輝く白銀
「今日の午後はにわか雨が降るかもしれませんので、折りたたみ傘を持っていくのが……」
朝、たまたまつけたテレビからそんな音声が流れてくる。
外は太陽が輝いているが、午後から雨が降るらしい。
何をどう見たらそうなるのかはわからないが、技術の革新とは凄いものだ。
そんなことを考えながら、朝食の準備をする。
といっても、前日に準備したコーンスープを温めなおして、トーストを焼いて終わり。
だがこれが美味いのだ。
ほんのりした塩味がコーンの甘みを引き出し、さらにあえて形を残したコーンの食感がアクセントになって最高だ。
トーストにつけながら食べても美味い。
食べ終わったあとは歯を磨き、荷物を確認して待つ。
天気予報を信じて折りたたみ傘もカバンに入れておいた。
ちょっと早かったかもしれない。
時計を見てそう思った。
まだ来ないだろうなあ、と思いながら、英単語帳を取り出そうとすると、インターホンが鳴る。
狙ったかのようなタイミングで来た彼女にクスッと笑い、急いでドアを開ける。
そこには―――
「こんまっする〜!」
―――白銀ノエルがいた。
「いつもより早く来ちゃったけど、もう準備できてたんだね」
そうノエルは言った。
ここ最近彼女は自分が準備したタイミングとほぼ必ず同時に訪問する。
いったいどんな手品だろうと思うが、ノエル曰く、なんとなく来たらそうなる、だそうだ。
「ああ、大丈夫だ、行こう」
「あれ?あの子は起こさなくていいの?」
同居n…居候のことだろう。もう3年にもなるのに、未だ自分より早く起きたことはない。
「問題ないよ、朝食も準備しておいたし、いつもならさっきのインターホンの音で起きるからね」
「うーん、なんか違う気がするなあ…まあ、いっか!」
さすがは
「そっちもフレアがいないけど?」
「フレアはねー、今日日直なんだって。だから早く行っちゃった」
「あー、なるほど」
ノエルを見たら必ず不知火フレアがいる。これはもはや常識だ。どちらかが欠ける時など、このような場合しかありえない。
今日はあの二人のてぇてぇが見られないのか、と少しだけ残念に思うが、ノエルと2人きりは久々だ。
こんな機会そうそうない、しっかり噛み締めよう。
「なんか百面相してるけどどうかした?」
「いやいや、なんでもないよ!行こう!」
――――――――――――――――――――――――――――――
白銀ノエルとは、小学生からの付き合いだ。
馴れ初めは自分が上級生にフクロにされている所を助けられるという、なんとも惨めなものなので、思い出したくもないが。
「また顔をしかめちゃって、今度はどしたの?」
「いや、ノエルとの出会いを思い出しちゃってね」
「あー、懐かしいねえ」
「できれば忘れていただきたい」
心の底からの叫びだ。
「やだよーだ、あの件もふくめて団長は絶対に忘れません!」
まだ根に持っていたか。
あの件というのは、中学生になったころの話だろう。
白銀家というのは、かなりの名家だ。
治安維持に務める警察機関たる「白銀聖騎士団」の長を代々引き継いでいる。
当然、自分のような一般ピーポーなどが関わりを持つことなど万に一つ、いや億に一つだ。
小学校を卒業したあたりでそろそろ礼儀を正さないと、なんて思って、ノエルのことを白銀嬢と呼び、ゴリゴリの敬語で話していたらノエルが泣き出し、部屋にこもってしまった。
あの時は初めて死を悟ったなあ、娘の涙を見たノエルの父親の本気の説教を食らったっけ。
「いや、あれはだな…」
「団長ほんとに悲しかったんだからね!急に敬語になって距離とるし、嫌われとるかと思っちったよ!」
「…ハイ、ハンセイシテマス」
相手は白銀家だ。何かやらかしたらこの世から消される。
「でもさ、あれはやりすぎだって。フレアは炎の魔法と弓で狙ってきたし、ノエルのお父さんだって殺気を叩きつけてくるし」
魔法に長けたハーフエルフの攻撃、本職の殺意、どれも簡単に死ねるだろう。
自分は運動が苦手で戦うときの心得などないので、なおさらだ。
ノエルのように、戦闘科に入れるような能力などない。
「あはは、まあ自業自得だね」
それを言われると弱い。
羨ましい。ノエルが。
名家に生まれ、才能を持ち、優れた容姿であり、将来も安泰な彼女が。
才色兼備とはノエルのような人のことを言うのだろう。
自分とは違い、将来が輝いている。
本当に、ノエルはなぜ自分のようなやつと一緒にいるのか不思議だ。
銀色の髪、美しくもあり可愛らしくもある顔、抜群のスタイル、どれもこれもノエルの特徴だ。
それだけあれば、男など簡単に―――
――そう考えていると、温度が変わった。
いや、錯覚なのだろう。実際日照りの中を歩いているのだ、そんなわけがない。
なのに、何故だろうか、寒気がする。
「今、余計なこと考えたでしょ」
そう言ったノエルから、絶対零度の風が吹いた。
なるほど、この冷気はノエルが原因らしい。これがあれば夏も快適だろう。
そんなふうに現実逃避をしたくなるほど、彼女の怒気はすさまじい。
やはり白銀聖騎士団団長は伊達じゃない。
「せっかく久しぶりに団長と2人きりなのに、なんで他のことを考えちゃうの?団長と一緒は、楽しくないの?」
マズイ、これはかなりマズイ。
返答次第では本当に殺されるんじゃないんだろうか。
そんな圧がノエルから押し寄せる。
「楽しいに決まってるよ!今のは…他の人と比べてなんて幸せなんだろうと考えただけだよ、うん、それだけ」
これでダメだったらBADEND。万事休すだ。
どうして朝から生命の危機が訪れるんだ。
身構えていないと、こうもあっさり死神がくるのか?
そうしてノエルの
ノエルの両手が、自分の顔を挟んだ。
ああ、潰されるんだなと考えているとその手に力が込められ、ノエルの顔と向き合わされた。
「団長は、君がいいから一緒にいるの。だから、自分を卑下しないで」
彼女の口から紡がれたその言葉に心が揺れた。
「それってどういう――」
「…ほら、行こ?」
その言葉は、もうこの話は終わりだというのを示してした。
まあ、だよなあ。
1平民の自分にノエルの気があるわけが無い。
でも、せめて今ぐらいは、この蓬莱のような楽園を楽しもう。
そう思い、歩き出した。
バカだなあ、本当に。
好きじゃなかったら、こんなに長い付き合いにならないよ。
いい加減、気づいて欲しいんだけどねぇ。
そう思った彼女自身にも、ましてや彼にも聞こえなかったのだろう。
「大好き」という、ノエルの言霊は。
衝動的になって書きました、悔いはない。
???「なんとでもなるはずだ!」
感想、リクエスト、お待ちしています。
追記:次回は多分ネクロマンサーです
この中から読んでみたい話を選んで欲しい
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