攻略が楽勝過ぎた精霊   作:高町廻ル

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大所帯

 ここは五河家のリビング。

 学生のお勤めの時間は終わって夕方になっている。

 

「というわけで作戦会議と行きたいんだけど…」

 

 琴里はソファーに座ってラタトスクの司令として司会進行をしようとするのだが。辺りを見渡して少し呆れたような、そして困ったような表情になる。

 それを察して令音が思っていた事を口にする。

 

「予定よりも随分と大所帯になったね」

「あはは……」

 

 士道も苦笑いする他なかった。それは昼間に自分が学校の屋上で言った事と似ていたからだ。

 リビングには琴里、令音それに士道だけでなく、彼らがこれまでに封印して来た精霊達も全員集合していたのだ。

 

 

 少し時間は戻って来禅高校の屋上。

 

『うむ…虚華は死にたいから封印を願っているのか……』

 

 士道が全ての事情を話し終えて、その場で最初に出た言葉は十香のそんな一言だった。

 口は開いていなかったが夕弦に耶倶矢、そして最近僅かにだが表情が分かりやすくなってきた折紙も困ったなといった感じだ。

 口を開きづらい雰囲気になったためか、士道が慌てて話題を繋げる。

 

『そうなんだ。だからこそ何か代わりになる生きる希望を見つけれればって思っているんだけど…当てがないわけじゃないけど、結局希望的観測だしなぁ…』

 

 好感度は十分封印可能圏内ではあるが、仮に封印しても死を願っているのならば結局のところ意味が無い。

 何とかして封印後も前向きに生活をしてくれるように説得をしなくてはいけないのだ。だがこれまでに邂逅した精霊にそのようなタイプはいなかった、強いてあげるなら七罪がそれに近い。

 生きる希望と言われてますます十香や八舞姉妹は困ったように眉間にしわを寄せる。

 そもそも相手の事を詳しく知らないため、この場で明確なアドバイスをすること自体困難を極めているのだが。

 

『…………』

『…?…折紙?』

 

 だがそんな中で一人だけ違ったリアクションを見せる者がいた。

 折紙だった。士道は僅かにだが違った反応を見せる相手の名前を呼ぶ。

 この時彼が折紙に対して感じたのは、悲しみや共感、そして僅かながらの怒りだろうか。それが誰に対して向けたのか分からなくて彼は不安になってしまう。

 

『何か気になる事や気に障る事があったのか?』

『いいえ、ただ今の虚華は他人の言葉が入ってこない状況だと思う』

『そうなのか?』

『厳密には視野にそれしか入ってこない状況になっているはず。かつての私もそうだった』

 

 かつての鳶一折紙は精霊という存在が薄々自分が思っているような、世界に害悪だけを与えたり、分かり合えない存在でない事に勘図いていた。

 だが当時の彼女はその事実を受け止められるほどその心は強くなかったためか、都合の悪い事から必死に目を閉じ、耳を塞いだものだった。

 結果として多くの人達を危険な目に遭わせて、迷惑をかけた。だからこそ今の彼女はそんな過去の過ちの全てを認めて、辛い現実に向き合うために日々精進している。

 先ほどは言葉を濁して何かを誤魔化したようだが、他の精霊達とは違う経緯と信念を持っている彼女だからこそ虚華の在り方について何か感じることがあるのだろうか。

 

『私も似たようなことを考えた事はあった…が虚華のそれは僅かだが違う…様な気がするのだ……』

 

 十香はまるでくしゃみが出そうなのに喉に突っかかってそれが出ないような、そんな悶々とした感じの表情で唸るように言った。

 そこで夕弦が右手をスッと伸ばして発言を申し出る。

 

『提案。では他の皆の意見も参考にしてはいかがでしょうか?』

 

 

「では今日一日で調べた事を話していくよ」

「お願いするわ」

 

 令音が最初にここで話すべき事の一つである御守恋菜の調査結果について切り出し始める。

 

「端的に言ってしまえば今の彼女は半精霊と呼ぶべき存在になっている」

「えっと…それはどういう事でしょうか…」

 

 精霊になっているという結論を聞かされて四糸乃はおずおずしながらも質問をする。

 発言途中でそれを遮断された形なのだが、令音はそれに苛立つというわけでもなく続きを離し始める。

 

「簡単に言うと今の彼女は半人半精霊、もしくは自覚のない精霊モドキになっているんだ」

 

 いきなり人間ではなく精霊でしたと言われてもはいそうですかと素直に納得する事など出来るはずもない。かつての狂三のように一般人のふりをしていたのならいざ知らず、恋菜は間違いなく普通の人間だったのは間違いない話なのだ。

 当然そう思ったのはこの場にいる全員も同じで、代表して琴里が思った事をそのまま話始める。

 

「それは無いでしょ…だって御守恋菜は間違いなく普通の人の両親から生まれた……」

 

 だがそこで彼女は言葉を詰まらせてしまう。思い至ったのだ、この場には少なくとも五人の例外がいる事に。

 

「そうだ、琴里と同じで彼女は後天的に精霊になっている」

 

 あの時、天使の力を無自覚とはいえ振るった恋菜は精霊の特徴を一部とは備えていた。ならば広義で精霊の仲間であると令音は結論づけたのだ。

 ファントムと呼ばれる存在が霊結晶と呼ばれる物質を人間に与える事で精霊に生まれ変わらせることが出来る。何故そのような事をするのかそのメリットを掴むことが出来ない謎に包まれた存在。

 

「って事は虚華ってファントムっていうのと繋がりがあるの?」

 

 あまりの衝撃的な事実にお馴染みの中二言葉を忘れて素の状態で話しかけてしまう。

 だがその質問を受けても令音は迷いなく首を振って答える。

 

「いやそうとも限らない」

「どうして?」

「彼女の天使の力は自分の望んだ通りに対象を改編する力だ。だとすれば恋菜くんの体を精霊の力に耐えられるようにする事も可能ではないだろうか、十全でなくても一部だけならそれも可能ではないかと個人的には考えているよ」

 

 令音が出した結論にどうしたらいいのか分からなくなる一堂。

 つまり虚華は改造施術の力の一部を恋菜に宿らせることで記憶を封印させて更に天使に彼女の護衛をさせる。そうする事でこれから先精霊と一切関りを持たせないようにしたという事だろう。

 

「まったく…覚悟を決めるってのは…まさかここまでやってくれるとはね……」

 

 令音が今日恋菜に接触して得た事を聞いて、琴里は忌々しそうな口調でありながらも僅かに憐憫のようなものを含ませた表情になる。

 

「そこまでやるなんてきょーちゃんには脱帽だよ。私の漫画にもそのシチュ使わせてもらおうかな?」

『…………』

 

 暗い雰囲気を一掃しようと二亜があえてそんな冗談を口にするのだが誰一人として笑う事は無い。

 そんな中、令音の端末から声が響く。

 

『せっかく真面目な会議だというのに二亜ののーたりんには困ったものです』

「悪かったって思ってるって…マリアは当たりが強いなぁ…」

 

 さばさばガール(AIに性別はあるのか)による罵倒を受けてしゅんとしてしまう二亜。

 彼女としては大人としてこの場に蔓延る暗い雰囲気を何とかしようと空気を読んでいるつもりなのだが、元からのズレた明るい気性のせいなのか、それが効果的だったことがイマイチ無い。

 

「うーむ…一体何から手を付けたらいいのだ…」

 

 十香の言った通りに問題が多く、何から手を付けるのが最適解のなのかいまだに見当がつかない。

 だが琴里は手詰まりというわけでも無さそうだった。

 

「あら?確かに困難だけど手立てがないわけじゃないわ。令音が出してくれた結論のおかげで一つだけ光明も見えているじゃない」

「どういう事だ琴里?」

「自分に何が出来るのか忘れちゃうなんて感心しないわね?」

 

 士道の質問に若干呆れた表情をしながらも答える。

 そして琴里は自分の指を唇に添えて投げキッスをする。その場にいた一同は何を伝えたいのかその意図に気が付かなかったが、折紙は素早く気が付いた。

 

「そういう事。確かに御守恋菜にその手は有効」

「私もそれを提案しようと思っていた」

 

 令音もまた琴里のその意見に首を縦に振った。

 

「一体どういう事なんだよ…」

「まったく…一から十まで女の方から言わせるのは相手のストレスになりかねないわよ?」

 

 ここまで肝心の士道が気が付かない事に呆れたといった感じでつっこむ琴里。

 

「ふむん…」「なるほどですぅ」「にゃははー気が付いちゃったねー」

 

 他の精霊達も続々とこれから何をするのかそれに思い至ったようで納得といった感じでそれぞれ頷いていた。

 

「な、何だよ…勿体ぶるなよ…」

「はぁ…いい?…御守恋菜は精霊の力の一部を受け継いだ相手なのよ?って言ったら士道や私達に出来る事なんて一つじゃない」

 

 そこでやっと士道はこれから何をするのかに気が付いてハッとした。

 相手が精霊であるのなら人類に出来る事は二つ。

 それが困難であっても殲滅か、対話によって妥協点を見つけるのか。ラタトスクが選ぶ道は一つしかないだろう。

 

「士道の封印能力で恋菜って人に取り憑いている天使を剥ぎ取って虚華の事を説得してもらう。それを虚華への攻略法の一つとして考えているわ」

 

 琴里はそう締めくくった。

 それは相手の覚悟を踏みにじる卑怯な手ではあるのかもしれないが、彼女をここまで意固地にさせている要素を使って無理矢理にでも突破口を開こうという考えなのだ。

 そこに思い至った士道はその表情に難色を示す。

 

「だけどそれは……」

「分かっているわ。成功してもそれはあくまでも最後の一手。だからこそここにいるみんなで虚華本人の説得方法も同時に模索するわ」

 

 その一言にその場にいた皆は頷いた。

 これから何が出来るのか、そして何が起こるのかそれは誰にも分からない。だがここにいるメンバーならきっと乗り越えられるとそう信じている。

 

「とは言ってもいつ虚華が現れるか分からない以上は現状作戦を練る以外できないがね」

 

 令音のその一言によって高まっていた熱気がちょっと抜けてしまった。

 

「ちょっと!余計なことを言わないでよ!…分かってはいるわよ……」

 

 琴里は令音にガッと噛みつくのだが相手の意見はもっともで、現状は現界していないため手の出しようがなく、今すぐにでも接触することの出来る恋菜の事を優先するのは致し方のないのかもしれない。

 

「兎に角まとめるわよ。今私たちラタトスクのする事は二つ」

 

 そこで彼女は右手の人差し指と中指を立てる。

 

「御守恋菜の力を封印する事。そして虚華が前向きに生きるために出来る事を考える」

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