星井美希に転生したけど765プロがない件について   作:naonakki

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第三話

 ドクン、ドクン……と鼓動が全身に響いていく。

 全身が逆立つようなそんな感覚。

 たくさんのファンの歓声を浴びているA-RISEはキラキラと宝石のように輝いているようだった。

 私はそんなA-RISEに羨望の眼差しを向ける。

 今、私ははっきりとスクールアイドルになりたいと感じていた。

 そしてA-RISEと戦ってみたいと。

 

 「美希も……美希もキラキラしたい……」

 

 気づけばそんなことを呟いていた。完全に無意識であった。

 小さな呟きだったが隣にいたことりさんには聞こえたようだ。

 ことりさんはゆっくりとこちらにその顔を向けてくると、優しい笑みを浮かべてきてくれる。

 

 「うん。私も美希ちゃんのキラキラしているところ見たいな」

 

 ここでようやく私の心の声が漏れていたことを知る。

 ことりさんがその言葉を心の底から言ってくれていることはその表情から窺えた。

 それが素直に嬉しく後押しされるようにスクールアイドルになることを決意しかけるが、またもストップがかかる。

 やはり心のどこかでスクールアイドルになることへの引っかかりがあるのだ。

 ……もうどうでもいいのではないか?

 私がスクールアイドルになることは、ラブライブのメンバーであることりさんも望んでいる。ではそれでいいのではないか?

 そんな逡巡している時だった。

 

 「あっ、電話だ。誰だろう……穂乃果ちゃん? ごめんね美希ちゃん。電話が来たからちょっと離れるね」

 

 ことりさんはそう言うと人混みをかき分けていく。私はそのままA-RISEの姿を瞳に収めながら葛藤を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく落ち着いた場所にたどり着き、私は電話に出る。

 

 「もしもし。どうしたの穂乃果ちゃん?」

 「ことりちゃん! 急にごめんね、今どこにいる?」

 

 電話越しにやたらと大きな穂乃果ちゃんの声が聞こえてきて、反射的に耳から電話を離してしまう。

 ……どうしたんだろう穂乃果ちゃん?

 親友のただならぬ様子に疑問を抱く。

 

 「今は秋葉原のUTX学園前にいるよ。何か困ったことでもあったの?」

 「……ゆーてぃいえっくすーがくえん? 分かった! とにかく秋葉原だね!

 今からすぐにそっちに行くから待ってて! どうしても直接会って話したいことがあるんだ!」

 「えっ!? 穂乃果ちゃん?」

 

 こっちが呼び止める前に電話が切れてしまう。

 

 ……本当にどうしたんだろう?

 待っててって言われたけど……、ちゃんと場所分かるのかなぁ。

 

 一抹の不安を抱えながら、くるりと美希ちゃんの方を振り返る。

 そこには未だ真剣な表情を浮かべてモニターを見つめる美希ちゃんがいた。

 

 ……本当に綺麗な人。

 

 人込みの中にいるのに美希ちゃんの存在感は際立っており、遠目から見てもその美貌がよく伝わってくる。それこそ同性である私でも思わずドキドキしてしまうくらいには。

 そんな美希ちゃんが颯爽と現れて私を助けてくれた時は心臓が飛び出てしまうのではないかと心配になってしまった。でもあんなにもくっつかれたら誰でもそうなると思う。

 ……まったくずるい。こっちの気も知らないで。

 

 しかし、そんな格好良い美希ちゃんでも何かに悩んでいるようだ。

 先ほどの美希ちゃんの様子を思い返す。

 美希ちゃんはA-RISEの人達が映っているモニターを子供のような憧れを抱いた瞳で見つめていた。

 美希ちゃんがスクールアイドルになりたいと思っているのだとすぐに分かったが、何か様子がおかしかった。どこか思いつめた表情を浮かべていたのだ。

 まるでスクールアイドルになれない何か事情でもあるかのように。

 力になってあげたいけど私なんかが美希ちゃんの力になれるだろうか?

 美希ちゃんほどの人気を誇っているときっと何か色々な事情があるに違いない。そこへ事情を何も知らない私が土足で踏み込んでしまっても本当にいいのか?

 そんなことを考え出すとなかなか前へ踏み出せない。こんなうじうじしてしまう自分に嫌気がさしてしまう。

 

 こういう時、穂乃果ちゃんなら……。

 

 親友の姿を思い浮かべる。

 少しおっちょこちょいなところもあるけれど、私や海未ちゃんが前に踏み出せない局面でも私達を引っ張ってきてくれたあの頼もしい姿を。

 

 穂乃果ちゃんならきっと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後となった教室内には未だ多くの生徒が残っており、賑やかな雰囲気を作り出していた。

 晴れて今日から高校生となったのだ。浮足立つのも無理なかった。

 ……しかし、それにしても皆どこか落ち着かない様子でソワソワしているようだった。何やらスマホを片手に必死に何か情報を集めているようだった。それも一人や二人ではない。多くの人たちがそうしているのだ。

 そしてそれは私の親友も例外ではない。

 

 「ねえねえ、かよちん。さっきから何してるの?」

 

 そう声を掛けた先には一生懸命スマホを操作している親友ことかよちんがいた。

 普段のおっとりした表情とは一変、真剣な表情を浮かべ眼鏡越しにスマホの画面を見つめるその姿は普段とのギャップもあり大変可愛らしかった。しかし、ずっと相手にされないでいると、こちらも不満が溜まってくるというものだ。

 今回も「ん、ちょっとだけ待っててね凛ちゃん。」と言われてしまった。

 ちなみにこのセリフは三回目だ。

 とはいえ、ここまで真面目なかよちんの邪魔をするのも気が引けてしまう。

 そうなるとやることもないので、なんとなく他のクラスメイト達に目を向ける。

 すると一人で席に着き、イヤホンを付けながらスマホをいじる女の子が目に入る。

 肩下まで伸ばした目を見張るような真っ赤な髪が特徴的な女の子だ。同じ年とは思えないほど大人びた雰囲気を醸し出しておりスタイルもいいときている。

 彼女は西木野真姫さん。クラス内でも非常に目立つ容姿であった為、名前も覚えていた。そんな西木野さんが放課後に一人クラスに残って何をしているのか興味が沸いた。

 というわけで、こっそり後ろから近づいていくことに。

 西木野さんはよほどスマホの画面に集中しているのかこちらの接近に気付くことはない。

 そーっと西木野さんに気付かれないよう後ろからスマホの画面を覗き込んでみると、どうも動画を見ていたようで、可愛らしい衣装に身を包んだ女の子が躍っていた。

 ……へー、意外にゃ。西木野さんこういうの見るんだ。

 多分だけどスクールアイドルとかだと思う。かよちんと違ってあまり詳しくはないので確証はないが。

 しかし西木野さんがただ動画を見ていたわけでないことがすぐに分かる。彼女は五線譜が書かれた紙に真剣に考えながら音符を綴っていっているのだ。

 

 「何してるの?」

 「きゃあっ!」

 

 イヤホンをしているからと、至近距離で大きめの声で質問したのがいけなかったらしい。西木野さんはビクンッと全身を反応させると大声を出してくる。

 これにはクラスメイト達も何事かとこちらに視線を寄こしてくる。

 「な、なにもないにゃ~あはは……」と皆にアピールしていると、すぐ横から強烈な視線を感じた。

 そちらへ目を向けると西木野さんがジトッーと不満気にこちらを見つめていた。先ほど大声を出してしまったことが恥ずかしかったのか、その頬には僅かに朱が差している。

 

 「……何か用?」

 

 むすっとした様子でぶっきらぼうにそう聞いてくる西木野さん。「やっぱりすぐに音楽室に行けばよかったわ」なんて呟いているが、小声の為私の耳には届かない。

 

 「あ、ごめんね。急に声かけちゃって。何しているのかなーって気になっちゃって」

 「……ただちょっと作曲をしているだけよ」

 「作曲? すっごいにゃあ! かっこいいにゃあ!」

 「別に凄くないしかっこよくもないわよ」

 「あれ、でも作曲とその動画は関係あるの?」

 「……星空さんだっけ? あなたには関係ないでしょう」

 「えー、教えてくれてもいいじゃん」

 「ちょ、ちょっとくっつかないでよ。あぁ、もう! この子に私の曲を使ってほしくて作曲していたのよ」

 

 西木野さんは、スマホの画面に映る女の子を指さしながらそう答えてくれた。

 そう言われて改めて女の子を見て動画のアカウント名を確認する。そこにはミキミキという名前が記されていた。

 ……あっ、この名前知ってるにゃ。

 かよちんが最近一番はまってるアイドルだ。私は見たことなかったけど熱く語るかよちんによれば、今最も注目を浴びている子だったはずだ。

 

 「確かこの子凄い人気なんでしょ? その子の曲を西木野さんが作曲しているの?」

 「……私の曲が採用されたのは一回だけよ。ライバルが沢山いるからね。中々選ばれないのよ」

 「でも一回だけでも西木野さんの曲を使ってくれたってことだよね! それって凄いことなんじゃないの?」

 「……さあ、どうかしら。でも私の曲を使ってくれた時は凄く嬉しかったわ。だから私はそれからもアイドルの曲について勉強しているの。また私の曲を使ってくれるようにね」

 

 そう力強く語る西木野さんが少し格好良く見えた。 

 それに最初は失礼ながら不愛想な子なのかと思ったが、喋ってみると手を止めてしっかりと受け答えしてくれるし、いい子なんだと思う。

 

 「ふーん、でもミキミキちゃんかー。かよちんも凄いって言ってたけどそんなに凄いの?」

 「……星空さん。あなたミキミキを知らないの?」

 「……え、うん。名前は知ってるくらい。後人気があるってことは知ってるよ」

 「……そう。こんなこと言うのは柄じゃないけれど、ミキミキを知らないのは損をしていると思うわよ? まあ私も少し前まではアイドルになんてまるで興味がなかったんだけどね」

 「え、そうなの? じゃあどうして興味を持ったの?」

 「勉強の休憩をしている時にたまたまミキミキの動画を見たのがきっかけね。まあ百聞は一見に如かずよ。実際に見てみたらいいじゃない。どうせ見たことないんでしょう? 見れば分かるわよ」

 

 そう言われ、イヤホンごとスマホをこちらに貸してくれる西木野さん。ミキミキというアイドルのことになると途端に積極的になってきたので少々戸惑ってしまう。

 正直アイドルにはあまり興味はなかったが、せっかく西木野さんが厚意で貸してくれたのだ。断るのも悪いので聞いてみることに。

 

 

 

 ……可愛いにゃ。

 

 歌やダンスが抜群に上手なことは素人の私にも一目瞭然だった。

 しかしそれ以上に、女の子らしい可愛い衣装を見事に着こなし、表情や動きでその可愛さを余すことなく存分に伝えてくるその姿に心を奪われた。

 かよちんと西木野さんが好きになるのも納得だ。

 このミキミキという子は人の心を動かす力を持っている。

 

 「……このミキミキちゃんはスクールアイドルなの?」

 

 気づけば私はそんなことを聞いていた。

 

 「そうよ。まあ厳密にはこれからなるんだけどね」

 「……そうなんだ」 

 

 ……スクールアイドル。

 凛もスクールアイドルになれば可愛い衣装が似合うようになれるのかな……。

 

 「あ、凛ちゃんここにいたんだ。ごめんね待たせちゃって、中々情報が集まらなくて……ってええ!! も、もももしかしてミキミキちゃんの動画を見ていたの!? 凛ちゃんが!?」

 

 用事が終わったのか気づけばかよちんがこちらに来ていたようだ。

 そしてアイドルに興味がない凛がミキミキちゃんの動画を見ていたことに対し、かよちんは目をまん丸に見開き興奮気味の様子だ。かよちんはアイドルのことになると人が変わったようにこうなってしまう。勿論、そんなかよちんのことも大好きだ。

 

 「うん。かよちんがミキミキちゃんにはまってる理由が分かったにゃ!」

 「そうだよね、そうだよね! 凛ちゃんがミキミキちゃんの素晴らしさ知ってくれて私も嬉しい!」

 

 凛の言葉に西木野さんが「でっしょー? だから言ったじゃない」と得意げな顔をしている横で、かよちんはスマホの画面の中で踊るミキミキちゃんの姿を憧れるように見つめる。

 それこそ先ほどまで凛がミキミキちゃんを見つめていたように。

 

 ……ん? もしかしてかよちんもスクールアイドルになりたいとか?

 

 ちなみにこの後、西木野さんがミキミキちゃんの歌を作曲したことがあるのを知ったかよちんが興奮のあまり気絶することになるが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……今日の夕食は何にしようかしら。

 

 絵里と希と別れてからも、購買課で購入したパンを齧りながらしばらく学校に留まり、ミキミキの新情報がないか粘ったが成果は無し。

 学校から家に帰る前にスーパーに向かいながら夕食の献立を考えるも中々まとまらない。

 理由ははっきりしている。今日希に言われたことだ。

 

 「私たちがスクールアイドルになって凄い人になってみる?」

 

 この言葉が未だに私の中でやまびこのように何度も反響していた。

 昔、私もスクールアイドルを結成したが一人で突き進んでしまい、他のメンバーと足並みをそろえることができず最後には独りになってしまった。

 それで私のスクールアイドルとしての活動は終わったはずだった。

 しかしそれでもどこかに諦めきれない気持ちが残っており、暇を見つけてはダンスレッスンやボイスレッスンを続けてきた。

 だが二年生になり時間が経ってくると僅かに残ったスクールアイドルになって活動したいという情熱の炎は風前の灯となっていった。

 自分自身がスクールアイドルになることは諦めて、他のスクールアイドルを追いかけるだけでいいじゃないか。そう思っていた時だった。

 ミキミキが現れたのだ。

 A-RISEをも上回る将来のスクールアイドルの登場に、燻りかけた心に再び炎が灯った。

 それからも私はスクールアイドルになることを諦めず努力を続けた。その甲斐あってか、自分で言うのもなんだがかなりの実力を身に付けることができたと思う。

 しかし、それでも結局スクールアイドルになることは叶わず、とうとう今日で三年生になってしまった。

 流石に今からスクールアイドルになることは難しいことは自覚している。

 だが後悔はしていない。やるだけのことはやったと自信を持って言える。こう思えるのもミキミキのおかげだ。

 ……そう割り切ったはずだったのに。

 希があんなことを言ってくるものだからまた私の中に波紋が生じられてしまったのだ。

 希が冗談で言っていることは分かっているのにこんなことを思ってしまうなんて。

 

 そんなことを考えながらトボトボと歩みを進めている時だった。

 前方に見慣れた後ろ姿が見える。

 

 ……絵里? あんな恰好で何しているのかしら?

 

 動きやすそうなティーシャツにスパッツに身を包んでいる。なにか運動でもするのだろうか?

 絵里はそのままこちらに気付くことなく神田明神に続く階段を上っていく。

 なんとなく気になりこっそり後を付けてみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……また来たんやね、えりち」

 

 見慣れた親友の姿に少々呆れの感情も混ぜながら出迎える。今日は神田明神のバイトがある為、うちはえりちの練習に付き合うことはできない。

 

 「希、さっきぶりね。勿論じゃない」

 

 えりちはそう言うと、ストレッチをし始める。

 ふとえりちの後方に視線を向けると、何やら人影が見える。その人影は急いで陰に隠れるがその姿には物凄く見覚えがあった。

 

 今のにこっちやんな? なんでにこっちがここに?

 ……いや、これは好都合やね。

 

 心の中で静かに笑みを浮かべ、絵里ちの方へ向き直る。

 

 「なあ、えりち。うちらもう三年生になったんやし、そろそろにこっちにも打ち明けていいんやない? もう時間ないよ? うちも待ちくたびれたし」

 「……それは分かっているけど」

 

 えりちは苦い表情を浮かべ、そう言葉を濁すだけに留まる。

 ……はぁ、肝心なところで意気地なしなんやから。

 

 「もう明日にでも言ったら?」

 

 そう言ったところで一度区切り、遠くにも聞こえるように息を吸う。

 

 「スクールアイドルを一緒にやろうって!」

 

 にこっちが遠目でも分かりやすく動揺していることを確認し、えりちに視線を戻す。

 しかし、えりちはそんな私の言葉を聞いてもまだ踏ん切りがつかないらしい。

 

 「……でも、にこは隠してるけどずっと一人で努力し続けているのよ? そこに、にわかの私が一緒にスクールアイドルをしようなんて言って嫌われたらどうするの?」

 「だからそうならないようにこの半年間努力してきたんやろ? えりちはちゃんと頑張ってるよ。頑張りすぎてるくらいやと思う。ていうか今どれくらいのペースで練習してるん? うちはバイトとか用事がある日は無理やから週に四日くらいしか練習に付き合ってないけどえりちは一人でも結構してるやろ?」

 「……週に七日程度よ。生徒会の仕事もあるからたまに休憩日は入れてるけど」

 「いやほぼ毎日やん。……でも納得やね。どう見てもえりち上手くなってるもん」

 「……まあ、一応A-RISEに負けないくらいには仕上がっているとは思うわ」

 

 それが凄いことなのかどうかはよく分からないが冗談抜きで最近のえりちは凄いと思っている。

 元々ロシアでバレエのプロを目指していたこともあり、踊りの技量は相当なものだった。しかしそれを加味しても最近のえりちのアイドルとしての技量は素人の私が見ても目を見張るものがある。本当に魅了されるのだ。

 それほど、えりちを本気にさせ、アイドルの世界に誘ったミキミキという存在は大きいのだろう。

 

 半年前、突然えりちから「スクールアイドルをしましょう」と言われた時は驚いた。最初は冗談かと思ったくらいだ。

 しかし、頑固なえりちが自分の想いを打ち明け、さらにはそれを一緒にしようと誘ってくれたことは本当に嬉しかった。当然断る理由などなかった。

 それから、かつてスクールアイドル活動を行っていたにこっちにも一緒にスクールアイドルをしようと誘おうとした。やる気になったのはいいものの私たちはあまりにスクールアイドルに無知であり、どうしても詳しい人間が必要だったのだ。

 しかし、にこっちは当時でもスクールアイドル活動をすることを諦めきれず、孤独に努力し続けていることが分かった。

 にこっちが一年生の時にスクールアイドルグループが解散してしまった原因は聞いている。にこっちのスクールアイドルに懸ける情熱があまりに強すぎたのだ。

 そんなスクールアイドルに対し強い想いを持っているにこっちを当時の何の努力もしていない私たちが誘っても拒否されることは明白だった。

 それ故に、こちらもそれ相応の覚悟を示す必要があった。

 そして今に至るわけだが……。

 

 「……それに、にこを誘えたとしても希を入れて三人しかいないじゃない。部として認められるには五人必要よ」

 「そんなの生徒会長権限でどうとでもできるやん。部活で五人いないところもいっぱいあるし」

 「そうだけど……。それに今日希がにこのことをそれとなく誘ってくれたけれど、にこは呆れていたように見えたし」

 「そりゃあ、うちが誘っても本気は伝わらへんよ。未だにスクールアイドルについてもあまり知らんくらいやし。やっぱりえりちの口から言わないと。というかあの流れでえりちがにこっちを誘ってくれることを期待してたんやけど……」

 「……うぅ、そう言われても」

 

 当のえりち本人はこの様である。

 ……まあそれほどにこっちがスクールアイドルに本気で向き合っていることが分かっているからこそ悩んでいるのだろうが。

 しかしえりちがこのまま悩み続けてしまうと本当にスクールアイドルになれないまま高校生活が終わりかねない。

 にこっちにもこの会話を聞かせることはできたけど、果たして上手くいくかどうか……。

 こういうややこしいのを全部ぶった切って突き進めてくれるような人が周りにいたら一番良かったんやろうけど……。

 

 そんなことを心の中で呟きながら、不安げな想いを抱えながら空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニターからA-RISEの姿が消え、さっきまで周りにいた人たちが去った中でも私はそこに立ち尽くしていた。

 未だに私の中では様々な感情がぐちゃぐちゃになっていた。

 

 「……大丈夫、美希ちゃん?」

 「ことりさん……」

 

 そんな私を心配そうに声をかけてくれることりさん。

 いけない。いつまでもここにいたら要らぬ心配をかけてしまうことになる。

 

 「う、ううん! ごめんなの! A-RISEの人たち凄いって感動してたんだ!」

 「……そっか。……うん、確かに凄かったよね?」

 

 しかし、こちらが無理していることが見抜かれているのかことりさんの表情は暗いまま。

 

 その時だった。

 

 

 

 「ことりちゃん!!」

 

 

 

 穂乃果さんが息を切らしサイドテールをぶんぶん振り回しながらこちらに走ってくる姿が見えた。

 よほどの重要なことでもあったのかその表情は鬼気迫るものがある。

 そのまま穂乃果さんはことりさんの下まで走りよると、一度大きく深呼吸を行う。

 そして見ているこちらが呆気にとられるほどのキラキラとした満面の笑顔をことりさんに向ける。

 

 「ことりちゃん! 一緒にスクールアイドルをしよう!!」

 

 ……え、スクールアイドル?

 これには私を含めてことりさんはポカンとしてしまう。

 しかしそんな私達にお構いなく穂乃果さんは矢継ぎ早に言葉を繰り出してくる。まるでマシンガンのようだ。

 

 「私ね、ことりちゃんが推しているミキミキちゃんの動画をさっき見たんだ! 私感動しちゃった! 私もあんな風になってみたいんだ! だからスクールアイドルになろう!」

 「あ、あの、穂乃果ちゃん。ちょ、ちょっと落ち着いて。」

 

 興奮気味に言い寄ってくる穂乃果さんにことりさんはどう対応したものかと困り果てている様子。

 

 「……あの、ミキミキって動画をあげてる子だよね?」

 

 気づけば横からそんなことを聞いていた。

 すると穂乃果さんは初めてこちらの存在に気付いたのか、その満面の笑顔をこちらに向けてきて、ぐいっと寄ってくる。近いっ!?

 

 「そうそうそう! そのミキミキちゃん! 知ってる? さっき動画を見たんだけど、あんなに格好良くて、可愛くて、歌も上手でダンスも上手で、本当になにもかもが全部キラキラしてたんだ!! それから、それからね……」

 

 穂乃果さんの裏表のない私を褒めるストレートな言葉が全て私の心に突き刺さる。

 これまで私の存在を世に隠していたこともあり、こうやって直接褒められることはなかったし慣れていなかった。加えて、穂乃果さんは興奮している為なのか、その可愛い顔をこれでもかというほど至近距離まで詰めて喋ってくるものだから、どんどん私の顔に熱が帯びていくのを感じる。絶対に顔が真っ赤な自信がある。

 

 「で、でも穂乃果ちゃん。私達もう二年生だし、スクールアイドルになるのも色々大変だと思うよ?」

 

 穂乃果さんによって私の心臓がバクバクにさせられたところでようやくことりさんからの助け舟が出た。ことりさんは私が困っていることを察してか、穂乃果さんの腕を掴み、やや強引に私から引きはがしてくれる。そのことりさんの表情はなぜか少し焦っているようにも見えた。

 穂乃果さんは、ことりさんの言葉に一瞬ポカンとした表情を浮かべるもすぐに真剣な表情を浮かべる。

 

 「そんなの関係ないよ! やりたいからやるんだよ! 今という時間は今しかないんだよ! まずは始めてみて大変なことがあれば一つずつ乗り越えていけばいいよ!」

 

 そうまっすぐに答える穂乃果さんの言葉が私の心の中にストンと落ち込んでくる。さっきまで、私の中を渦巻いていた感情が一気に収束していくようだ。

 

 「……穂乃果さん。実は私も今スクールアイドルになりたいって思ってるんだ。でも色々大変なことがあるかもってうじうじしちゃってて……。穂乃果さんはスクールアイドルっていう未知の世界が怖くないの?」

 

 こんなこと聞くつもりはなかった。しかし、私の魂がどうしてもそれを聞けと強く訴えてきた。

 穂乃果さんは、そんな私の言葉に嬉しそうな表情を向けてくる。

 

 「そうだったんだ! じゃあ私と一緒だね! 今日から私達スクールアイドルになろうよ! 勿論、色々壁もあるだろうけどそんなものは、えーいっ!て乗り越えちゃえばいいんだよ! もし困ったときは助けになるよ! ……逆に困ったことがあれば助けてほしいな、なんて、あはは」

 「……そっか」

 

 穂乃果さんがどうしてこの世界で主人公を任せられたのか分かった気がする。 

 自分の大好きを全力で押し出し、周りの人たちも惹きつけることのできるカリスマ性が穂乃果さんにはある。

 ……そして私も。

 

 「……あはっ! 穂乃果さんの言う通りなの! 困ったことがあれば乗り越えちゃえばいいんだよね! 決めたの、私今日からスクールアイドルになるの!」

 

 この時の私の笑顔は作り物でなく心の底からの笑顔を浮かべていたと思う。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ミキミキがSNSで急遽、今日の夜に動画上で重大発表があると告知があった。

 それがスクールアイドルに関わることであることはファンの者であればすぐに予想できた。 

 そして、ミキミキのファンは勿論、全国のスクールアイドル達もその動画を見逃すまいと、その時を待ち続けようやく動画が投稿された。

 

 

 

 「こんばんは! ミキミキです! 今日は皆さんに重大発表があります!」

 

 「今日から私は、スクールアイドルになりました! 早速、二週間後に初ライブを行うつもりだから是非皆さんには観に来てほしいです! 詳細は後でSNSでお知らせします!」

 

 「……そして、ここからが本題ですが、私はこれまでとある理由で変装してきましたが、もうその必要もなくなりました」

 

 そう言うと彼女は頭に被った黒髪のウィッグをゆっくりと外していく。

 その下から流れるように現れたのは、艶のある輝くような金色の髪。そして彼女は満面の笑みを浮かべ、これまで変えていた声色と口調を素に戻し喋り出す。

 

 「うんっ! やっぱりこっちのほうが落ち着くの! ということで改めて自己紹介します! 私は星井美希です! この名前は是非憶えてほしいな! ……だって」

 

 そう言って彼女はA-RISEの綺羅ツバサがそうしたように、挑戦的な目を向けてくる。

 

 

 

 いずれアイドル界で頂点を勝ち取る名前だからなの!

 




前回に引き続き、沢山の感想ありがとうございます!

更新が遅いのは許してね笑
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