攻略が楽勝過ぎた精霊   作:高町廻ル

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よしのんは策士

 八舞姉妹の作戦は微妙な感じに終わってしまい、今度は四糸乃と七罪のターンが回ってくる。

 

「今度は私たち三人が虚華さんのおもてなしをします」

『よろしくねぇ虚華ちゃん』

「よ、よろしく」

「……よろしく」

 

 スラスラと喋る四糸乃とちょっと大人の余裕らしきものをまとっている人形、そして体を小さくしながらも一言挨拶をする七罪。

 それぞれ三者三様なアクションを見せるのだが、虚華が気になったのはそこではなかった。

 

「ん?三人?いったいどういう」

 

 彼女からすれば四糸乃の事情など知りようがないため、少しだけ配慮に欠けた言葉をかけてしまう。

 そこで四糸乃の手に装着されているパペットから発される圧のようなものが強くなったような感じが出てくる。

 ちなみにそれを見ている傍観者の七罪はハラハラしながらも何も言う事も出来ずオロオロとする。

 

『んん~?虚華ちゃんてばなかなか面白いジョークを言うのね。だけど私ブラックジョーク好きじゃないのよねぇ』

「はい?」

『通用する冗談と通用しない冗談を使い分けなきゃダメよ』

「はぃ…」

 

 何やら地雷に足を掛けてしまった事に気が付いた彼女はよしのんの忠告に肯定の意を示した。

 

(色々と闇が深い……)

 

 ここで色々と察してずかずかと詮索しないのは、かつて恋菜に対しての地雷を踏んだ経験が活きたのか。

 

「よ、よしのん…!虚華さんはそんなつもりで言ったんじゃ……」

 

 明らかに空気が重くなったため四糸乃は慌てて収拾に入る。

 だが昔よりは引っ込み思案ぶりが解消されたとはいえまだまだうまく口を動かす事は出来ないためもごもごしてしまう。

 

「取りあえず…この街の案内をしようかな…って…気に入らなかったら拒否してくれていいけど…」

 

 友人の窮地にいてもたってもいられなくなった七罪はそこで重い口を開いて説明をする。生来の自信なさからか最後の方は尻すぼみになってしまったのだが。

 

「地元の人じゃないと知らないスポットとかあるだろうし楽しみ」

 

 二人が今出来る事を全力で頑張っている姿を見て、少しだけ癒された虚華は優し気にそう言った。

 

『……!』

 

 その一言で露骨にホッとした表情をする二人。相手が挑戦を受けないはずがないとは分かっていたものの、実際に対峙する際のプレッシャーの前では不安だったのだろう。

 

 

 一行は街中を練り歩いていた。外見は中学生二人と高校生の三人組は幸いにも休日であったため奇怪な視線を向けられずに済んだ。

 四糸乃と七罪は昼間は士道を筆頭に高校生組が学校に通っているためぶっちゃけ暇つぶしで一緒に街中を散歩している事が多いため、普段街で生活している時で気にもかけないようなスポットを良く知っている。

 たまに空き地を陣取ってパンを販売している移動販売車。よく子供にお菓子を分けてくれるおばあちゃん。よく猫たちが集まる広場。

 地元出身の人ですら知らないような街の昼間の顔を知っている。

 ぶっちゃけると何を伝えたらいいのか分からないため普段通りに生活しましょう作戦だった。

 

「この神社が士道さんと初めて会った場所でよく一緒に出掛ける場所なんです」

「そうなんだ」

 

 そんな中買ったパンを頬張りながら歩いている。

 四糸乃から紹介されたのは件の神社だった。観光地や名所として認識されるほど芸術的な一面を兼ね備えていないし、別に特殊な場所でなければ、特別な歴史を備えている場所ではない。

 だが彼女にとっては運命そのものを変えたかけがえのない場所なのだ。

 

『うふふ、四糸乃にとっては愛しの愛しの士道との馴れ初めの場所だもんねぇ?』

「よ、よしのん!」

 

 よしのんの思わぬ口撃に顔を真っ赤にしてしまう四糸乃。七罪もちょっとかわいそうな物を見るような視線を送っている。

 一見すれば微笑ましい光景である、だがそれを遠目から見た虚華はある事に気が付いた。

 

(聞いたわけじゃないけど二重人格っぽいからあの人形が話す事はあの子が思ってる事なんだよね?)

 

 基本的によしのんは四糸乃が見聞きした事しか反応できないし、四糸乃が考えている事しか口に出来ない。

 

(つまり自分は士道が好きだから、お前は下手に手を出してくるな、狙うなよって牽制を無自覚に別人格に口にさせてるって事?)

 

 もし本当にそうだとしたら中々の策士である。

 人によっては微笑ましい独占欲とも取れなくはないし、自分自身の立場を悪くする事無く愛嬌だけを残してくるのだから。勿論本人にその自覚があるのかどうかは別なのだが。

 面白いリアクションをしているものだからちょっとだけいじってみたくなる。

 

「そっか、四糸乃は士道の事が好きなんだね」

「あっ…いやそんな事は…無い事は…ありまっ…!」

 

 あまりにもどストレートに言われてしまったものだからとっさに否定しようとするのだが、大切な思いなのか微妙な冷静さが戻ってしまい何が言いたいのか分からなくなってしまう。

 

「ごめんごめん。でもまあ誠実な人だとは思うし、責任感も強そうだし、そこまで彼の事を知ってるわけじゃないけどいい人だと思うよ」

 

 このままだとただの意地悪野郎になってしまうため話題を微妙に逸らす事にする。そしてその内容はここにいる全員が気にかけている事でもある。

 

「そうなんです、士道さんはいい人です」

『虚華ちゃんたら見る目ある~』

「…わ、私も良い奴だと思う…」

 

 一同それぞれ虚華が士道に対して好感触なのを見るやそれを後押しするようにそれぞれが同意を示す為に口を開く。七罪だけはとっさに認めるのが恥ずかしいのか素直じゃない返しをしてしまったが。

 別段このやり取りで虚華の心情に大きな変化があったというわけでは無かったが、ただ一つだけ思ったのは自分が思っていたよりも五河士道という少年はこの異常な状況下でも多くの人に愛されている素晴らしい人物だなという事だった。

 

 

「きゃーっ!いいですよぉ!」

「何が?」

 

 高層ビルの中にあるレストランの一角で美九は紅茶の入ったカップに口つけている虚華を相手に大興奮していた。

 一方の相手は邂逅が始まって早々にいきなり騒ぎ始めた相手に対して胡散臭そうな視線を送る。

 

「光に照らされて何色にも映える髪を持つ令嬢が優雅に紅茶を嗜むっ…いいですぅ!」

「あ、そうですか……」

 

 一人で勝手に盛り上がってしまう相手にもう呆れたらいいのかどうすればいいのか分からなくなってしまう。

 外は既に夕日が差し込んでいて金緑色の髪はたなびく度に様々な輝きを見せてくる。

 そもそもこの場所は虚華をもてなすためにあるはずなのだが、美九は自分が楽しむ事しか考えていないとしか思えない。

 

(別に自分を特別に扱って欲しいわけじゃないからこういう反応はありがたいんだけれど)

 

 楽しそうならまあいいか、そんな感じで自分の中に落とし込む虚華。そもそも自分の事を説得して欲しいと思っていたわけでは無いのでこれでもいいかと考える。

 ただただ美九が楽しむだけでこのお茶会は終わってしまう。なお虚華は精神的に疲れただけの模様。

 

 

(そう言えばこうやって夜空だけをじっくり見る機会なんて無かった)

 

 現在虚華がいるのは辺りに家などがない閑散とした公園。公園の目下には街のネオンが映えている。

 今日の弾丸スケジュールのほとんどを消費し終えて、最後のイベントである六喰との天体観測が始まろうとしていた。

 ここは田舎というほど寂れた場所ではないのだが、辺り一帯にはビルの照明やネオンなどは無く、綺麗に星が見えるスポットになっている。実際に星が賑やかに輝いている。

 星を見ると言われて彼女が想像したのは望遠鏡などを使って、肉眼では見ることが困難な輝きを楽しもうとするそれだった。

 

「あ、天体観測ってこういう事?」

「ふむん?」

 

 虚華の呟きに、何かおかしな事でもといった感じで返す六喰。

 二人は地面に敷いたマット上に寝っ転がってただぼんやりと上を向いていたのだ。

確かに星を見るという目的を達する中で、このようなやり方もあるため嘘はつかれていない。

 寒くならないようにひっそりと顕現装置を使ってちょっと涼しいなくらいに辺り一帯の温度を調整しているのは秘密だ。

 因みに遠目には今日一緒に遊んだ精霊たちがコッソリと伺っている。

 何とも微妙な表情をする虚華をみて不安になった六喰は言葉を掛ける。

 

「……つまらないのかの?」

「えっいや、つまらないというか…こうやってのんびり横になる事自体が中々ないから何をどうすればいいのか困惑かな」

「?」

 

 六喰は相手のその返事によく分からないといった雰囲気を醸し出す。

 その反応を見てこれは自分の説明不足だなと感じて、首を隣にいる相手に向けて彼女は説明をする。

 

「えっとだね…これまで現界の度にASTやDEMに狙われたり、それ以外でもいつまで現界出来るのか自分でも分からないからのんびり横になるなんてことしなかったから」

 

 恋菜といる時間は、この世に現れることが苦痛ですらあった彼女にとって、退屈だった時間を紛らわせるどころか至福の時間にすら変換してもらった。だがそれでも限られた時間に追い立てられていた事には間違いなかった。

 

「…ふむ、そうか…むくは寝てばかりであったから分からぬ……」

「そ、そうなんだ。まぁのんびりするのも悪くないね」

 

 六喰はかつて地球の軌道衛星場という宇宙空間でただひたすら漂っていたという過去を持っている。

 それは様々な要因が重なってその結末を選んだのだが、その理由の一つに他者と関わらずに何の刺激もない平坦な生を謳歌したいというのがある。その点は人と積極的に関わってきた虚華とは真逆なのかもしれない。

 

「ところでおぬしに聞きたいのじゃが…」

「何かな?」

 

 中々間を詰める会話に窮している中、六喰は聞いておきたかったことがあるとその口を開く。

 

「主様の事をどう思っておるのかの?」

 

 シンプルでストレートなその問いかけ。つまり士道の事をどうしたいのか、自分は士道とどうなりたいのかと聞いているのだ。

 だが残念ながらそれはうまく伝わらない。

 

「主様…って誰…?」

 

 六喰と直接話したのはほぼ初めてであるため、一体何を聞きたいのかその目的の相手が誰なのかが分からない。

 

「主様は主様であろう」

「その主様って人は『ぬしさま』って名前なの?それともあだ名や所有形容詞みたいな…?」

 

 どうにも会話が嚙み合わない事に困惑しながらもなんとか相手の意図を読み取ろうと必死になる虚華。

 そこで六喰は相手に自分の質問が何故伝わらないのか気が付いて少しだけハッとする。

 

「主様は五河士道のいう名前じゃ」

「はい?」

 

 その問いに対する答えを聞いて一瞬何が何だか分からなくなってしまう虚華。

 そして視線の先にいる少女を見やる。体の一部があまりにも大人びているものの、身長やその顔立ちは幼く、外見年齢は成人女性ではない事が伺える。

 

(主様って士道が呼ばせてるって事?こんな中学生くらいの女の子に一体何をさせてるの…喋り方もなんか古臭いし…そういう趣味なの?年下の女の子にお兄様とか呼ばせて喜んじゃう系の人なの?)

 

 突如として五河士道への評価が下がってしまう。

 幸いなのは真那と遭遇しなかった事であり、兄さまと呼ばれるその姿を見せてしまったら下がるなんてものでは済まないだろう。二亜のように兄さま呼びで興奮するというわけでは無い。

 

「……人には色々と事情があるよね…」

「?」

 

 彼女はそのような形で目の前の問題を飲み込むことにした。下手に突っ込んでは闇が深そうなことを知ってしまい、頭が痛くなりかねないためそのような判断を下した。

 そんな事を考えているとは知らない六喰は何が何やらといった感じで疑問符を浮かべる。

 そんな中で逸れてしまった話の本題を思い出した虚華は目線だけを相手に向けて口を開く。

 

「あーそうだ。士道の事をどう思ってるのかだけど…誠実でいい人だと思うよ。もし私が普通の人間だったら友達になりたいくらい」

 

 それは偽りのない本心だった。

 五河士道はラタトスクによって担ぎ上げられたり誘導されている部分は確かにある。

 だが精霊という存在するだけで空間震を起こす危険生物を前にしても、その理不尽極まれる境遇を何とかしたいという強い思いを持っている。

 その一点を虚華は間違いなく好ましく思っている。

 だがそれは人間性がただただ好きというだけでない。そこには彼女の中にある恋菜に心を救われた過去が間違いなく加味されている。だからこそ彼女は士道を好ましく思っていられるのだろう。

 その言葉を聞いて六喰は嬉しそうな表情を作る。ベクトルは僅かに違うものの彼女もまた彼の事を好ましく思っている。

 

「ならば…主様に精霊の力を預けてもよいであろう?」

 

 そして僅かに躊躇いの混じった表情から口にしたのは封印を受け入れて欲しいと取れるそんなセリフ。

 それはこれまで誰も口にしてこなかったそれだった。

 そして二人とも会話が止まってしまう。

 

「…………そうだね」

 

 わずかな沈黙が支配した後、口からそれはこぼれた。

 

「頭の中にある冷静な部分ではこんなことをするのは止めておけって忠告してくれてる。でもね…大事な何かを失って沸騰している自分が心とは裏腹に体から気力を奪っていくんだよ…きっとこれから先、どんなに足掻いても満たされる事は無いんだろうね…」

「……………………」

 

 その内容はあまりにも漠然としており、理解して欲しいとは思い難いそんな事を淡々と話していく。

 だが六喰はそれを聞いて何が言いたいのかその一端を感じ取ることが出来た、出来てしまった。

 かつての彼女もまた精霊の力を間違った方向に使ってしまい、自分の元から家族を離散させてしまったという過去を持っている。そしてその事実に耐えられなくなった彼女は自分自身の心に鍵を掛け、惑星の衛星軌道上へと己を封印して他者との関りを途絶した。

 やっている事のスケールこそ違うのだが、大切なものを自分のせいで失い、そして自棄になってしまっている。

 

「…………そうか」

 

 相手の気持ちの一部が理解出来てしまったからか、六喰の口から洩れたのはそんな言葉だった。

 自分の口から説得する事の出来る言葉は出てこないと気が付いてしまった。

 相手の態度と思考が一致していない事は彼女自身が一番分かっていても、頑固に固まってしまった感情を明確に言葉によって曲げることが困難である事は自分が一番分かっていた。

 自分が一度通った道だからこそ、それは安いものではないと分かる。

 

「ありがとう、私の為に色々と考えてくれて」

 

 六喰の考えている事を察した虚華はただ感謝の言葉を素直に伝えるに留まる。

 そして会話の無くなった二人は自然と視線を上空へと向ける。そこには多くの星が瞬いていたが、何故かそれは寂しそうに輝いているように思えた。

 気まずい沈黙が数分間、経過時間を数えるのさえ気まずくなるほどの時が過ぎる。だがそんな中でそれを切り裂いたのは虚華だった。

 

「ッ!?」

 

 彼女は慌ててがばっと上体を上げる。どうやら何かに勘付いたようで遠くに視線を向ける、肉眼では見えない何かセンサーを頼りに知覚しようとしている。

 

「どうかしたのかの?」

 

 六喰もまた慌てている相手につられて上体を上げる。虚華の見ている方へ視線を向けるのだが、そこには真っ暗な空と街のネオンしか見えない。

 だが相手はその質問に答えられるような余裕はないらしくその場で立ち上がる。

 

「恋菜が危ない…!」

 

 そう言って虚華は霊装を身にまとって空へと飛び立っていった。

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