攻略が楽勝過ぎた精霊   作:高町廻ル

7 / 36
何故か好感度が高い

 どんなに心を乱されたとしても世界を救うデートは士道の意思とは無関係に続行される。

 今二人がいるのは一回に食品販売フロアがあるようなオーソドックスなタイプの複合総合施設、いわゆるデパートというやつだった。

 相手が何を好んでいるのかが分からない以上は冒険するよりは、取れる選択肢の多い場所をチョイスするのが無難な選択肢だと思ったのだ。士道はそう考えて相手に切り出す。

 

「取りあえずぶらつこうか」

「そうだね、気になった物を見つけたら足を止めよっか」

 

 彼女もまた別段デート自体に何かをしたいという目的を持っているわけでは無いためそれに乗っかる。

 あてどなくぶらついていると彼の目にケーキ屋さんが飛び込んで来てつい足を止めてしまう。

 

「どうしたの?」

「え?ああ、いや。みんなのお土産にどうかなって…あ……」

 

 相手の何気ない質問に彼はうっかり口を滑らせてしまう。

 封印関連が主目的とはいえ男と女が一対一でデートをしているというのに、別の女の子の事を考えていましたなど絶対に口にしてはいけないだろう。そんな事は琴里に注意されるまでもなく分かっていた事だった。

 虚華は相手にそう言われて閉口している。

 

「…………」

「いやあのだな……」

 

 彼は慌てて弁明を図るのだが一度行ったことは無かった事には決してならない。

 

「精霊の皆はどういうケーキが好きなのかな?」

「へっ?」

「皆の分って事は結構かさばっちゃうね。運ぶのどうするの?」

 

 虚華は士道の傍まで寄って、屈みながらお店のショーケースに並んでいる色とりどりのケーキたちをじっくりと見ている。

 相手は目の前の自分よりも優先して考えている人たちがいますと言外に伝えられても一切不機嫌になるわけでもなく、むしろその話題に乗っかってきたのだ。

 

「いやだな、さっきのは……」

「別に士道はいつでもたくさんの人達を大切にしているってだけでしょ?だから精霊と交渉するなんて危険なことが出来るんだよ。きっとそれは短所じゃなくて長所なんだから誇っていいんじゃないかな」

 

 彼女の全てを分かったうえで行われる優しいフォロー。だがその優しさが強ければ強いほど心苦しくなってしまう。

 

「でも虚華とデート中なのに……」

「いいっていいって別に悪気があったわけじゃないんだから。そんな謝ってる時間よりも色々なものを見て楽しみたいな」

 

『シン、彼女の言葉に嘘は無いよ。本気で多くの人の事を、そして精霊の事を考えている君に感心しているんだ。事実として彼女の君への好感度は上昇しているよ』

「…………」

 

 インカムから入ってくる令音の情報。それは彼にとってマイナスになる要素が一切ないものだった。

 

「…そうだな」

「そうそう、ラタトクスと何を話していたのか分からなかったけど気を取り直そう」

 

 相手が気にしていないというのであれば、それを何度も掘り返して謝ろうとするのはかえって不機嫌にさせるだけだろう。

 

「ちなみに十香が好きな味はな―」

 

 士道は相手からの質問に素直に答える事にした。

 彼は自然と精霊たちの話題になると饒舌になった、それを虚華は嫌がることなくニコニコと相槌を打ちながら聞いていた―

 

 

「それでなー」

「うんうん」

『って士道!いつまで他の女の子の事で話し込んでいるのよ!?』

「……はっ!」

 

 いつの間にか目の前の相手を押しのけて封印された精霊の趣味趣向や出会いまで色々と話し込んでしまっていたのだ。いくら相手がそれを容認したとしても流石に限度を超えてしまっているだろう。

 

『ですが好感度は特に問題ありませんね…僅かずつですが好感度は上昇傾向にあります……』

『それはそれで問題よ…いったい虚華はこのデートのどこに魅力や面白さを感じているのよ……』

 

 オペレーターの一人からの報告に琴里は頭痛を堪えるように唸る。

 仮に好感度が振り切れている琴里であれば、そんな士道の人柄であっても受け入れる事も出来たはずだ。だが殆ど友誼を結んでいない虚華がこうもあっさり彼の人柄を受け入れているのは違和感があるのだ。

 だが違和感の正体を掴もうとしている間もデートは進んでいく。ただし順調とは言い難いのだが。

 

「…………」

 

 ケーキ屋の店員がこの二人はいったい何をしているんだという風な感じで見てきていたのだ。

 一見すれば仲の良いカップルに見えなくはないのだが、二人の間でかわされる会話の内容は別の女の子の事ばかりなのだ。一体何がしたいのだと思われても仕方のない事だった。

 

(話に乗っかってくれてるけど流石にこれ以上は……)

 

 これ以上は男として色々とダメな気がしてきた士道は話題の変更を図った。

 

「ケーキは取りあえずおいといてさ、他のフロアも見てみないか?」

「そうだね」

 

 相手の提案に嫌な顔一つせずに乗っかる虚華。

 相手がどんな失態やミスを犯そうがそれを笑って受け流すなり、それもまた相手の個性だと受け入れる構えだった。

 その場からそそくさと離れて上の階に繋がるエスカレーターを上がっていく二人。

 

 

「あのネックレスとかどうだ?」

「うーん…そうだねー……」

「もしかして気に入らなかったか?」

「そういうわけじゃ……ごめんね、ちょっとゴテゴテしていて嫌い」

「…そうか……」

 

 様々なテナントを見て話題を振るのだが相手の食いつきはイマイチだった。

彼の知っている彼女のパーソナリティ情報は殆どないため、どうしても手さぐりになってしまうのは致し方のない事とはいえ焦りが生まれてしまう。

 これまでのデートであれば少なくともそうだったのだが、今回ばかりは毛色が違った。

 

『こんなに情けない姿を晒しているのに好感度が中々下がらないわね…事前に封印には士道への好感度が高ければ好ましいと説明はしたけど、ここまで好感度を上げていてくれるとはね……』

(ほんと…何でなんだろうな)

 

 フラクシナスのAIに搭載されている演算装置によって割り出された情報では、封印に必要な数値までもう少しというところまで来ていると結論が出ている。

 これまでの精霊とのやり取りでは考えられなかったパターンに困惑しかなかった。

 そんな事を考えているとふと目に入った物があった。

 

「これは…?」

「ん?」

 

 その店は生活雑貨を取り扱っていた。彼の目に留まったのはフライパンだった。

 前に魚が焼きにくかったため新しいものを買わないとと考えていたのだが、新たな精霊の発生によってそれどころではなくなったため保留にしたままだったのだ。

 何かを気にした彼の仕草を瞬時に読み取った彼女は当然のことに質問をする。

 

「どうしたの?」

「んーいや別に…」

「嘘。何か気になったんだよね?教えてよ」

 

 誤魔化そうとしてもそれを一切許す気は無いらしく再び問いかけていく。

 

「いやさ、家のフライパンが少し焼きにくくなってた事を思い出したんだ」

「士道って料理作れるんだ。凄い」

 

 彼女は家庭的な一面を見せた相手を素直に賞賛した。だがその賞賛も彼からすれば特別なことではない。

 

「うちは親が不在がちで自然と自分でやるようになっただけだよ」

「……そっかー」

 

 虚華はその相手の返しに何とも言えない表情になった。

 それを見て彼は親がいないために上達したというのはプラスとして捉えられにくい事だと気が付いた。

 話をこれ以上深刻化させない為に慌てて弁明を図る。

 

「家にいなくても家族は家族で揺るがないし、料理を作るのも食べてもらえるのも嬉しいし楽しいんだ」

「…?…あ、そうか…別に士道がそれに負い目を感じていないならいいよね」

 

 相手は何やら勘違いをされていた事に気が付いたようで話を合わせて来た。

 士道は何やら逃してはいけない小さな綻びを察知してその事について問いかける。

 

「虚華、一体―」

「そうだ折角だからここで買ったらどうかな」

「え?」

 

 あまりにと唐突な提案に一瞬思考が停止してしまう。それはあまりにも予想外過ぎた発言だった。

 返答に困っている間にも彼女はお構いなしに言葉を繋いでいく。

 

「今思い出したわけだしいいんじゃないかな」

「デート中なのにそんな…」

「デート中なのに他の女の子の話題を出しておいて今更じゃない」

「ぐっ……」

 

 そう言われると弱ってしまうのは士道側だった。相手からしても男がデート中に他の女の子の話題を出すべきではないと思ってはいたのだ。

 しかしその指摘をしている相手は本気で咎めようとしているわけでは無く、あくまで軽めにいじっているという感じだった。

 

『何やってんのよ…本当に……』

 

 ただただ琴里の呆れた声がインカム越しに伝えられた。

 

 

 ぶらついていた彼の視線にふと入ってきたのは本屋だった。

 思い出されるのは二亜の漫画のタイトルやペンネームを把握していた事だった。

 

「そうだ、虚華って漫画とか読んでたんだよな」

「うん、色々と切っ掛けがあってね。そう言えば二亜さんの漫画の続きが気になるなー」

 

 色々との部分が気にはなったものの、ここでいきなり踏み込んでしまうのはあまりにも距離を詰め過ぎだと思って突っ込まない。相手もまた突っ込まれたくないのか話題の変換を図っていた。

 本屋の中に入るとすぐさま出入口にて二人を待ち受けていたのは大人向けの雑誌だった。

 

「ッ」

「?あ、へー」

 

 それが目に入って強く顔を逸らしてしまった士道を見て虚華は面白いものを見たという顔をする。

 そして彼が視界にとらえた雑誌を取って口を開く。

 

「いや士道もやっぱり男の子だなぁって…あんなに女の子に囲まれているのにこういうので照れちゃうんだね」

 

 ニコニコとしながら雑誌片手に彼をいじってくるのだが、女の子が大人のプロレス本(男向け)を持って話しているという破壊力抜群の構図に、健全な男の子である彼は顔を真っ赤にして口をパクパクとしてしまう。

 

「んなっ!お、女の子がそんなことしていいのかよ!?」

「ん?だから士道は夢見すぎだって女の子もわりかし興味津々だったりするんだよ?」

「そ、そんな…」

 

 またもや衝撃の一言、彼の中にある優しい幻想がどんどん崩れていく。

 それと同時に周りの客たちは騒がしい二人のやり取りを微笑ましく感じる人もいれば、迷惑そうに嫌な顔をしている人もいた。

 

『さっきから何呆けてんのよ!好感度はある程度いい線行ってるから自分からアタックしなさい!』

「あ、アタックか」

『手の一つでも握りなさい、今の好感度なら拒否される事は無いはずよ』

 

 インカム越しから送られてくる琴里からの指示。

 士道が驚いたのはアタックしろという指示よりも、手を繋いでも拒否されないほどに好感度が上がっている事だった。正直今回のデートでいい所を見せれていたとは言い難かったからだ。

 だが悩んだり怯んでばかりもいられないため切り出していく。

 

「その本はいいからさ、取りあえず中に入っていこう」

「!」

 

 そんな言葉と共にさりげなく相手の手を握って引いていく士道。

 虚華は一瞬驚いて体を固くしたのだが、すぐさまその手を握り返す。ラタトクスの演算通りに拒否をされることは無かった。

 手を引いて二人が向かった先は雑誌コーナーだった。そこには二亜の描いた漫画が載った雑誌が置かれていた。

 彼女が思い出したのは二亜と呼ばれる女性が漫画家であると自称した事と、周囲の人達は一切否定しなかった事だ。

 

「本当にあの人が本条蒼二なんだよね」

「間違いないぞ。俺も前に生原稿を見せてもらったからな」

「それはまた羨ましい」

 

 彼女の口からそんな言葉が出ると士道はその場で思った事を提案した。

 

「今度時間を作って仕事場に入れてもらえるように頼もうか?二亜も虚華の事気に入ってたっぽいし」

 

 二亜はよほど機嫌が悪くなければ士道わ精霊のお願いは聞いてくれるだろうと思ったのだ。何より漫画のファンであろう相手を蔑ろにはしないと思ったのだ。

 だが読者からすれば誰もがお金を払ってでも行きたい聖地、そして血の涙を流すほど羨むであろうその提案に対して虚華は少しだけ難色をした。僅かながらではあるが握っている手が汗ばんで力が入っている。

 

「うーん…まぁそれはいいかな…素人がズカズカ入っちゃいけないだろうし……」

「何か嫌なことを言ったか?」

「いや嬉しいしそうじゃないんだけど…さ…色々と思うところがね……」

 

 相手は珍しくバツの悪そうなリアクションを見せた。

 そんなやり取りをモニターしている琴里から指示が入る。

 

『士道、虚華の数値が少し揺らいでいるわ。話題を変えるのよ』

「他にも本を探そうか。もしかしたら面白いやつとかあるかもしれないし」

「色々と知らない漫画とかあるかも」

 

 話題の変更に助かったといった感じですぐさま相手の提案に虚華は乗っかった。

 

 

 二人はある程度ぶらついてから、一休みを入れる目的と食事の為にファーストフードの店に入った。

 

『あ、こんな新しいハンバーガーが発売していたんだ、チャレンジしよ。○○バーガー一つで、後ポテトにコーラで』

 

 そんな中、士道やラタトクスの目を引いたのは虚華が特段詰まるわけでもなくあっさりと注文をした事だった。

 そんな相手は席に座ると包を開いてその小さな口で美味しそうに頬張り始める。

 

(どんな切っ掛けがあって虚華はこんなに街や人に慣れたんだろうな……)

 

 彼もまたハンバーガーをくわえながらも、相手の顔を見ながらそんな事を考える。

 

『だっておまえも、私を殺しに来たんだろう?』

 

 彼の脳内には人間という存在を最大級に警戒するかつての十香の姿があった。

 だが一方で彼女の対人関係に関するスキルは、ちょっといたずらっ子ではあるもののごく普通の高校生と比べても特段不自然さは感じないものだった。何なら今の十香の方がまだ不自然さを感じるくらいだった。

 そして何よりもこのデートを異質であると感じたのは、これまでは士道やラタトクスが精霊をもてなす客人を扱うような関係性が殆どだった。

 しかし虚華は士道の好きな事や気になった事を積極的に話題にしようとしていたのだ。

 本来であればデートというものは一方的に相手が尽くすものではなく、お互いがお互いに尊重して楽しむために、二人で考えあって楽しい時間と空間を作り上げていくものだ。

 虚華は多少は雑な面があるとはいえ基本的に自ら率先してデートを盛り上げようとしていた。

 

「……?…私の顔になんかついてる?」

「え、いやそうじゃなくてな」

 

 どこまで聞いていいのか彼にはその線引きが分からなかった。基本的にフレンドリーとはいえ何が切っ掛けで今の好感度が下落するかも分からないのだ。

 虚華は士道の顔を見て何かに気が付いた。

 

「あ、士道の右の方にソースが付いてる」

「え、本当か?」

 

 相手からの指摘に慌てて左手で唇の右側を拭う。だが触れた手にはソースの感触が無かった。

 

「あ、ごめん自分から見て右だから士道からだと左側だった。てか手で拭っちゃうから油でむしろ汚れちゃってるし……」

 

 苦笑いをしながらも椅子から軽く立ち上がって、用意されていた紙のふきんを右手に持って彼の汚れている左頬を拭い始めた。

 相手は無自覚なのか顔をグイッと近づける、士道の視界いっぱいに広がる虚華の顔。

 

「ッ」

 

 視界いっぱいに広がる美貌、それが少しだけ照れくさくて顔を逸らそうとするのだが、

 

「拭きにくいから顔動かさないで」

 

 彼女はそう言って左手を士道の顔に添えて動かないように固定をする。よって視線を逸らして逃げることが出来ないのだ。

 よって両頬を綺麗にするまで悶え死にの刑確定だった。インカム越しに琴里の溜息が聞こえた気がしたがそれは耳には上手く入らなかった。

 

「…………」

(え…?)

 

 虚華は彼の顔を拭きながらも少しだけ懐かしむような悲しむようなそんな微妙な表情を作っていた。

 また一つ彼女の謎が増えてしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。