IS~インフィニット・ストラトス~ Re:交わる物語 作:ダメ野良犬だったもの
IS学園の学生寮に着いた黒崎は片手を制服のポケットに突っ込みながら、もう片方の手で渡された鍵の番号と扉に記載された番号が一致するか見比べながらゆったり歩いていた。
彼の姿を目にした女子生徒は「きゃっ!」と黄色い声を上げて部屋の中に引っ込むか、複数人で話をしていた生徒は遠巻きに彼を見て何やらヒソヒソ話し合っている。
「――――――おっと此処か」
[1035]と書かれた扉の前に立って鍵穴に鍵を差し込むが既に鍵は開いていた。
(と、いう事は…)
ドアノブに手を回さず、鍵穴から抜いた鍵を指で挟んで握り拳を作る。
コンコンコンコンッ!と4回ドアをノックしてから中にいる筈の同居人の反応を待つ。
IS学園の学生寮が二人一部屋だという事は事前に把握している。
最初はもう一人の
余談だがドアノックを3回ではなく4回にしたのは同居人がまだ見知らぬ相手である可能性を考慮してのビジネスマナーに則った判断であるという。
前世で連邦軍兵士だった時に、誤って上官の部屋のドアを3回ノックした結果「お前と親しくなった覚えはない!」と怒鳴られて只の報告ついでに小一時間ありがたいお説教を食らった苦い記憶があった。以来、彼はその辺りの礼儀作法にそこそこ気を遣っていた。
…普段の生活態度は酷いから相手にどう見られていたかは謎だが…
「はーい、どなたですか~?」
「すいません~この部屋を使わせて貰う予定の黒崎で~す」
「く、黒崎君!?ちょ、ちょっと待って――――――!」
(あらまぁ、同居人が彼女とはねぇ……)
部屋の中から帰ってきた声はクラスメイトのヴィシュヌのそれだった。
最初はのんびりのした口調で答えた彼女も、ルームメイトが黒崎になるとは聞かされていなかったのか焦った様子で部屋の中をドタドタは知っている。
(乙女のプライバシーに触れるべからず。注意一秒、怪我一生ってね)
2、3分が経過する間、黒崎は扉と反対側の窓際に歩いて足元へ荷物を下ろし、窓に軽く寄り掛かって腕を組みながらヴィシュヌから声が掛かるまで目を瞑って待っていた。
その間に物音を聞きつけて何事かと隣部屋の女子生徒達が扉を開けて顔を覗かせると、廊下に立っていた黒崎の姿を目にして驚きの声を上げながら彼と反対の位置にある部屋番号を見て騒ぎ出す。
「えっ!あ、あれって二人目の男の子!?」
「もしかして黒崎君、あの部屋なのかな!」
「確かあそこってさっきタイ代表候補生のギャラクシーさんが入っていったよね!?」
「いいなぁ~!」
(おいおい、乙女がそんな恰好で男の前に出るもんじゃないぞ…と?)
スッ目を開けて黒崎はほぼ下着の女子達の姿を見て心の中で「眼福、眼福」と呟きながら表情にはそれらしい下心を出さず、ひっそりと心の清涼剤代わりにしていた。
やがて正面の扉がスッと開いてヴィシュヌが顔だけ覗かせて口を開く。
「……いいわよ、入って」
「ん、ありがとさん」
黒崎は荷物を手にヴィシュヌが扉の前から数歩下がってから中に入る。
廊下より少し明るさは落ちるが落ち着いた雰囲気のする室内で荷物を持ったままの黒崎と困惑と焦りが入り混じった表情のヴィシュヌは向かいあった。
「…どういう、事なのかしら…貴方が同居人って」
「俺もさっきアリーシャ先生に鍵を渡されただけで何も知らなくてな。同居人はてっきりもう一人の野郎と一緒だろうって思ってたんだけどな…まさかヴィシュヌと一緒とは思わなかったよ」
「普通あり得ないでしょ…!赤の他人の男女が同じ部屋で生活するって!?」
「そりゃ御尤もだ。今から寮長にでも直談判しにいくか?」
黒崎の言葉にピシッとヴィシュヌの動きが止まった。
二人とも知っているのだ、この学生寮の寮長が誰なのかを…
織斑千冬、一年一組の担任教師であり世界最強のIS操縦者、彼女は寮長も兼任しているのだ。
恐らく今頃はもう一人の男子も同室の女子と何故どうしての騒ぎを起こしているだろう。
しかし学園側から何も告知がない以上、既に決まっていた事だと考えるのが自然。
そんな学園の決定に一個人が部屋割り如きで異議を唱えるのは如何なものか?
「……いいえ、それは止めておくべきね……」
「ん、懸命な判断だな」
風の噂で織斑千冬が厳格な女性であると知っている二人の脳裏に過ぎったのは怒りの雷。
それが鉄拳制裁という名目で自分達の頭上に落とされると分かっているなら回避するだろう。
諦めた表情で肩を落としながら、ヴィシュヌは再び黒崎と向き合った。
「夕食まで時間もないし、今の内に同じ部屋を使う者同士で線引きをしましょう?」
「あぁ、賛成だ。荷物はどっちに?」
「私は手前のベッドを使うつもりだから、貴方は窓際でいいかしら?」
「オッケー。…んでこれを、こうすれば、とりあえずよし…と」
そう言いながら窓際のベッドに荷物を置いた黒崎はベッドの間にある仕切りを展開する。
女子同士でも他人に着替えを見られたくないという子の為に配慮して設置された仕切りでお互いの私的空間を確保出来たことでヴィシュヌがホッと息をつく。
ふと黒崎はヴィシュヌの髪が濡れているのに気づいて申し訳なさそうに言った。
「…こういう事は聞かないのが吉ってものかもしれんけど敢えて聞いておくよ…ヴィシュヌ、お前さん…ひょっとしてシャワー浴びてる最中だったか?」
「………ッ!!」
心臓がドキリと高鳴って、直後ヴィシュヌは真っ赤な顔で黒崎を睨みつけた。
慌てて彼も苦笑いを浮かべながら両手を上げて降参のポーズを取る。
「あぁ悪かった、それを聞いて邪な考えを巡らせるつもりはないんだ。ただ、もしそうだったとしたら既に俺は君の
彼女はジャージ上下で身体を隠しているが、髪から水滴が僅かに滴っていた。
更に出口の脇にあるシャワールームから点きっぱなしの灯りを彼の目が捉えている。
状況証拠から推測で何となく口にしたのだが、乙女のプライバシーを侵害したらしい。
一発叩かれても仕方ないと彼は静かに目を瞑るが…
「…別に…気にしてないから。一々そんな事を聞かないで頂戴」
ほのかに朱色が差したままの顔でそっぽを向きながらヴィシュヌはそう答えた。
彼女が横を向いて僅かに髪の内側がうなじに張り付いているのが見える。
そっちにばかり気を取られてはいけないと思いつつも見てしまうのが悲しい男の性。
黒崎はやや声のトーンを落としてヴィシュヌに向かって頭を下げる。
「そうだな…いや、俺が悪かった。デリカシーのない質問だったよ、次から注意する」
「…分かってるなら、いい」
それから二人は少しギクシャクしながらも、生活のルール等を決めることになった。
シャワーはヴィシュヌ優先、トイレ使用は緊急時以外黒崎は極力使わない。
下着の着替えなどは黒崎が必要に応じて別室(男子用トイレ、更衣室など)で行うこと。
殆ど黒崎が蔑ろにされているような取り決めだが、提案したのは当の本人である。
当初はヴィシュヌも「流石にそこまで気を遣わなくてもいいのに…」と言ったが、彼が「男ってのは何かの拍子にとんでもないラッキースケベに出くわしちまう星の下に生まれてきたのさ。だから事前に距離を置かないと何かあってからじゃ遅いんだ」という訳の分からない持論に押し切られてやや不満はあるものの、それ以上の妥協案も浮かばず一先ず決定となった。
そんなこんなで陽もすっかり落ちて夕食の時間になった。
「それじゃ飯だから、俺は先に―――」
*
ヴィシュヌの入浴の続きを邪魔したら悪いだろうと黒崎は足早に制服姿のまま部屋を出る。
一人残されたヴィシュヌは暫く男子と同じ部屋になった事実に項垂れて本国を通じて事前に連絡しなかったことへの文句の一つでも言ってやろうかと考えていたが、些細なことで国際問題になりかねないと即座にその考えを捨てた。
彼の足音が遠ざかったのを確かめ、ヴィシュヌはシャワールームへ戻りジャージを脱ぐ。
ジャージの下はスポーツブラとパンツだけしか身に着けてなかった為、会話の最中は黒崎の視線が時折自分の体に向けられていないか気が気じゃなかった。
しかし彼はあのデリカシーのない発言を除いて終始、紳士的な対応を崩さなかった。
(…まさか、同居人が彼だなんて…)
下着を脱いでジャージ上下と共に洗濯籠の中に放り込んでヴィシュヌはシャワーを浴びる。
周りの女子生徒に比べ、彼女の体つきは十代半ばにしては少々立派過ぎるものを持っていた。
更に彼女が趣味で幼い頃から始めたヨガのお陰か、太腿周りが引き締まって美しいのだ。
故郷では時折、そんな彼女の体つきを下心丸出しの目で見て来る男もいたわけで…
(…何もなければいいのよ…何も…)
いざとなったら彼には申し訳ないが蹴りの一発を食らわせることになるだろう。
そうならないように彼女は今後の生活態度をより一層引き締めて正そうと決意する。
鏡に映る彼女の頬がまだほんのり赤いのは…きっとシャワーが熱いからだと願いたい。
ナニとは言いませんが現時点でのキャラの比較(適当)
箒≧山田先生>ヴィシュヌ、束、のほほんさん>千冬≧セシリア、更識(姉)>>>シャルロット>>>(越えられない壁)>>>黒崎>>鈴、ラウラ>>>一夏
アーキタイプキャラが出る度にこの中に組み込まれていくという下二人女子にとっての地獄絵図