幽霊にセクハラしても罪にはならないですよね? 作:ボトルキャプテン
───────翌朝。結局、恵美さんとは連絡が取れなくて会うことが叶わなかった。俺とメリーは帰り支度を整え、チェックアウトの手続きを済ませてタクシーで空港に向かった。その道中、メリーが窓の外を眺めていると、海面でイルカのように飛び跳ねているザンが見えた。
「龍星、ザンがいるよ」
メリーに釣られて俺も見ると、ザンは視線に気付いたのかこちらに向かって手を振った。メリーはフリフリと手を振り返した。
「なんだかんだ楽しかったわねぇ、早く皆に会いたいなぁ」
メリーがしみじみと呟く。数十分後、空港に着くとそこには若大将が待ち構えていた。
「お兄ちゃーん、お姉ちゃーん!」
「あんた!公園に戻ったんじゃなかったの!?」
メリーは上擦った声を出す。
「だって、今から帰っちゃうんだよ?お見送りくらいしなきゃね」
「ふぅん、可愛いとこあるじゃない。龍星は人の多い所だと無反応だから悪く思わないで」
「ふーん、無反応なんだ」
何を思ったのか、若大将は俺に顔を近付けて。
「ベロッ」
俺の顔を舐めやがった。
「あ、あんた……何やってんのよ!?」
「ベロッベロッ。なんか無反応って言うから興奮しちゃって」
頬を赤らめながら若大将は言う。調子に乗った若大将は更に、
「触っちゃおうかなぁどうしようか─────」
「うわっハエがっ!」
耐えきれなかった俺はグーパンチで若大将を殴った。若大将は頬を擦りながら振り返る。
「いたた……な、殴ったね!?」
「いや、殴られて当然でしょ」
「んもぉ、お兄ちゃんのイジワル……そろそろお別れだね」
「そうね。まっ、そのうちあたしらのとこに遊びに来なよ」
《○○航空より、○○へご出発のお客様にご案内いたします。○○航空12便、○○行きの機内へのご案内時刻につきましては11時。午前11時頃を予定しております。先ずはじめに、小さなお子様連れのお客さま、お手伝いが必要なお客様、ファーストクラス、ビジネスクラスをご利用のお客さまからご案内いたします。当便ご利用のお客様は今しばらく3番搭乗口付近にてお待ちください》
俺達が乗る飛行機のアナウンスが流れた。
「んじゃね」
「うん。バイバイ!お兄ちゃんお姉ちゃん!」
俺とメリーは飛行機に乗り、沖縄を後にした。
約2時間後。
空港に着いて外に出た途端、メリーが騒ぎ出す。
「帰ってきたぁぁ!あー、このなんとも言えない空気!いいわぁ!」
褒めてるのか貶しているのか分からない事を言う。
さて、我が家に帰るか。
俺がタクシーを拾おうとしたその時。突然黒いワゴン車が目の前に止まった。ドアが開いた瞬間、見知らぬ男が3人降りて来て俺の体を掴む。
「えっ?誰?ちょっと龍星!?誰この人!?」
「ちょっと!なんですかあんたら!?」
「いいから乗れ!」
俺の頭に袋を被せそのままワゴン車に押し込み、走り去ってしまった。その場にメリーだけが取り残されてしまった。
「えっ……龍星?ど、どうしよ、どうしよ……皆に知らせなきゃ!!」
メリーは急いで家に向かった。
───────────────────────
どれだけ走ったのだろうか、良く分からないまま俺はどこかに連れて来られた。音を聞くだけだと、どこかの倉庫の様に思われた。
「おう、ここに座らせろ」
野太い声が聞こえて来た。俺を車に押し込んだ男が「へいっ」と返事をして俺をパイプ椅子に座らせそのまま結束バンドで俺を縛り始めた。袋を取られると裸電球1つしかない真っ暗な見知らぬ部屋にいた。
「な、なんなんですか?」
恐怖のあまりに俺は掠れた声しか出なかった。すると、屈強な体格をしたスーツを着た大男が口を開く。
「あんた、福島龍星さんだよな?」
さっきの野太い声の人か?
俺は黙って頷く。大男は俺の肩に手を置いて、
「聞きたい事があるんだけどよ、山口恵美って知ってるよな?」
知ってる名前が出て来た。
「し、知ってますけど……それがどうしたんですか?」
「どうしたんですかじゃねぇだろうが!」
訳も分からず殴られた。顔を殴られると頭がボーッとし始める。その衝撃で鼻と口から血が出ているのが分かった。間髪入れずに大男が掴みかかる。
「お前と会う約束したその日から連絡が取れなくてよ。探し回ったら大怪我してたのが見つかったんだよ」
え?怪我?
「け、怪我って……なんの話しですか……?」
「とぼけんじゃねぇ、てめぇがやったんだろ!」
ゴンと鈍い音を立てながら俺を再び殴る。
「ごふ……し、知らない……怪我なんて知らないです!」
「まだとぼける気かこの野郎!!」
何度も何度も殴られた。咄嗟に腫れた目で大男を透視して見ると、沖縄で見た時の部屋が映し出された。大男はスマホで誰かとLI○Eをしていた。相手を確認すると……相手は俺だった。
そうか、沖縄の間のやり取りはこの人で、恵美さんじゃなかったのか。
事実を知った俺は弱々しい声で、
「恵美さんとは……喫茶店でお金を貸して直ぐに別れました。その後の事は本当に知らないんです!」
そう言うと、大男は他の部下らしき男達と集まってヒソヒソと話し始める。そして、大男は戻って来た。
「ここまで痛めつけてもそう言うなら信じてやるよ」
良かった、これで解放される。
安堵したつかの間、
「けどよ、まだ家に返す訳には行かねぇんだわ」
「……えっ?」
俺が顔を上げると部屋のドアが開き、何者かが入って来た。
「やぁ、福島龍星くん。沖縄では世話になったね」
聞き覚えのある声が部屋に響いた。
「あ、あんた……」
俺の前にはインチキ霊媒師の五狼が立っていた。手には鉄パイプが握られている。
「な、なんでこんなとこに……?」
「なんで?私は○○組にお世話になってるんだ。霊媒師として金を稼いでいたんですけどね?沖縄で私の顔に泥を塗られたのをSNSなどの動画流出で私の仕事に支障が出ては困るんだよ」
「SNS……?スタッフはお蔵入りにするって……」
俺がそう言うと、
「あの時現場にいた野次馬がYouTu○eやTik○okで流してたんだよ。お陰で予約していた仕事が全てキャンセルになってしまった。しかも、俺の女でもある恵美を怪我させたのも君だろ?」
俺の女……?
インチキ霊媒師の言葉に俺は唖然とする。
「そんな、恵美さんはお父さんの借金の為に壺を売ってるって……」
恵美さんに言われたままを説明する。それを聞いていた大男達はゲラゲラと大笑いし始める。
「こいつバカだぜ!あんな話し信じてやがるよ!」
「アレは俺達が適当に作った話だぜ?」
真実を聞いた俺は絶望に打ちひしがれた。
「そんな……アレ……嘘だったのか……」
「さて、そろそろ我慢の限界です。私の屈辱を晴らしましょうか」
そう吐き捨てた五狼は鉄パイプをギュッと握り締め、思い切り俺の頭を目掛けて振り下ろした。
「俺のシノギを台無しにしやがって!俺の女も傷ものにして!舐めてんのか!誰がインチキ霊媒師だ!このガキィッ!!」
何度も何度も殴られ最後には蹴りを入れられてその勢いで椅子ごと倒されてしまった。俺は血を流しながら意識を失った。
「アニキ、こいつどうします?」
「財布から金抜き取ってその辺に捨てて強盗に見せかけろ。この状態なら1〜2時間で死ぬだろ」
「へいっ、おいっ車回せ」
大男は俺を解放し、そのまま引き摺りながら車のトランクに押し込んで雨が降り注ぐ町のごみ捨て場に投げ捨て車は走り去って行った。