかな至福の時──そんなの、諦められない。

 

 

「ん、もうちょっと塩を……でも体調不良のときは──」

 

 

 多忙を極める生活の中、完全に自炊して生きていくという理想は潰えたが、いくつか得意料理を作るという妥協の域に至ることはできた。

 友人たちと料理の持ち寄りができるようになればいいな、と胸に抱いて今日まで頑張ってきたが、まさかこんな所で役立つとは思わなかった。

 独学の成果はお粥にキノコや卵、にんじんなどの具を入れ、とろとろに煮込むという形で現れたのだ。

 

 

「ふふっ。喜んでくれると、いいなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の一口ね、はい、あーん」

 

 

「あーむ……うん、おいしかった。ごちそうさま」

 

 

 先程よりも赤に染まった彼に餌付け……もとい食事の補助をした。

 高熱によるしんどさからなのか、そこまで考えられるほど余裕が無いのか、素直に従ってくれた。

 

(小動物みたい……ペット?)

 

 いけない、将来の旦那さんに良からぬ考えを抱いてしまった。

 空となった食器を下げ、台所でゴシゴシと洗う。

 いつもより力が入っているのは気のせい、気のせいのはず。

 

 

 全て洗い終えた時、何か硬いものを叩く音が周期的に鳴っていることに気づいた。

 おとなしく声をかけてくれればいいのに、水を注いだグラスを持って音源に近づく。

 

 

「欲しいのはこれでしょ?」

 

 

 林檎と遜色ないほど頬を染めた彼は力なく頷く。

 差し出したグラスを受け取り、両手で傾けてコクコクと飲んでいた。

 

 

「んっ……ふう、ありがとう。呼ぼうと思ったんだけど、声が全然出なくて……」

 

 

 少しかすれた声を響かせている彼は、壁に手をつけて立っていた。先程の音の正体、それは壁を支えに歩いたことだった。声が出せない、歩くことすら辛い……症状が全然軽くなっていないとは思わなかった。浅はかな考えを口にしなかったことに一種の安心感、浅はかな考えを抱いたことに粘つく罪悪感を覚え、彼からコップを受け取る。洗うのは後回しにして流し台に置き、彼の肩を支えた。

 

 

「大丈夫だよときのさん。部屋までなら一人で……」

 

 

「壁に身を寄せながら来られても説得力ないよ。これぐらいやらせて、ね?」

 

 

 意地を張っていた彼だが、私がその体にピッタリくっついて見上げると大人しく従ってくれた。ズルい手を使ったが、無理して欲しくないのは事実であるので申し訳ない。やはりと言うべきか、彼の足取りは覚束無くしっかり支えているのだが、彼の方が背が高いのでないよりマシ程度となってしまっている。

 

 

(これは、結構大変! かもッ……)

 

 

 身長差があるから仕方ないとはいえ、彼を支えるのに必要なエネルギーが多すぎる。気を抜くと直ぐに倒れてしまいそうで、何が大丈夫なのか今すぐ問い質したかった。

 ゆっくり、ゆっくりと彼の部屋の前まで進みドアを開ける。

 

 

「あと少しだよ──って、うわっ!?」

 

 

 彼の足に引っかかってしまい、姿勢を崩してしまった。ああ、これは頭からいっちゃうなぁなんて他人事のように考え、間もなく来る痛みに備える。

 

 

「いたっ……あれ?」

 

 

 痛覚はしっかりと床からの衝撃を伝えたが、想像よりも柔らかだった。後頭部から落ちたのでクラっとするぐらいの一撃が襲うと思ったのだが──

 

 

「あっ! 大丈……ぇ?」

 

 

 ──転ぶその瞬間に彼が頭に右手を回してくれていた。

 当の本人は私の顔のすぐ近くに手をつき、私にのしかかっていた。お腹の辺りが少々苦しいが、全身を駆け巡る熱はこの圧力のせいでは無い。どんな果実よりも赤く熟れた彼が、その顔が、すぐそこにある。高熱のせいだと分かっているのに、私を見つめたことで染まっていて欲しいと思うのは我儘だろうか。

 

 

「ときの……そらさん」

 

 

「ん!? は、はい!」

 

 

 蚊の鳴くような声で私のフルネームを呼ぶものだから、思わず格式ばって返事してしまった。一体何を──

 

 

「好き……大好き、です」

 

 

「……えぇ!?」

 

 

 好き、すき、スキ、大好き。

 その言葉を脳内で反芻している間に、熟れた赤い粒がじわじわ近づいていた。濡れた瞳に、艶やかな唇。視界いっぱいに彼の顔が映り、腹の奥が猛ってくる。

 

 

(こ、これは……もしかして……)

 

 

 目を閉じる。この後何が起きるか分かってるくせに、ただ受け入れて衝撃を待つんだ。少しでも冷静になりたいのに、何も見えなくなった方が鼓動を感じられて浮ついちゃう。手足を投げ出したまま、邂逅を待って、乞いて、そして──

 

 

「あれ?」

 

 

 ──ゴン、と響いた。

 恐る恐る目を開けば、真横には黒い物体、その反対には健康的な肌色の物体。そして私の胸がくにゅりと形を変えた感覚がある。息を吸う音が聞こえることから、彼は生きているだろう。ならば──

 

 

「─き、気絶!?」

 

 

 それはまずい。早くベッドまで運ばなければ。ジンジンと疼く情欲を無視して、体の姿勢を慎重に変え、彼を持ち運ぶ。

 

 

(重い……熱いっ! もう、何であんなところでおあずけなの!)

 

 

 この借りは高くつくぞ、覚悟しろ。

 それは口に出すことなく終わった、今後彼を悩ませる言葉であった。

 

 

 なお、彼にはこの未遂事件の記憶は残っていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【好き? :星街すいせいの場合】

 

 

「お先に失礼します。お疲れ様でした!」

 

 

 周りからの元気な返事を背に私は退室した。今回の収録は中々順調だ。納得がいかない所や不出来な所はまだまだあるが、解消へ向けて進んでいると自信を持って言える。

 軽い足取りで事務所から出て辺りを見渡すと、夜空が広がる光景の中に、愛くるしい──というか彼の使う物は全部愛くるしく感じるのだが──車を見つけた。迎えに来て欲しいと伝えたのだが、予定した時間よりも早く退出したというのに待っているとは恐れ入った。女の子の扱いに慣れてきたなと感心する反面、そうなったのは自分の影響だけでは無いことに少々不満を感じながらも小走りで車に近づく。助手席のドアを開けさっさと乗り込んで閉め、待ち侘びた青年との対面を噛み締めた。

 

 

「お迎えありがと! まだ時間じゃないのに」

 

 

「思ったより早く着いたからな。星街さんの迎えの時は信号の機嫌が良くなるらしい」

 

 

「信号の機嫌が良くても、路駐してたら警察の機嫌が悪くなるよ」

 

 

 私の言葉に少し顔を顰めた彼は、レバーを操作し出発した。この辺りはあまり警察がうろつかないとはいえ、毎回時間より早く来るものだから心配もしたくなる。まあ、あんなことを言ったのは素直に言わなかったことへの意趣返しなのだが。脳内に流れる新曲に合わせて鼻歌交じりに指で窓枠を軽く叩く。

 

 

「随分ご機嫌だな。収録は良い感じ?」

 

 

「そう! そうなの! あのね──」

 

 

 止まらない私の言葉に彼は頷き、時には催促し、時にはより深い部分への質問をするなど、私が気持ちよく喋られるように相槌を返してくれた。まだ外部に話してはいけないこともあるが、彼はそこを回避して話を振ってくれるので気兼ねなく語っていられる。表舞台に出ることで溜まる精神的苦痛もこの瞬間だけはいつも忘れられるから、いつまでも続いて欲しいと思う。思ってしまう。手放したくなくて、必死に頭を回していると1つアイデアが浮かんだ。

 

 

「ねえ、この後カラオケ行かない?」

 

 

「……えーと、ご自分のお名前をお忘れになりました? それとも知能がみこ……幼児レベルまで低下しちゃった?」

 

 

「そこまで言わなくてもいいじゃん!」

 

 

 そりゃ、普通のカラオケ店になんて行ったら直ぐにバレちゃうよ。でもちゃんと考えがあるから分かって欲しい。というか──

 

 

「今みこちの名前出した?」

 

 

「え? ああ、でもあそこまで言うのは酷いかなって」

 

 

 みこのことバカにしすぎだろ! なんて叫ぶ女が脳裏いっぱいに出しゃばってきたのでとりあえずぶっ飛ばした。この星街すいせいと2人きりの時に他の女の名前を出すとはいい度胸だ。しかも名前呼びだと? そんなの──

 

 

(──そんなの、私はまだされてない)

 

 

 ネット上の関係から始まり、共通の友達によって生で対面した。その友人はみこちだったのだから、関わった時間の長さ的に仕方ないだろうとは思うが、いつまでも『星街さん』呼ばわりであくたんやラプラス、いろはにシオンにルイちゃんなど下の名前で掛け合うライバルが多いのは気が滅入る。

 

 

「そろそろ着くよ」

 

 

 私の気持ちなど露知らず、彼は0時の鐘を鳴らした。その対応に少し腹が立ち前髪を弄ぶが彼が気づく様子もない。こういった仕草の真意を知らないというのは僥倖だ、まだまだ調教──もとい私色に塗りつぶせるのだから。そんなことを考えているうちに私の自宅の前に停車した。

 

 

「んじゃ、忘れ物が無いようにね。また迎え欲しかったら呼んで」

 

 

「それじゃあすいちゃんが君を都合の良い男扱いしてるみたいじゃん」

 

 

 彼はケラケラと笑った。何が可笑しいのだろう、そんな風に思われなくないのに。

 

 

「天下のアイドルたる星街すいせい様なのだから、もう少し人使いが荒くても許されるさ。少なくとも自分は──」

 

 

「ダメ。そんなの私が許さない」

 

 

 アイドルとして活動しその隙間時間に少しずつ、少しずつ育んだ関係を都合の良いだと? もっとこき使っても良いだと? 巫山戯んな。私が欲しいのは白馬でもなければ王子様でもない。今目の前にいる時限付きのシンデレラなんだよ。

 

 

「──ごめん、今の言葉は星街さんへの誠意を欠いてた」

 

 

 彼は苦虫を噛み潰したような顔で、怒りで震える瞳で私と向き合った。相変わらず彼は自罰的だ。先程の言葉は気に障ったが、今みたく自分を低く見積もるところはもっと腹が立つ。私を天下のアイドル呼ばわりしたんでしょ? そんな星街すいせい様から都合いい存在なんかじゃないって断言されたんでしょ? ならもっと自信持ってよ。好きな人をその本人に否定されることがどれだけ辛いか分かってよ。

 

 

「とりあえず、今日はもう帰りな。失言の詫びは次にするから」

 

 

 ハンドルを握ったまま、こちらを見もせずに言い放つ彼に我慢の限界に達してしまい、その手を握った。

 

 

「まだカラオケに行ってない。今から一緒に居てくれるなら手打ちにしてあげる」

 

 

「だから、自分が誰だか──」

 

 

「天下のアイドル様は自宅でも練習できるよう設備を整えてるんだよなー」

 

 

 成程、豆鉄砲を喰らった鳩はこんな顔をするのか。良い物が見られた。

 

 

「お家なら誰にも盗み聞きされないし、お金もかからないよ。あ、飲み物の種類は負けちゃうね。次は色々用意しておくから」

 

 

「いや、あの……星街さん」

 

 

「すいちゃんはここらが妥協点だと思うなぁ?」

 

 

 軽く指を曲げ、彼の脇腹に浅く沈める。そのままグリグリと動かしてやればその体は段々と強ばっていった。

 

 

「ちゃんと駐車スペースだってあるし、あくたんにも連絡したんだよね。二つ返事でOKしてくれたよ」

 

 

「あくあ……可哀想に」

 

 

「ねえ、いいでしょ?」

 

 

 少し低い声で念押しすると、不承不承ながらも頷いてくれた。車を停めた彼はトボトボと私に従い、リビングまで押し込まれていった。彼をソファに座らせ、出迎えのドリンクを用意しようと冷蔵庫へ向かう。

 

 

(前飲んでたのはこの銘柄のコーラだっけ? でも私の前でよく飲んでるのは別のだしなぁ……)

 

 

 結局自分の分のりんごジュースのパックと、以前私の前で彼が飲んでいた缶を取り出した。部屋に戻ると、彼が視線をあちこちへ投げつけながら縮こまっている。初めてライブの控え室に入った時も同じ仕草をしていた記憶があるし、緊張しているのだろうか。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

「ああ……ありがとう。よく自分の好きな物覚えてたね」

 

 

「あー、前飲んでたからそれが良いかなって」

 

 

 どうやら正解を選べたようだ。となると頻繁に飲む方をどう思っているのかが気になるが、彼の同居人の影が薄らと見えるので訊かないことにする。

 

 

「それでどうする? 今から歌うのか?」

 

 

 窓の外を眺めている彼につられて、私も外の様子を見てみると真っ黒の中に建物と星々が輝く景色が飛び込んだ。普通のお店の感覚で歌えば、知らぬ間に日付が変わっていることだろう。

 

 

「もち。あ、先にシャワーだけ浴びてからやる。ちゃんと最後まで付き合ってね」

 

 

「最後っていつ?」

 

 

「え? そりゃ朝までに決まってんじゃん」

 

 

 2発目の豆鉄砲が決まった。そろそろこの鳩は回避の仕方を学習すべきだと思う。何のためにあくたんに連絡したと思ったのだろうか。

 

 

「ちなみに拒否権は?」

 

 

「お酒飲むならいいよ」

 

 

「付き合います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お互いに一滴も酒を入れること無く歌ったり、喋ったりしていると気付かぬ間に朝日が昇っていた。一睡もしないことによる独特の高揚感が体に溜まっているが、目を擦っている彼はそうでは無いらしい。

 

 

「眠そうだけど大丈夫?」

 

 

「いや〜、眠すぎてハンドル握るのは危険そうだ」

 

 

 彼は欠伸を噛み殺しながらそう答えた。これでは横になっただけで眠り姫となってしまうだろう。という訳で、提案をしようじゃないか。

 

 

「じゃあさ、シャワー浴びなよ。気分もさっぱりするよ?」

 

 

「あー……うん。気持ちは嬉しいんだけど着替えがないし、そもそも異性の家の浴室借りるってのはなぁ……」

 

 

「でも、その状態だと最悪居眠り運転しちゃうかもよ?」

 

 

「そうなんだよ。うーん……」

 

 

 考え中です、とポーズで示すように彼は右手に頬を押し当て、膝に右肘を当てているが、もうこの状態で船を漕いでいる。寝させてあげてもいいんだけど、そうなると丸一日お風呂に入らないことになってしまうかもだし、ただでさえ自己肯定感の低い彼が私の家でそんなことやらかしたらもうこの家に来なくなるかもしれない。

 

 

「着替えならあくたんに持ってきてもらったよ。こうなるかもしれないって伝えたら用意してくれたし。眠気覚ましに入りな」

 

 

「じゃあ入るぅぅ……ありがと……」

 

 

 着替えがある、眠気がピークである、帰れない、ここまでの要素を並べて漸く彼は洗面所へ向かった。全く、ホイホイと異性の誘いに乗るくせに肝心なところでガードが固いのはどうなっているのだろうか。水音が聞こえ始めたあたりで彼の着替えを部屋に持っていくと、アクリル越しにボヤけた彼の姿が見えた。肌色とシャワーの流れる音の組み合わせはやはりいい。見て幸せ、聞いて幸せ。成程、ファンの変態発言も今なら少しだけ歩み寄れるだろう。

 

 

「着替え置いとくねー」

 

 

 返事を待たずに私は出た。ずっとあそこに居たら確実に友人のコヨーテよりもピンクになる。いや、いずれ恋人になるだろう人に欲情して何が悪いのかという話なのだが。悶々とした気分を抱えたまま、私たちに付き合った飲み物やグラスの後処理をしていると客人が湯浴みを終えたようだ。濡れた頭と服装だけ変わった彼が出てきた。

 

 

「ドライヤー貸すよ。こっち来て」

 

 

 彼の袖を──勿論握りたいのは彼の手だが、雰囲気に流されないとできない謎に高いプライドがある──つまんで、もう一度洗面所へ招き入れる。3枚ある備え付けの鏡は引き開きになっており、1番左に私が普段使うドライヤーが仕舞われていた。それを取り出し、プラグがコンセントに刺さっていることを確認してから椅子に彼を座らせる。まだ眠いのだろう、私に素直に従ってくれた。

 

 

(あくたんは毎日これを体験してるのかな、羨ましいなあ)

 

 

 ちらつく奥手なようでかなり強かな少女。それを吹き飛ばすようにドライヤーに電源を入れ、短く切り揃えられた彼の髪に指を差し込んだ。そのままスナップを活かして手を動かすと風と相まってどんどん水気が飛んでいく。私の手の動きに合わせて彼の頭が揺れている様はなかなか面白く、ずっと眺めていられそうだ。髪の毛がさらさらしてきたら冷風に切り替え全体にさっと風を当てる。

 

 

「はい、お終い。サッパリできた?」

 

 

「まだ眠い……」

 

 

 でしょうね。座ったまま寝てしまいそうな位に目が閉じられている。しかしその姿勢で眠るのは体への負荷が大きいので推奨できないし、眠ってしまった彼の体を私一人でベッドまで運べるかと訊かれると難しいだろう。ここで私に天啓が下った。

 

 

(待てよ。眠くて思考力の落ちてる今なら何でも言う事聞いてくれるんじゃないか)

 

 

 シャワー浴びなよと言えば従い、ドライヤー貸すよといえば着いて来た。おや、これはチャンスではないか。この瞬間において、彼は何でもしてくれる可能性が高い。私は片手にスマホを握りつつ、言葉を慎重に選んだ。

 

 

「仕方ないなぁ。俺はすいちゃんのことが好きって言ってくれたらベッド貸してあげる」

 

 

 私の言葉を聞いた彼は立ち上がって私と向き合った。薄らと開かれた目に星街すいせいはどれだけ写っているのだろう。

 

 

「んー? 俺は──」

 

 

 

 そうだ。それでいい。

 

 

 

「すいちゃんのことが──」

 

 

 

 いいぞ。あと少しだ。

 

 

 

「──大好きだよ」

 

 

 

「ぇえ?」

 

 

 

 一瞬だけ彼の目がぱっちりと開き、想像を超えた火力の言葉を喰らった。全身はまるで電気が伝ったように震え上がり、体温が急激に上昇したような感じがする。体の熱を整えるために息を吐き出す。

 目的は達成したし、彼の望みを叶えよう。スマホをポケットにしまった後再び目を閉じかけている彼の袖をつまみ、私が普段眠っているベッドまで連れて行く。両肩に手を沿わせ、ゆっくりと横たえさせると枕に頭が行くと同時に眠った。ふにゃりとした顔を晒すものだから、思わず彼の顎下を撫でてしまう。私の手が気持ちいいのか悩ましげに息を漏らし、こちらに首筋を晒してくる。

 

 

(うわぁ……えっろ)

 

 

 彼の同居人たちはこんなものを目の前にしてお預けを喰らっているのか。中々酷だなと少しばかり同情する。とはいえ、彼女たちが手を出していないから今、私がこの光景を味わうことが出来ている。というか、もう我慢できない。昂った情欲が眼前の肌色を貪れと叫んでいる。

 気がつけば彼の体に跨り、鼻先が彼の頬に触れそうなくらいに近づいていた。一睡もしていないことによる浮遊感が私を突き動かす。その唇を親指で弄び、至高の感触を記憶に刻みつける。手にあたる吐息が擽ったくて、手に伝わる熱が恋しくて、遂に顔をその首に突っ込んでしまった。うちに置いてあるボディソープを使ったからか、彼本来の匂いの中に私と同じ香りが混ざっている。彼の要素に私をねじ込めたことでかなり興奮を煽られた。はっきり言って、唆る。

 

 

(じゃあ、いただきます)

 

 

 少しだけ上体を起こし、彼の顔を仰向けにさせる。これから覚える感覚に全ての集中を捧げたくて、目をつぶった。そのまま、ゆっくり、ゆっくり……眠っているお姫様のヒーローになる瞬間に近づいて──

 

 

 

 

 prrrrr!! 

 

 

 

「ッ!? あ、あくたん?」

 

 

 刹那のうちに頭が冷え、理性が復帰した。ポケットに入っていた携帯が震え、起こさないようにすぐに取り出すと画面には『♡あくたん♡』と表示されていた。今は電話に出たくないが、この音で彼に目覚められては困る。音漏れしないようにワイヤレスイヤホンに接続してから通話ボタンをタップした。

 

 

「どーしたの、あくたん? そっちからかけてくるなんて珍しい」

 

 

「あっ、あの……ご主人帰ってくるの遅いから、何かあったのかなって……」

 

 

 彼は良いメイドを持っているようだ。純粋な忠誠心とは言えないが、それよりも強固な感情を持ち、主人を想う。まさしくつよつよメイドである。しかし、だ。

 

 

「ちゃんとすいちゃんの家にいるよ? 怪我も事故も無いし大丈夫」

 

 

「エッ……スイチャンノ……ほ、ほんとに何もしてない?」

 

 

 大事な大事な主人を狙う、わるーい女の元へ1人向かわせたという事が何を招くかはまだまだ理解が及んでいない。仕方ない、あくたんをいじめるのは気が引けるが、彼女の為だ。理解らせてやろう。あるものを彼女との個人チャットに送信してから問いに答えた。

 

 

「んー? なーんにもしてないよ。朝まで寝ずに遊んでただけだから」

 

 

「あ、朝まで!? ……えっ何これ。ねぇ、すいちゃん! ねぇ、ねぇ!」

 

 

 随分と取り乱しているなぁ。ただ私は彼からの愛の告白の録音を送っただけなのに。寝惚けていたせいでいつもより甘い声音になっていたから、冗談には聞こえなかったのかな。よしよし、ではトドメに入ろう。彼を起こさないように私も慎重に横になり、頭の位置を揃えた。喚いているイヤホンのうち右耳用の方を外し、服を1枚脱いで上半身だけ下着姿になる。そのまま右手でスマホを持って、パチリ。

 

 

「ねぇ! 何撮ってるの!? ちょっと、聞こえる!?」

 

 

 うん、よく撮れている。急いで服を着てイヤホンを付け直し、理解らせの最終段階に以降した。

 

 

「はい、あくたん。これで私たちが何してたか分かるでしょ?」

 

 

「えっ……じょ、冗談だよね? ここここれ、合成ってやつでしょ?」

 

 

 あくたんの声がどんどん震え、吃りも激しくなってきた。このままでは彼女を泣かせてしまうだろうし、理解らせはもう充分なのでそろそろ優しくする。

 

 

「冗談だよ、じょーだん。あくたんが思うようなことは何にもしてないし、さっきの録音もこの写真も彼は何も知らないよ」

 

 

「ぇ……あっ、良かった……そ、そうなんだね。余計なこと言ってごめんね」

 

 

 正確に言えば、彼女が電話をかけたから何もしていないのだが。これは言わぬが花というやつだ。だが──

 

 

「でもね、あくたん。すいちゃんも彼が欲しいの。いくらあくたんでもここは譲れない」

 

 

「すいちゃん、何言って──「だからね」──」

 

 

 宣戦布告はする。彼にとって、私は天下のアイドル様。ならば、彼にその全てを1番近くで見せてやろう。

 

 

「これから先は競走だよ」

 

 

 絶対に手に入れてやる。眠っている彼の頭を一撫でし、この感触が何時でも味わえるようになるための決意を固めた。




寝ぼけてる時の記憶って朧気だよね。

ルイ姉のことが好きなオリ主が鷹の女たらしっぷりを見て自分は守備範囲外だと勘違いして鷹の本命が自分であることに気づかず、シャチに愚痴聞いてもらっているうちにズブズブの関係になる…みたいなの書きたい。
1話完結ヤンデレも書きたい。
りっちしょこらと退廃的な生活するのも書きたい。
上で述べたもので読んでみたいのあったら教えてください。
あと私のゴールデンウィークは9連休ではないです。

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