攻略が楽勝過ぎた精霊   作:高町廻ル

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本命が来る

「よー久しぶりだなぁ…御守恋菜……」

 

 ブレンダー・ラスト、彼女はかつて虚華と恋菜の前に立ちはだかった存在。

 だが名前を呼ばれた当の本人は目の前にいる相手が誰なのか、そして何故自分の名前を知っているのか、そもそも現在進行形で起きているデパート強襲、あまりにも疑問に思えるタスクが多すぎて既に脳内はオーバーヒート寸前だった。

 

「あ、あなたは……?」

「聞いてはいたが本当に覚えてねぇとはな」

 

 ただただ疑問符を浮かべる事しか出来ない相手を見てブレンダーは少しだけ失望したようだったが、事前情報として頭に入れていたのか癇癪を上げるようなことはしない。

 

「まあいい、テメエを使って釣り出せればそれでよし、出来なきゃそれまでだ」

 

 彼女はただただ自分の欲望を満たすために動くのみだった。その過程で周りがどうなろうがそんな事は些細なことでしかないのだ。

 

「ブレンダー・ラスト!あなた何をしているのよ!?」

 

 勝手に自分の中で話を成立させているブレンダーに果敢にも話しかけたのは呆然とする妹の肩を抱いている凛院だった。

 彼女は知っている。かつてあくまでも一般人でしかない恋菜を人質に取って暴れまわったことを、そしてそんな事は二度とさせてはいけないと。

 今の彼女は顕現装置の鎧を持たないただの一般人でしかなく、声をあげたところで何一つとして状況を好転させる札を持っていない。だとしても立ちはだかった。

だがブレンダーは眉をひそめて訝しげな表情を作る。

 

「はん?誰だオマエ?」

「ッ…!」

 

 だがその言葉を掛けられた当の本人は鳴村凛院という人物を覚えてはいなかったのだ。

 その事実に凛院は頭に血が上り過ぎて沸騰しそうになる。自分の事など覚える価値一つない無価値だと切り捨てられたかのようで。

 

『士道!今すぐにその人達を連れて何とか所定のポイントまで来て!フラクシナスで拾うわ!』

 

 琴里はすぐさま兄に指示を出す。とにかくその場から逃げなければいけないし、狙いが恋菜であるなら、彼女を連れて逃げればこの場から注意を逸らせて被害を減らすことが出来るのではと思ったのだ。

 

「わ、わかった!」

 

 すぐさまその意図を察した士道は行動に移る。恋菜の手を取ると鳴村姉妹に向かって叫ぶ。

 

「ついてきてください!」

 

 そう言って敵とは逆方向へと走り始める。余りに鬼気迫る勢いで指示を出されたため姉妹もまた反射的に従ってしまう。

 

「あー…アイツか…エレンの言ってた五河士道ってのは…」

 

 ブレンダーは思い出したかのようにポツリとそう言った。

 資料や人伝から聞いていた精霊の力を封印することが出来る特殊能力を持った少年。彼女からすればそこまで興味をそそられる相手では無いためそこまで気にかけてはいなかった。

 彼女の目的は御守恋菜とそれに繋がっているはずの虚華だけで、その周りの人間などわざわざ覚えたり気にかけるべき存在ではなかったため視界に入っていなかったのだ。

 今回はエレンが事前にそういう少年がいることを言ってきたために記憶に残っていただけだった。

 そして何よりラタトスクという精霊を保護するために動いている組織、つまりブレンダーを妨害する可能性の高い敵性組織がいることも聞いている。

 

(気に入らねえんだよ…どいつもこいつも…誰かの為とか偽善ぶるんじゃねえ…体裁良く周りに見せようとすんじゃねえ…)

 

 相手に対して不快指数を高める要素を見つけて苛立つが、現状一番の目的である恋菜の確保を始めるために動き始める。

 

 

「あなたっ、あれを見ても驚かないのね!?」

 

 妹の手を引きながら走る姉の凛院は士道にそう話しかける。

 だが素直に自分の身分や裏にある組織の事を口に出来るはずもない。

 

「色々とあるんです!」

「まさかDEMじゃないでしょうね!?」

「そんなはずないでしょう!?」

 

 凛院がまさか…と言った感じでそう問いかけてくるため、士道は侵害だ!といった感じで返す。あのような組織と一緒くたにされてはたまったものではない。

 そんなやり取りをしていると一行の目の前にフロアの端っこにある非常用を兼任している階段が現れる。

 

『まずはその階段で降りて頂戴』

「あの階段を降りましょう!」

 

 士道は琴里から言われた指示をそのままオウム返しする。

 だが下に降りようとするとそこで横から複数の光線が発射されて階段が消し飛ばされてしまう。

 

「オイオイオイぃ…まだまだ追っかけっこは続行だぜぇ?」

 

 逃げ道を確実に塞いでいくのは当然ブレンダーだった。その片手にはレーザーを放ったと思われる砲身を持っていた。

 

「上に行くのよ!」

 

 既に後戻りすることは出来ない、後退する道はブレンダーによって塞がれてしまっている。だとすれば取れる選択肢は階段を上るしかない。

 凛院はそこまで判断して上階に上がるように指示を出す。逃げ道が無い以上はその指示を肯定する他ない。

 まるで誘導されるかのようにじわじわと屋上へと追い込まれていく。

 

 

「屋上……」

 

 士道はポツリとそう言った。相手に誘導されているのは分かっていたがそれでも口にせざるを得なかった。

 外の屋上には小さい観覧車やジェットコースターが設置されており、その他に売店やゲームセンターなどが限られたスペースに敷き詰められている。

 デパート内にいる時は気が付かなかったが、既に外には空間震警報が鳴り響いていた。恐らくだがその理由は誰にもブレンダーの邪魔をさせない事だろう。

 

「琴里…フラクシナスがここまで来るのにあと何分かかるんだ!?」

『五分は待って頂戴!バンダースナッチ達の妨害を受けてるのよ!!』

 

 相手からの質問に琴里は焦った声で返事をする。

 この手際の良さ、どうやらDEMはブレンダーを全面バックアップする姿勢のようだった。

 

「さてさて……」

 

 焦っている一行をいつの間にか屋上の施設の屋根にのって見下ろしているのはブレンダーだった。

 

「な、何なのよっ!訳が分からないよ……」

 

 あまりにも非現実的かつ理不尽なことが起こり過ぎて真院はとうとうヒステリックを起こしてしまう。

 だがそれも仕方のない事なのかもしれない。

 これまで親が空間震によって亡くなったという過去こそあるが、基本的に世界の裏側の事など何も知らない一般人でしかない彼女の脳が受け止めるにはあまりに多くの事が起こり過ぎている。

 

「ったくよ。好きなものは取っておくたちじゃねえんだよなぁ…いらねえ回り道させやがって……」

 

 すると心の底からそう思っているのか全く読めないトーンでブレンダーは言う。そしてその場から降りて士道たちと同じ目線に立つ。

 士道は虚華や神無月の話で聞いていた悪辣非道としか言いようのないブレンダーの人物像に反して、実際に彼の瞳というフィルター越しに見た彼女の顔は思っていた以上に整った顔をしている事に気が付いた。だがその端正な顔立ちも相手のその歪んでしまった性格が反映されているのか口元や目元に歪みが生まれてしまっている。

 先ほどからずっと怯えて何も口を開くことが出来ずに震えている恋菜の盾になるように、ブレンダーとの間に体を滑り込ませる。

 そんな男らしい光景を見たブレンダーは一つ口笛を吹く。

 それは単純に実力差を理解していない相手を嘲笑う半分と自分の両親とは違う誰かの為に動くその心意気を称賛もしている。

 

「こっちは五河士道には興味ねぇんだよな。エレンやウェストコットはやたら敵対視してたが別に私はお前を狙ってねーんだよ」

 

 本来の彼女であれば一笑に付して切り捨ててしまうところだが、何か汚してはいけない尊いものを見たのかその選択肢を取らずに引く選択肢を与えた。

 だが彼はより一層相手を目付ける。

 

「だったら…やっぱり引けないんだよ…」

「ふうん?まあそう言うの嫌いじゃねえよ?そう言うムーブは物語の主人公なら百点満点だと思うぜ?」

 

 ブレンダーは決して士道のその行動自体を愚かであるとは言わなかった。彼女はレーザーブレードを構えてそのまま勢いよく飛び出してそれを振り下ろさんとする。

 その時士道の視界はまるでスローモーションのように感じた。それはまさに死の直前に見えるという、体感覚の延長というやつだろうか。

 仮に大怪我を負ったとしてもイフリートの力によって、瀕死の重傷だとしても復活する事は可能だった。だが過去に卓越した顕現装置の力をその身に受けた際に回復の力が緩慢で死にかけた事があった。

 目の前にいるブレンダーの力量がどれほどのものであるのか未知数な部分があるが、もしそれが即死間違いなしの一撃であるのなら、さしもの回復能力も通用しない可能性があった。

 

「だっ……」

 

 その時目の前で起きるであろう惨劇を予感してこれまで恐ろしくて動けなかった状態から脱した。

 

「ダメーッ!!!!」

 

 彼女の体が淡く光り出す。

 

「オマエ…それはっ…!」

 

 士道を切り裂くはずだったブレンダーの凶刃は相手を切り裂くことは無かった。刃は虚華の持つメスによって受け止められていた。

 その現象を前にしてブレンダーは驚愕と憤慨の混じった表情を作る。何故お前がその力を使っているのかと。

 

「恋菜…?」

「恋菜ちゃん…何でドクターの…」

 

 鳴村姉妹も目の前で起こった信じがたい現象に呆然といった表情になる。

 精霊の存在を知らない真院は突如として恋菜がメスを生み出して訳も分からないままに受け止めるという異常な光景として受け止められない。

 だが姉の凛院は違う、虚華の権能を知っている彼女は、ただの人間であるはずの恋菜が何故か精霊の力を扱えているという予想外の光景にただ呆然とする。

 一方のブレンダーは僅かばかり呆然としていたが、目の前に現れたそれを認めるとすぐさま距離を取る。

 かつて彼女はそのメスに掠っただけで右腕を失うという損失をしたのだ。いまだに義手を見るたびに幻痛が起こり、また寝ていてもそれによって飛び起きることもあるくらいにトラウマとなってしまっているのだ。

 彼女は考えた、そのトラウマを乗り越えるには虚華という精霊を自分の手によって排除しなければいけないと。

 

「何だオマエッ…記憶喪失ってのは嘘か…?…それともあの野郎がいやがんのか…」

 

 ブレンダーはかつて恋菜を攫った際に間違いなく人間である事を確認していたため、精霊の力を一端とはいえ扱った事実に混乱してしまう。

 

「いったいこれはどういう事?」

 

 誰もが次の一手に何を持って行くのが正しいのか苦慮していると、止まった時間を動かす起爆剤が現れる。

 その相手は士道とブレンダー、そして最後に恋菜に視線を向けてから口を開いた。

 

「何であなたがいるの…なんで恋菜を連れ出したの…士道……」

 

 怒りや悲哀、困惑すら一周回ってもう無になってしまっているのは虚華だった。

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