星井美希に転生したけど765プロがない件について   作:naonakki

4 / 10
第四話

 A-RISEによるミキミキへの宣戦布告。

 半年前とは比較にならないほどの圧倒的なパフォーマンスと共に行われたそれは瞬く間に話題になった。

 ほとんどの者がミキミキのラブライブ優勝を信じて疑わなかった。しかし今回の宣戦布告により、その予想に待ったがかかる。

 

 A-RISEならミキミキに勝てるかもしれない、と。

 

 現段階ではまだまだミキミキの方が実力は上だ。

 しかし、このままA-RISEが急成長を続けるとミキミキを射程圏内に捉えることは十分に可能だと見られるようになってきた。

 こうなってくるとミキミキがどう反応してくるのかと注目が集まる。

 特にミキミキは高校生になり、スクールアイドルとして始動するタイミングでもあった。全国的に高校の入学式のこの日、女子中学生や女子高生が、いち早く情報を掴もうとスマホと睨めっこする場面が全国各地で見られた。

 そしてその夜、皆の期待に応えるようにミキミキは動いた。

 正式にスクールアイドルになることを宣言した彼女は、とうとうその正体を明かした。

 星井美希と名乗った少女は、心底楽しそうに小さい子供のような無邪気な笑顔を浮かべた後、A-RISEの宣戦布告にカウンターを叩き込んできた。

 それもただのカウンターではない。

 

 アイドル界で頂点を勝ち取る。

 

 彼女はそう言った。

 それはA-RISEどころかプロを含めた全アイドル達への宣戦布告ともとれた。

 これにファン達は歓喜した。

 とうとうこれまで多くの謎に包まれていた星井美希が表に出てきて本気を出す意思を示したのだ、当然だろう。

 さらには未来のトップアイドル候補である二組のアイドルグループが互いにぶつかり合う構図には否が応でも盛り上がっていく。

 このことはSNS上で瞬く間に拡散されていく。

 過去にも類を見ないほどの爆発力で今回のことは広まっていき、僅か数時間でSNS上でもトレンド入りを果たした。

 それは星井美希がとうとうアイドルのことをあまり知らない国民の目にもとまるほどの話題性を持ってきたということを意味していた。

 まさに今、スクールアイドルの世界に全国民が注目し始めていた。

 

 そんな中、星井美希の初ライブが二週間後に開催することが知らされた。

 開催地は学校の敷地内を検討しているとのこと。

 星井美希が入学した高校は予想されていた三校のうちのひとつであった。

 UTX学園と音ノ木坂学院に挟まれる位置に佇むそこは男女の共学校であり、多種のスポーツで実績がある伝統ある学校だ。

 星井美希はライブを開催するにあたり会場の設備等の準備の観点から、大体何人くらいが来るか知りたいからと、SNS上でアンケートをとった。

 実を言うと、二週間というかなり急な日程での開催であったこと、さらに動画と違って直接会場に向かう手間がかかる為、星井美希自身、あまり数は集まらないと思っていた。動画でライブ配信も行うと言っていたし精々千人くらい集まればいいな~なんて思っていたほどだ。 

 しかし、その認識は世間と星井美希の間で天と地ほどの差があった。

 A-RISEというライバルが頭角を現してきたとはいえ、星井美希が将来のトップアイドルの最有力候補であることに違いはないのだ。

 そんなアイドルの初ライブ。それが伝説の幕開けになることは誰の目にも見えた。

 二週間後の急な開催? 東京の学校で開催? 動画で配信される? 関係なかった。そんなものはライブに行かない理由にはなり得なかった。

 ここで行かないと一生後悔する。誰もがそう思った。

 何をおいても星井美希のライブに行くことを優先すると意気込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼下がりのこの時間。窓から差し込む陽光が室内を優しく照らす中、ここ音ノ木坂学院の生徒会室は突然の来訪者に賑やな雰囲気に包まれていた。

 

 「私達、スクールアイドルになりたいんです! だからスクールアイドル部の創設の申請に来ました!」

 

 太陽を人にしたような元気いっぱいの明るい茶髪とサイドテールが特徴的な女の子。高坂穂乃果と名乗った彼女が唐突に乗り込んできたと思ったら、開口一番こんなことを言ってきたのだ。

 後ろには一緒に付いて来た二人の女子生徒が控えている。一人は綺麗に手入れされた黒髪を腰まで伸ばしたまさに大和撫子という言葉が似合う。確か、園田海未さんだったかしら? その凛とした佇まいから女子生徒に人気があり、校内でも有名なので私も知っていた。その園田さんは、なぜか戸惑っているようだ。そしてもう一人は南ことりさん。理事長の実の娘であり、おっとりとした雰囲気と女の子らしい見た目だ。南さんは園田さんと違ってかなり乗り気な様子である。

 この突然の事態に私も希もポカンとした表情を浮かべてしまう。

 しかし威厳ある生徒会長、絢瀬絵里としていつまでもそうしているわけにはいかない。すぐに、ピシッと表情を締め、状況の把握にかかる。

 

 「……スクールアイドルになりたい、ね。高坂さん、あなた達は二年生よね? 一年生でもないあなた達が急にまたどうして?」

 

 三年生になってスクールアイドルになろうとしている自分のことはいったん棚に上げておく。それに私には星井美希ちゃんのようになりたいという立派な目標があるのだ。

 

 「私、ミキミキちゃん……ううん、星井美希ちゃんのことを知ったんです! 私、すっごく感動しちゃって! 私もあんな風になりたいと思ったんです!」

 

 ……ふむ、目標については私と一緒というわけね。

 

 「なるほど、理解できたわ。立派な目標ね、素晴らしいわ!」

 「えっ? ……は、はぁ、どうも。」

 

 おっと、いけないわね。つい食い気味に答えてしまったわ。高坂さんを驚かせてしまった。同志であることが分かり、ついテンションが上がってしまった。

 一度深く呼吸をし、心を落ち着かせる。

 高坂さんの後ろでは、園田さんが「え、今の穂乃果の説明でいいんですか?」となにやら驚いているようだ。どこに驚く要素があったのか。

 しかし、目標が立派でもそれを本気で目指すだけの覚悟があるかどうかはまた別の話だ。それを確認する必要がある。

 

 「……でもね、高坂さん。あなたが言った目標は果てしなく高い壁よ。あなたにそれを乗り越える覚悟はあるのかしら?」

 

 真剣な眼差しで高坂さんを見据える。しかし高坂さんはそんな私の視線を真正面から受け止めると、その瞳に闘志の炎を燃やしこちらに乗り出してくる。

 

 「はい! 勿論です! 私、本気ですっ!」

 

 一切の躊躇なく、そう答えてきた。

 自分の想いをここまで表に出せる高坂さんの姿が眩しく見えた。

 高坂さんは本気なのだろう。

 私もスクールアイドルになる為、本気でこの半年間過ごしてきた。その為なのか、彼女が本気なのだとなんとなく分かる。

 出会って間もないが高坂さんの人となりはそれなりに理解できた。彼女はどこまでも純粋なのだ。そんな高坂さんには、どこか人を惹きつける魅力のようなものがある。

 私は希とにこの三人でスクールアイドルになろうと思っていた。しかし、今、私は高坂さんとスクールアイドルをしたいと思っていた。本当、高坂さんのことを知ってほんの少しの時間しか経っていないのに不思議だ。

 私がスクールアイドルになろうとしていたタイミングでのこの出会い。ある種の運命を感じている自分が確かにいた。

 横に立って話を聞いていた希も同じように考えたらしい。

 

 「ふふ、えりち。ここまで言われたら断る理由もないんとちゃう?」

 「……そうね。」

 

 私たちの言葉に高坂さんは目を輝かせる。

 

 「じゃあ、認めてくれるんですね!」

 「いいえ、まだよ。」

 「え?」

 「部活創設の申請には最低でも五人が必要なのよ。」

 「……え、そ、そんな。」

 

 顔を青ざめさせて知らなかったと言わんばかりに「ど、どどうしよう、海未ちゃん、ことりちゃん」と困り果てた様子を見せる。そんな高坂さんの様子に園田さんは、やれやれと言わんばかりに頭を抱えている。南さんもどうすればいいのか分からないようで、オロオロとしてしまっている。

 

 「……そんな高坂さんにこの問題を解決する提案があるのだけれど。」

 

 ここで私は先輩らしく余裕の笑みを浮かべ優しく切り出す。

 

 「え、解決? それは、なんですか!」

 「ふふ、それはね。私達も一緒にスクールアイド……」

 

 バーンッ!

 

 その時だった。生徒会長室の扉が勢いよく開かれた。全員が扉に視線を向ける。

 

 「失礼しますっ! 一年生の星空凛といいます! ここにいる三人、スクールアイドルになりたくて部活創設の申請に来ました!」

 

 本日、二度目の急な来訪者だった。

 続いて「り、凛ちゃん。ノックもせずに失礼だよ。」「ちょっと! 私まだスクールアイドルになるなんて言ってないんだけど!」と、なんとも騒がしい登場である。

 これには流石の私も再び思考がフリーズし、固まってしまう。

 それは高坂さん達も同じだったようだけれど、いち早く我を取り戻した高坂さんが目を輝かせる。

 

 「星空さん! あなたもスクールアイドルになりたいの?」

 「そうにゃっ! 凛達、星井美希ちゃんみたいになりたいんだ! ……というかあなたも?」

 「わぁっ! これはもう運命だね! うん、そうだよ! 私達も同じだよ!」

  

 私をよそに盛り上がっていく高坂さんと星空さん。初対面のようだけどあっという間に仲良くなっている。

 赤い髪の綺麗な子なんかは最初反対していたようだけど、高坂さんと星空さんに押されまくって、すぐにスクールアイドルになることを了承していた。他の子達もなんだかんだ高坂さんに引っ張られる形で気持ちが一つになっていく。

 ……この流れはまずいわね。

 この後来る展開を考え、冷や汗が滴る。

 

 「生徒会長! これで六人になりました! これで問題ないですよね!」

 「……そうなっちゃうわね。」

 「やったぁっ!」

 

 一緒にスクールアイドルをしようと切り出すタイミングを失ったわ。

 喜ぶ高坂さん達と対照的に追い込まれる私。

 ……いいえ、まだよ。まだいけるわ。

 

 「確かに条件は満たしているかもしれないわ。でも、あなた達のなかにアイドルについて詳しい人はいるのかしら? あなた達の目標に向かうためには、例えばダンス経験が豊富な人が必要なのじゃないかしら?」

 「あ、それなら大丈夫です! とっておきの先生がいますので!」

 

 満面の笑みでそう返されてしまった。高坂さん、まさかわざとじゃないわよね?

 これで万策尽きてしまった。

 助けを求めるべく希の方を見つめるが、ジト目で見られていたことに気付いただけだった。その表情から意気地なしと思われているのだと理解する。昨日の神田明神でのやり取りが思い出される。

 ……そんな顔で見ないで頂戴。……あぁ、もう分かったわよ。

 私は覚悟を決め、深呼吸を行う。

 

 「あの!」

 

 椅子から勢いよく立ち上がり、そう大きな声をあげる。自分でもびっくりな大声だ。当然高坂さん達も驚き、先ほどまでの盛り上がりムードから一転、シンとした空気がこの室内を支配する。全員がキョトンとしたようにこちらを見つめる。

 そんな中、私は「えと……その」と顔が熱くなるのを感じつつ、とうとう言った。

 

 「……実は私もスクールアイドルになりたいなーって思ってたのよ。」

 「……え?」

 

 私の尻すぼみするような言葉に、この場にいる希を除く六人が実に不思議そうな表情を浮かべこちらを見つめてくる。

 後に笑いながら語る皆によれば、この時の私の顔は熟したトマトのように真っ赤だったらしい。ちなみに希は私の横で終始ニヤニヤしていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あふぅ。」

 

 心地よい日差しが降り注ぐ中、私は時々あくびを挟みながらのんびり歩きつつ学校に向かっていた。

 転生して15年、一度は夢を失った私だったが、ようやく別の叶えたい夢を持つことができた。そのことで昨日は舞い上がってしまい中々寝付けなかった。おかげで寝不足になってしまい、結局今日も遅刻にならないギリギリを攻めた時間での登校となってしまった。

 だが、そんな状況とは裏腹に私の心は久しぶりにうきうきしていた。

 

 うーん、二週間後のライブには何の曲を使おうかな~?

 

 初めてのアイドルとしてのライブをどういう風にするか、昨日からそればかりを考えている。

 そして始業まで5分といったところでようやく学校が見えてきた。

 

 ……ん? なんで正門前にあんなに人がいるの?

 

 見ると、学校の正門前には何十人、下手すれば百人を超える人だかりができていた。私の学校の女子生徒が多いが、音ノ木坂学院など他の学校の女子生徒もちらほらと見受けられる。

 何か行事でもあっただろうかなんて思っていると、そのうちの一人がこちらに気付いた。

 

 「あーっ!! 美希ちゃんだ!」

 

 それを皮切りに全員の顔がバッとこちらを振り向く。全員の目は獲物を見つけたようにぎらついていた。「ひっ!?」あまりに異様な光景であった為、思わず小さな悲鳴をあげ後ずさりしてしまう。

 

 

 

 ……朝から疲れたの。眠気は吹き飛んだけど。

 

 あの後、あっという間に皆に囲まれた私は、「握手してください」「サインください」「写真撮ってもいいですか」「ライブ絶対に行きます!」などなど……。

 正体を明かしたことである程度こういった事態も想定していたが、まさか遅刻覚悟で待ち受けされているとは思わなかった。……まあ女の子たちに囲まれるというシチュエーションは中々に悪くなかったが、朝一であれは流石に疲れる。なぜ、アイドルが普段変装をしているか痛感してしまった。

 結局、異変に気付いた生徒指導の先生が助け出してくれて何とか事なきを得た。

 だが遅刻扱いになってしまったことは腑に落ちない。絶対遅刻じゃなかったのに……。

 まあ何はともあれ、授業中に教室内に入っていくことになってしまったのだが、またも問題が。凄い視線を感じるのだ。特に女子生徒だが、皆ソワソワした様子でこちらをチラチラこちらを見てくる。

 ……これ休憩時間になった瞬間囲まれるやつなの。

 案の定であり、授業が終わると、まあ人が来る人が来る……。隣のクラスや中には上級生なんかも来る始末。最早、誰に何を言われているのかわかない状況だった。

 そんなこんなで激動の一日が進んでいき、ようやく本日最後の授業が終わるといったタイミングでコンコンと扉をたたく音が教室内に響いた。どうやら来客のようだ。担当教師は誰が来たのかを確認するとすぐに廊下に出て、なにやら一言、二言話すとすぐに教室に戻って来た。

 なんだと思っていると、教師はこちらに視線を向け、「星井、授業はいいから、すぐに校長室に行くように。」とのこと。

 

 ……校長室? なぜ?

 

 訳が分からなかったが、問答無用で教室を締め出されてしまった。そして外にいたのは何と学年主任だった。「付いてくるように」とだけ言われ、学年主任はそのまま歩いていく。仕方ないので後に付いていく。授業中の校内は教室から漏れ出る教師の声が僅かに聞こえる程度で、実に静かなものだ。

 まさか入学して二日目で校長室に行く羽目になるとは思わなかった。

 しかし何かしただろうか? 思い当たる節がない。

 もしかしたら今朝、門の前で騒ぎを起こしたことに目を付けられてしまったのかもしれない。

 校長室に到着した私は、学年主任に続き室内に入っていく。

 中は、高級そうな机や棚やらが並んでおり、壁には歴代の校長先生の写真が飾られている。

 前世も含めて校長室になんて来たことがなかったので緊張してしまう。

 すると、革製の椅子に腰を下ろしていた校長先生が立ち上がる。貫禄を感じさせる佇まいだ。しかし皺が刻まれたその表情はとても険しいものだった。ちなみに横には教頭も控えている。何事なんだ。

 

 「君が星井美希さんか。」

 「はい。」

 「君はどうもスクールアイドルになろうとしているらしいね?」

 「……そうですけど。」

 

 なぜ校長先生がそれを知っているのか疑問に思うがこの場ではとりあえず話を聞くことに専念する。

 

 「ふむ。それで昨日、動画上で二週間後にこの学校でライブをすると告知したらしいね?」

 「……はい、そうです。」

 

 まずい。学校の許可を取る前に勝手なことをしたから怒っているのだろうか。

 ……でもそうだとしても、いきなり校長先生が出てくるものなのだろうか?

 

 「一応確認だが、それは学校側の許可は取ったのかね?」

 「……いいえ、勝手に決めました。すみません。……あの、それでしたらライブは延期にさせて頂きます。」

  

 正確には学校でライブすることを検討しているだけなのだが、なぜか校長が出てくるほどの事態になっているのだ。ここは慎重に事を運んだ方がいいだろう。

 

 「待ちなさい!」

 「え。」

 

 突然大きな声を上げた校長に驚いてしまう。なんなのださっきから。泣いてしまうぞ。

 

 「既に事は我が校だけの問題で済むレベルでは無くなっている。安易な決め事はよくない。」

 

 ……どういうこと? 我が校だけで済む話だと思うのだが。

 ピンと来ていない私の様子を訝し気に思ったのか、教頭から横やりが入る。

 

 「星井。お前は昨日SNSで何人くらいがライブに来るかアンケートをしていただろう? 今あれがどうなっているのか知らないわけではないだろう?」

 

 あ、そう言えば、朝から他の生徒に絡まられまくりだったので確認していなかった。千人くらいは来ることになっているのだろうか。いや、この慌てようだ。もしかしたら三千人くらいは来ると回答が来ているのか? だとしたらこの慌てようも納得できる。

 

 「え、ええと、朝からバタバタしていたので確認していません。」

 「……なら、今確認しなさい。」

 

 そう言われてしまったので、仕方なくスマホを取り出しSNSのアプリを開く。

 何人くらい来ると答えているのだろうか? この人数イコール私の人気度でもあるのだ。多いに越したことはないが急な日程だし何よりアンケートを開始してからまだ一日も経っていない。そこまでの回答人数は来ていないだろう。五百人くらいの回答が来ていたら御の字だろう。

 そう思いながらアンケートの回答ページにいく。

 ……ええと、ん? 

 ……んん?

 

 いち、じゅう、ひゃく、せん……いちまんにん……なの?

 

 予想していた数値を遥かに上回る数値に思考が追い付かない。

 スマホがバグを起こしているのではないかと思ってしまう。見ている今でさえ、数値はどんどんと加速的に増えていっている。

 これが本当なら、確かに我が校だけの問題ではない。学校の男子達に色々と手伝わせればいいやと思っていた頃の浅はかな自分の頭を殴りつけてやりたい気分だ。

 私の表情の変化から事態の深刻さが共有できたと判断したのだろう、校長が再び話しかけてくる。

 

 「分かったね、事態の深刻さが。既に二週間後、周辺地域の宿泊施設は九割以上が予約で埋まり、長距離バスなどの予約も埋まりつつある。土曜日に開催するつもりだったらしいが、前日から順番待ちする為なのか、全国の学校で金曜日に休むと申請する生徒が続出しているとのことだ。さらには、この異常事態がネットニュースにも取り上げられ、ますます注目を浴びている。こうなってくると当日の交通網を麻痺させる可能性が出てくると警察も動き出した。……それに今年、入学生が激増したのも君の影響だったと聞く。星井さん、君はもう少し自分自身が世に与える影響度を自覚する必要があるね。はっきり言うが、君の発言一つで万単位、いや下手をすれば十万単位の人間が動くほどの影響力を持っているよ。」

 

 校長の言う通りだ。

 どうも私は、星井美希というアイドルの偉大さを見くびっていたらしい。

 

 その後、校長も含めた緊急対策会議が行われた。

 学年主任からライブを一旦中止にしてはどうかと提案があったが、却下となった。全国の万単位のファン達の暴動が起きることが予想されたからだ。そんなことないと信じたいが、否定できない自分が確かにいた。

 しかしライブを行うには、しっかりとした段取りを行う必要があり、抽選制で対応したり、当日は近隣の交通網を整理する者がいるだの必要な対応や課題は山積みだった。

 結論として、二週間という短い期間でトラブルなくライブを開催することはほぼ不可能と言う結論に至った。そもそも元々、スポーツに力を入れていただけの学校なのだ。このような対応ができるわけなかった。これがUTX学園などのスクールアイドルに力を入れていた学校ならまた違った結果になったのかもしれない。結局、延期と言う処置をとり、少しでも時間を稼ぐしか手は残されていなかった。

 そうなればそのことをいち早く発信する必要がある。情報の発信が遅くなればなるほど、どんどん問題は大きくなっていくからだ。そしてこれは私の動画チャンネルにて謝罪というタイトルで発信した。その動画には校長と教頭にも入ってもらうという前代未聞の対応だった。

 入学して二日目で学校にここまで迷惑をかけることになるとは。

 本当、校長先生たちには頭が上がらなかった。どうかストレスで禿げないことを祈るばかりである。

 だが私が与えた影響はなにも悪いことばかりではなかったらしい。最近は少子化で入学生の減少に悩んでいた背景もあり、私の影響で入学生が増えたことは大変喜ばしいことだったらしい。なぜ私の影響で入学生が増えたかは知らないが。正体を明かしたのは昨日なのに。

 

 しかし、この謝罪動画がまたも星井美希の知名度アップに繋がることとなる。

 急にライブを延期にするという校長たちを含めた謝罪動画だったが、人気がありすぎて対応ができなくなったという理由が面白いと話題になったのだ。

 昨日に続き、このことは全国に瞬く間に広がっていく。

 全国のファン達が落胆する中、事態は誰も予想していなかった方向に動くこととなる。

 なんと大手のアイドル事務所が、星井美希のライブ開催の支援をするといくつも名乗りを上げてきたのだ。

 それが星井美希というトップアイドル候補を将来に確保するためなのは目に見えた。しかし、この申し入れは学校側にとっても渡りに船であり、大歓迎した。

 また、今回の件に巻き込まれた各旅行会社やホテル業界もいい機会だと話に乗っかってくるような事態にまで発展していく。

 かくして何とか今回の件はそこまで炎上する事なく、それどころか星井美希はいくつものアイドル事務所や業界から支援を受け、一か月後に大規模なライブを開催することが正式に決定した。

 

 ここまで話が大きくなってくると、どれだけ事情を知らない人たちでもなにやら面白そうなことが起きているのだと、スクールアイドルの世界に目を向けることになる。そこで彼ら、彼女らは星井美希の存在を知るのだ。そして瞬く間に彼女の虜になる。

 星井美希がスクールアイドルになり、数週間たつ頃には、動画のチャンネル登録数やSNSのフォロワー人数でも国内トップランカーに肩を並べるほどとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星井美希の初ライブが目前に控える頃。とある喫茶店にて。

 

 「ねえねえ、とうとう美希ちゃんのライブが開催されるね!」

 「あんたはいいわよねえ。チケット当選したんだから……。あぁ、私も行きたかった!」

 「ま、普段の行いの差ってやつじゃないかしら?」

 「……むー。」

 「あはは、そうむくれないの。あっ、そうだ私昨日久しぶりに新しいアイドルでダイヤの原石がいないか探してたんだけどさー。」

 「あんたねぇ、今は美希ちゃんとA-RISEに注目しときなさいよ。」

 「うーん、それがもしかしたらそうじゃなくなるかもしれないんだよね。昨日凄いアイドルグループを見つけたんだー。特に一人凄い人がいてね。ネットでも話題になりつつあるみたいなんだけどね。」

 

 そう言って友人は自身のスマホの画面ををこちらに向けてくる。

 そこに映っていたのは、九人の女の子達だ。初めて見るアイドルグループだ。全員個性があり、とても可愛い。だが可愛いだけでのし上がれるほど今のスクールアイドル界は甘くない。それは目の前に座っている友人も分かっているはずだ。

 そして曲が流れ始め皆が躍り、歌い始める。

 

 ……へー、確かにレベルは高いかも。それが正直な最初の感想だ。

 うーん、でもどこか全体的に練習不足感があるかな。ちゃんと真面目に練習を続けてこなかったのかもしれない。でも皆本当に楽しそうだなぁ。

 あっ、でもこの小さいツインテールの子は凄い上手い。これは間違いなく全国でもトップレベルの実力を持っている。凄い人とはこの子のことだろうか?

 まあ凄いには凄い……け……ど。

 

 ここで私はそれ以上、考えることができなくなった。

 ……いた。

 凄い人が。

 一人だけ明らかに段違いの実力を持ったアイドルがいた。

 

 スラリとしたモデル体型の持ち主で、白い肌と蒼い瞳、そして輝く金色の髪をポニーテールでまとめたその姿から目を離せない。

 彼女のステップの一つ一つを見ても、それが果てしない努力によって洗練されたものだと分かる。

 美希ちゃんとA-RISEのライブは見ていて惹かれるという感覚がはっきり分かる。それと同じ現象がまさに今起きていた。

 その実力はA-RISEにも匹敵……、いや、あのA-RISEの綺羅ツバサすら超えているような気がする。

 これまでスクールアイドル界では、星井美希とA-RISEが他を寄せ付けない圧倒的実力を誇っていたのに……。

 

 「……え、この人誰?」

 「絢瀬絵里さんと言うらしいわよ。ね、本当、今年は凄いよね。これはダークホースの登場と思わない?」

 「絢瀬絵里さん……。でも、小さいツインテールの子はともかく、それ以外の人はあまりだよね。どうせならこの二人だけでアイドルのユニットを組めばいいのに。ラブライブの開催も近いのにこの実力じゃあね。」

 

 遠回しに他の七人は足手纏いだと言ったが、友人はそんな私の発言にニヤリと笑いかけてくる。なんなのだ、一体。

 

 「私も最初はそう思ったよ。でもね、なんとこの七人は、まだスクールアイドルを始めて一カ月も経っていないんだって。勿論、アイドルとかダンス経験は一切なしだって。……あ、でも一人は半年くらい練習してたって言ってたかな。」

 「……は?」

 

 開いた口が塞がらなかった。

 一カ月経っていない……?

 それで既にこのクオリティ?

 あり得ない。私が練習不足だと言ったのは、それはこの子たちが何年かスクールアイドルに費やしてきたと勝手に仮定して述べた感想に過ぎない。

 もし本当に一カ月足らずでここまでの実力を得たのなら、それは全員が天才的な才能を持っているということになる。

 一カ月でこれなら、もう一カ月経ったら? さらに一カ月経てば?

 想像する事すらできなかった。

 

 「……グループ名は?」

 「ふふ、気になるでしょう?」

 

 

 

 「このアイドルグループ名はね……『μ's』だよ。」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。