IS~インフィニット・ストラトス~ Re:交わる物語 作:ダメ野良犬だったもの
早朝のIS学園、黒崎は携帯で設定したアラームが鳴る五分前に目を覚ます。
同室のヴィシュヌがまだ眠っている事に気づいて、そっとアラーム設定を切る。
それからあまり音を立てて彼女が目を覚ましてしまわないよう、敵地への潜入任務を遂行する某段ボール蛇の如く、静かに素早く着替えを済ませて部屋の外に出た。
(精神的におじさんでも、肉体は成長期真っ只中の男子高校生だ。今から身体を仕上げておかねえと、いざって時に立てねえ動けねえ戦えねえじゃ話になんねえからな…)
学生寮から校舎まではかなり距離がある。
運動靴の紐を結び直し、いざ走り込みと彼が一歩を踏み出そうとした時―――
「ほう…朝から自主的に走り込みか…その心掛けは感心するが、もう少し自分が置かれている立場というものを考えておくべきじゃないか?二人目の操縦者、黒崎狼」
背後から聞こえてくる凛とした声に、黒崎は足を止めて振り返る。
白を基調としたジャージ姿。黒い髪を後ろで一纏めにして腕を組み、鋭い目つきは相対したものを震え上がらせる戦国武将を彷彿とさせる威圧感を放っていた。
「むっ…このクール&ビューティーかつボーイッシュな低温ボイスは聞き覚えがありますねえ。ISを主題にしたテレビ番組で貴女の名前を度々耳にしていましたよ。世界最強のIS操縦者に贈られる唯一無二の称号ブリュンヒルデを名乗れる
織斑千冬、その名前をIS界隈で知らない者はいない。
IS操縦者の強さを決める世界大会モンドグロッソ初代優勝者。
現役を引退しIS学園で教鞭を取っている事は黒崎も知っていた。
「初対面の相手に随分とふざけた返しをするものだな。…その通り、私が織斑千冬だ。一組の担任だがお前の事は知っている。学生寮の寮長もやっているのでな。…あとブリュンヒルデと呼ぶのは止めろ、私はもう現役を引退して久しい」
「はい、仰せのままに。…それで、俺の立場ってのはこの学園という名の外界から遮断された檻の中に閉じ込められた哀れな
「どちらに取るのもお前の自由だが、私はそんなつもりで言ったんじゃない。ただ教師として生徒の安全を保障しなくては責任問題になるのでな、面倒を起こされる前に釘を刺しておいただけだ」
「成程ですねえ。いやはやどんな時代も管理職ってのは大変だ…」
「知った風な事を言うなよ未成年。そういうのは社会出て働いてから言うものだ」
「…ですかねえ。(もう働いてんだけどなぁ…軍人として一生分…)」
話している間に彼女は内心、黒崎という青年に純粋な興味を抱く。
弟や弟の友人達とも違う、まったく新しい年下の雰囲気になんとなく惹かれていた。
一方で黒崎は何を考えていたのかというと――――――
(…正面から見ても分かるくらいデケェなこの人…ジャージ脱いだらさぞ…)
そんな下世話なことを考えていたが、これ以上先を考えると青少年特有の朝の生理現象が強制的に起こってしまい、それを目にした彼女がどんな行動を取るのか想像に難くない。
股がヒュンとなる感覚を覚え、早々に考えを切り替えた。
「――――――それじゃ生徒の安全を守る為に、今から走り込みとかどうですか先生?生徒と一緒に青春の汗を流して、気持ちのいい一日の朝を迎えるっていうのは…」
「フム…そうきたか。…いいだろう、お前のペースに合わせてやる」
「そりゃどうもご親切に」
千冬はこの後、余裕綽々だった自分の発言を撤回する事になる。
海鳥が鳴き、波が防波堤へと打ち付ける音に混じり、二人分と走る足音と息遣いだけが互いの世界を満たしていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……おい、いつまで……走るつもりだ!」
「フッ、フッ、フッ……ん~もうちょいですかねえ」
「ハァハァ…お前への認識を…改める…必要がっ…あるなぁ…!」
走り込み開始から三十分が経過していた。
既に千冬は汗だくになってジャージの上着を芝生の上に投げて捨てている。
走るペースは一定を保っているものの、両足と肺が悲鳴を上げていた。
対する黒崎は汗をかいているものの、涼しい表情でペースを保っていた。
「それじゃラストスパートは、全力疾走でッ!!」
「なっ!?く、このぉ……ッ!!」
地面を強く蹴って加速した黒崎が千冬より数歩前へと出た。
驚き目を見開いた彼女も歯を食いしばり己の体に鞭打って加速する。
織斑千冬が世界最強の人間であると信じて疑わない妄信的なファン達が見れば発狂するだろう。世界最強の操縦者といえども、全盛期から衰えつつある二十代半ばの女性が、成長期で常にトップギアを出せる十代の青年に勝てる道理はなかったのだ。
…無論、彼はただの青年と呼べるような存在ではないのだが…
「ほいゴール…って、うおっ!?先生大丈夫ですか」
「ハァハァ…心配など……不要だ。ハァ…」
黒崎と千冬の差は足の爪先の差で数センチ、前のめりの状態で胸だけなら彼に並んでいる。
だが全力疾走で完全に体力を使い果たした彼女に対し、彼はまだ余裕がありそうだった。
「いやいや普通に心配しますって、そんな真っ赤な顔して…」
「はぁはぁ…っ…ふぅ…たわけ。日頃の運動不足が祟っただけだ」
「そーですか。…いやぁそれにしてもいい汗かいたぁ…お付き合い頂き、ありがとう御座いました織斑先生。俺は着替える前にシャワー浴びに部屋に戻りますんで…」
「……あぁ、朝食は七時半までだ。遅れるなよ」
「了解であります。それでは――――――」
一礼して寮の中へと戻っていく黒崎を見送って、千冬はベンチに腰を下ろす。
息を整える間に、吹き抜ける春の海風が熱の籠った体を冷やしてくれる。
彼女は暫く信じられないものを見るように空を仰ぎ見ていたが―――
「……ふっ、はは…っ!ははははっ!」
久しぶりに全力というものを出し、なおかつ負けてしまった揺るぎない事実。
それが悔しいというよりも
世界最強等と煽てられていようと自分は只の女。
「黒崎…狼か……」
最初はただ何となく親友の仕組んだ面倒事の種だと思っていた。
だから何か裏があるんじゃないかと思う反面、アレに振り回されてるだけの只の可哀想な奴だったら、傲慢かもしれないが少しくらいは助けてやろうとも思った。
それがまさか、失いつつあった競争力に火をつけるとは…
「覚えておこう。お前の事を……」
千冬にとって面倒事ばかりの教師生活が、少しだけ新鮮な色を取り戻したように思えた。
*
「……あーヤバかった……マジでヤバかった」
自室に戻り、速攻で制服と着替えを手にシャワールームへと籠った黒崎。
同居人のヴィシュヌに配慮する為にドアの前にはノートの切れ端で「入浴中の為、要注意!」と書いて貼っておいたから問題はないだろう。
頭からぬるま湯のシャワーを浴びながら、彼は千冬の姿を思い出していた。
この学園に来てからというもの、歳の差が離れすぎた少女ばかりで性欲が反応するかもしれないが反応したら負けな気がするという事でずっと我慢していた。
担任のアリーシャは…まぁ美人かもしれないが、彼の好みのタイプではない。
陽気で独特な口調で喋る彼女に、兵士としての彼の第六感がなんとなく
千冬をテレビで見た時は「へー美人だな」程度にしか思わなかった。
それが本物と出会い、隣で走る姿を見た時に意識してしまったのだ。
「エロ過ぎだろ……」
汗を浮かべた艶やかな肌と彼女の黒髪が朝焼けの空に映える。ジャージを脱ぎ捨てたことでより露わになったボディラインは成熟した女性のそれであった。
幾ら前世の年齢を加算しても四十代のオッサンなら千冬は十分範囲内な訳で…
「静まれー…静まり給え俺のビーム・サーベルよー…冷却装置を絶やすなー」
黒崎が掲げる夏までの目標として「肉体の強化」に「性欲処理」が加わったのはここだけの話。
ヴィシュヌが目を覚ますまでに、彼は何度か冷水で身体の熱を冷ました。
文字通り世界最強の魔改造メスゴリラに勝つ強くてニューゲームのオスゴリラ…
メインヒロインではないけど今のところ(五話)一番ヒロインしてるかも。
余談ですが山田先生の場合は黒崎の脳内が「おっぱい」だけに染まります。見た目がちょっと幼いですが十分範囲内なのは言うまでもなく…(相性は別として)