攻略が楽勝過ぎた精霊   作:高町廻ル

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再会

 ブレンダーはその声を忘れることは無かった、右腕を失ってからの五年間ずっと記憶と符合するその声を聞いたら迷いなく飛び掛かれるように常時シュミレーションを行ってきたのだ。

 そして今、その長年の研鑽の効果を発揮する機会に恵まれることになる。

 

「出やがったなぁ…精霊ッ!!」

 

 彼女は迷いなく虚華に向かって飛び込んでいく。

 

「邪魔」

 

 寒々しさすら感じる相手の雰囲気。

 手元に生み出したメスによってレーザーブレードの一撃を受け止める。過去にその二つが鍔ぜりあった際にはブレードの方が溶けてしまい負けてしまった。

 

「なにっ」

「もう既に対策済みだボケ」

 

 だが今回はメスによる触れた対象の現実改編能力が作動せずに、純粋な馬力勝負に持ち込まれてしまう。

 その事実に虚華は驚きを顔に貼り付け、ブレンダーにはしてやったりといった酷薄な笑みが浮かぶ。

 

「ぐふっ!?」

 

 僅かばかり時間二つの武器は鍔ぜりあうのだがその均衡が長く続くことは無く、虚華は何故か後方に吹き飛ばされてしまう。

 そして吹き飛ばされた体は施設の一つに突き刺さってしまう。

 

「あれは……」

 

 この中で唯一顕現装置に詳しいであろう凛院はブレンダーが何を行ったのかにおおよその当たりを付けていた。

 するとそこで先程聖霊を吹き飛ばした施設の残骸から声が聞こえてくる。

 

「……なるほど、サイコキネシス…念力の類か…それでメスを無力化したわけか…」

「おーおーザッツライト!」

 

 僅かに痛む腹をさすりながらも立ち上がって来る相手に対して、楽しそうに肯定を示すブレンダー。

 単純な話で、メスの改編能力は触れた相手にしか効果を得ないのであれば直接触れなければいいというシンプルな回答を見出したというだけだった。

 そもそも現実ではありえない物理法則を生み出す事こそが顕現装置の存在する意義の一つであるため、触れずに何かを起こすなどおちゃのこさいさいだった。

 だがそれだけで精霊の力を減衰、または無効化させるのは容易ではないため、それだけブレンダー・ラストという魔術師の力量が高い事の証左なのだが。

 そのやり取りを遠目から眺める事しか出来ない凛院は旋律に近いものを胸に浮かべている。

 

(精霊に対して単純に腕力で対抗出来るなんて……)

 

 ただ念動力を鍛えるだけでは精霊の単純な腕力に押しつぶされてしまう。だが目の前の魔術師は武器同士の鍔迫り合いで競り負けなかったのだ。

 

「……」

「オイオイ…もうそれは…効かねえんだよ!」

 

 ここで虚華は再びメスを取り出す。

 また再びバカの一つ覚えのように切りつけようとしていると感じたブレンダーは、苛立ちのままにレーザーブレードを構えて一直線に相手の元へと飛び込んでいく。

 

「同じ手はくわない」

 

 自分の元へと飛び込んでいく相手を見ながら彼女はそう言った。そして手に持っていたメスを地面へと投げつける。

 すると突き刺さった先から白い煙が生まれて辺り一体を埋め尽くす。

 

「げほっ…テメェ!逃げる気かぁ!?」

 

 相手の狙いに気がついたブレンダーはそう叫びながら強引に剣を振り回したが、何かに当たった手応えは無かった。

 

 

「振り切れたか…」

 

 先ほどまで戦闘があったデパートを上から見下ろす事が出来る、目と鼻の先の距離のビルの屋上に虚華はいた。

 

『……』

 

 そして彼女の側には士道に鳴村姉妹、そして恋菜がいる。

 虚華はあの場にいた全員を連れて逃げたのだ。

 皆は一様に何かを言いたげな表情をしていたが、口が考えていることに追いついていなかった。

 

「なぁ…虚―」

「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫、そこにいる彼に安全な場所に誘導してもらえばいい。彼はそういうツテを持ってるから」

 

 最初に口を開いたのは士道だったが、虚華はそれを上から塗りつぶすかのように彼を方には視線を向けずに言葉を発した。

 それを聞いた真院は小さな声で隣にいる恋菜に話しかける。

 

「そうなの?」

「さ、さぁ…?」

「えぇー…」

 

 友人からの問いかけにも恋菜は不安そうな返事しか出来ない。

 そもそも彼女は士道の事を令音という共通の知り合い越しの、田舎からやってきた少年としか認識していない為、先ほどのブレンダーの様な超常的存在に対処出来ると言われても何が何やらだ。

 するとそんな二人のやり取りを見ていた虚華は優しげにも見え、そして悲しそうとも取れる表情でポツリと呟いた。

 

「そうか…良かった…」

 

―ちゃんと恋菜の事を理解してくれる友達が出来て

 

 一瞬様々な恋菜との思い出がフラッシュバックしていた虚華だが、その空白時間に捩じ込むかのように相手の目の前に現れたのは今の恋菜だった。

 

「ッ」

「もしかして…私の事を知ってる…?」

 

 彼女は驚いて口をぱくぱくさせている相手を見ながら気になっていた質問をする。

 それは五年前からポカリと穴の空いてしまった何かだった。何故か満たされることのない空虚な感情を常に頭の片隅で意識しながら生きてきた。

 もしかしたら目の前にいる相手はそれが何なのかを知っているのではないかと何故か考えてしまった。

 

「えっ、あー…うぅ…」

 

 だが一方の虚華はそれどころではなかった。ここまで一度も他者に見せたことが無いほどに慌てていた。

 今の恋菜は昔のザ・地味といった風貌ではなく。あの頃よりも身長は伸びて、眼鏡を外し、髪はバッサリ短くして明るい印象を与える。

 己の天使の力を分けた相手だからこそ、雰囲気だけで恋菜と判断出来たのだが、そうでなければすぐには分からなかっただろう。

 いきなり別人かと思ってしまうほど垢抜けた相手を前に、さしもの彼女も中々冷静を保つ事が出来ないようだった。

事実、顔を真っ赤にして視線を逸らし泳がすことしか出来ていない。

 

『士道!もうすぐフラクシナスが到着するわ!…それにしても……』

 

 琴里は自分の兄に回収の為に今いる場所に着くことを報告する。そしてモニター越しに今現在の状況を見て興味深そうに呟く。

 

『士道と一緒に居る時よりも圧倒的に虚華の計測データが乱れてるわね……』

「うぐっ」

 

 事実をストレートに突かれて彼は小さくだが唸ってしまう。自分の時はそこまで相手はドキドキしていなかったのかと。

 モニターに映るデータに動揺が見られるという事は、手段の一つである御守恋菜を先んじて懐柔して虚華を説得してもらう作戦はやはり効果的であったという事だった。

 

「そうだ」

 

 ここまで恋菜と真正面から対峙して動揺を見せていたが、ここで一定の落ち着きを取り戻した。

 そして彼女はゆっくりと確実な口調で話し始める。

 

「私の名前は虚華、まだ恋菜が眼鏡を掛けていて髪も長かった時に友達だった」

「友達…何で…昔の私の事を……」

 

 その事実に驚愕を表情に貼り付けるのだが、そこで恋菜の頭上に光るものが現れる。

 

「あれって……」

 

 この場でそれにいち早く反応したのは凛院だった。それはかつて彼女が心を折られてAST、ひいては魔術師である事を止めてしまった原因となった精霊の主武装。

 

「なにそれ……」

「め、メス…?」

 

 真院はもう意味不明な現象のオンパレードで語彙力が消滅。

 恋菜は漫画やドラマの中でしか見た事のない医療器具の名前を口にする。だがそれが何故ここで光り輝きながら宙に浮いているのかは正確に理解出来ていない。

 

「なん……」

 

 メスが光り輝くと、恋菜からふと力が抜けてその場に倒れようとする。

 

「危ない!」

「恋菜っ!」

 

 だが地面に激突する前に凛院が慌ててその体を支える。そして一泊遅れて真院も倒れこむ友人の隣に膝を突いて寄り添う。

 倒れこんでしまった彼女の体には何一つ問題はない、ただし目を覚ましたら全ての記憶を封じ込まれてしまっているという致命的なエラーを抱えているのだが。

 

「虚華…それは……」

「別に…士道を心の底から嫌悪したわけじゃないけど…私を何とかしたいのが根底にあるだろうから…でもね…恋菜を巻き込もうとしたのは傷ついちゃうのが嫌だから…私がそれを一番嫌ってるのを想像できなかったわけじゃないよね…?」

 

 士道が何とか言葉を絞り出そうとしたのだが、やはり虚華は上からそれを被せるように言葉を重ねてくる。

 決して怒り心頭で食って掛かっているわけでは無い。自分の事を考えてあれこれ動いてくれた結果である事に対して一定の理解は示している。

 だがそのやり方は彼女の心が全面的に了承できるものではない。

 それは彼女が欲しく欲しくてやまない世界線であり、血の涙を流しながらも決別を告げたものであるのだから。

 彼女は誰よりも精霊である自分は人間という種族を傷つける以外に存在意義が無い事を知っているのだ。誰よりも人との関りを渇望しているにも関わらずにだ。

 だが士道としてもそんな風に絶望的な現実をただ受け入れる事しか出来ない、自分の存在価値をマイナスに捉える事しか出来ない事実を受け入れさせるなど到底容認など出来ないのだ。

 

「そんな事は無い!精霊だからって人と一緒に―」

 

 だがそこで士道たちは光に包まれて、その体は浮遊感に包まれ始める。それはフラクシナスのテレポート技術であり、それを使って四人を安全な戦艦内へと連れて行こうとしているのだ。

 だが精霊である虚華は纏っている霊装の力なのか、テレポートの力を自分に対する敵対的行為として判別しているのかその力を弾いていた。

 

「気にする必要はない。彼女は私がキッチリとケジメはつける」

 

 宙に浮いて戦艦に収容されている相手にそう言って、目下のデパートで暴れているブレンダーに視線を向ける。その表情を穏やかさや優しさを殴り捨てた、敵は必ず倒すという確固たる氷の意思があった。

 

 

「よぉ…逃げたんじゃねえんだな…これ以上隠れるってんならこの辺一帯のビルを根こそぎ破壊して炙り出そうとしてたんだがなぁ」

「ここで恋菜を襲う災いの芽は摘んでおこうと思ってな。これは五年前の私の甘さが残してしまった遺恨だ」

 

 虚華は相手の挑発にも一切乗る気は無く、虚華はただ淡々とこれから起きる現実を予告する。

 五年前に恋菜を人質にとった一件で、彼女は相手の右腕を喪失させた。だがやろうと思えばあの時に相手の命を奪う事は可能だった。だがそれをしなかったのは、それをしてしまえばきっと恋菜が悲しむだろうと思ったからだ。

 だが今の彼女を抑えてくれる心の防波堤は存在しない。

 一方で挑発したはずが逆に挑発し返されたことで、沸点の低いブレンダーはすぐさま熱くなってしまう。

 

「てめっ…舐めるなぁっ!!」

 

 レーザーブレードを構えてそのまま一直線に飛び込んでいく。

 その攻撃を相手は受けるのではなく紙一重のタイミングでかわしていく。先ほどの僅かな手合いで武装のレベルを把握して、魔術師として現在の力量をしっかりとアップデートを完了させていた。

 

「チッ…学習済みってわけかよ…」

 

 一度痛い目を見たためか虚華は真正面から斬りあうような事はしない。

 五年もかけて技量を上げて、新たな武装を用意したというのに既に相手はそれに合わせてきていた。

 とはいえ新たに得た力である念力の力は、相手から反撃ではなく回避という選択を強制させる程度には効果を発揮させていた。お互いに必殺の選択肢があれば後は戦闘経験と日ごろの特訓の成果がモノを言う事になる。

 まだまだブレンダーが勝てない、敗北が確定したというわけでは無い。メスの直撃さえ受けなければ致命傷にはならないのだ。

 

「どうやら勘違いしているようだな」

「はぁ?」

 

 虚華からいきなり告げられた一言に怪訝そうな表情になるブレンダー。

 バカにしているわけでもなく、ただ淡々と事実だけを述べているだけだった。

 

「メスを防げばいつかは私に勝てると思っている事だ」

 

 勘違いといった言葉を補足するようにメスを生み出しながら彼女は言った。

 相手の行動を見て鼻で笑いながらブレンダーは言う。

 

「メスはもう効かねえよ」

「かもしれないな」

 

 相手のその言葉に乗っかることなく言われた事を素直に肯定する。事実として防いだため、ムキになって何度も挑むのは賢い選択肢ではないのだろう。

 まるで今のままでは勝てないと白状しているかのようでブレンダーは気味の悪そうな顔をする。

 

「何だよ気持ちわりぃな…」

「いいか、この力は相手を切りつけるだけにしか使えないわけじゃない。こういう使い方もある」

 

 右手に持ったメスを何も持っていない左の掌に添える。そして一切の躊躇い傷を残さない勢いで振りぬく。

 彼女の瞳の白い部分がまるで侵食されているかのように黒く染まっていく。

 

「覚悟は出来ているか?」

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