星井美希に転生したけど765プロがない件について 作:naonakki
……あー、学校行きたくねえなの。
今は早朝のトレーニングから帰ってシャワーを浴びている。湯気でうっすらと曇った鏡に映る自身の顔は見たことがないほどげんなりとしている。登校時間が近づいてくるにつれて胃も痛くなってきた。
今は誰とも関わりたくなかった。
昨日の配信切り忘れ事件からまだ一日も経っていないが遠い過去のように感じる。朝起きたら全部夢になってないかなーなんて淡い希望は音も無く崩れ去った。
とはいえ、配信切り忘れをやらかした直後に比べれば幾分かは気持ちは落ち着いてきている。SNS上での私の評価は間違いなく爆上がりしていたからだ。今日の朝もう一度調べたから間違いない。
だが、昨日の夜に見た、ラブライブで優勝した子は私の恋人になるという記事。改めてぶっ飛んだ内容だと思うが、もう確定事項であるらしい。
なぜ私のことなのに、私の知らないところで色々決まっているのか納得いくまで教えてほしいものだ。
まあ、元はと言えば配信切り忘れを起こした自分のせいであるのだが。
それにしても優勝者が私の恋人……。
SNS上でも言っているように可能性がある一人は、A-RISEの綺羅ツバサさんだろう。本人は私の恋人になることを望んでいるようなことをSNS上にコメントしていたが、本心は分からない。ファンの人たちに話題を提供したというだけの可能性も十分に考えられる。
そして……、μ's。
世間にはまだその存在は知られていないが、話題になるのは時間の問題だろう。
私には無い不思議と惹かれるようなカリスマ性を持つ穂乃果さん。私に近い実力を持つ絵里さん。私のファンの人達にも絶賛されている衣装作りの才能を持つことりさん。他の人たちはあまり関わっていないが、全員が底知れぬ才能を持っているのは間違いない。
本来のこの世界の主役であり、神のいたずらとしか思えない奇跡のようなアイドルグループ。私がまだ知らないだけで実は凄いメンバーが隠れている可能性すらある。
ラブライブの優勝の可能性を担うもう一つの存在。
ではファンの人達が盛り上がる中、なぜ私がこんなにも気持ちが落ち込んでいるかというと、μ'sやA-RISEの人たちが私のカミングアウトのせいで、ラブライブの優勝を目指す気持ちに横やりを入れてしまわないかと懸念しているためだ。
ファンの人達はいいとしても、ただ純粋に優勝を目指す者にしてみれば、今回私が起こしてしまったことは無粋なことこの上ない。そんな想いを持つ人たちは私を非難するだろう。
私のせいで最高に盛り上がるはずだったラブライブが台無しになる……。そんな未来を想像してしまうのだ。折角穂乃果さんやことりさん、絵里さん、A-RISEの人たちとの出会いで前を向くことができたのに。
そして何より一番許せないのは、今のこの現状……。
確実に悦んでいる私がいるということ。
私がラブライブで優勝することは当然嬉しいことだ。
そして仮に私が負けることになれば、それは私にとっての生涯のライバルが誕生したことを意味する。その敗北がもたらす悔しさが私をさらなる高みへと導いてくれるだろう。それだけでも飛んで喜ぶほどの事だ。
しかも優勝した子と私は、ファンの人達に祝福されながら合法的に付き合えると来た。
……私しか勝たん。
え、だって、ラブライブで優勝するような子だ。間違いなくアイドルとして、そして女の子としてパーフェクトに間違い無いだろう。
一歩下がって、一糸まとわぬ水を滴らせる自分自身の姿を鏡越しに見つめる。そこには相変わらず、小さく整った顔、完璧なプロポーションを誇っている自身の姿がある。そして過去からの果てしない努力の結果、アイドルとしても誰にも引けを取らない実力を持っていると自信を持って言える。
そんな私を打ち負かすような子が、私の恋人……。
そんなのテンション上げるなと言われる方が無理な話なの!
ハニー!なんて言いながら思い切り抱き着きたい!
思い切り甘えたい!
堂々とイチャイチャしたい!
その子の為に尽くしたい!
わっほい!
……と、こんな風に考えてしまっている最低な自分がいるのだ。
分かっている。そんな気持ちを抱いてはいけないのは。真剣な気持ちを持ってラブライブに挑む人たちにとって失礼だ。こんな邪な考えを持ってしまう自分の意志の弱さに嫌気がさしてしまう。
……あり得ないけど。
他の皆が私を恋人にしたいと思い、今以上のモチベーションを持ってくれたら……なんて展開になれば、どれだけ素晴らしいだろうか。勿論、そんな都合のいいラブコメみたいな展開が起きるわけもない。
いっそのこと動画を通してラブライブの優勝者と付き合うなんてことしませんと宣言するかだ。
……いや、恐らくだけど、ここまで盛り上がっている状況で、そんなことしたら今度こそ暴動が起きる気がする。校長も言っていたではないか、私の発言一つで十万人単位の人間が動く可能性があるのだ。
最悪死人が出るかもしれない。いや、流石にないか……ないよね?
とにかく変に動くべきではないだろう。
……はぁ、もうなんか全部嫌になってきたの。
その後、起きてきたお姉ちゃんに、いつまで入っているんだ代われと怒鳴られるまで私は呆然とシャワーを浴び続けた。
朝陽が顔を覗かせて間もない頃。
真新しい制服に身を包んだ私は、朝の冷えた空気を感じつつ学校に向かっていた。イヤホンから聞こえてくるのは、美希ちゃんの歌だ。何十回……いや何百回と聞いたそれは、私の全身に心地よく響いていく。普段大人しいと自覚している私だが、そんな私にしては珍しく鼻歌交じりに歩いていく。
美希ちゃんは私の全てだ。
パパが医者の為、自然と私も医者になることを夢見た。夢を叶えるべく、勉強漬けの毎日を送っていた私は、ある時期挫折しかけていた。いくら勉強しても成果が伴わなかったのだ。大好きだったピアノから距離をおいても結果は同じだった。むしろ余計に成績は下がってしまった。
その頃の私は親からも心配されるほど追い詰められていた。
そんな時、美希ちゃんを知ったのだ。
ほんの気まぐれだった。勉強が嫌になった私は気分転換に、とある動画サイトを開いた。そして人気急上昇の欄のトップに美希ちゃんの動画があった。特になにかを考えるでもなく私はその動画を再生した。
そして私――西木野真姫の見る世界が変わった。
灰色だった景色が一気に色を持ったような感覚だった。美希ちゃんの歌声が、踊りが、笑顔が、私に纏わりついていた負の感情を全て消し去ってしまった。
それから私の生活は劇的に変わった。
驚くほど勉強に集中することができた。落ちた成績をあっという間に取り戻し、それどころか成績は今まで以上に伸びていった。
すべては、美希ちゃんの為に時間を確保するため。その為なら私は何でもできた。
そしてさらに転機は続く。
いつものように美希ちゃんの動画を見ている時だった。その動画で美希ちゃんは、ある視聴者が作曲した曲を歌っていたのだ。曲を作ってくれてありがとうと語る美希ちゃんは本当に嬉しそうであった。
その時、踊り、歌った姿は美希ちゃんの気持ちを投影したように素晴らしいものであった。
曲なら私も作れると思った。私も美希ちゃんの為にできることがあると歓喜した。これまで他人に無関心だった為、こんな気持ちになるとは思わなかった。
しかし、私と同じ考えを持った人たちは多かった。多くの人たちが美希ちゃんに我こそはと曲を作っては送りだしたのだ。
当然、美希ちゃんは、そのすべてを歌う事なんて不可能。美希ちゃんが気に入り、選ばれたものだけが陽の光を浴びることができた。そして美希ちゃんが選ぶものはやはりどれも完成度の高い素晴らしい曲ばかりであった。噂によれば、有名な音楽家やプロも美希ちゃんの為に曲を作っているとかなんとか。
美希ちゃんに選んでもらう為には、妥協を一切許さない最高の曲を作る必要があった。
無論、それは並大抵のことではなかった。強力なライバルに勝つ為には、それ相応の実力、知識、経験が必要だった。ピアノの知識や技術に自信はあったものの、アイドルの曲となると知らないことが多すぎた。いくら時間があっても足りなかった。しかし、医者になる為の勉強を疎かにするわけにもいかなかった。
はっきり言ってどうしようもない状況だった。確かに以前よりずっと勉強に集中できるようになり、成績も上がっていた。それでもとてもじゃないが、アイドルの曲について勉強する余裕までは作れなかった。
それでも……。
美希ちゃんの為に力になりたい。
美希ちゃんを喜ばせたい。
美希ちゃんに私と言う存在を認識してほしかった。
他の誰でもない私を見てほしかった。
そんな私の美希ちゃんを思う気持ちが私を動かした。私は両親にお願いがあると話をすることにした。これまで私が親に反抗したことも我儘を言ったことも無かった為、ひどく驚かれた。
そして私は言った。しばらく自分のやりたいことだけに集中させてほしいと。必ずこの先、遅れを取り戻して医者になってみせると。私にはその自信があった。美希ちゃんの為なら私にできないことは無いと心の底から言う事ができた。
両親は、あっさりと了承してくれた。もっと反対されるかと思ったのに拍子抜けだった。心なしか、パパもママも嬉しそうな表情を浮かべていた。
それから私は、アイドルの曲について勉強した。早朝から夜遅くまで私はピアノ室に閉じこもった。
美希ちゃんは勿論、色々なアイドルの曲を聞いて美希ちゃんの曲を作るには何が必要なのかを分析した。生活のほとんどをその勉強にあてたが、全く苦ではなかった。むしろこれまでの人生の中で最もやりがいを持っていたとさえ言える。
それから私は試行錯誤を繰り返し、数カ月の時間をかけて一つの曲を完成させた。自信作だった。まさに美希ちゃんの為に存在する、そんな曲だと胸を張って言い張ることができた。
早速それを美希ちゃんに送った。しばらくは私は寝ることもできないほど緊張する毎日を送ることになった。
そして私の曲は美希ちゃんに選ばれた。
私の作った曲が美希ちゃんによって歌い、踊られる。私が想像していた通り……いや、想像を遥かに上回る美希ちゃんのパフォーマンスと曲が共鳴し合い、その曲は初めて完成した。
美希ちゃんと私で一つの曲を完成させることができたのだ。その事実を前に私は自然と涙を零していた。嬉しさ、幸せ、そんな感情が混じった涙だった。
その曲は莫大な反響を呼び、美希ちゃんが投稿した動画の中でも過去一の再生回数を達成することになった。私は一躍有名になり、私がまた作曲することを望む声が多く出るほどだった。
さらに、直接お礼が言いたいと美希ちゃんと通話で話すことができた。こちらが恥ずかしくなるほどの多くの感謝の言葉を告げられた。そしてこう言ってくれた。また是非、曲を作ってほしいと。
まさに夢心地だった。
美希ちゃんが私のことを必要としてくれている。
その事実が私に幸せを感じさせた。
もっと美希ちゃんの力になりたい。
そう思った私はさらに美希ちゃんに没頭することになる。
この頃には、私はアイドルのことについてかなり詳しくなっていた。詳しくなったといっても、どのようなアイドルが輝くことができるのか、それについてだ。
曲は? 歌は? 踊りは? 表情は? 衣装は?
一見、曲作りと関係なさそうな点も含まれているが、それらを全て理解しなければ、最高の曲を作ることができない。つまり美希ちゃんに相応しい曲を作ることができないのだ。半年前はアイドルのアの字も知らなかった私が今やこうである。人間やろうと思えば大抵のことはできるのかもしれない。
そして、アイドルについて詳しくなったせいかもしれないが、妙なことを考えるようになってきた。
アイドルになってみたいと。
美希ちゃんがどんな世界を見ているのか知りたくなったのだ。
アイドルをしている時の美希ちゃんは間違いなくこの世で一番楽しんでいる。それほどの楽しさが何なのか。
それを知った時、私はさらに美希ちゃんを知ることができる。
とはいえ、不愛想な私がアイドルになれるはずもない。見た目については自信があったが(当然、美希ちゃんの足元にも及ばないが)それだけでアイドルができるほど甘い世界ではない。私なんかがアイドルになれるわけが無い。
そう考えた私はそんな欲求をかき消すように曲作りに励んだ。
しかしそんな私の迷いのせいなのか、中途半端な曲しか作れず、私の曲が美希ちゃんに選ばれることは無かった。
さらにある人物の存在が私に焦りを与えていた。
それはミナリンスキーという謎の人物。
美希ちゃんの為に毎回衣装を作っている人物である。美希ちゃん曰く女性のようだが、動画でも美希ちゃんがうれしそうに衣装について語る時がある。
私以上に美希ちゃんを支える存在。
そんな存在に私は嫉妬していたのだ。
しかし一度あることは二度あるという風に、またも私に転機が訪れた。
高校一年生になり、新しく通うことになった音ノ木坂学院。
そこで出会った星空凛という元気すぎる子にスクールアイドルになろうと誘われたのだ。美希ちゃんの動画を見せてから一気にはまってしまったらしい。
曲を作る使命がある私は当然、星空さんの誘いを断ったが、星空さんは強引だった。そのまま私は、半ば無理やりに生徒会室に連行された。
そこでさらにやかましい人、高坂穂乃果さんに出会った。
一つ上の先輩であり、友達の南ことりさんと園田海未さんの三人でスクールアイドルになるべく生徒会室に来ていたと言うではないか。
そして高坂さんは私にスクールアイドルになろうと迫って来た。
高坂さんは今まで出会ったことの無い変わった人だった。高坂さんと話していると、なぜか惹きつけられるようなそんな不思議な感覚に包まれるのだ。
美希ちゃんが持つ魅力にも近い何かを高坂さんは持っていた。
まるで高坂さんがこの世界の特別な存在であるかのように。
そこに星空さんの勧誘も加わり、私はあっさりとスクールアイドルになることを了承していた。元々アイドルになりたいと思っていたこともあったが、高坂さんについていけば何かいいことがある。そんな気がしたのだ。根拠も何も無かった。今考えてもあの時の私はどうかしていたと思う。
しかし、その時の私の予感は正しかった。
初めての部活動としての練習の日。
私を変えてくれた本人、美希ちゃんと直接出会うことができたのだ。
どうも高坂さんと南さんが美希ちゃんと面識があったようで、アイドルの指導役に呼んだらしい。美希ちゃんを指導役に呼ぶなんて贅沢過ぎて罰があたるというものだが、その時の私は美希ちゃんに会えた嬉しさのあまり、緊張してしまい、あまり関わることができなかった。
しかし、その後も指導役として来てくれることを知り歓喜した。
次会った時に何を話そうか? そんなことを考えながら美希ちゃんの配信を見て、私は人生最大の驚愕を経験することになる。
美希ちゃんは女の子が好き。
その事実は私から思考を奪った。
この時私は何を感じ、何を思っていたのだろうか?
今となっては分からないが、『ラブライブで優勝すれば美希ちゃんの恋人になれる』ということを知った時、私は私の想いを理解した。
…………誰にも美希ちゃんを渡さない。
そんな感じたことのない、ドロドロとした感情が私を支配した。
なぜかその時、ミナリンスキーという見たことの無い人物が美希ちゃんの横にいることを想像してしまった。その想像に全身が拒絶反応を起こすように寒気が走った。
とはいえ、美希ちゃんが他の誰かに負けることなどあり得ないと思った。
しかし、ここでふと思った。
もしμ'sが優勝し、私が恋人に選ばれたらと。
私には誰にも負けない作曲力と、それに関わる過程で得たアイドルについての知識がある。それでも美希ちゃんに勝てるとは思えないが、可能性はゼロではないだろう。
その証拠にμ'sには逸材が多い。この半年間磨き上げた観察眼を持った私が言うのだから間違いない。
不思議なカリスマ性を持つ高坂さん。絢瀬さんは美希ちゃんに次ぐ実力がある。そして美希ちゃんの曲を作った私がいる。ついでに小さいツインテールの人もそれなりにアイドルとしての力はあった。他の子達も、アイドルとしての経験はほとんどないようだが、凄まじいポテンシャルを持っていることは分かった。まさに奇跡のようなグループである。正直私自身も驚いているほどだ。
個人の力では敵わなくても、力を合わせれば……。
後は、μ'sの中で私が選ばれるように努力をするだけ。
そうすれば、私は美希ちゃんにとっての唯一無二の存在となる。
そして美希ちゃんと……。
そこまで考えたところで私は決意した。
必ず優勝してみせると。
その為に私はアイドルとして一日でも早く上達する必要があった。
そういったわけで私は今日、朝練をするべく学校に向かっているのだ。
校門が見えてくると、向こうからも制服を来た人が学校に向かっている姿が見えた。不思議に思った。今はまだ六時台。登校するにはあまりに早すぎる。
近づくにつれ、それが誰か分かる。
……南さん!?
そこには、同じμ'sのグループである南ことりさんの姿があった。特徴的な可愛らしいとさかのような髪にほんわかとした女の子らしい雰囲気を漂わせる南さんが。向こうも驚いた様子でこちらを見つめている。
……どうして南さんが。
……まさか。
……やっちまったの。
結局、私は気持ちを切り替えることができなかった。
とはいっても家にいるわけにもいかないので制服に着替えて外に出てきたわけだ。私は学校とは別方向の秋葉原の方へ向かっていた。別に目的があってここに来たわけではないが、学校と違うところに向かっていたら、いつの間にかこっちの方に来ていた。
ちなみにマスクと例の茶髪ショートのウィッグを着用している為、私の正体は周りにばれていない。
……後、二十分くらいで学校が始まっちゃう。
スマホで時間を確認しつつ、呆然とそんなことを考える。
その時、今から通ろうとしていた目の前の歩道が人でごった返していることに気付く。それを見た私は、げんなりする。
……というか人と関りたくないのに、なんでこんな人が多い所に来ちゃったんだろう。
そんなことに今更気付きながら、どこか迂回路が無いか見渡すとすぐ横に路地裏に繋がる道があることに気付く。細い道の向こうは隣の大通りに繋がっているようだ。
私は迷わずその路地裏に足を向ける。そして間もなく大通りに出るといったところで事件は起きた。
突如、曲がり角から人影が猛烈なスピードで現れたのだ。向こうはマスクをしており、顔をしっかり見ることはできなかったが女の子だ。UTX学園の制服を着ている。
驚いたものの、人一倍の身体能力を持つ私はそれを華麗に避ける……なんてことはできずに思い切りぶつかってしまった。向こうもまさかこの路地裏に人がいるとは思わなかったのか、驚いた様子を見せる。
そのまま私達は、おでことおでこを思い切りぶつけ合ってしまう。
ゴチン、と鈍い音が路地裏に響き渡る。
……デ、デジャヴ。
おでこに耐えがたい苦痛が走る中、しゃがみ込んで悶える。いつか穂乃果さんとぶつかった時を思い出す。あの時は完全に私の過失だったが。
痛みに耐えつつ、ぶつかった相手を見ると向こうも相当痛かったらしく、目をぎゅっと閉じ、おでこを両手で押さえながら「い、痛い……」と透き通るような声で呟いている。
よほどの衝撃だったのか、向こうは付けていたマスクがはず……れ……て……!?
目の前にいる女の子の正体に気付き私は驚愕する。
そこにいたのは、A-RISEのリーダー。
綺羅ツバサだった。