攻略が楽勝過ぎた精霊   作:高町廻ル

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漫画家は辛い

「ふっふっふー……お次はおねーさんがこの世界の楽しさを伝えてしんぜよう…」

「…よろしくお願いします」

 

 二亜はいつも通りの少しウザ気なテンションで虚華に話しかける。

 相手は少しだけめんどくさそうだなという成分と、大半を占める目の前のこの人があの超有名漫画家の本条蒼二なのかという懐疑的なものがその表情に含まれている。

 現在二人のいる場所は二亜が借りている自宅兼職場であるマンションの目の前。

 彼女が提案するプランは、士道が提案した二亜の職場訪問だ。前は次の約束を取り付けるのを嫌った虚華がうやむやにした事で取り付けられなかったのだが、その際のリアクションから漫画家の仕事場に対して全く興味が無いわけでは無い事は分かっていたため、その面から攻めようという話だった。

 

 

「じゃーん!ここが漫画家の仕事場だよ!」

「お、おお…凄い……」

 

 そこには机の上に所狭しと載せられた紙にペンと言った明らかに描くために存在するであろうそれ。そして部屋一面や床に配置または散乱されている資料の為や個人で楽しむためにあるであろう本の数々。

 マンション内に入り連れて来たのは二亜にとっては当たり前に入りびたる場所であり、虚華にとってはあまりにも聖域過ぎる場所。

 彼女が日本語を覚えたのは親友である恋菜が好きな物であり、また読み聞かせてくれた漫画による部分が大きいため、それを生み出しているこの場所はまさに神聖なる場所なのだ。

 憧れの存在を一番に感じることが出来るこの場所に何の心の準備をする事もなく突撃してしまったためか、この場で何を言うのが二亜の気持ちを良くすることが出来るのか分からなかった。

 そして虚華の麻痺して語彙力が低下している脳で繰り出したのはあまりにもしょーもない感想だった。

 

「…漫画家の部屋っぽい……」

「ぽいんじゃなくて正真正銘漫画家の部屋なんだけど……」

 

 二亜はその感想を受けて困惑してしまう。

 漫画家である事はキチンと言っていたし、そもそも伝えられているため『漫画家の部屋っぽい』という感想はあまりにも間抜けすぎる。

 

「まぁまぁせっかくだし?色々と見てみてよ、ほらそこに生原稿あるし汚さなければいくらでも触ってくれていいからさ」

「さ、触るなんて恐れ多い…」

 

 あっさりとお触りオーケーのお達しを貰えた事に困惑してしまう虚華。

 

(わ〜しっかりとファンだー)

 

 恐々とした態度に微笑ましさすら感じてしまう二亜。

 職業漫画としてファンや素人を仕事部屋に招き入れるなど限られている為、相手のリアクションは新鮮だった。

 そんな事を考えている間も相手は机の上や床に乱雑に置かれたペンやトーンを興味深そうに観察していた。話だけなら知っているが実際に目の当たりにして感動したといったところだろうか。

 二亜はそこで温めていたプランの一つを提示する。

 

「せっかくだから漫画家のお仕事体験コース行っちゃいますか」

「体験コース?」

 

 声をかけられた事で仕事場を観察していた虚華は声をかけてきた相手の方へ顔を向けその内容を復唱した。

 

「そうそう、トーン貼ったりベタ塗ったり」

「え、ええっ!」

 

 それはすなわち原稿を作る一助をするという事だった。

 二亜のそのあっけからんとした対応に虚華は驚きのリアクションを取るほかない。作品の質に直結しかねない重要な一要素を素人に任せるなど普通はあり得ないだろう。

 

「や、さすがにそれはちょっと……」

「いーって、この原稿は読み切りの一つというか、まぁ落書きみたいなもんだし」

 

 その一言を聞いて原稿に視線を落とすのだが、そこには漫画家本条蒼二として決して妥協を許さないそんな美麗な絵が描かれていた。

 一読者として目の前のそれが落書きというレベルでない事はキチンと理解できていた。

 つまり落書きというのは自分に余計なプレッシャーを感じずに楽しんで欲しいという彼女の気持ちの表れなのだ。

 

「……ご厚意に甘えて」

「手伝ってもらうわけなんだからそんなに畏まらなくていいよ」

 

 二亜の中では虚華は冷静で僅かに不敵な雰囲気をまとっていたため、ここまで戦々恐々かつ丁寧な対応を見て少し苦笑いをしてしまう。売れっ子漫画家パワーは凄いのだ。

 そんなこんなで始まる職業体験。

 

 

「で、出来た……」

「きょーちゃんって結構筋が良いよ。初めてなのにトーンを切るのに淀みないし、ベタ塗りもはみ出さず早い」

 

 一時間ほど原稿手伝いをしたあたりで虚華の集中力が途切れる。

 憧れの漫画家の原稿を前にして失態など犯すわけにはいかないという緊張感の中だと想像以上に精神力が削られるのだ。

 

「上手くいったら今度は正式にアシスタントとしてやってみない?しょーねんと一緒にさ」

「ん…気が向いたら」

「うわー…それって気が向かないやつだー」

 

 しれっと封印後の話を振る二亜だが、その相手はそれとなくその話題をはぐらかしてくる。

 そう簡単に首を縦に振ってくれるとは思っていなかったのだが、提案に対してフラれたらフラれたで凹むものは凹むのだ。

 

「ま、いっか。楽しかったし」

 

 彼女は上手くいかなかったからといって凹んで居続けていても仕方ないため、そんな事を言ってこの場は切り上げる事にする。そして冷蔵庫の前について話しかける。

 

「後ろのスケジュールまでまだもう少しあるし。何か一つまみでもする?」

「そこまでしてもらうのも悪いかなって……」

「遠慮無用!それともおねーさんの酌は飲めないってか!?」

「お酒出す気なんですか…?」

 

 二亜はノリの悪い相手にうがーっと理不尽に怒る。

 とは言え当然ぱっと見高校生くらいの相手にお酒を本気で勧めるはずも無いし、相手の同意もなく無理矢理飲ませる気もない。あくまでジョークでしかない。

 

「色々と買い溜めしてたはず―」

 

 そう言って冷蔵庫の扉を開くのだがその中には上から下までぎっしりと詰められていたのはビールの缶や酒類の入った瓶ばかりだった。

 

「これは……」

「いやーはは…これはこれは…お見苦しい所を」

 

 お酒がイコールでダメの象徴という話ではないものの、酒ばかり詰め込まれた冷蔵庫を見せてしまうとどうにも恥ずかしく、そして居たたまれない気持ちになるのだ。

 あまりにも人として見逃す事の出来ない冷蔵庫のラインナップを見て心配してますといったトーンで話しかける。

 

「いくらなんでもこの量は……」

「いやねー原稿がギリギリになると、時間に追い詰められたり担当の発するプレッシャーとかでどうにもストレスが溜まっちゃって…ついつい手が伸びちゃうんだよねぇ…」

「え」

「あっ」

 

 二亜はそこまでぼやいたところで、相手のリアクションを見てしまったと両手を口に当ててストップをかけるのだが時すでに遅し。

 虚華に生きる希望なり世界を捨てたもんじゃないというのを伝えようとしているというのに、社会人のリアルな苦悩や苦しみな部分を見せてしまっては悪影響だろう。生きていれば嫌な事などいくらでもあるだろうが、ここでそれが出てしまうのは最悪だった。

 虚華少しの間何かを考え込む仕草をすると意を決して口を開く。

 

「……漫画家って本当に辛いお仕事なんですね」

「そ、そんな事ないよ!絵を描くのは楽しいよ!?人生って楽しいんだよ!!」

 

 二亜は相手に気を遣われている事に気が付いて慌てて弁明を図るのだがもう既に後の祭りと化していた。

 

 

「呵々っ、今度は我ら姉妹が相手をしてやろう!」

 

 いつものめんどくさいテンションで話しかけてきたのは耶倶矢だ。だがそのテンションにはどこか翳りがあった。

 

「……大丈夫?」

「違うから!そういうんじゃないから!」

 

 心配してますといった感じを前面に出してくるのは虚華。そして心に重い疾患を宿している痛い子だなという視点もまた現在進行形で続行中だ。

 トラウマが若干ぶり返したのかいつもの中二ちっくな感じを投げ捨てて否定に入る。

 

「確認。そんな事よりも今度は私達夕弦と耶倶矢の手番です」

 

 このままでは無為に時間を過ごすだけだと思った夕弦は、この場に集まったそもそも理由である『虚華の生きる希望を復活させようの会(仮)』に議題の中心を持って行く。

 

「それで」

 

 虚華は辺りを見回す。そこは街の中心の雑多的な雰囲気のある商店街だった。食用品に、日用品から娯楽施設まで様々な施設が所狭しと敷き詰められた場所。

 双子姉妹はここで何やら作戦があるようだった。

 

「ここで何を?」

「よくぞ聞いた!」

 

 耶倶矢は会話の主導権を握る為かいつも以上に大きな声で食い気味そう言った。

 続けて夕弦が話を繋げる。

 

「回答。やはり生きる上で喧嘩する事もあります」

「…………はい?」

「ですがそれを乗り越えた先に真の友情や愛があるとは思いませんか?」

「はい?…えっと…何を伝えたいのか…」

 

 あまりにも繋がりを感じない点だらけの発言達に虚華は何をどう返したらいいのか分からない。

 耶倶矢は察しの悪い相手に業を煮やし、ここでやることを話し始める。

 

「要は…私達とこのゲーセン内で勝負しなさい!」

「んん?ゲームは兎も角何が何やら……」

「ふはは!叩きのめしてくれる!」

「ええー……」

 

 いくら何でも勝手に話が進み過ぎてしまうため、もう何度目かもわからない困惑顔を作ってしまう。

 ゲームセンター内で遊ぶこと自体に異論があるわけでは無い。

だが会話から出てくる点を繋ぐ線が一体何なのかが分からないためそれが気になって仕方ないのだ。

 相手の意図も分からないまま謎のゲーセン巡りが始まった。

 

 

「食らえ!我が必殺、下方炎獄脚(下段技)!」

「あっずるっ!」

 

 先ほどから耶倶矢は虚華を格ゲーでボコボコにしていた。

 始まってすぐに小ダメージを与えて体力面でアドバンテージを作ると、後は遠距離技や少しリーチのある下段技をひたすら使ってひたすらにヒットアンドウェイを繰り返し続ける戦法を取り続けていた。

 流石に初見のゲームで経験者に勝てるほどセンスがあるわけでは無く、大方の予想通りの結果になっている。

 彼女は負け続けていても何だかんだで様々なゲームを二時間ほど付き合い続けているが、負け続けることが楽しいはずもなく表には出さないが不機嫌さは塵も積もってきている。

 

(接待して欲しいとは別に思ってないが…)

 

 強がっても人間負けたら悔しいし、それなりに機嫌も悪くはなる。それを分かりやすく態度に出すか出さないかはその人の気性次第なのだが。

 

「確認。耶倶矢そろそろでは?」

「そろそろか」

「何が…?」

 

 負けた回数を数えるのも面倒くさくなってきた頃。ちなみにゼロ勝なため勝つ回数を数えるのは簡単。

 双子は息ぴったりの挙動である機械を指差す。

 

「あれです」

「あれだ」

「あれって…」

 

 双子らしい息ピッタリな挙動で八舞姉妹が指を差したのは撮影した写真を自分好みに加工、そしてシールとして出力する個室型撮影機。

 

「プリクラ?」

 

 プリクラ自体を知らないと言うことではないため、それそのものには驚いてはいない。だがこれまで白黒がキチンと着く対戦型のゲームをメインに行ってきたため、突如毛色の違うものを勧められるとどう立ち回るのがいいのか分からなかったのだ。

 困惑する相手の事をどう受け取ったのか夕弦はいつもの能面を僅かに崩して質問をする。

 

「質問、嫌ですか?」

「嫌じゃない…けど突然どうしたんだろう…みたいな」

 

 虚華は思った事をストレートに口にする。

 耶倶矢はここで自分達の狙いの様なものを口にする、しょうとしたのだが。

 

「我ら八舞はかつて己を犠牲にし、己が命を投げ打って…」

「ごめん、その喋り方何を言ってるか分かりづらい…」

「…………」

 

 彼女は虚華にアイデンティティを抉られた事により涙目で黙り込んでしまう。

 すると夕弦が彼女の体をゆっくり、そして確実な力でギュッと抱きしめる。

 

「よしよし……」

「うぅ…ゆずるぅ!」

 

 いつもであれば敵にしていた夕弦のその母性の象徴も、心が傷ついた耶倶矢を受け止めるのに役立っていた。

 

「回答、では私から説明します」

 

 

 かつて八舞姉妹は一人の存在だった。

だがある日それが二人に分かれて、耶倶矢と夕弦という二人の存在を生み出してしまった。

 最初は問題ないと思っていた。なんならこの残酷な仕打ちを強いてくる世界で、境遇を分かち合える相手がいる事は頼もしかった。

 二人はそれこそ生まれた時から一緒に居たのではと思ってしまうほどに仲睦まじい姉妹になった。

 そこまでは何の問題もなかった。だがある日、本能とも言うべき部分が警鐘を鳴らしたのだ。

 このままでは二人は元に戻るという事と、どちらかの人格が八舞の主人格となりもう片方は消滅する定である事に。

 考え抜いた末に二人が取った行動は、どちらがより八舞に相応しい能力を要しているのか決める為に勝負をするという事だった。

 幾度となく行われる名勝負。二人の力は拮抗しており白星と黒星の数は拮抗し、差が広がらない日々が続いた。

 

 だがその戦いに白黒がつくはずもなかった。

 なぜならお互いがお互いを生き残らせる為にわざと譲ろうとしていたのだから。

 それは互いを強く、そして誰よりも大切に思ってしまった故に起きてしまった優しい悲劇。

 

 だがそんな日々は士道との出会いによって唐突に終わりを告げた。

 その後お互いの事を大切に思い合っている事が分かった姉妹はより一層仲良くなりましたとさ。

 

 

「という訳なのです」

「…うん……うん?」

 

 夕弦は自分達の過去について話し終えた。

 虚華はその話を聞いて最初は良かったとホッとしたのだが、そこでこのイベントと昔話をどう繋げていいのかわからずに首を捻ってしまう。

 

「気を悪くさせたらごめんなさい。今教えてもらった事とゲームセンターに来てからの意図が全く繋げられないんだけど…」

 

 彼女は意を決してそう言った。

 だが二人は何が何やらと言った感じでキョトンとした表情をする。

 

『?』

「何を言ってるの?みたいな反応をされても」

 

 虚華は相手の態度を受けて侵害だと言った感じで言い返す。分からないものを素直に口にして何が悪いというのか。

 ようやくウィークポイントを見つけたのか耶倶矢はここで一転攻勢に出る。

 

「フハハハ!無知でなるならばこの我が直々に教授してやろう!!」

「分かりにくい言い回しなのに何が言いたいのか分かった」

 

 虚華はここで苛立っても仕方ない為、少し棘だけを見せるにとどまる。

 

「我ら八舞は凄い仲良し」

「うん、側から見てても仲良し姉妹だと思う」

 

 ゲーム中もそれ以外でもお互いに大切にし合っているのは誰が見ても明らかな事であり、それを否定する材料は見当たらない為同意する。そもそも仲良しであるならあるに越した事はないのだ。

 

「追伸。元々仲は良かったのですが、仲違いや危機を乗り越えるたびにそれまで以上に仲良くなったのです」

 

 夕弦が追加説明を加える。

 どうやら険悪な関係に一度してから仲直りをする事で仲良くなろうというアプローチだったという訳だ。

 そこまで察して虚華はわなわなと肩を震わせる。

だがそれは怒りによるものではない。

 

(わ、わ……)

 

 一言で総括する。

 

(分かりずらっ!)

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