攻略が楽勝過ぎた精霊   作:高町廻ル

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幕間 恋菜さんイメチェン頑張りましょう

「二人が顔見知りだったなんて驚いた」

「顔見知りってほどじゃないわ、仕事で少しだけ話を聞かせてもらっただけだから」

 

 真院、凛院そして恋菜は食卓テーブルをはさんで雑談をしていた。そこに険悪な雰囲気は全く無い。

 

「ごめんなさい、鳴村さんの名前忘れちゃってました…」

「いいのよ、顔を合わせたのだってたかだか五分足らずだしね。対して接点のない相手全員を覚えるのは難しいわ。あと鳴村だと真院と被っちゃうから私の事は凛院でいいわ」

「は、はい、凛院さん」

 

 過去についた刑事だった云々の嘘を全力で誤魔化して、何とか優しくて大人びた女性を演じる事に成功した凛院。恋菜からは落ち着き払ったレディーに見えているが内心は混乱を極めている。

 あの日、多くの魔術師と精霊の運命を変えてしまった子が今目の前にいるのだ、それも自分の妹の友人として。正直冷静に振舞う事を意識するだけで精一杯だ。

 凛院は知っている、目の前の症状はドクターと呼ばれた精霊が記憶を奪ってでも守ろうとした少女である事を。

 ならば今彼女が出来るのはこの事実を墓場へと持って行く覚悟で胸に秘めて、妹の友人を快く受け入れる良き姉でいる事だ。

 そこで彼女はふと思った事を口にする。

 

「そう言えば夏休み中外出が多かったのって、恋菜ちゃんの家にお邪魔してたの?」

「そうだよ、一緒に夏休みの宿題したりゲームしたり」

「てっきりボッチなのを誤魔化すために図書館に行って宿題しているものだと……」

「それはもういいでしょ!?」

 

 再びそのネタで弄られた事でクーラーがガンガンに効いている室内でありながら真院の顔は茹ダコみたいに真っ赤だ。

 

「んっふふ……」

『…………』

 

 俯きながら手を口にやってこらえきれない笑いを浮かべている恋菜。そんな彼女を見て姉妹はじゃれ合うのをやめて相手を見る。

 自分に向けられた二人の視線に気が付いて慌てて彼女は釈明を入れる。

 

「ご、ごめんなさい…その…つい……」

 

 恋菜は自分が空気を読まなかったせいで、この場が変な空気になっていると思ったのか申し訳なさそうにますます俯いてしまう。

 

「ん~…?」

 

 凛院は椅子から立ち上がると俯いている相手の傍に立つとその頬に手を添える。

 

「えっ、え、えっとぉ…」

「うんうん、恋菜ちゃんって結構素材は良いと思うよ」

 

 凛院は相手の顔を上げさせてその顔を見る。

 目は眼鏡で目立たなくなってしまっているが二重でパッチリとしているし、肌にシミやシワの類もない。そして口も唇は艶やかで口角も上がっており非常に若々しい印象を相手に与える。

 だが本人が彼女の妹に負けず劣らずのマイナス思考で引っ込み思案気味であるため、その素質の良さを十全に発揮できていないのだ。

 凛院はどんな切っ掛けがあってこの子があの真院に話しかけたんだろう…と考える。

 相手の顔から手を離すと腕を組んで何やら考え始める。

 

「二人は今日何か外せない用事とかある?」

「これといって無いけど、宿題も殆ど終わってるし…」

「私も大丈夫です…」

 

 凛院から問いかけに真院と恋菜は時間は空いていると答える。

 二人の返事を聞いて凛院は言った。

 

「よし、なら決まりね」

 

 

「着いたわね」

 

 凛院が運転する車に乗った三人がたどり着いたのは、この近くでは比較的大きい部類に入るデパートだった。

 

「ごめんね御守さん、お姉ちゃんって一度決めたら中々聞いてくれないから…」

「だ、大丈夫…取って食われるわけじゃ無いから…」

 

 一方の学生二人組は後部座席でそんな会話をしていた。何故凛院が二人を連れ出したのか、その目的がよく分からないまま連れてこられたため不安が募る。

 

 

「さてさて…」

 

 凛院は二人の連れをデパートの一角を占める化粧や服飾品を扱うフロアへと連れていた。

 堂々としている鳴村姉妹に対して恋菜はこのような場所に明るくないためか、辺りをきょろきょろしており上京したての田舎娘といった感じだ。

 視界に入ってくる情報がこれまで彼女が好んできたサブカルチャーとはかけ離れているため何をどうしたらいいのか分からないため、傍にいる仲間の真院に話しかける。

 

「わ、わー…凄いね…オシャレ…?な服とか」

「大丈夫?」

 

 既に体力が枯渇寸前の友人を見て心配そうに真院は話しかける。

 いつもと変わらないテンションで口を開く相手に驚いている恋菜。

 

「大丈夫って…こんなオシャレなリア充空間にいて鳴村さ…真院こそ大丈夫なの…?」

 

 鳴村さんと言いそうになったがここにはその苗字を名乗る人間が複数人いるため、勇気を出して下の名前で呼ぶ。

 呼ばれた相手は驚いたが、何とか一定の冷静さを取り戻して応答する。

 

「へっ…いやええと、しょっちゅうお姉ちゃんに連れてこられるから慣れてるし……」

「え……?」

 

 その一言に驚く恋菜。そこでふとこの夏の事を思い出す。

 毎日無地の同じような組み合わせの服ばかり選んでいた自分と、毎日色合いと組み合わせを変えてマンネリ化を避けていた相手。

 決してぼさぼさで手入れを怠っていたわけでは無いがそこまでこだわりの感じない己の髪と、毎日トリートメントを含めて時間を掛けて手入れをしていたであろう相手。

 同じ友達が少ない同盟であったが、女を磨く努力をしていたか否かで天と地ほどの差があったという事だ。

 

「私達、同じ仲間だと…盟友だと思ってたのに…私真院の友達止めるね…」

「何でよ!?」

 

 突然の絶交宣言に中々見せな大声で突っ込んでしまう真院。

 そんな彼女の両肩に背後から手を当ててニッコリ笑顔で凛院は話始める。

 

「真院は私が細かく注意していないとすぐに見た目をずぼらにしちゃうからねーこうやってコスメとか服とか口酸っぱく言っておかないとすーぐダメにしちゃうから」

「…………」

 

 そう言われて真院は少しだけふくれっ面を作る。

 自分の事をそこまで見てくれることが嬉しいのと、何度も何度も注意されるのが恥ずかしいという感情が混じっている。

 すると肩に添えていた手を離して次は恋菜の肩を掴んで言う。

 

「だ・け・ど、今日は真院じゃなくて恋菜ちゃんをお世話しちゃいまーす!」

「えっ…」

 

 相手の予想外のセリフに一瞬間抜けな顔で呆然としてしまう。だが頭が何を言われたのかを理解するとすぐに引っ込み思案が炸裂する。

 

「わ、私ですか…む、無理ですよ…私なんかじゃ…」

「私なんか…なーんて言ってたら何にも楽しくないわよ。それにその言い方はこうやって一緒にあなたと出歩いてる私や真院がまるでそんな程度の低い人と仕方なくいるみたいじゃない。そんなの悲しいわ」

 

 凛院のそのセリフに恋菜は固まってしまう。言われた事が何故かずっと前にも似たようなことを言われたかのようだったからだ。

 自分を下げる行為は周りにいる人達の価値すらも下げる行為である。それと似たようなことをずっと前に言われたような気がしていた。

 決して相手の口調は怒っているわけでも説教をしているわけでも無かった。あくまで優しく何かを伝えようとしているだけ。それがとても体に染みるのだ。

 

「えっと…その…化粧とかファッションとかを教えてください…」

「はい!よくできましたっ!」

 

 相手の言葉は小さくて決して堂々としたものではなかった、だが確かにもう一歩を踏み出した尊い一歩だった。だがその覚悟を感じて凛院は嬉しくなる。

 

「いい?女性が自分を磨いて着飾るのは挨拶をされた挨拶を返す、太陽が東から昇って西に沈む、それと同じくらい当たり前の事なのよ?いわば女の子に生まれてから課せられる常識でありエチケットにも等しい事なの、それを怠るなんて許されないのっ!」

 

 その誓いの一言と共に恋菜をお洒落にするプロジェクトが始まる。

 ちなみにいうとの真院はそれを見て手を頭に当てて頭痛を堪えるポーズをしていた。

 

 

「もう六時過ぎてるんだけど…」

「えっ、あ、ホントだ」

 

 正午から始まったオシャレ計画だったが、凛院があまりにもハマってしまったものだからすっかり時間の感覚が無くなってしまっていた。

 

「わ、わー…」

 

 恋菜は凛院から借りた手鏡や真院に撮影してもらった全身写真を見て時間の事など忘れて感嘆の声を出す。

 最初こそさっさと終わらないかなと考えていたが、やっていくうちにその奥深さに引き込まれつつあった。

 今日一日で買ってしまった化粧品を軽く付けたり、これまで彼女がどこか自分に似合わないと敬遠して来た薄い白色に近い少し薄手の空色のワンピースを身にまとっていた。

 いつもは恥ずかしがって出すのを躊躇っていたおでこだが、前髪をヘアピンでとめて丸出しにしていた。

 凛院は野暮ったい黒ぶち眼鏡も取り換えたかったが、それは度入りだったためそれだけは叶わなかった。

 そんな大変身とは行かなくてもそれなりにイケている格好に変身した恋菜。

 

「いい感じいい感じ」

 

 満足そうな凛院。だが一方の真院は別の感想を抱いていた。

 

(てか恋菜っていつも野暮ったい服装してるから気が付かなかったけど着やせするタイプだったのか…)

 

 真院が注目していたのはワンピースの裾部分だった。意外と胸部のスケールが大きかったためか、胸に服が押し上げられて裾の前側の方が後ろ側よりも短くなるという現象が起きていた。

 

「これで恋菜ちゃんもオシャレに目覚めちゃった形だ」

「そ、そうですかね……」

「そうだよ。途中からめんどくさそうな感じ無くなってたもの」

「す、すみません」

 

 彼女としては可能な限り隠していたつもりだったが、やはり慣れない事をすれば疲れるためどこか投げやりになっていた部分があった。相手はそれを見逃さなかった。

 

「いいのいいの、昔は真院もそんな感じだったから分かっちゃうんだよね」

「今もめんどくさいよ…」

 

 気にしていない事を強調するために軽口を叩く凛院。だが真院は心の底からしんどそうな表情をする。

 

「せっかくうちに遊びに来てくれたのに連れ回しちゃってごめんね」

「でもこれまで見てこなかった世界が知ることが出来て本当に楽しかったです。また今度色々と教えてもらえませんか?」

 

 凛院はそんな謝罪を述べる。

 だが恋菜は心の底から楽しかったと言った。それは紛れもない事実だった。最初は自分を磨くための投資は時間の無駄だと思っていた。

 だがやっていくうちに、自分が変わっていく事が楽しいと思えるようになっていた。

 

「次は真院ね」

『いやいや、もう帰ろう(りましょう)よ』

 

 本当に時間感覚を忘れてしまっている凛院だった。

 

 

「二人とも卒業おめでと~!」

 

 薄っすらと瞳に涙を浮かべながら恋菜と真院に抱き着く凛院。

 抱き着かれて気恥ずかしそうにしている恋菜と暑苦しそうにしている真院。

 真院はあの時から変わらずだが、恋菜は入学したころを知っている人からすれば驚くほどの変化を遂げている。

 眼鏡を外してコンタクトに乗り換えて、長く野暮ったかった髪をバッサリ切って肩まで整えて明るい印象を与える。何よりもどもったり俯く事が殆ど無くなり、外見だけでなく中身もイメチェンを成し遂げている。

 高校一年生の時の夏休み明けに登校した際にこれまでの野暮ったさを捨てて別人になった彼女はすっかり注目の的になったものだった。

 

「ありがと、お姉ちゃん」

「ありがとうございます、凛院さん」

 

 二人は素直にお礼を伝える。そして恋菜は気になっていた事を質問をする。

 

「そう言えば凛院は仕事大丈夫だったんですか?」

「いいのいいのオーナーに頼んだらオーケーが出たから、これでも営業成績はトップだしね」

 

 凛院はすっかりASTから足を洗って今はアパレル業界に転身を遂げていた。

 お喋り好きなのを活かしての接客、そして今では接客だけでなく辺りのエリアのいくつかを回って店舗ごとでの視察や指導を行うなど順調に出世している。

 

「高校卒業って言われてもなんか…実感ないです、こう…何と言ったらいいんですかね…大学に進学するからなんか実感わかなくて…」

 

 恋菜は高校を卒業する事に悲しみを感じないわけでは無いのだが、涙を流して別れを惜しむほど感極まったりはしない。

 小学校を卒業すれば中学校に移行する。中学校を卒業すれば高校に移行する。そして高校を卒業すれば大学に移行する。

 親に養われることどもの身分であるという身分である事実はいまだに変わりない。

 

「私は大学進学じゃなくて就職したかったんだけどなー」

「ダメよ、大学に行く選択肢があるのに行かないなんて犯罪に等しいわ」

 

 一方の真院は恋菜と違って親に養われる身分ではなく、自分の姉の収入を当てにして生活をしている。

 そもそも就職以前にアルバイトすら彼女の姉はする事を許さなかった。自分の妹にお金の心配をさせるなど凛院のプライドが許さなかった。

 既に妹が奨学金制度を利用しなくても大学卒業に十分な資金の当ては出来ている。

 

「何となくというか…二人は同じ大学に行くかなって思ってたけど、違う学校を選ぶなんてなー」

 

 凛院はふと思った事を口にする。

 仲の良い人と簡単に離れたくない、それが高校生であるなら進路選択という方法で意思表示を行うものだ。だが二人は大学も、そして文理選択も被らなかった。

 

「得意分野はどちらも違うし」

「別に学校が違うからって赤の他人になっちゃうわけじゃないですし」

「そうそう高校の三年間結局同じクラスにはならなかったし、これまでと大して変わらないよ」

 

 凛院と恋菜はそれぞれ思った事を口にする。

 二人のその意見は高校生になったばかりの頃には考えられないものだった。これまで人の関りに対してドライかつマイナス思考に捉えていたのだが、今はそんな簡単にこの関係性が無くならないと確信しているのだ。

 そうあり続けたいと願うのならきっとそれはそうあり続けるはずだ。

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